インフィニット・ストラトス ―蒼炎の大鴉―
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キャノンボール・ファスト哨戒任務
9月27日、キャノンボール・ファスト当日、俺と兼次はキャノンボール・ファストには参加せずISアリーナの哨戒任務に出ていた。理由は2つ。1つはデルタカイとHi-νは内蔵ジェネレーターにより無尽蔵にスラスターを吹かせられるから他より遥かに有利に戦えること。最もこれは打鉄弐式にも該当するが、打鉄弐式のスラスター推力は常識の範囲内のため普通に参加する。もう1つはファントムタスクが襲撃してきた時、市民を守りながら戦えるのが俺と兼次、それと楯無さんくらいだからだ。
実際のところはそれを建前に楯無さんに頼み込んだだけだが。
俺と兼次はあのときの雪辱を晴らすために、さらに俺は本社襲撃の借りを返すためにと。
奴らが織斑を狙っていることは学園祭襲撃の件で、そして捕虜への拷問ではっきりしている。
ならこのようなイベントを奴らが見逃すわけがない。しかも今回は俺たちが市民を守らなければならないというハンデをかかえている状態だ。
さて、奴らがどう動くか…。
キャノンボール・ファスト開始までにはまだ少し時間がある。まだ観客の出入りが続いている。
コアネットワークで兼次に繋ぐ。
「兼次、異常はないか?」
『ああ、そっちはどうだ?』
「こっちも特筆すべきことはない」
『なあ、あの女は来ると思うか?』
兼次が問いかける。
「十中八九来るだろう。例のサイレント・ゼフィルスと一緒にな」
オルコット、ボーデヴィッヒの報告によると逃走した女は強襲してきたサイレント・ゼフィルスに回収されたらしい。なら2人一緒に動いている可能性は高いだろう。
『和也』
「わかってる。今度こそ仕留めるぞ」
内の社員を傷つけた代償は高くつくぞ、ファントムタスク…
『お2人さん、ちょっといいかしら?』
楯無さんが割り込んでくる。
『どうしたんです?』
『そろそろ始まるわ。気を引き締めて。それと今回はあくまで防衛が仕事、殲滅戦じゃないわ。市民の防衛が最優先よ』
「わかってる。つまり市民さえ守れば相手を殺してもいいんだろ?」
『…そのあとの責任はとらないわよ』
つまり学園では擁護できないということだろう。
「所詮はテロリストだ。市民を守るためだったと言えばどうにでもなる」
『会長、察してやってください。あいつは先日の本社襲撃で怒り心頭なんですよ。怪我人が何人かでたらしくて』
『そのことを引き合いに出されたら私にはどうしようもないわね。いいわ、好きにしなさい』
「死体はビームで血痕1つ残さず蒸発させるからその辺は安心してくれ」
コアネットワークを遮断し、警戒体制に戻る。
開始時刻まで2分を切った。
奴らが仕掛けてくる気配はまだない。
始めは二年生からなので、一年生の開始時に仕掛ける気なのだろうか?
「Don't forget a hole in the wall.
I'm like ghost to turn in on the load.
Day after day, I stay around on far away♪」
Day After Dayを口ずさんでみる。むろんなにも起こらない。
「Day after I've got it.
I'm going to stand on the floor.
By the way, I found a flower a little way away.
Oh way away♪」
二年生の試合が始まる。まだ奴らは出現しない。
「To give surrender my soul is wandering.
To back on safe ground I'm calling on
far away. How far away.
far away. How far away♪」
あの女もだがサイレント・ゼフィルスの同行も気になるな。
「Don't forget a hole in the wall.
I'm like ghost to turn in on the load.
Day after day, I stay around on far away♪」
来るなら来てみろ。皆殺しにしてやる。
「Day after I've got it.
I'm going to stand on the floor.
By the way, I found a flower a little way away.
Way away♪」
1試合が終わり、次の試合が始まる。
「To give surrender my soul is wandering.
To back on safe ground I'm calling on
far away. How far away.
far away. How far away♪」
やはり織斑の試合の時に動くのか?
「Don't forget a hole in the wall.
I'm like ghost to turn in on the load.
Day after day, I stay around on far away♪」
いや、それだけではないはずだ。
「Day after I've got it.
I'm going to stand on the floor.
By the way, I found a flower a little way away♪」
奴らは既にここにいる。機会をうかがっているはずだ。
「Don't forget a hole in the wall.
I'm like ghost to turn in on the load.
Day after day, I stay around on far away♪」
どこにいるんだ…?
「Day after day things are rolling on.
Day after day things are rolling on♪」
ただ時間だけが過ぎていく。
二年生の試合が全て終わっても奴らは仕掛けてこなかった。
次は一年生専用機持ちの試合だ。ここで仕掛けてくるか…?
専用機持ちの中には簪もいる。なんとしてでも守り抜かねばな…。
試合が始まった。ここにきてunknownの反応をセンサーが感知した。
コアネットワークで兼次に繋ぐ。
「兼次、unknownが来た。恐らく奴らだ」
『こっちからも感知した。仕掛けるぞ』
「ああ、俺は他を探す。奴1機のはずがない」
『わかった。奴は任せろ』
兼次のHi-νがアリーナ上空に出現したunknownに攻撃を仕掛ける。
しかしわずかに遅く、unknownの初撃を許してしまった。
放たれた荷電粒子ビームは超音速機動をしている専用機持ちに降り注ぎ、ボーデヴィッヒ、デュノアのスラスターを破壊、他の5機にも損害を与えた。
『奴は…サイレント・ゼフィルスだ』
「…やはりか。つまりあの女もいるということだな」
どこにいる…?会場の外か?
会場の外に出ると、ターゲットがいた。
まだ奴はISを纏っていない。
ロングメガバスターをコール、右腕に握りターゲットをロックする。
そして引き金を引いた。
メガ粒子ビームはターゲットに向かって一直線に進むが躱された。一筋縄にはいかないか。
「舐めたまねしてくれるじゃねえか」
女はISを纏い、反撃してきた。機体は以前と同じアラクネだか各部にチューンアップが施してあるようだ。
装甲脚から銃撃が放たれる。
それを左右のスラスター噴射で回避しビームガトリングガンで反撃する。
多量のメガ粒子ビームがばら撒かれ、アラクネに降り注ぐ。
アラクネがそれを回避し、地面に当たったビームはアスファルトを蒸発させ、独特の異臭を漂わせる。
この場に他の誰かがいなくて幸いだった。いたら蒸発したアスファルト内の有毒物質で中毒を起こしていただろう。
やはりこいつに正攻法は駄目だ。
リフレクタービットとプロトフィンファンネルを射出、さらにロングメガバスターで明後日の方向にビームを放った。
「ハッ、どこを撃ってやがる」
そしてビームをリフレクタービットで反射させ、アラクネの背中を撃ち抜いた。
「な…に…」
背面のユニットの大半が破壊されたアラクネは機動性が大幅に低下する。
「もう逃げられないよな」
ファンネルでアラクネの動きを制限しながらシールドのビームガトリングガンをハイメガキャノンに換装した。
「死ね」
ハイメガキャノンから高出力のメガ粒子ビームが照射される。
原子力空母さえも一撃で沈めるビームはアラクネもろとも搭乗者を蒸発させた。
「今度こそ死んだか。慰めにもならんな」
照射の終わった時、そこにはアラクネのコアだけが残っていた。
流石に放置するわけにはいかないので回収する。
しかしアリーナの方が気になる。行ってみるか。
―――――――――――――――――――――――
Side兼次
サイレント・ゼフィルスに放った初撃はビット1機を墜とすだけにとどまった。
こいつ…できる!
HWSをコールし機体に装着、ハイパーメガライフルでサイレント・ゼフィルスを狙撃するが当たらない。
どう攻めるべきだ…?和也ならどうする?
その時、別方向から荷電粒子ビームが放たれる。
「逃がしませんわ!」
そのビームはサイレント・ゼフィルスのビットに防がれる。シールドビットか。
「下がれ、お前たちのかなう相手じゃない!」
オルコット、凰、一夏、篠ノ之に撤退を促す。
「そういうわけにはいきませんわ!」
「あんた1人じゃ危険よ!」
「お前が逆の立場なら退くのかよ!」
「観客だっているんだ!」
全く、馬鹿どもが…。
一夏たちの攻撃は外れるかシールドビットに防がれ、意味を成していない。
逆にサイレント・ゼフィルスの攻撃は何発も当たっている。これでは足手まといだ。
「下がれと言ってるだろうが!」
ファンネルラックからビームサーベルを取り出しビーム刃を発振、ハイパーメガシールドをスタビライザーに装着しスラスターを最大で噴射、サイレント・ゼフィルスに切りかかる。
サイレント・ゼフィルスはビームの偏向射撃で迎撃してくるが、それを推力で強引に振り切り、そしてサーベルを降り下ろす。
斬撃は外れたが、注意を引き付けることには成功した。
「貴様の相手は…この俺だ!」
バックパックにマウントしているバズーカからロケット弾を1発ずつ発射する。
サイレント・ゼフィルスはロケット弾をビットで撃ち抜き、破壊されたロケット弾は爆発を起こす。
煙幕のように拡散した爆煙は両者の視界を遮った。
ここで機体を第1形態に変更、ハイパーメガライフルでサイレント・ゼフィルスがいると思われる場所を狙撃する。
爆煙を貫通するメガ粒子ビーム。しかし手応えがない。
どう来る…。
そのとき、右腕に銃剣を持ったサイレント・ゼフィルスが右斜め上から突撃してきた。
そう来るか!
即座にビームサーベルを取り出しこれを受ける。銃身に取り付けられた大型のナイフはビームサーベルで切り裂けなかった。
対ビームコーティングか?
だがつばぜり合いの状況はHi-νにとって有利だった。
腰部増加装甲から隠し腕を展開、ビームサーベルを発振し相手の腹部を狙い刺突する。
流石に予想外だったのか攻撃を掠めさせることには成功した。
距離をとろうとするサイレント・ゼフィルスに追撃のミサイルを放つ。
肩部と胸部合わせて16機のミサイルが射出され、サイレント・ゼフィルスに接近すると爆発した。
あらかじめミサイルユニットにVTFミサイルを装填していたのだ。
爆煙の中からサイレント・ゼフィルスが飛び出し、市街地の方に飛んでいく。その装甲は各部が破損していた。ある程度は効いたみたいだ。
「待ちなさい!」
それをオルコットが追いかけた。
どうする…。市街地でのISの使用は禁止されている。だが行かないと犠牲者がでる…。
……ここまでだな。借り物の機体で好き勝手は出来ん。
――――――――――――――――――――
Side和也
アリーナに戻ると、サイレント・ゼフィルスが市街地に逃亡しているところだった。
咄嗟にロングメガバスターで狙撃したが当たらなかった。
遅かったか…。
「間に合わなかったみたいだな。すまない」
『お前の責任じゃない。これは…俺の実力不足だ』
そう言った兼次の声は悔しそうに震えていた。
「…とりあえず楯無さんから指示を仰ぐぞ」
『ああ…』
アリーナの外、俺がファントムタスクと戦っていた場所の反対側に楯無さんはいた。
俺と兼次はそこに着地する。
その表情はどこか悔しそうだった。
「楯無さん、ターゲットを1人、処分した。これがそいつの使ってたコアだ」
回収したアラクネのコアを差し出す。
楯無さんはそれを無言で受け取った。
「サイレント・ゼフィルスに逃げられました。指示をお願いします」
兼次が言う。
「…あなた達はそのまま継続してアリーナの哨戒よ」
「…わかりました」
兼次も追撃に出たかったのだろう。その声には不満の感情が混じっていた。
「兼次、戻るぞ。気持ちはわかるが今は耐えろ」
「………」
それから約1時間後、サイレント・ゼフィルスに逃げられたという報告が届いた。
後書き
オータムはここで完全に死にました。もう復活しません。
これからファントムタスクが出る時はマドカとスコールになると思います。
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