バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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第二章 彼と彼女の事情
第十話 三軍編成
前書き
「ですから、貴女がそれを否定する限り私たちの間に友好などありません。いいですね、二度と私の前で大切な級友たちを侮辱しないで。」
そうだろう、説得など鼻から無駄なんだよ。
友香には悪いが、しゃしゃり出る女は俺にとっちゃただの迷惑なんだよ。
妃宮千早、ただただ俺にとっては目障りな女。
向こうの主力の二人のうち一人、お前か姫路瑞希を潰せば、後のことは腐った小屋の支えだったドアが蹴られるだけで崩れ落ちるのと同じだろう。
「どんなやつでも、叩けば埃の一つは出てくんだよ。」
一人ほくそ笑む彼を咎める者など居ない。
しんと静まり返った教室、唯一の物音はこのクラスに仕掛けられていた最後の盗聴機の始末をしているムッツリーニ君があれこれと道具を取り出し、作業している時に出てくる音だけだ。
昨日、僕らが帰った後で誰かが仕掛けたのだろう。
もし根本という男が横押しでも徹底的にやりたいことを成し遂げようとする人物であれば盗聴機も当然仕掛けるはずだ、という代表殿の指示により既に2個発見し、即座に潰している。
「………完了した」
その言葉に頷く代表殿。
時計をちらりとみると今は8:30、試召戦争まで残り30分。
BクラスはCクラスと同盟を組んでいるのだから実質的戦力比は1:10いや1:20にも成る。何故その様な無謀なことをするのか、とは学園中に広まっている専らの噂だ。
戦意を挫こうという宣伝工作だろうが、そんなものを気にする柔い男はこのクラスにはいない。
唯一、姫路さんが心配しているぐらいだろう。
壇上の代表は黒板を平手で叩いて教室中の注目を促し、そして宣言した。
「本日9:00よりBクラスと開戦する!!」
「「「よっしゃあ!!!!」」」
壇上にある代表殿の宣言に、教室中が色めきたつ。
黒板には既に校内の見取り図が張られている。
「参謀、作戦説明は頼んだ。」
「承知しました。」
もはや副官ポジションに収まってしまっている僕ではあるが、参謀としては初陣であり、つまり全体を指揮するのは初めてだ。
とはいえ熱は全くと言っていいほど入ってないし、力んでもいない。
いつも通りに仮面を被りながら自分達を勝利に導けば任務は完了、自分のすべきことは単純明快に分かっている。
仮にこの作戦や、この次のAクラス戦で転けようとも部屋のランクは(最終的に)どう転んでも落ちないように計画は練ってあるし、その工作は代表殿が直々に取っているのだから間違いないだろう。
とは言え、ムッツリーニによる事前情報によると対Bクラスという一石を投じるだけで学年全体に波を立たせることになるらしい、学校にとっては全くの迷惑だし、僕としてはたくさん収穫出来そうな予感がしている。
小山さんの“お願い”を叶えることが出来る上に、自分の性同一性に一挙に自ら大打撃を与えるほどの事件も起きそうだしね……はぁ。
伏し目がちに壇上の近くにいた僕は代表に声をかけられ場所を変わった。顔を上げて、Fクラスの級友たちのさまざまな感情を乗せている目線を受け止める。指示棒を手に取り、僕は図面にその先を向けて事務的に作戦説明を始めた。
「今回はCクラスが戦線に参加するかどうかによらず、鉄壁の防御陣を敷き、機が熟したそのときから反撃を行います。ボクシングで言えばカウンターブローでしょうか。今回恐らくBクラスは小隊を編成し、あちらこちらに布陣し連携してくると思われます。そのため私たちは逆に打撃任務部隊(strike task force)と機動部隊(mobile force)、本陣守備隊(the defense force)の三軍編成でこれを迎撃します。」
そこで一端区切り、皆の様子をうかがうと続きを聞かせろという空気が作られていた。
「本作戦で本陣は旧校舎の屋上に設置するため、本陣守備隊は屋上へつながる唯一の経路である階段とその周辺を守るのが第一の任務です。指揮は代表が取ります。総勢15名がこちらに配属して頂きます。」
「俺が今から呼んだ奴はこっちに来い、遠藤」
「ういっす!」
何かこのクラスって体育会系のノリなんだよね……
「ウチもこっちなんだ。」
「はい、やはり強い方にも居ていただく必要がありますので。」
じゃあまた後でね、そう言い残して島田さんは代表の方に行った。
代表が14人の名前を呼び終えたのを確認してから僕はまた続ける。
「次に打撃任務部隊はFクラスの回復試験の会場としている四階空き教室の守備、そして屋上への階段封鎖を敵が行った場合の逆包囲、余裕があれば敵拠点の一時的制圧など本作戦の要となり総勢25名です。指揮は僭越ながら私が取らせていただき、副将には姫路さん、木下君両名に就いて頂きます。」
「呼ばれた者はワシの所にくるのじゃ、近藤」
どこからあんなに大きな声が出ているのか、僕も少しは稽古を付けて貰おうかな。
「こんなことを聞くのも引けるんですけど吉井君はこっちじゃないんですよね?」
「美波さんとも別なんですから五分五分ですよ?」
「はぅぅ……」
あなた方は本当にとても分かりやすいですよね、そしてお願いですからお弁当は人体に害のないもので作ってくださいね?
仮面の下でそんなことを考えながら、頬に紅のさした彼女を見送る。
「妃宮よ、こっちは終わったぞい。」
秀吉君に頷き再び続ける。
「最後に機動部隊は高い運動能力をお持ちの方々を集め、ヒットアンドアウェイの要領で相手の注意を屋上以外にも向けさせるのが主任務です。総勢10名で、吉井君を隊長として動いてください。」
「残りのみんなはこっちにきて。」
「「ダァーリーン!!」」
「そのネタはもうヤメて!!!」
何しやがったんだろうか、あのバカは……
「割り振りに関しては私と代表殿で考えは致しましたが、ご不満が御座いましたらどうぞご遠慮なくお願いします。」
「「妃宮さんの御意のままに!!」」
「「文句があるならまず俺のところに来いや!!」」
二つ目の発言はどういう意味なのですか?ホントニ日本語ッテムズカシイデスネ。
あぁ頭が割れるように痛い……
「今から各軍に分かれてさらにそれぞれのトップから作戦を聞いてください。なお本作戦は次の対Aクラス戦の練習です、ムッツリーニ君手製の電子機器の扱いも馴れてください。いいですね気を抜かないようにお願いします。」
全体ブリーフィングの最後に僕はこう言って締めたのだった
「「了解!!」」
「ただの説明なのに、何かカッケェ!!」
「すごい本格的だよな、機動部隊とかさ!」
「応よ、あとは本陣守備隊を何かカッコいい名前に変えてほしいいところだな。」
代表殿の言ったとおり、若干聞きなれない軍事用語に盛り上がりあがっている。そのうちSTFとかMFとかって呼ぶことになりそうだな。
試召戦争というなのバカ騒ぎに燃え上がる級友たちを後目に、僕はクラスの熱気から一歩引いている自分について考えていた。
そのバカ騒ぎの扇動に自分も携わっているのに、級友たちが見せるような高揚感だとかを全く持って感じていないければ、作戦の正否に神経を尖らせているわけでもない。
ただ僕は彼らとの間に一体感など持っていなければ、例え勝とうが負けようが本当はどうだっていいんだって本気で思っている自分。
やはり僕はどこまでいっても人間嫌いで、人間嫌いだなんて考えてしまうほどに他人を見下してもいるのだろう。
そんな自分に苛ついている自分を発見した僕はどうすればいいのだろうか。
代表に参謀を頼まれたとき、僕は震えが止まらなかった。
今改めて考えてみれば、あそこまで心がかき乱されたのは、全くの他人だった者からの優しさに触れたから
というのも確かにあったかもしれない。
屋上、過去。
その二つのキーワードだけで、僕の心は砂上の楼閣の如く、たやすく崩された。
思い出したくもない
それらは自らの無力さがどれほどなのか、それを眼前に叩きつけられるのと変わらない。
だからそんな中で思い乱れないよう、代表が僕に見せてくれた優しさに縋ろうと・・・・僕は必死だった。
発狂しないようにと、代表からの優しさを頼りに、自分の台風で時化始めた海のごとくの心を無理矢理に納得させて、自分の意志を自らで制御するために、僕はそれを一瞬だけ受け入れた。
でも、そのすがりついたものも、すっかり放り出している。
後生大事に掴んでなんかいれない。
本当は、それが絆だとかと呼ばれるものに発展していくのかもしれない。
だけど、僕には到底信用できるものではない。
微笑みという仮面で、生命感の乏しい痩せこけた素顔を隠している、そんな僕にとって、狂わないようにしてくれたその優しさに報いるためには、Aへの勝利という明確な物事ぐらいしか返せない。
だから、この学校公認のお遊びで代表たちに勝利を手繰り寄せる力となるべきだ。
少しはやる気は出ただろうか、分からない。
級友(本当はそう呼んでいいのかも分からないが)たちの下へ壇上から降りて近づく、まだ自分の考えに酔いしれている訳にはいかない。参謀として、皆さんに作戦を伝達しろと言う指示はまだ完遂していない。
自分の指揮下に入る面々のもとに僕は近寄ると、一斉に僕に注目がくる。
あの頃の僕への視線と比べれば、そんなものちくりとも感じはしない。
「皆さん、私たちは・・・・」
僕は本当に彼らと打ち解けることなんて、あるのだろうか。
僕は彼らに指示をてきぱきと出すのであった。
___9;00 BクラスVS Fクラス、試召戦争開戦___
___9:07 渡り廊下 打撃任務部隊α(アルファ)隊_____
「姫路副官、妃宮司令官から打電。β(ブラボー)隊は戦闘開始、奮戦を期待す。以上です。」
「わかりました……ですけどその副官とか司令官っていうのは何なのでしょう…」
「いえ、やはりここは呼び方も徹底的にすべきかと思いまして。」
打電というのは土屋君の作ったモールス信号を使った通信装置での通信のことで、試召戦争において携帯やスマートフォンを使ってはならないという制約から逃げるためのものです。
「分かりました、では司令官に打電の返信。両方の部隊の健闘を祈る。以上です」
「イエッサー」
本当にこのクラスのみなさんは面白い方が多いです。
Bクラスの方達が新校舎側の階段からこちらに向かって走ってきた。全員で8人ぐらいでしょうか。
「布施先生、承認をお願いします。」
「はい、承認します。」
布施先生、ということは化学ですね。
「「召喚!!」」
「「召喚!!」」
司令官さんの作戦説明通り、一対一以上になるよう皆さんには足止めして貰ってから私が叩いていて確実にしとめていく。
「案外多いぞ、お前は本陣に伝令しに行け!」
一人がこちらではなくBクラスに戻っていかれるのは少し不味いかもしれないけれど有効な手が打てそうにありません。
「皆さん、司令官さんの作戦に従いましょう!」
「「応っ!」」
「まずこちらは本陣は旧校舎の屋上に設定していますし、回復試験を受けるための教室は四階の空き教室に確保しています。そのためおそらくBクラスは空き教室と屋上への階段との間を封鎖することを第一作戦とするものと思われます。ですからまずはこの封鎖作戦を挫き、その程度の作戦は通用しないということを示します。」
それにしてもどうしてあんなに緊張もせず、堂々と出来るのでしょう。
吉井君がカッコいいと言っていたから私も取り入れたいのですが……
(いけない、今は集中しないと!)
新校舎側は既にBクラスが占有していると考えられため、渡り廊下という開けた地形で相手の部隊を包囲して一人ずつきっちりしとめる。
そのトドメをさすのが私の役割です。
「姫路さん早くしてください!!」
Fクラスの皆さんの悲痛な助けを求める声が……
「姫路瑞希、行きます!」
「「姫路瑞希 化学 452点」」
得点が表示される前に二人分の召還獣を私の召還獣が薙払い、一瞬にして戦死させる。
「「嘘だろ!?」」
あっと言う間についてしまった勝負に唖然としているお二方の肩を西村先生がぽんぽんと叩き、いつもの台詞を続ける。
「戦死者は補習だよな」
「待ってくださいよ!そんなのイヤです!!」
「そうですよ西村先生、もう少し待ってください。」
その言葉にどうしたのかと首を傾げる西村先生と、地獄に降りてきた蜘蛛の糸を見つけたような目をしたBクラスの方々。
知っていますか?
蜘蛛の糸の結末を。
「ここに居る方全員連れていって欲しいので。」
西村先生に呼びかけながらさらに一人の召還獣をばっさりと切り捨てていく。
「「まさかの死刑宣告!?」」
今度はBの方々から悲愴感たっぷりの叫びが廊下に響く。
大悪人カンダタは結局再び地獄に落ちていくのです。
そうですよ、残っていらっしゃるBの四人も補習室に行っていただかないといけないんです。だってこのままじゃ吉井君の心は千早さんの一人のものに成ってしまいます!そのためにも
「私は絶対に勝たないといけないんです!!」
「「ぎゃあぁあ!!!」」
断末魔をあげたのはBクラスの方が二人とFクラスの仲間が三人。
「俺はこのことを報告する、おまえ達の犠牲無駄にはしないからな!!」
何とかこちらの三人を切り伏せて逃亡を開始するBクラスの二人。
「待て!先生俺はアイツ等に勝負を挑みます!!」
あの二人、本当に大丈夫なのでしょうか、あとあとすごく恨まれると思いますし……
「敵前逃亡は戦死扱いだからな?」
西村先生に行く手を遮られ、にっこりと微笑みながら言われた余りにも脅迫めいた言葉にこちらに戻ってきて土下座をし始める二人。
「副官どういたしますか?」
「私に任せてください。やあぁ!」
「「DEAD DEAD 」」
「「そんなあぁ!!」」
「ごめんなさい、助けたいのは山々なのですがそちらの代表はそれを利用して作戦を立てると思うんです。だから私はあなた達を切らないといけないんです。ですから恨むなら根本君を恨んでください。」
「「チクショオ!根本のクソ野郎があぁぁ!!」」
千早さんに頼まれたとおりに言ったのですがこれは何か理由があるのでしょうか?
「姫路さすがだな、あっと言う間に10人も収穫だ。おまえが補習室に来たら歓迎してやるよ。おい、おまえら逃げたらどうなるか分かってんだろうな?」
「「「はいっ!!」」」
お縄についてしまった皆さんが鈴なりに連れて行かれるのを見送る私たち渡り廊下側の部隊。
「副官、追撃しますか?」
「いいえ、私たちの役割は今はここの死守です。勝手な判断は控えましょう。それから司令官と坂本君に打電、戦死味方三名敵七名。それから頼まれていた台詞を言いましたが何か意味があるのか。以上でお願いします。」
「ラジャー!」
千早さん、あなたに負けないほど活躍して見せますからね。
吉井君見ていてください、吉井君が私のために頑張ってくれるように私も頑張ります!
「あの、先生はどうしましょう?」
そうでした、布施先生が置いてきぼりにしてしまいました。
「次の部隊の付き添いの先生が来られるまで私たちの監督をお願いしても良いですか?」
「勿論ですよ。」
Bクラスは後40人ぐらい、私たちで全滅させちゃうんですから。
そして、あの手紙を吉井君に渡すんです
「皆さん、やりますよ!」
「姫路さんが燃えてる……」
吉井君のためにも絶対に負けません
その手紙を自分と吉井君以外が見る可能性があるだなんて、私はこの時考えても見ませんでした。
___Cクラス 9:45__________
「私たちCクラスはこれよりBクラスとの同盟規約の下にBF戦役に参戦することを宣言します。私たちはまずBクラスの支援として、Fのチョロチョロ這い回ってるドブネズミどもの駆除を作戦目的とするわ。AからD班までは手分けして新校舎の一階の完全制圧、新旧の二階を一時的な制圧まで行いなさい、EとF班は手分けして情報収集をして。私たちが参戦するのだから絶対に勝ってもらうわよ!!」
「「応っ!!」」
「千早さん、勝負はまだまだ始まったばっかりよ……」
震える手を押さえつけながら私はクラスメイトたちに指示を飛ばしたのだった。
Cクラス参戦
___10:12 旧校舎二階_________
「それにしても妃宮よ、やはりお主の武器は少々チート過ぎはせんかの?」
僕らの目の前には、滑らかな動きで敵さんにショットガンをぶっ放しているちっちゃな僕(もちろん召還獣)が居た。
「嘘だろ……六人掛かりなのにもう三人も戦死だなんて……」
「引けっ、引けって。俺たちには無理だ、撤退するぞ!!」
そして戦闘終了。
逃げていく彼らは、今回は戦略的撤退として判定されたようだ。
殺る気はないけど、これもクラスのため、代表の為になるだろ。
「うむ、敵ながら同情を禁じ得ないのぉ」
撤退判定が出たのはもしかしたら対戦相手が僕だからなのかもしれないな。
僕の右隣には男装のままでゴホン、隠しきれない可愛らしさがチャーミングポイントの秀吉君と
「妃宮さん、召還フィールドはこのまま展開しておきますよね?」
「お願いします、高橋先生。」
学年主任であり、全校男子生徒諸君垂涎の的である高橋先生が左隣にいた。
さらに銀髪の僕、もうこれでもかと言うほど目立つ組み合わせです。
この案は代表殿からでたのですが……
やはり女としてしか見られているんですよね、僕は…(泣)
「妃宮さんは入ったばかりとは思えないほど操作が上手いですね。コツを掴むのがこんなにも早いとは天才肌なのでしょうか、もしかしたら教師陣とも張り合えるのではないですか?」
「どうでしょうか、私は凝り性でして……前回の試召戦争で思い通りに動かせなかったときにはゆっくり覚えようと思ったのですが、腕輪の効果がこれでしたので何回も頭の中でシュミレートしてみたんです。」
「なるほどの、召還獣の操作は操縦者の意志力に寄るものじゃし、そのお陰なのかもしれないの。」
本陣から届いた作戦内容は次のようなものだった。
「高橋女史と秀吉を連れてMFの補助に入れ、その間旧校舎四階の制圧維持は姫路に任せよ。MFの救出は必ずしも必要とはしない。」
MFは言わずもがなで機動部隊のことを指す。
さっきまでMFは新校舎の階段付近や一階の職員室付近に潜んでおり、先生を呼びに来たBクラスの連中を各個撃破していたのだが、9:45にCクラスがBクラスの同盟クラスとしてFクラスに宣戦布告。
Cクラス主導の新校舎の二階及び一階の制圧作戦を開始され、「ネズミ取り」という的を的確に射ている作戦名のオペレーションが開始しされたために、瞬く間にMFのメンバー五人が補習室送りになったらしい。
これは少し前に本陣と空き教室に打電された内容からようやく分かったことで、その時一気に半数がやられたことに若干士気が落ち掛けた。
「いたぞ!妃宮だ。すぐに二人の代表の所に伝令に行け!」
「「了解!」」
哨戒中のあの部隊は恐らくCクラスのものだろう。
「「召喚!!」」
「仕方ありません、西村先生によろしくとお伝えください。」
「勝負始まってもいないのにそんなこと言わないでください!」
敵である僕に敬語を使うほどに取り乱さなくともいいじゃないですか。
半ばやけで突っ込んでくる彼らの召喚獣に多数の風穴をプレゼントしてさしあげる。
「戦死者は補習!!」
「「いやぁ!!」」
「っっつ、撤退する!」
「はい!」
あっと言う間に戦闘終了。こんな感じがずっと続いています。
ちなみに銃種はたぶんレミトンM1100、どうも僕の装備はアメリカ製の銃器で統一されているようだ。M60とは開発された時期がだいぶズレるがそこのところはお愛想というものだろう。
機関銃は広範囲の戦闘や防衛戦に役立つのだが、ショットガンの近接戦闘においての能力と比べるとやはり不利不向きがあることを知らされる。
ちなみに僕の召喚獣がショットガンを装備しているのは腕輪の効果だ。
技名称は「烈火」、普段装備している機関銃が一端使えなくなる代わりにショットガンを時間、弾数どちらも無制限に撃ちまくることができるという近接戦特化型の戦闘スタイルに変化すると言うものだ。
総合科目という点数インフレ状態でのショットガンの威力は、敵の召喚獣を貫通して二体目の召喚獣にまで中るほどの高出力高火力で、一人でも二十人単位で包囲されない限りやられることはほぼないだろう。
「それにしても、何故私はこのような現代的な装備を持っているのでしょうか。」
横を歩く高橋先生に問いかけると少し何事かを思いだし、先生はそのことを懐かしむような口調で答えてくれた。
「そうですね、妃宮さんは編入という全くのノーデータ状態で受けた振り分け試験を途中退席したために零点になり、Fクラスに混ぜられたという珍しいケースです。召喚獣の装備は、おそらく学園長が罪滅ぼしのつもりにでもしたのではないでしょうか。三年前に似たようなケースが有りましたがその時、彼の召喚獣の装備は大砲でしたから。」
「大砲ですか……」
どういう風にそんな遠距離からでも大量破壊ができる兵器を試召戦争で使うんだろう。
そんなものが近距離で戦でも有効で、クールタイムが零だとかだったらもはやその人一人で戦争集結してしまいそうな上に、その力に対抗する方法が思いつかない。
「とは言え砲弾がフィールド内に存在できる数が制限されていましたので取り囲まれると無防備になってしまうという弱点もあったのですが。ちなみに腕輪の効果は砲弾を通常弾頭から弾種を榴弾や誘導ミサイルに変えるみたいな能力だったかと記憶していますね。」
何故大砲から誘導ミサイルが発射されるのですか……
「……妃宮よ、チートなぞ言って済まぬ。」
秀吉君の申し訳なさそうな表情で謝ってくるのだが、今の話はしょうがないことだと思う。
「気にしたら負けなんですよ、きっと。」
大砲が試召戦争に投入されていたなんて、当時の学園でのクラス間の軍事バランスがとんでもなく傾いていたのでは無いだろうか。
聖書の世界のハルマゲドンだとか北欧神話のラグナロクでも起こすわけでもあるまい。
「因みに彼はバイト先の御夫婦がご病気になられて、お店が開けられなくなったのを助けるために編入試験を受けなかったという剛毅な生徒でしたね。」
ってそいつもFクラスかよ!!
講義
数学
自然数a,b,cがa≦b≦c かつ ac≧a+b+c+2を満たすとき
a+c≧7が成り立つことを示せ。また等号が成り立つとき、a,b,c の値を求めよ。
まず最終的に求める式にbが入っていないことから、bの消去を第一に考えましょう。
a≦b≦c ー①
ac≧a+b+c+2 ー②
としておきましょう。
まず②の式を整理します。
acーa-c≧b+2
(a-1)(cー1)≧b+3
ここでa=1ならば矛盾しますのでa≧2
すなわち、2≦a≦b≦c
ここでa-1=A bー1=B cー1=Cと置きますと
ABCはそれぞれ自然数で、やはりA≦B≦C AC≧B+4
ならばA+C≧5を示せばよいことになります。
ここで相加相乗平均の公式より
A+C≧2(AC)^1/2≧2(B+4)^1/2≧2(5)^1/2 4
A+Cは自然数だからA+C≧5 つまりa+c≧7
これで問題文のはじめの問いかけには答えることが出来ました。
次に等号が成立するときA+C=5
(A,C)(1,4)(2,3)
(a,c)(2,5)(3,4)
(a,c)=(2,5)とすると②の式から
ac=10≧a+b+c+2=9+b≧11となり不適。
(a,c)=(3,4)
ac=12≧a+b+c+2=9+b
となり、①の条件よりb=3で確定します。
よって答えは(a,b,c)=(3,3,4)です。
今回の問題は式変形をした結果、単なる相加相乗平均を利用する問題へと行き着くことになりますが、一見単純には思えず、解りにくい式から始まるというものを扱いました。
私の経験上、1以上などという風に問題で提示された場合は1に着目しなければなりませんが、自然数や実数と言った条件が提示された場合は、もしかしたら1は含まないだとか正の数に着目しなければならないだとかを覆い隠すための装飾である可能性を知っていた方が楽に問題を解き進めることが出来ますよ。
後書き
何故か根本は独裁者色がとてつもなく濃厚に…
こうなったらバルバロッサを使おうかしら
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