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剣の丘に花は咲く 

作者:5朗
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第四章 誓約の水精霊
  幕間 アマリリス~ アップルブロッサム~

 
前書き
馬鹿話はお休みです。
それでは本編をどうぞ。 

 
 ここ……は……?

 風を感じた……

 熱い、錆びた鉄の匂いを含んだ風を……


 ゆっくりと目を開けると


 そこは……



 ……赤の世界……



 ……剣の世界……



 ……荒野の世界……







「ここ……どこ?」


 視界に広がる世界が理解できず、呆然と呟く


「えっと……わたし、どうしたんだろ……」


 頭に手を当て、記憶にある一番最後の光景を思い出そうとするが


「だめ……思い出せない」


 思い出せず、苛立たし気に頭を振る


「一体……ぁ」


 風が頬を撫でた……熱い……風が……


「だ、れ……?」


 何かに呼ばれた気がし、風が吹いてきた方向に顔を向ける



「あっち?」



 遠くを見るように目を細め、歩き出す











「はぁ……はぁ……ふぅ……一体どこまで続いてるのよ……」

 歩けど歩けどいつまでたっても変わらない光景に、顔をしかめる

「延々と続く赤い荒野に……その荒野に突き刺さる剣……」

 地面に突き刺さる剣を見つめる

「……凄い……わね」

 剣に興味はなく、良い剣と悪い剣の違いなど分からないが

「だけど……」

 視線の先の地面に突き刺さった剣からは、身体が震えるほどの力を感じるが、歩いていた間に見た剣の中には、今見ている剣など比較にならないほどの力を感じた剣もあった 

「一体どれだけ」

 視界に入る剣の数だけでも、数百にも届く

「でも、何で……」

 英雄や勇者の手にあれば、千の兵を打倒し、竜を討伐するに相応しい剣だからだろうか

「こんなにも悲しい気持ちに?」

 墓標のように荒野に突き刺さる剣に、もの悲しさを感じた

「どうして……?」








 一時間か……一日か……それとも一週間か……時間の感覚があやふやになる頃に、視界に何かが入り込んだ……それは……

「丘……?」

 ポツリと呟く……

「誰かいる……?」

 目の前には小さな丘があり……

「男……の人」

 その頂きには男が立っていた

「し……ろ、う……」 

 知らず口から名が溢れた……

「何で……シロウが……」

 丘に立つ男の姿を仰ぎ見る

「シロウ……ぇ」

 熱い風の中に、不意に甘い香りが混じった……それは……

「花……の、香り?」

 荒野に似合わない、甘い花の香りに誘われ、歩き出す……











「花……畑」

 花の香りに誘われ辿りついたのは、丘の麓に広がる花畑

「綺麗……」

 その花畑は、赤い剣の荒野に不似合いに過ぎる程……美しい花畑であった

「見たことも無い花ばかりね」

 様々な種類の花があり、中には自分の背丈ぐらいの小さな木に咲いた、淡いピンク色の五枚の花弁の可愛らしい花もある

「何ていう花何だろう……?」

 見覚えの無い花に、小首を傾げる

「あれ?」

 誇らし気に咲き誇る花の種類は、十種類以上はあるだろうか……今までのもの哀しい光景に沈んでいた気持ちを慰めるため、花畑を歩きながら、心を癒していると、ふと足元に、今にも咲こうとしている花を見付けた

「もう少しで咲きそうね」

 膝を曲げ、顔を近づける

「あれ、隣にも……」

 今にも咲きそうな花の近くには、まだ他に咲こうとしている花を見付けた

「……何かこれ……気に食わないわね」



 今まさに咲こうとしている花は三本……

 まだ蕾の花は一本……

 ……まだ芽が出たばかりの花が一つ……



 蕾の状態でも、鮮やかな赤色が美しい、その蕾の何が気に食わないのか、指先をつんつんと突き立てる 

「む~……何でだろ?」

 眉間に皺を寄せながら考えるも、分からない

「まあ、いいか」

 最後に指で蕾を弾き、膝を伸ばして立ち上がると、丘の上に立つ男を見上げる

 





「……シロウ」

 丘に立つ男は、背中しか見えないが、悲しんでいるのを感じる…… 

 たった一人でこの赤い荒野に立つ士郎を見つめていると……胸を鋭い刃物刺されたかのような痛みを感じた……


 
 何故か……分かった……
 


 その痛みは……きっとシロウの心が感じている痛みだと……



 知らず……涙が溢れた……



 ……不意に……理解した……



「……ああ……そっか……」

 剣が突き刺さった赤い荒野が広がるこの世界は……

「シロウの……こころ……なんだ」


 唐突に……湧き上がる……


「シロウ……」



 ……切なさ 



「シロウ……ッ!」



 ……ぬくもり



「シロウッ!」

 

 ……愛おしさ



 溢れ出す想いに、思わず駆け寄ろうとした瞬間


 
「あ……」


 足元で……



「こ……れ……」


 花弁が開き……


「ああ……分かった……」


 ……理解する……



「これ……わたしだ……」


 
 淡くピンク色に色付いたその花は、果実のような甘い匂いを香らせ……


 誇り高く咲き誇る……




 

 


     
 

 
後書き
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