ワールドワイドファンタジア-幻想的世界旅行-
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第二章 戦火の亡霊船
2話 西へ…(首都高速編)
「それでは先生。」
「楽しんで…なにか違うかな…気をつけてね。」
「はい。」
車に乗り込んだ僕、そして窓の外で見送ってくれる灯時先生。僕の隣、助手席では既に赤上さんとの別れを済ませた香織が乗っている。
見送りは先生のみ、これまで避難民との関わりがなかったから仕方が無いだろう。
別れを済ませた僕は車の窓を閉め、エンジンをかけた。じんわりと自分の力が無くなっていくような感覚がはしり、エンジンが音を立てて動き出す。
もう一度窓の外の先生に手を振って、僕はアクセルを踏んだ。今日も今日とて残暑が厳しい。
「どっちに行けばいいんだ?」
「そこ登ってー。」
隣の香織がナビとして道を示してくれる。いまは電気が通っておらず、既に電子機器の充電は皆無なために崩壊した本屋から地図を持ってきている。
他に動いている車はおらず、渋滞知らずであるためにスイスイと移動できる…というわけでもない。街にはモンスターが跋扈しているのだ。基本的には車など機械の変形、そして元いた動物の進化形であるモンスターが…。
そんなモンスターたちと少しでも接触を控えるため、僕らは高速道路に登った。湾岸習志野から東関東自動車道へ…そこから首都高速へと進む。
さて、湾岸線をグングン進んでいく。
そんな中、レインボーブリッジと呼ばれるおおきな橋へとたどり着いた。そしてそこの中間地点に壁が現れた。出発してより初めて遭遇する回避できないモンスターである。それを見つけ、僕はその手前で車を止めた。
「右は僕ね。左はよろしく。」
「りょーかい!」
見える陰は二つ。香織に片方を任せて僕は自分の相手を見据えた。
白い光の玉である。はたして本当にモンスターかと疑うような外見だが…僕にはそんなフォルムに見覚えがあり、そして心当たりもあった。
とあるテレビ局についている球状のあれだ。アレが小さくなって…いや、分裂して動いている。なにせ香織の相手も僕のそれと同じだったのだ。ただし金色だが。
金と銀の球体。それが僕らの道を塞いでいる。
「取り敢えず硬そうなんだが…」
つぶやきながら僕は拳を構える。鎌を壊されてから使えそうな武器が落ちていなかった。よって僕は未だに自らの手を使って戦っているのだ。
元が機械であるモンスターはもちろん硬い。それでも僕のこの力があれば痛みを感じることはない。結局なあなあでここまで来てしまっていた。
実際は剣なんか使うよりもダメージ効率は良いのかもしれない。
と、そんなことを考えていると銀色の球は突如突進を始めた。その形を生かした転がりによって速度はグングンあがる。それでも僕の目で捉えられるものだった。
ちょうど僕にぶつかる直前を図って風を纏った正拳をぶつけると、一点に集中した力は硬そうな外殻を突き破り右腕の肘までを飲み込む。そして銀色の玉は沈黙した。
「はぁ…」
最近感じているモンスター相手への物足りなさ、それを乗せたため息をつくと香織へと視線を向ける。その先ではちょうど小さな漆黒のウォーハンマーで金色の球を粉々に砕く光景が広がっていた。
車のクーラーに慣れた体を蝕む暑さによって滲む汗を拭って、彼女は僕に向かって親指を立てたのだった。
僕は、たった今なんの言葉も音も残さなかった球へと視線を戻す。外殻から溶け込むように光となって消えていく球は最後にほのかに黄色を称える結晶を残した。
そんな結晶を拾い、この暑さから逃げるために早々に車へと戻る。そんな僕を追って香織もすぐに戻ってきた。
結晶は倒した者が吸収する。そんな決まりになっている。だから彼女も僕も手ぶらであった。
そして再び車のアクセルを踏み、西への進みを再開する。
さて、そろそろ都心へと入るにあたって重要なことが一つ。それはもちろん生き残りと出会わないことである。
なにせ大量の人が居るはずなのだ。普通に行動できている僕らが見つかってしまえばどうなるかなど予想に難くない。同じような人がいなかった場合、僕らは追い掛け回され、そしてそんな人たちのために動き回らなければならないのだ。
知らない人のために動く気は無いのである。今更面白くもないことをしたくないのだ。
「まず…高速道路に登ってこないんじゃないかな?」
これは香織の一言である。何気ない車内の会話の中、彼女は僕の心配にそう言葉を返したのだ。
「ああ…まあ、確かに。」
そして僕はその意見に納得する。が、その考えは裏切られた。
渋谷インターチェンジの少し先に…大量の車で作られたバリケードがあった。その内側ではたくさんの人が生活しているようである。なにせ車の外側には二人の人間…それも警察官と呼ばれるべき制服を着た人間がいるのだから。
さて、僕らはなぜ高速道路を進んでいるのか、それについて考えるべきだった。僕らはモンスターが少ないがためにここを通ってきたのだ。それなら安全を手に入れるのにも同じ考えに至ってもおかしくはない。ただしそれは生きていけるだけの物資があるのであれば…だが。
しかしここに彼らが居るということはそんな問題を解決しているわけだ。それならば捕まっても問題は無いか…とも言えないわけで、できればこのまま突っ切りたい。しかし間違いなくこの車ではどうしようもないわけで…。
「ちょっとハンドルを頼めるか?」
「任せて!」
ハンドルを香織に任せ、僕は少しばかり集中していく。周りの空気を支配下に置き、そして外へと送り出すのを繰り返すことで大量の空気を操作する。
目の前の警察官にぶつかる直前、僕の操った空気が下から車を吹き飛ばした。そこで終わることなく僕は飛んだ車の下面に空気をぶつけ続ける。それで起こる出来事は…。
「車が…飛んでる…」
下から聞こえてきた声であった。
そして僕らは車のバリケードの範囲を超えたところでゆっくりと地面へと降りる。
「はぁ…ありがと。」
そして僕はハンドルを香織から受け取った。こんなことをしたのは初めての試みであるため少しばかり不安だったのだが、まあ成功したので良いだろう。そしてこれくらいであれば自分の体でなら戦闘にも使えそうであった。
「ちょっと…少し離れたら休憩していいかな?」
「わかった!」
しかしやはり辛いものがあった。集中力が消えれば敵に出会っても戦うことはできないし、車の運転にも影響がある。そこで休憩しようというのだ。縛られるのは嫌うものの、急ぐ旅では無いのだから。
そして僕らは東京インターチェンジを超えたところで車の動きを止めた。ここまで出発してから一時間。少しばかり遅いが、それはまだ車の運転に慣れていないからということで許してもらいたいところである。
僕は車の外に出て固まってしまった体をほぐしつつ、この先の道を確認した。
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