アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
59話
掃除も終わり、とりあえずやることも無くなった俺はユウの見舞いにでも行くことにした。大した傷ではないだろうが、それでも一応は行っておくべきだろう。
「ユウ、いるか?」
「マキナさん、帰ってきたんですか。すみませんね、こんなお見苦しい姿で」
そう言って、病人用の服を着ているユウはベッドから起き上がって俺に頭を下げた。いや、訪ねてきたのは俺だから頭を下げられてもな……
「いや気にするな、ところで色々と無茶をやらかしたらしいじゃないか。
神機の不調を押して出撃、休養中もリンドウの神機を使ってオウガテイルを撃退、普通なら最初ので死んでるぞ?」
「あはは……まさか壊れるとは思ってもいませんでしたよ。そういうマキナさんだって二人も子供を引き取ったんでしょ?俺とは違う方向ですけど、あなたも十分無茶やってますよ」
「そうか?」
「そうですよ」
お互いそんな益体のない話をしていると、ふとユウの左腕の違和感に気付いた。極々僅かな違和感で何が違うと言われても分からんが、何かが違うとは分かる。
そんな俺の視線を察したのか、ユウは少しバツの悪そうな表情浮かべた。
「やっぱりバレましたか……リンドウさんの神機を使ってからこんな事が出来るようになったんですよ」
ユウは左腕を俺に晒すように見せつけると、彼はその腕を何かを考えるようにじっと見た。すると、彼の左目の瞳が金色になると同時に左腕が黒く刺々しい人ならざる腕へと変貌した。
アラガミ化か……しかも自力で制御している。ユウ、お前は本当に人間か?
「ふぅ……といってもここまでが限度なんですけどね。あ、みんなには秘密ですよ?」
「普通ならサカキにでも連絡するが、お前なら心配する必要もないだろ?」
「酷い言われようですね……」
「そういうなそれだけお前なら死なないって信じてるって事だ」
「そう言われると何も言えませんよ。ところで石の件は?」
「ん?ああ、ここならあるらしいぞ……多分」
俺はいつぞやの鉱山の所在地を書き留めた地図を渡す。
「ありがとうございます。で、多分ってなんですか?」
「いや、色々あってそこで厄介なアラガミとやりあってな。少なからず鉱山自体に影響を与える規模での戦闘があったから、探すのが少々面倒になっているかもしれないからな」
「へー……マキナさん達がそこまでやらなきゃいけないアラガミなら俺も戦って見たかったですけど、残念ですね」
「いや、倒し切れてはいない。ある程度のダメージを与えてから俺達は逃げたからな」
「それはそれは……楽しみが増えましたね」
もうやだ、コイツ。バトルマニアも大概にしてくれよ……本当。
俺はユウの病室を後にし、エレベーターでエントランスに向かった。受付で俺達がここを離れている間にどの位この辺りのアラガミの種類に変化があったのかを確認しようと考えたからだ。
「あ、マキナさん、おかえりなさい」
「ん?ああ、カノンか……服が変わったな、似合ってるじゃないか」
カノンは以前の服と違い、スカートの年相応の女性らしい服装に変わっていた。
「はい!!あれから色々考えまして、立ち止まってても何も変わらないなって思いまして、その決意表明みたいなものです。
あっ、マキナさんの事が嫌いになったとかじゃ全然無いですからね?」
「そりゃ良かった。……なぁ、一つ頼んでいいか?」
「はい、なんですか?」
「ジルとレオ……ああ、俺の義理の子供なんだが出来れば時々話をしてやったりしてくれないか?」
「マキナさんの?」
「ああ、ここでは詳しく言えないが、色々あって少なからず人間不信状態なんだ。今すぐって訳じゃないが、いずれは人とも付き合っていかなきゃならない」
「ああ、それで私がそれの訓練的にって事ですか?」
「そうだ、俺と違って元が人間なだけに、俺とイザナミじゃどうしようもないところがあるんだ」
「うーん……その二人が私でいいなら、私は構いませんよ」
「そうか、悪いな」
「いえいえ、私もマキナさんには色々してもらいましたから、気になさらないでください。それに子供と遊ぶのは私も好きですから」
「ありがとう、カノン」
「どういたしまして。あっ、私はこの後任務があるんでこの辺りで……それとまたウチに遊びに来てくださいね?」
「ああ、近々寄らせてもらうよ」
ふむ、元気そうで何よりだ。いつぞやは結構凹んでいたし、少なからず心配していたからな……しかも、それが俺の責任ともなれば尚更、な。いや、全面的に俺が悪いという……いや、やめよう言い訳はよくない。
「浮気ですか、お父様?」
後ろからそう声を掛けられ、振り返るとそこには大きめのポンチョを着てアラガミの腕を隠したジルが立っていた。なるほど、それなら取り敢えずは隠せていられるな。
「あれを浮気に見えるなら眼科に行くことをお勧めするぞ、ジル」
「冗談ですよ、あの方が台場カノンさんですか?」
「ああ、そうだ」
「へー……いい人じゃないですか」
「だろ?」
「あのような女性に好意を寄せられるなんて男冥利につきますね」
「世間一般はそうだろうが、年齢やら立場的にも複雑過ぎる感覚だぞ?」
「ほう?」
「言うなれば、幼い頃の娘のお父さんのお嫁さんになる発言を、そのまま一定の年齢以降も言われるような感覚だ」
「……その例えを娘の私に聞かせてどうするつもりなんですか?」
「お前は相変わらずだな……」
「人はそうそう変わらないものなんですよ?」
「やかましい。で、何しに来たんだ?」
一応隠しているとはいえ、その腕を見られたりすると厄介な事になるだろうに。しかも、こんな人の多いところというのはよろしくない。
「いえ、たまには私も運動しなければなりませんからね。任務を受けようかと思いまして……あ、当然ですが身分証明書は博士から支給されています」
ジルはドヤ顔で自分の身分証明書を俺に見せつける。うわぁ……我が娘ながら殴りたくなる笑顔だな、おい。
それにしても仕事が早いなサカキ、一日の内に用意するってどういうことだ?
「と、言う訳で私の付き添いお願いしますよ?」
「ああ……そういうことか。別に構わんが、イザナミじゃダメなのか?」
「お母様は今ソーマさんに用事があると言って不在なのです」
……ああ、シオ関連か。
「レオも博士の検査で動けませんし、今現在私は暇なんですよ」
「ああ、さいで。じゃあ、適当に見繕うとしよう」
俺は受付に向かい受注可能な任務の一覧を見せてもらい、幾つか受けることにした。
「ヒバリ、この二つを同時に受けさせてもらうぞ?」
「構いませんが……えっとジルさんを連れてですか?」
「ああ、不安なのは分かるが、ジルは既に実戦経験があるし俺もいる。この任務でそこまでの危険な状況になることはないだろう」
「そうですね……マキナさんの実力を疑うわけではないんですが、万全を期すためにもう三人で行ってください」
「あと一人か……そうだな、アリサかコウタどちか一人はいけるか?」
「少々お待ち下さい……アリサさんは別の任務ですが、コウタさんが今現在任務はありませんね」
「じゃあコウタを頼む」
「はい、分かりました」
コウタならジルのアラガミの腕に関しても何も言うまいし、技術的にも大丈夫だろう。
さて、それでは娘の初の公式戦といこうか。
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