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とある少年の不屈精神

作者:冷えピタ
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第2話:隙間

 
前書き
どうも、冷えピタです。
更新がめっちゃ遅れてしまいましたが…
もし覚えていた方がいたら、本当にありがとうです。
初めてな方は、よかったらこれを機に読んでみてくださいね!

それでは、第2話です! 

 
ピピピッ、と軽い電子音が部屋の中を響き渡った。のそのそっと重たい体を無理やりに、腕だけじゃなく体ごと投げ出してのしかかるようにアラームを止めた。
「いてっ!」
勢い余って、ベッドから飛び出す。
近くの机に体の至る所をぶつけて、背中から受身も取れず床に落ちた。
極めつけに、止めたはずの時計が顔面にクリーンヒットする。
「あー、」
音でわかる。何段階も設定している中で、一番最後になる早い音だ。
つまり、学校が始まるまで一時間を切っている絶望的な状態。
そこまで理解して、じわじわと焦りがこみ上げてきているのにも関わらず動かない体に深くため息をついて、
九重の朝が始まった。
「最悪だ」
✳︎

「最近調子悪そうやなー、良ちゃん」
「その呼び方どうにかならないのかよ」
青い髪にピアスを付けた、エセ関西弁を話す友人に九重は軽くため息をつく。
ホームルームが終わって帰宅の時間。それぞれが集団を作って今から遊びに行く予定の話や身支度をする中で、九重もまた、上条たちと同じように話をしていた。
「ほんとだにゃー。最近の良ちんにはフレッシュさが足りないぜ」
「なんだよそれ」
「一度きりしかない高校一年生のこの時期。もうすぐ夏休みだぜ?テンションあげていかないと波に乗れないにゃー!」
「せやで!高校初めての夏。甘酸っぱい夏!女性の肌の露出が増える夏!」
「最後の夏はどうなんだろうな」
そんな楽しそうな友達の話を横目に見ながら、無愛想な顔でそうですねそうですねと呟くだけの九重。
上条たちはもう既に、今からどこに遊びに行こうかの話で盛り上がっている。ゲーセンだの何だのと聞こえている単語にいちいちに九重は少しずつイライラを覚える。
そして最後に上条や土御門たちはニヤニヤしながら聞いてきたのだ。
「九重も来るか?」
確信犯め、そう九重は心の中で毒づいた。
彼の机だけ、まだ片付けられていない。
山のように積まれた紙が鎮座してあった。
「…いけねぇよ」

✳︎

「はい、お疲れ様です。お二人ともありがとうございますです!」
ニコニコする小萌は、両手で吹寄からプリントをもらう。その隣で、脱力感とともに九重は深くため息をついた。
時間は授業終了から1時間が経っている。上条たちがすでに1時間遊びまくっているということを考えると、とても腹立たしく九重は思った。
「いえ、やるべきことをやっただけです!」
「どういたしまして…」
「九重ちゃん、不服そうですよ?」
小萌は満足そうに微笑む。それは、九重の苦しむのを見てではなく、教師として生徒を思った笑みだ。
「それにしても、九重ちゃんもちゃんと頑張っているようだし、先生は嬉しいですよ?」
「嫌味ですか?先生…」
「違います!それに友情を深めることも、生徒の仕事なのです」
「なんじゃそりゃ…」
それ以上は言わなかった。九重はあまり、失言はしない方だ。
「何よそれ。九重良、その言い方はどういうことかしら?」
「フカイイミハアリマセンヨ」
「突如棒読み!?」
「こらこら、仲良くするですよ!」
吹寄からの追求をかわしつつ、九重は少し溜息をつく。
「で、先生は一体俺たちを拘束して何か御用がおありで?」
「手のかかる息子が成長していくのを見るのは至福です。肴に酒が飲めるです」
「趣味悪いな、全く」
「九重は捻くれ者だから」
「うるせぇ」
吹寄からの追い打ちに九重はそっぽを向いた。こんなところにいてたまるかと、足元に置いてあったカバンをすくい取る。
「それじゃあ、俺はこれで。もう用はないですよね?」
「今日のところは!九重ちゃん、本当にありがとうございましたです!」
「…いえいえ。それじゃあ」
無愛想に挨拶をして、歩き始める。
だるかったと、ため息をついて忌々しい職員室の扉を開き、閉めた。
一人で出た、はずだった。
「…」
「どうしたのよ?」
「どうしたもこうしたもねぇよ」
吹寄の言葉に珍しいレスポンスの速さを見せる九重。
「なんでついてきてるのさ」
「私もこっちなの!ついてきてるのは九重の方でしょう!?」
「…あー、わかったよ、もう」
「なによ、その気だるそうな返しは!まるで私ががっついてるみたいじゃない!私はね、九重!あんたを…」
横で止まることなく喋り続ける吹寄を横に、九重は歩きながら思った。
ちょっと待てよ。
これ、どこまで続くんだ?



「意外とおいしいわね、このたい焼き。てっきり、少し薬のような味が強いのかしらと思っていたわ」
「………」
帰り道にあった公園のベンチに腰をかけ、吹寄がずっと喋り続ける中で、九重はなぜか黙々とたい焼きを食べていた。
(こうなるなら、素早く吹寄を撒けばよかった…)
どうせ校門までだろうと楽観していたのもつかの間、吹寄の寮と九重の寮は同じ敷地に立っていることに気づいた時にはすでに時遅し。
横から永遠と今日の授業の内容を語り尽くされ、頭を溶かされた九重には、もう吹寄に強く言うのすら面倒になっていた。
途中で見つけたたい焼きに吹寄の目が止まり、食べてみようと言われ、言われるがままに購入し公園のベンチに座っているのが今の現状だ。
(今日は厄日だな…)

ぼぉーっと、九重はたい焼きを見つめる。ただのたい焼きではなく、能力開発の向上を売りにした目新しいたい焼きだ。味は4種類ほどあるが、2人揃ってオーソドックスなあんこを食べていた。
いたって普通のたい焼きで、特に変わったところは感じられない。
しかし、九重はある付属価値に心のどこかがチクチクと痛かった。
「能力開発の向上…か」
能力開発のために作られたここ、学園都市。
能力が、ここではすべてだ。
能力を持つものには存在意義がある。
なら、
(俺は…どうなんだろうな)
たい焼きを持つ手の力が弱まる。食欲なんて、とうになくなっていた。
「どうしたの、九重?」
「…いや、別に」
「シャキッとしなさいよ!あんたはいつも元気がないんだから!」
「お前は俺の母親か」
肩をバンと叩かれて、背筋が伸びる。しかしそれもつかの間で、細々と九重はたい焼きを口にし始めた。
「お前さ、いつも学級委員であんなに残ってやってるの?」
「そうだけど、どうかしたの?」
「いや、よくやるなって」
「なによそれ!もっと言葉があるでしょ!」
ムッとする吹寄。頬張っているたい焼きをすぐに飲み込むと、まくしたてるように反論を始めた。
「私は誇りを持ってなんでもやってるの!学級委員の仕事だって、とてもやりがいのあるものだわ。学校の授業だってそう!何でも真剣にやってるんだから!」
「すいませんね、不真面目で」
ひねくれた九重に、吹寄はため息をついた。
「どうして、あんたってそう悲劇のヒロインなのかしら」
ピクッと、九重の眉が動いた。
「何だよ、その言い方…」
「いつだってそうやって、最初から諦めている。何事も自分はダメだって」
心のどこかにあったモヤモヤが動いた。
「その前に努力しないと、始まらないじゃない!努力する前から諦めてちゃおしまいでしょ!」
それは確かに形を成して、
「九重、私はね!不幸を理由に、」
「うるせぇ」
九重の言葉に表れた。
「え、」
今までと明らかに違う九重の語気に、吹寄は一瞬固まってしまう。彼の名前を呼んでも、顔は伏せたままで、表情はわからなかった。
「ねぇ、九重、」
「俺、帰るわ」
吹寄の言葉も途中に、九重は立ち上がり足早に歩き始めた。
「え、ちょっと九重!ねぇ!」
もう九重は、吹寄の言葉に耳も傾けてすらいなかった。
公園を出ると、すぐに人ごみに紛れる。
(不幸を理由に…)
「うるせぇ」
ボソッと、九重は静かに怒りを吐き出す。そして、買ったたい焼きを手近にあったゴミ箱に思い切り投げ捨てた。
一瞬、人ごみの注目が九重に集まる。まるで腫れ物を触らないように、人ごみの中でここで浮いていた。
「お前に何がわかるっていうんだ…」
九重の脳裏に、昔の自分がよぎった。
ははっ、乾いた笑いが漏れた。
それは完全な、自分への嘲笑だった。
「俺はもう、ダメなんだ」
足を止めていた九重はまるで、この世界に取り残されたように、一人で孤独な存在だった。



「はぁ…」
玄関の鍵を開けると、吹寄は重い足取りで自分の自部屋に入っていく。几帳面に制服の上着はハンガーにかけたがそこまでで、倒れこむようにしてベッドにダイブした。
「やってしまった…」
帰り道の、九重とのことを思い出す。
自分にも非があることは十分に理解し、反省していた。何でも強気に、しかもずけずけと言ってしまうのは悪い癖だ。
「もう…どうしたらいいの!?」
明日はどうやって接したらいいのか、何て謝ったらいいのか。悶えるようにベッドを転がり、不器用な頭で最大限に考える。しかし、自分にしっかり悪態をつかずにできるか、それすら不安だった。
「もう!こうなりゃ、全て九重が悪いせいにしよう!あいつ、突然怒り出したんだし、私は悪くない!そうよ!そうに決まって…」
ははは、徐々に漏れてくる乾いた笑い声。
どうしても、自分の言動を呪うしかなかった。
「もう…どうしたってのよ…九重」

((……大丈夫!!ほら、一緒にがんばろう!!……))

ふと、甦る昔の記憶。
吹寄は一つ、ため息をつく。
(あんたは…あんたは…)
昔の記憶へのもどかしさに、手近にあったクッションをぎゅっと握りしめた。
「あんた…どうしちゃったのよ…」
 
 

 
後書き
実は昔、接点のあった九重と吹寄…

次はいよいよ、いろんなことが起きてしまいます!

ぜひ、今度更新した時も見てくださいね!
それでは、また!
冷えピタでした!! 
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