とある少年の不屈精神
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第1話:きっかけ
前書き
どうも、冷えピタです。
ずっと更新してなかったですが、ようやく更新です。
短いですが、お楽しみください。
✳︎
小さい頃に、よく見た夢がある。
どんな子供でも一度は必ず見るような、ベタなヒーローものだ。
その時は、じぶんの通っている小学校が舞台だった。午前の授業中に突然、悪役が下っ端を引き連れてやってきた。先生は捕まって、クラスのみんなは泣きわめくだけの酷い有り様。
でも、その中で、唯一自分だけが冷静でいられた。
むしろ、この状況に興奮していた。
頭の中でイメージする。まずはあいつを倒して、次はこいつ、フィニッシュは親玉だ。
昔から運動神経は良い方で、それもあってか、成功に絶大な確信があった。恐れることなくイメージ通りに敵を一掃し、そしてみんなを助け出し、めでたしめでたしというストーリー。
恥ずかしながら、そんな夢に興奮して、その万が一のシチュエーションのために運動を頑張っていた。
届かないものには、届くための努力をした。
夢を叶えるためなら、馬鹿げていても諦めなかった。
だけど、いつからだろうか?
成長して、中学を卒業して、憧れを叶えたくて学園都市にやってきて、
いつから、
いつから俺は、夢すら見なくなったんだっけ。
✳︎
チャイムの音が鳴り響き、賑やかなお昼休みが始まるとともに九重良は目を覚ました。
むむ、と顔をしかめて、辺りを見回す。
先生もいないし 、学生もいないと最初は戸惑ったものの、なんだ昼休みかとわかれば、安心してもう一度机に突っ伏した。
「あー、」
嫌な夢をみた、と九重は素直に思った。
あまりいい目覚めではなかった。
窓際の席から、鬱陶しいくらいに晴れている空を見た。
昔を振り返るように遠くを少し見つめると、すぐ飽きてしまい、視線を机に落とした。
手を伸ばすどころか、もう考えすらしなくなったな。
自分をあざ笑うと、ご飯でも食べようかと背伸びをした時だった。
「よ、九重」
自分の机の後ろから聞こえる声。
上条当麻が、お弁当を片手に笑っていた。
「飯食べようぜ」
「おう、いいよ。土御門たちは?」
「購買だってさ」
椅子を逆に向けて二人でお昼を食べる。かなり見慣れた風景であった。決まっているわけではないが割と頻度は多く、自炊メインである上条にとっても同じである九重とは、なんだか近しく思えていたのだ。
「…」
お弁当を開いてからの上条の沈黙。
食べ始めようとした九重は、その視線にむずがゆくなって言った。
「なんだよ、ジロジロと」
「九重って、料理めっちゃ上手だよな…」
上条の弁当とは対照的な綺麗なお弁当。おおよそ、面倒くさがりで遊び盛りの男子高校生が作ったとは思えないほど、堅実さが込められている。
「料理は昔から得意というか、母親が教えてくれたんだよ。うち、母子家庭だったから」
「なるほどな…やる気なさそうな顔してよくやるな」
「お前に言われたくない」
あはは、と苦笑いした上条が、「あ、そういえば」と、
「お前、この前補修サボったろ? 小萌先生怒ってたぞ」
「あ…まぁ、そういう時もある」
「なんだよそれ」
「まぁまぁ、そう言わずに。過ぎたことだし」
「ったく…」そう言って笑うと、またさっきと同じような雑談が始まる。
深入りせずに、冗談半分に話す上条の態度が九重にはとても心地よかった。
そんな最中だった。
「上条当麻!」
キリッとした声が教室に響き、九重は肩がビクッと跳ね上がる。恐る恐る振り返ると教室の入り口からきびきびと歩いてくる、女子生徒の姿があった。
「ふ、吹寄?」
九重は彼女に対して「なんだ?」と苦笑いで答えたが、彼女の顔は笑っていても、隠しきれていない怒りが滲んでいた。
「あんた、この前の小萌先生への提出物どうして出していないのかしら…?」
「あ…今から出そうと、」
「提出は今日の朝でしょ!あと一人でパーフェクトだったのに …」
「それは惜しい…」
「あんたのせいでしょ!」
はぁ、と大きくため息をついた吹寄はしょうがないといった感じで自分の席に戻ると、買ってきた昼食を食べ始める。
「お前も大変だな…」
「ははは…後で小萌先生に締められるな…」
「そうだな…ん?」
九重そこで引っかかる。
そういえば小萌先生って…
答えが出る前に、教室の扉が静かに開く。
誰が入ってきたか、小さくて見えない。だからこそ、呼ばれた声には背筋をなぞられたようにゾッとした。
それは無関係であるクラスメートも。
そして、上条もおなじのはずだ。
「上条ちゃん、九重ちゃん。あなたたちは放課後、職員室に来るのですよー」
「はい…」
小萌先生が教室を去り際ギリギリに目が合う。顔は笑っていても、先生の目はいつものように優しくなく、まるで獲物を狙う獣のようだった。
*
「というわけで、これからはしっかり補習に来ることです!わかりましたか?」
「はい…ものすごく」
上条の説教が終わってから、もうすでに時計の針が一周回ろうとしている。
放課後に呼び出されて日が暮れるまで、九重は担任の小萌から嫌ほど説教を聞かされ、かなり弱っていた。
授業より疲れる。これなら補習におとなしく出ればよかったと、九重は割と真面目に思うくらいだ。
小萌先生は少しお茶をすすると、「さて」と話を切り出す。説教の終わりに見えた九重は一瞬顔を綻ばせたが、また聞いたことのある説教が始まりげんなりとしてしまった。
(もしかしてこの説教、終わらないんじゃないだろうか?)
恐ろしい不安が九重の脳裏によぎったそんな中、いつまでも話し続けている小萌の肩を、隣の教師が苦笑いでたたく。
「お前何回同じ話をしてるじゃん?もういいじゃんよ」
「黄泉川先生…」
九重の嬉しそうな顔に、隠すことなく、「グッジョブだろ」と親指を突き立てて答える。それを見ている小萌は、子供が怒るように頬を膨らませ、「ダメです!」と突き返した。
さらに膨らんでいく説教。終いには黄泉川まで怒られている始末。誰でもいいから止めてくれ、と九重が必死に願っている中、その救世主は意外にも一人の生徒であった。
「あの、小萌先生。今いいですか?」
「あら、吹寄ちゃん。どうしました?」
小萌の意識が吹寄に向いた瞬間、二人から安堵の笑みがこぼれる。しかし、それにすぐ釘をさすように、「二人は待っててくださいね」と小萌はつぶやいた。
「おい、どうして九重だけじゃなく私まで怒られてるじゃん…?」
「先生…何か悪い事でもしたんじゃないですか?」
「くそう…私はもう逃げる」
「あ、ずるい!」
「お前も逃げればいいじゃん」
「逃げてつかまったんすよね…」
「チャンスは今しかない…それでもお前、学生じゃん?」
「黄泉川先生…それでもあんたは先生なんですか!?」
しょうもない会話をしている中で、チラチラと、九重は視線を小萌に移していた。
いや、吹寄の方が正しい。
もう授業が終わって、二時間は経つ。普通なら学生は帰っているはずだ。九重は、少し気になって話を盗み聞きしていたが、理由はいたって面白味のないものだった。
「ああ…学級委員か」
吹寄は、今日のプリントや、提出物の整理とチェックをしていたのだ。内容は、それができて提出しに来て、小萌が労う、みたいな内容だ。
よくやるよな、と九重は思った。
一学期の最初、学級委員を決めるHRがあった。クラス全体が気だるいムードの中で、吹寄が唯一手をビシッと挙げて立候補をした。
早く終わって良かったと思う半面で、彼女が立候補した理由を考えていた。
どうして、やる気があるんだ?
どうして、頑張るんだ?
お前だって、俺と同じだろ?
Level.0だろ。
「、」
吹寄と目が合い、九重はすぐにそらす。
何だか居心地が、さっきよりもずっと悪く感じた。
「あら、九重また怒られてるの?ちゃんと補習に来ないから」
「…うるせぇよ」
「九重ちゃん!学級委員で頑張ってくれた吹寄ちゃんにその言い方はなんです!」
矛先がこっちに向いてしまい、しまったと思って九重はまた黙り込む。黄泉川に助けを求めようと横を振り向くが、
「あれ?」
隣には黄泉川がいない。
生徒を守るはずの先生は、とっくに生徒を置いて逃亡していた。
「うそーん…」
「ですからね、九重ちゃん。私はあなたにただ頭ごなしに怒っているわけではなく…、そうです!」
小萌先生が何かを思いついたように大きい声をあげた。次に吹寄を見てニコッと笑った後に同じように九重にも満面の笑顔を見せる。
「九重ちゃん、あなたにとても良い宿題をあげましょう!」
「え…何ですか?」
それは、おそらく九重にとって最悪な宿題。
小萌の笑顔は悪魔にも近しいものだった。
「九重ちゃんは学級委員になって、吹寄ちゃんを助けてあげてくださいです!」
後書き
学級委員になってしまった九重…
彼にどんな変化が訪れるのか…
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回も更新した際はぜひご覧くださいね!
ではでは!
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