不器用に笑わないで
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第八章
第八章
「あのさ、奈良橋って成績もいいし絵だって上手いし」
「それは」
「凄いんだよ。それでそんなに美人だし性格だって凄くいいし」
これは大輔がそのまま感じ取ったことである。嘘を言っているつもりは全く無い。彼にしても正面からそれを彼女自身に告げたのである。
「完璧じゃない」
「私はそんな」
「そんなに言うんだったらだよ」
彼女に顔を向けたままさらに話す。
「そのお化け屋敷さ」
「はい」
「奈良橋も出たらいいよ」
「私も、ですか」
「お化け屋敷の幽霊にさ。出たらいいよ」
それに出たらどうかというのだ。
「出てそれでやればいいさ」
「そうなの」
「是非さ、やってみたらいいから」
こう言って勧めるのである。
「絶対に凄い評判になるから」
「お化け屋敷の幽霊にですね」
「ああ、受付は俺達でやってくから」
それはするというのである。
「奈良橋はその日は中専門でやってくれたらいいから」
「わかりました」
「とにかく奈良橋は凄い美人だから」
「はい」
「だからいけるって」
また言うのであった。
「とにかく文化祭頑張ろうな」
「わかりました」
そんな話をしてであった。大輔は彼女を連れて帰った。そして二人で、妙の仕事をしながら文化祭を進めていく。作業の時にであった。
妙は中の絵も描いて幽霊の服も作っていく。皆それを見て大輔と同じことを言った。
「やっぱり絵上手いし」
「普通に服とか作るの早いし」
「何か何でもできるよな」
「そうよね」
「っていうか凄くない?」
そんな彼女を認める言葉さえ出て来ていた。
「暗い顔のまましてくのが残念だけれど」
「それでもね」
「それに。奈良橋の幽霊ってな」
「そうよね」
そのことも話されだした。これも大輔が言ったことと同じであった。
「奇麗だし」
「いけるよ」
「美人になるわね」
「だろ?何か俺奈良橋があんまり凄くてさ」
そして大輔は皆に対して申し訳なさそうに、だが何処かちゃっかりとした様子になってみせてそのうえで話すのであった。
「暇で暇で」
「あんたは大道具やったら?」
「仕事は幾らでもあるぞ」
皆そんな彼をいささかクールな目で見て告げる。
「遊んでないでね」
「ちゃんとしろよ」
「ああ、わかってるよ」
その笑顔で答える彼だった。
「それはさ。それじゃあ今からやるから」
「やりなさいよ。けれど」
「そうよね」
皆はここでまた妙を見る。皆が大輔の相手をしているその時も普段通り仕事を続けている。物静かだが黙々と続けているのであった。
「奈良橋ってね」
「確かに凄いよな」
皆彼女を認めはじめていた。彼女は確かに真面目でしかも絵も服を作るのも上手かった。だが彼女はその間ずっと暗い顔をしていた。
その日の作業が終わった後であった。大輔は妙と一緒に帰っていた。そうしてそのうえで彼女に対して声をかけるのであった。
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