こんなのもアリ!?
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第二章
第二章
「いるのよ」
「何でなの?」
「朱肉はあるわよ」
知世に問うと彼女はすぐに返してきた。
「こっちでね」
「朱肉って?」
「それでいいわよね」
「うん」
何が何なのかわからないまま答える直人だった。
「それでね」
「印鑑が必要なんだ」
「そうよ。印鑑がね」
「それじゃあね」
少し変に思いつつも印鑑を出した。まさか借金の保証人だとかそういうものとかはないと思っていた。高校生でそんな話はまず有り得ないからだ。
「これだけれど」
「はい、朱肉付けるわね」
「有り難う」
やはり赤本を見たまま答える直人だった。
「それじゃあね」
「それで押せばいいんだよね」
「そうよ」
知世の声はさっきより明るいものになっていた。彼女の顔は見てはいないが。
「はい、ここよ」
「ここだね」
紙は碌に見ないままである。
「じゃあ。押すよ」
「はい、御願いね」
「よし、これでいいね」
「有り難う。これでいいわ」
知世の声はここでこれまで以上に明るくなった。
「これで晴れて私達はね」
「私達なんだ」
「そうよ、夫婦よ」
「ふうん」
この期に及んでも話はろくすっぽ聞いてはいない直人だった。
「夫婦なんだ」
「ねえ。あなた」
「あなた!?」
やっと知世の声がかなりおかしいことに気付いたのだった。
「後でこれ。お役所に持って行っておくからね」
「お役所!?」
ここで遂に話自体もかなりおかしいことにも気付いた。
「お役所って!?何で?」
「だから。私達結婚したのよ」
にこにことした声だった。
「これでね」
「ちょっと待ってよ」
流石に結婚と聞いては血相を変えた。その血相を変えた顔で知世に顔を向けて問うた。
「何それ!?結婚って!?」
「だから。今サインしたのはね」
「うん」
「婚姻届なのよ」
知世の顔はまるで天国にいるかのようににこにことしていた。そのにこにことした顔で直人に対して言うのであった。その左手にはその婚姻届がある。何と直人のサインと印だけでなく知世のサインと印鑑もあるのだった。何時の間にか他の些細なことも全て書かれている。
「実はね」
「何の冗談!?」
とりあえずそれを冗談ということだと思う直人だった。
「これって」
「幾ら何でも冗談で婚姻届は持って来ないわよ」
「じゃあまさか」
「そうよ。本気よ」
こう言う知世だった。
「実を言うとね。前から好きだったのよ」
「嘘・・・・・・」
「婚姻届出して嘘なんて言う人もいないと思うけれど」
「それじゃあ。やっぱり」
「わかった?これで」
にこにことしているがその目は真剣な知世だった。
「ずっと言えなかったけれどね。好きだったのよ」
「そうだったんだ・・・・・・」
今はじめて知る衝撃の事実だった。直人にとっては。
「僕のことが」
「そうよ。私でいいかしら」
「いいかしらって」
「あっ、結婚はね」
ここで頬を赤らめさせる知世だった。
「今すぐでなくていいけれど。できたら」
「そこまで思ってるんだ」
「だから。それで」
にこにことした顔と笑ってはいるが真剣なままの目はそのままだがそこにもじもじとしたものも見せていた。直人の返事を待ちわびているのがわかる。
「私で。よかったら」
「ううん、何て言うのかな」
直人もそんな知世を目の目にしてどう言っていいのか少しわからないがそれでも言葉を苦労しながら出した。
「今。受験だけれど」
「ええ」
「確か暁さんと僕って志望校一緒だったよね」
「わざとそうしたの」
こう答える知世だった。
「苦労して。それで」
「だったら。受験が終わった時にね」
「その時?」
「そう、その時にね」
また言う直人だった。
「返事をしていいかな」
「その時なのね」
「一緒に合格しよう」
直人の次の言葉はこれであった。
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