| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

不器用に笑わないで

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七章


第七章

「あんたも私をどう言ってもいいし」
「何かそんなところは相変わらずだな」
「別にいいじゃない。それで何なの?」
「あのさ」
 その席に座りながらまた恵美に話すのだった。
「ここでちょっと話してもいいかな」
「ええ、いいわ」
 微笑みはそのまま続いていた。だが今は大輔だけでなく妙も見ていた。そうしてそのうえでやり取りを続けるのであった。
「奈良橋さんね」
「あっ、はい」
「名前はわかったわ」
「そうなのですか」
「ええ」
 今はこれだけだった。妙も座ってそのうえで文化祭の話をした。だが妙は話を聞くだけで大輔がリードしていた。それが終わって帰る時だった。
「それじゃあね」
「ええ、またね」
 大輔がお金を出した。とはいっても高校生らしくワリカンである。それが終わってから店を出る時だ。恵美が妙にまた声をかけてきたのだ。
「ねえ奈良橋さん」
「はい?」
「笑ってみて」
 こんなことを彼女に言ってきたのだ。
「よかったら笑ってみて」
「笑って、ですか」
「そうよ。笑ってみて」
 自分でも笑ってみせての言葉である。
「よかったらね」
「はい、わかりました」
 恵美のその言葉に応えて笑ってみせる。しかしだった。
 その笑みは不自然なものであった。無理をして笑っているような。例えて言うならばレオナルド=ダ=ビンチの有名な絵画であるモナリザの。そんな笑みであった。
 その笑みを見てだった。恵美は言うのだった。
「その笑顔がね」
「笑顔が」
「自然に出るようになったら全然違うわ」
 こう言うのであった。妙に対して。そうしてそのうえで彼女を見るのであった。
 だが妙にはその言葉の意味がわからなかった。大輔もである。彼は店を出たところで妙に対してそのことを尋ねたのである。
「なあ、安橋だけれどよ」
「あの奇麗な人ですか」
「時々あんなこと言うんだよ」
 さっきのことを言うのだった。
「変なことをな」
「そうなんですか」
「気にしないでくれよ」
 そしてこうも彼女に話した。
「別にな」
「いえ、私は別に」
「悪い奴じゃないからな」
 妙を気遣った。そんな言葉だった。
「別にな」
「それは」
「だったらいいけれどな。けれど」
 大輔にしても恵美の言葉は気になっていた。それでここで妙の顔を見る。そうしてそのうえで不意にこんなことを言うのであった。
「確かにな」
「確かに?」
「奈良橋って奇麗な顔してるよな、本当に」
「そんな、奇麗な顔って」
「いや、奇麗だよ」
 それは彼も保障するのだった。
「奇麗だよ、本当に」
「そんなことは一度も」
「言われなかったって?嘘だよ」
 彼はそれは否定した。
「奈良橋みたいな奇麗な娘いないって。俺はじめて見たし」
「そうなんですか」
「そうだって。自信持っていいって」
 そしれこんなことも彼女自身に話した。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧