吸血蝶
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第三章
このことを確かめてからだ、レスターはアメリカからの観光客向けのトロピカルだがそrでいてアメリカも趣もある店でステーキを食いながら向かい側にいる兄に言った。
「首だけじゃないな」
「穴がある場所はな」
ヘミングウェイもステーキをフォークとナイフで切りつつ応える、二人共かなりのボリュームのステーキである。上にはスライスされたパイナップルが乗っている。
「あちこちだな」
「共通してるのは血を吸われて死んでるってことだ」
「小さな穴からな」
「吸血鬼なのは確かだな」
レスターは犯人がこう言っていい存在であることは間違いないとした。
「そうだな」
「ああ、俺もそう思う」
ヘミングウェイはその切ったステーキを口の中に入れつつ答えた、肉と肉汁の旨みがバターとパイナップルの味と一緒になって口の中を支配する。
「相手はな」
「そうだな、それはな」
「一応な、大蒜とか十字架もな」
「用意しておくか」
「銀の銃弾もいるか」
それも、というのだ。
「教会で作ってもらうか」
「そうするか」
「まさか吸血鬼と戦うとかな」
「俺達の小説のスタイルじゃないな」
「ブラム=ストーカーだ」
この作家の話になるというのだ。
「これはな」
「そうだな、兄貴の作風でも俺の作風でもない」
「どっちもな」
「けれどな」
それでもと言うレスターだった、ステーキを食いながら。
「ここまで来たからにはな」
「俺達の作風がどうとかじゃなくてな」
「解決してやろうな」
「絶対にな」
「それでだ」
ヘミングウェイはレスターにあらためて言った。
「銀の銃弾、あと松脂とか塩もな」
「用意してだな」
「夜の街に出てな」
「相手を捜すか」
「幸い相手は悪食らしい」
夜歩いている人間は老若男女構わず襲われ血を吸われている、そして犬までも。
「どうも一人で夜に外を出歩いてたらな」
「襲われてるな」
「犠牲者は全員一人でいた」
夜のサントドミンゴをだ。
「それを見てるとな」
「俺達のどっちかが一人でいたら」
「相手は来るさ」
襲い掛かって来るというのだ。
「間違いなくな」
「じゃあまずは用意だな」
「そこは書く時と一緒だよ」
小説をだ。
「小説も用意してからだからな」
「資料を集めてプロットとかも立ててな」
「だから今もだよ」
事件に向かうにあたってもというのだ。
「いいな、用意をしような」
「それじゃあな」
こうしてだった、二人はまずはだった。
大蒜や十字架、塩に松脂を用意してだ。そして銀の十字架を溶かして作った銃弾も用意した。そこまで揃えてからだった。
ヘミングウェイは弟にだ、こう言った。
「よし、これでいい」
「全部揃ったな」
「これで吸血鬼が出て来てもな」
「倒せるな」
「俺が一人で歩くからな」
夜のサントドミンゴをというのだ。
「御前は少し離れた物陰から見てな」
「そいつが出て来たら」
「俺も武装してるからな」
「勿論俺もな」
「だからな、そいつをな」
「二人で退治するか」
「それでお巡りさんに酒を奢ってもらおうぜ」
ヘミングウェイはレスターににやりと笑って言った。
「是非共な」
「そうだな、二人でな」
こう話してだ、そのうえで。
二人は夜のサントドミンゴに出た、事件のせいで本来なら夜も賑やかな街だが今はしんと静まり返りゴーストタウンの様だった。
その街に出てだ、すぐにだった。
レスターは兄から離れ一人歩く彼を物陰からついて言った、そうして二人でそれぞれ距離を置いて歩いていった。
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