ワールドワイドファンタジア-幻想的世界旅行-
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第二章 戦火の亡霊船
1話 八月二十九日
「あっつい…」
静まり返った道の真ん中、落ちている結晶を見下ろす僕は呟いてしまった。
もう八月も終わりという頃…まだまだ暑さは引きそうに無い。
「そろそろ…か。」
学校が解放されて一ヶ月あまりが経った。
僕はこの一ヶ月間、モンスターの現れなくなった学校を拠点として辺りを見て回っていたのだ。
まずしたことといえば、周りにあるコンビニやスーパーマーケットから食材を運ぶということだ。電気が止まったことで、冷蔵できない中この暑さではすぐにダメになってしまうだろう。しかし、普通に手に入れることのできる食材はモンスターの肉ばかり…いくら美味しいとは言ってもさすがに飽きる。
体内収納…なんだか文字は悪いが、それを使えばしばらくは問題なく食べていけるのではないかと思ったのだが…そう上手くはいかなかった。
モンスターが落とした物以外は収納できない。
様々な検証の結果、そんな答えにたどり着いた。
そういう事もあって、僕らはここ最近は肉ばかり食べているのだ。
それでも体型が変わらないのは、それだけ動いているということである。毎日、何匹ものモンスターを倒して結晶を吸収、そしてこんな世界で生きていけるだけの力をつけていたのだ。
そんな生活をそろそろ終え、旅に出ようというのだ。
「楓くん!今日はもう戻る?」
漆黒の剣を持った女の子が声をかけてくる。彼女の名前は羽鷺香織。これから一緒に旅をしようという仲間である。
彼女の持つ漆黒の剣はそれこそ能力で作られた物。彼女の頭の中で作られていた妄想の具現化であった。様々な武器に変形する剣だ。
その切れ味は凄まじい。以前まで僕が使っていた鎌と同じ、もしくはそれ以上に鋭いものだ。
この街に蔓延るモンスターには車をベースにしたような機械の体を持つ…ロボットのような者が多い。そんな硬い体をも抵抗なく切り裂くあたりわかることだろう。
「戻ろうか…それに、そろそろここを出よう。」
「うん…ついに…かぁ。」
空を見上げてそう呟くのは赤上さんの事を考えているからだろう。ここを出るのに一ヶ月もかかったのには赤上さんも関係しているのだ。
そんな訳で僕らは学校に戻ってきた。
校庭ではたくさんの子供が遊んでいる。この一ヶ月で街を周って見つけた生存者たちは全員学校に集めた。なにせこの敷地内ではモンスターが出ないのだ。そして生きるために必要なものは戦える人が集めてくる。
僕や香織は食材を、そして灯時先生が水を。先生の水を操る能力によって不純物の入っていない水を簡単に集めることが出来るのだ。
そうして僕らは灯時先生をリーダーとして生活してきた。もちろん先生には僕らがいつかここを離れることを言ってある。そのために他の生存者たちと離れて生活していたのだ。少しでも情が移らないように。食材だけを供給するだけ。
しかしここには赤上さんがいた。
あの戦いを…僕らが学校から抜け出すための戦いに共に挑んだ赤上さんは敵の最後の一撃を受けてしまった。そうして彼女の心は砕かれた。
重度の男性恐怖症…校内で僕らと出会うまでに避難していた職員室での出来事がフラッシュバックしたらしい。なんとか落ち着いた赤上さんから尊き先生が聞き出したことである。
少しとは言え、やはり危険な場所を一緒に行動しただけあって気になってしまう。特に香織の心配の仕方は半端ではない。しかしできることは無かった。
「ただいま。」
と、既に自分の家のようになっている保健室へと戻り呟いた。
今ごろ香織は赤上さんの所に行っているのだろう。僕は旅立つための準備を始める。
肉類は体内保存、そしてその他水類を担いでもう一度外に出た。当然、その量を手持ちで出かける訳にもいかないのであるが、その点はしっかり考えてある。
僕は学校の裏口に向かった。
ピッ…
手元のリモコンを操作して鍵を開ける。そこにあるのは車だ。
何故か街中にほとんど残っていなかった車だが、ポツポツといくつか残っている車があった。その共通点と言えば鍵がささっていること、そして黒い車ということである。その他に車に詳しくない僕には違いが見られなかった。
しかしこの車はガソリンでは動かない。運転しているといつの間にか疲れてくるのだ。僕の体力でも吸い取って動いているかのようである。
僕が結晶を集めて強くなる意味にはこの車も関係していたのである。最初こそは一時間も運転することができなかったのだが、今であれば十時間くらいは間違いなくいけるだろう。それだけ運転してモンスターにやられていれば世話無いので、一日の移動距離はそこまではいかないだろう。
せっせと水を車の後ろへと積んでいく。そんな僕のところに一人の女性がやってきた。
「やっぱりそろそろ行くのね?」
灯時静乃。水を操ることができるこの学校の元先生である。今は世界の変化によって取り残された生存者たちのリーダーをしている。
「もう一ヶ月ですからね。助かった人たちも慣れてきた頃でしょう?」
「くぅー…私も行きたかったわ!」
「別についてきてもいいんですよ?」
「あら…まあ、やめておくわ。」
少しばかり残念そうにそう言った。
それでも彼女はついてこようとはしない。それはさすが先生と言うだけあって責任感が強いと言っていいのだろう。人に関わることは諦めようとはしない。
「でもいつか…追いかけていくわ?」
「ハハ…楽しみにしてますよ。」
やけにリアリティのある言葉である。彼女ならば力も知識にも問題は無い。だからこそ今の言葉が現実になる気がするのだ。
「いくら強くなったからといって油断は禁物だからね?わかっているだろうけど。」
「何回も思い知らされましたから。」
自然と苦笑いが出てくる。校内がダンジョンだった頃に何回もそんな体験をしているのだ。
「まあ、頑張りますよ。」
ようやく全ての水の入ったペットボトルを積み込み、滝のように流れる汗を拭いながらそう言った。
風を使ってなんとか熱を冷ます。風を操るとはなんとも万能なものだ。
「じゃあ、私は行くわ。」
「何をしに来たんですか…。」
「たまには話をしないとね。私、先生だし?」
「そうですか…」
再び苦笑。それでも嬉しくないわけではなかった。
先生は笑いながら去っていく。僕は一息吐いた。
「楽しみだな…」
雲一つない青空の下、僕らは出発する。
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