ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔
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第1部
第6章 微熱のキュルケ
ルイズはウルキオラがギーシュとの決闘をしたその日から、寝る時はウルキオラを外に放り出す。
「私は寝るからそろそろ部屋を出なさい」
「ああ」
それはルイズがウルキオラを使い魔としてだけではなく、1人の男として認識し始めたからだ。
ウルキオラはルイズの部屋から椅子と本を持ち出すと椅子を廊下に移動させ、そこに腰を下ろした。
廊下は風が入ってくるため、寒い。
しかし、ウルキオラにとってそんなことは関係ない。
ウルキオラは本を開き、読み始める。
少しして、キュルケの部屋の扉が、がちゃりの開いた。
出てきたのは、サラマンダーのフレイムだった。
サラマンダーはちょこちょことウルキオラの方へ近ずいてきた。
「なんだ」
きゅるきゅる、と人懐っこい感じで、サラマンダーは鳴いた。
害意はないようだった。
サラマンダーはウルキオラの上着の袖をくわえると、ついてこいというように首を振った。
「よせ、本が燃える」
しかし、サラマンダーはぐいぐいと強い力で、ウルキオラを引っ張る。
キュルケの部屋のドアは開けっ放しだ。
あそこにウルキオラを引き込むつもりらしい。
ウルキオラは腑に落ちない気分で、キュルケの部屋のドアをくぐった。
入ると、部屋は真っ暗だった。
サラマンダーの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。
ウルキオラは探査回路で中にキュルケが居るのを確認した。
暗がりから、キュルケの声がした。
「扉を閉めて?」
ウルキオラは言われた通りにした。
「ようこそ。こちらにいらっしゃい」
「暗いな」
キュルケが指を弾く音が聞こえた。
すると、部屋の中に立てられたロウソクが、1つずつ灯っていく。
ウルキオラの近くに置かれたロウソクから順に火は灯り、キュルケのそばのロウソクがゴールだった。
道のりを照らす街灯のように、ロウソクの灯りが浮かんでいる。
ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベットに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった。
ベビードールという、誘惑するための下着を着けている。
というか、それしかつけていない。
キュルケの胸が、上げ底でないことがわかる。
メロンのようなそれが、レースのベビードールを持ち上げている。
「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
キュルケは、色っぽい声で言った。
ウルキオラはドアの前から動かずに言った。
「何のようだ」
キュルケは大きくため息をついた。
そして、悩ましげに首を振った。
「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」
「…」
ウルキオラは答えない。
「思われても、しかたがないの。わかる?あたしの2つ名は『微熱』」
「ああ」
「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼び立てしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
「…」
ウルキオラ再び何も言わない。
「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」
キュルケは、すっとウルキオラの手を握ってきた。
どんな男でも、キュルケにこんな風に見つめられたら、原始の本能を呼び起こされるに違いない。
ただ1人を除いて…
「何をだ」
キュルケはすっと立ち上がると、ウルキオラに近ずいた。
「恋してるのよ。あたし。あなたに。」
「恋…?」
ウルキオラは理解できなかった。
「あなたが、ギーシュを軽くあしらった時の姿……。かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディーの勇者みたいだったわ!あたしね、それを見て痺れたのよ。信じられる?痺れたのよ!」
「イーヴァルディー…だと?」
ウルキオラは驚いた顔でキュルケに言った。
「え、ええ…そうよ?」
ウルキオラは徐に左手を自らの胸にあげた。
「俺の手に刻まれたルーンもイーヴァルディーだった」
ウルキオラがそう言うと今度はキュルケが驚いた。
「そ、それほんと?」
「嘘をついてどうする」
「そ、そうね…じゃあ、あなたは本物の…」
キュルケが何かを言いかけたとき、窓の外を叩かれた。
そこには、恨めしげに部屋の中を覗く、1人のハンサムな男の姿があった。
「キュルケ……。待ち合わせの時間に君が来ないからきてみれば……」
「ペリッソン!」
キュルケがそう言った瞬間、ガチャリとドアが開かれる音がした。
「失礼する」
ウルキオラがキュルケの部屋から出ようとしたのを見て、キュルケは叫ぶ。
「ま、待って」
ウルキオラにその声が届くことはなく、部屋にはキュルケだけが残った。
部屋に1人残されたキュルケはため息をついた。
窓の外から声が聞こえてくる。
「今のは…ルイズの使い魔か?なぜ君の…」
ペリッソンが言い終える前に、キュルケは胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、ペリッソンに向けて杖を振った。
ロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばした。
「もう…とんだ邪魔が入ったものだわ…」
キュルケは少し考えた後に言った。
「彼は…本当にイーヴァルディーなのかしら…」
キュルケは不敵な笑いを浮かべながら続けて言った。
「なら、本当に諦めきれないわ…」
そう言って、ロウソクの火を消した。
ウルキオラがキュルケの部屋から出ると、ルイズの部屋のドアが物凄い勢いで空いた。
そこには、ネグリジェ姿のルイズが立っていた。
「どうした?」
ウルキオラがそう言うと、ルイズは怒りを隠しながら言った。
「入りなさい、ウルキオラ」
ウルキオラは言われた通りに部屋に入った。
部屋に戻ったルイズは慎重に内鍵をかけると、ウルキオラに向き直った。
唇をぎゅっと噛み締めると、両目がつり上がった。
「ど、どうしてキュルケの部屋に居たのかしら?」
「あいつの使い魔に部屋に引っ張られたからだ」
「嘘おっしゃい!」
「嘘を言ってどうする」
ルイズは机の引き出しから、鞭を取り出した。
「なんだ」
ウルキオラは声のトーンを変えずに言った。
ルイズはそれでピシッと床を叩いた。
「ううう、嘘を吐く使い魔には罰を与えなくちゃね…」
「なぜ鞭を持っている?」
ウルキオラはルイズの持つ鞭を見つめて言った。
「乗馬用の鞭だから、あんたにゃちょうどいいわね…」
ルイズはそれでウルキオラを叩き始めた。
ピシッ!ピシッ!とウルキオラの体に当たる。
ウルキオラは何事もないように立っている。
それもそのはず。
大の男が刃物をウルキオラに振りかざしても破れない鋼皮が少女の力で振るう鞭で破られる訳もない。
「なにをする」
「なによ!あんな女のどこがいいのよ」
ウルキオラは面倒だと思いながらルイズの両手首を掴んだ。
少女の力では、ウルキオラの手を解くことはできない。
「離しなさいよ……!ばか!」
「なぜそこまでキュルケのことを嫌がる」
「キュルケだけはダメなの!」
ウルキオラは手を離した。
すると、ルイズは椅子に座り、足を組んだ。
息は荒いが、散々ウルキオラの体を叩いたので、満足しているらしい。
「なぜだ」
「まず、キュルケはトリステインの人間じゃないの。隣国ゲルマニアの貴族よ。それだけでも許せないわ。わたしはゲルマニアが大嫌いなの」
「知ったことか」
「私の実家があるヴァリエールの領地はね、ゲルマニアとの国境沿いにあるの。だから戦争になるといっつも先頭切ってゲルマニアと戦ってきたの。そして、国境の向こうの地名はツェルプストー!キュルケの生まれた土地よ!」
ルイズは歯軋りしながら叫んだ。
「つまり、あのキュルケの家は……。フォン・ツェルプストー家は……、ヴァリエールの領地を治める貴族にとって不倶戴天の敵なのよ。実家の領地は国境挟んで隣同士!寮では隣の部屋!許せない!」
「なるほどな…長年の宿敵という訳か…」
「ええ、そうよ!」
ウルキオラは不敵に笑って言った。
「ルイズにも長年の敵がいたとはな…」
ウルキオラが不敵に笑ったのもを見てルイズは驚いた。
「ルイズにもって…あんたにも居たの?」
「ああ…1000年以上争った相手がな」
「そ、そう…」
ルイズは驚きながらも、話を元に戻した。
「と、というわけでキュルケは禁止!」
「俺には関係のないことだ」
「関係あるの!あんたは私の使い魔でしょ!」
「使い魔になることは了承したが、下についたつもりはない」
ルイズはウルキオラが使い魔になることを了承した日のことを思い出した。
(な、なによ!使い魔のくせに…でも、どうしてこいつは私なんかの使い魔になってくれたんだろう…この…ゼロのルイズの…そういえば、わたしはこいつに助けられてばかりだわ…あいつが授業に出ているときは私をバカにする奴はいないし、『錬金』魔法が失敗したときも爆発を外に逃がしてくれた…思えば、わたし、まだあいつに何もしてあげてないわ…)
ルイズは何かを決心したように口を開いた。
「あ、あなたに剣を買ってあげる」
「急にどうした?別にいらん…すでにある」
「主人の好意なんだから、大人しく受け取りなさい!」
ウルキオラは大きくため息をついた。
「明日は虚無の曜日だから、街に連れてってあげる」
ウルキオラは虚無という言葉に反応したが、街に連れて行くということから、休日のことだと気付いた。
ウルキオラは外に出ようとした。
「どこに行くのよ」
「廊下だ」
「いいわよ。部屋に居なさい。またキュルケに襲われたら大変でしょ」
「…椅子と本を取りに行く」
ウルキオラは部屋を出た。
ルイズはウルキオラが椅子と本を取りに行くのを見ると、ため息を吐き、窓の外に浮かぶ月を見ながら言った。
「あいつ…確かこことは違う世界から来たって言ってたわね…私があいつをその世界から引きずり出したのよね…私が…」
ルイズがそう言い終わると、ウルキオラが戻って来た。
ウルキオラは無言で椅子に座り本を読み始める。
(こいつは…ウルキオラは私を…どう思ってるんだろう)
ルイズはそう思いながら布団に入った。
(わたしは…あんたを使い魔としてだけじゃなく、1人の…)
そんなことを考えていると、眠気が襲ってきた。
今日も長い1日だったわ…と思いながらルイズは眠りについた。
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