| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

アイングラッド編
SAO編
  《圏内事件》5

 
前書き
無意味に長くなったなあ…。 

 




キリトの飯奢るという文言に引かれたわけではないだろうが、俺的にはボス戦以外ではあまり会いたくない存在だった。

最強ギルドの一つ《血盟騎士団》リーダーにしてユニークスキル《神聖剣》の使い手、ヒースクリフ。
俺達を見つけるなり、ピクリと片方の眉を持ち上げ、寄ってきた。その顔には若干の戸惑いが見える。

アスナがびしいっと音がしそうな動作で敬礼し、急き込むように弁解した。

「突然のお呼び立て、申し訳ありません団長!このバ……いえ、この者達がどうしてもと言ってきかないものですから……」
「……待てコラ、俺は言ってねぇ」
「ふむ…珍しい組み合わせ…でもないのかな?久しいなレイ君」
「ども……」
「あれ、知り合いなんですか団長?」

当然の疑問をアスナが口にする。まあ、仕方ないか。血盟騎士団内部でも最古参の連中しか知らないようなマイナーな話題だ。キリトは知っているが。



「知り合いも何も……彼は血盟騎士団創設時のメンバーだ。もっとも2ヶ月ほどの極短い間だがね。ちなみに、初代フォワード隊長だ」
「そうだったの!?」
「……大昔の話だよ」
「どうせ今も紅っぽいんだから戻れよ」
「それはいい考えだ。歓迎しよう、レイ君」










その瞬間レイの纏う空気が一変した。『紅き死神』と呼ばれるあの、冷酷な空気に……







「たしか次に戻った時は、すきあらば圏外で団長殿の首をはねてOKという約束でしたね?それを承知なら喜んで戻りましょう」







「「………な!?」」
「……忘れてはない、ほんの冗談だよ。すまなかったね」
「……ふん」
「ところで……」



そこでヒースクリフは俺達3人を見回し、

「何故に君達は探偵装束なのかね?」
「気分だ」
「「…………」」
「……なるほど」
「わかるのかよ、今ので!?……まあ、それも後で話すさ。とりあえず行こうぜ」



そうしてアルゲートの迷宮区並に複雑な路地を歩いて行くと一軒のラーメン屋(的なNPCレストラン)が現れた。
キリトに導かれるままその店はやはり日本の伝統的な(?)ラーメン屋の内装だった。
4人掛けの机に(不本意ながらヒースクリフの隣に)座るとキリトが《アルゲートそば》なるものを注文し、曇ったコップで氷水をすする。

「なんだか……残念会みたくなってきたんだけど……」

キリトの右隣に(ごく自然に)座ったアスナが微妙な顔で言う。

「気のせい気のせい。それより、忙しい団長殿のためにさっそく本題に入ろうぜ」

昨夜の事件のあらましを、アスナが説明する間もヒースクリフの表情はほとんど変わらなかった。唯一、カインズの死の場面で眉をぴくりとさせたが。

「そんなわけで、ご面倒をおかけしますが、団長のお知恵を拝借できればと……」
「ふむ……では、まず2人の意見を聞こうじゃないか。君達は、今回の《圏内殺人》の手口をどう考えているのかな?」
「まあ、大まかには三通りだよな。1つは正当な圏内での決闘、2つ目は既知の手段を組み合わせによるシステム上の抜け道、3つ目は……スキルかアイテムによるアンチクリミナルコードの無効化……」

「……俺も大体同じだが、2つ目以外には賛同しかねる」
「3つ目の可能性は除外してよい」

その言葉にキリトとアスナは驚いた様子でヒースクリフを見る。

「……断言しますね、団長」
「2人とも考えてみろ。もし、お前達がこのゲームの開発者なら、そんものをつくるか?」
「そのとおり。このゲームは基本的にフェアネスを貫いている。そもそも、本来ならばそんなものでPKをしたところで大した意味を為さない」

「そうだな……まあ、たった一つあんたの《ユニークスキル》を除いては、な」

キリトが笑みとともに付け加えると、ヒースクリフは俺達に同種の笑みを返して来た。
まるで、「君達もだろう?」とでも言うように…。
少々驚いたが、俺はポーカーフェイスを作ることに成功し、キリトも何とか表情の維持は出来たようだ。

俺のアレはすでにオラトリオ・オーケストラの連中や何人かのプレイヤーに露見しているが、使用条件が半端なく悪く、使いこなすのは無理だと情報屋も無用な混乱を避けるために情報を規制している。

一方、キリトのアレはやつの執念で必死に隠しているものだ。俺も「相談が有るんだが……」のメッセージで聞かされた時には驚いたものだ。おそらく、それを知っているのはアインクラッド中で俺だけだろうと思っていたのだが……

(他人のステータスは見えないし、キリトはヒースクリフに間違っても見せないだろうから、気のせいか……いや、もしかしたら可能なのか)

謎のニヤニヤ笑いの応酬を続ける俺達とヒースクリフを順に見やって、アスナがため息混じりに言葉を挟んだ。

「どっちにせよ、今の段階で3つ目の可能性を云々するのは不毛だわ。確認のしようがないもの。レイ君、何故仮説その1に賛同できないのかしら?」
「簡単だ。あの重装備の戦士に決してレア物でない短槍で装備を貫通させることは出来ない」
「それがメインアームの人ならどうなの?」
「その可能性は既に検証した。オラトリオの短槍スキルをマスターしているやつに最前線で一番高級な壁戦士用のプレートメイルを単槍使いの平均交戦距離から貫かせようとしたら無理だった。」

「いつの間に…」
「昨日、ふと思いついてな。で、どうしたものかと考えたんだが、ある距離からなら高確率で貫けることが判明した。」

そこで一度言葉を切り、お冷やを飲む。キリトとアスナは興味津々といった様子だが、ヒースクリフは持論があるようでやや思慮にふける表情だ。

「それは武器の鋒が鎧に触れる位置だ。ソードスキルを使った場合だが。」
「それはおかしくないか?普通は勢いがついてからの方が威力は強いだろ?」

「『貫く』と『刺す』に関しては例外なんだ。そうだな……粘土を平良で切断するのと先が尖ったもので貫通させるのにどれぐらいの労力差があるか考えればわかりやすい」
「ソードスキルのシステムアシストは基本的に常に一定のスピード……そうか、なるほどその可能性には思い当たらなかった。さすがだね、レイ君」

「団長……すみませんが説明して頂けないでしょうか?」
「よかろう。……しかし、料理が出てくるのが遅いなこの店は」
「俺の知る限り、あのマスターがアインクラッドで一番やる気のないNPCだね。それを含めて楽しめよ」

キリトは卓上の水差しから、ヒースクリフの前のコップに氷水を注ぐ。それを少し飲んでから説明を始める。

「いいかね?ソードスキルのシステムアシストが影響するのはプレイヤーの身体のみで速度、強度共にほぼ一定だ。武器は握られているので一緒に動くだけで、さっきのレイ君の例えを借りると粘土をどうにかするには作用を及ぼすものに力……この場合はシステムアシストを加えればよい。ただし、先程の強度は『刺突』行動を行うときは例外なのだ」

キリトは苦悶の表情(おそらく話が難しいのだろう)アスナは驚いている。自分で使っていても判らなかったのだろう。

「『刺突』行動時のみ、強度は開始点がもっとも強い。つまり、レイ君の実験では強度最高の時に装甲を貫通したということであろう」
「そのとおり、随分と遠回りしたが相手に近づいてからソードスキルを起こすなんて馬鹿はいないからな」
「付け加えるなら、ウィナー表示が何処にもなかったのなら、それは決闘ではないと考えてよい」

いっそう濃い影が落ちる店内

「……選択肢間違ってない?このお店……」

呟いたアスナが飲み干したコップに氷水をなみなみ満たすキリト。微妙な顔でお礼を言うアスナ。

「じゃあ残るは2つ目のやつだけだね。《システム上の抜け道》……私ね、どうしても引っかかるのよ」

「《貫通継続ダメージ》」

テーブルの上に必要もないのに置かれている爪楊枝を一本抜き、アスナはそれでしゅっと空気を貫いた。

「あの槍は公開処刑の演出だけじゃなく、圏内PKを実現するためにどうしても必要だった……そう思えるのよ」
「うん。それは俺も感じる。……でも、それはさっき実験したじゃないか。たとえ圏外で貫通武器を刺しても圏内に移動すればダメージは止まる」
「歩いて移動した場合は、ねなら……《回廊結晶》はどうなの?」
「止まるとも」

再び、ヒースクリフが即答した。

「圏内に……つまり町のなかに入った瞬間に《コード》は例外なく適応される。圏内は街の三次元空間上に設定されているために、仮に街の上空にテレポートしてもHPは1ドットたりとも減らない」

その後、キリトがクリティカルヒット時のHP減少ラグによる偽装説を唱えたが、それもステータス的に不可能ということで撃沈した。

「……おまち」

そこへやる気皆無な声と共に店主がどんぶりを4つ持ってきた。
アスナが他の層のNPCと比べて安っぽい感じに唖然としていたが、まあいいだろう。

「……なんなの、この料理?ラーメン?」
「に、似た何か」
「……いや……どっちかっていうとそうめんか?」
「…………」

しばしズルズルという音が侘しく店内に響いた。

「で、団長殿は、何か閃いたことはあるかい?」

スープまできっちり飲み干し、ドンブリを置いたヒースクリフは底の漢字っぽい模様を凝視しながら答えた。

「……これはラーメンではない。断じて違う」
「うん、俺もそう思う」

待て。それはどうでも良いだろうが。

「では、この偽ラーメンの味の分だけ答えよう」

顔を上げ、ワリバシを置く。

「現時点の材料だけで《何が起きたのか》を断定することは出来ない。だが、これだけは言える。いいかね……この事件に関して絶対確実と言えるのは、君らがその目で見、その耳で聞いた一時情報だけだ。つまり……アインクラッドで直接見聞きするものはすべて、コードに置換可能なデジタルデータで、そこに幻聴幻覚が入り込む余地はないということだよ」

己の脳がダイレクトに受け取った情報のみを信じろ、ということだろう。
ヒースクリフが立ち去り俺達は次の方針を店から出たところで話し合っていた。

「……お前、さっきの、意味わかった?」

わかってないのはお前だけだ。

「……うん」

ほらな?

「アレだわ。つまり《醤油抜きの東京風醤油ラーメン》。だからあんな侘しい味なんだわ。……決めた。私何時か醤油を作って見せるわ。そうしなきゃこの不満感は永遠に消えない気がするもの」

「……そう、頑張って……って」

違うだろ!!と2人同時に突っ込む。それにしても何だ?血盟騎士団はいつの間にラーメン評論家が出現したんだ?

「え?何、キリト君、レイ君?」

話を聞いていなかったわけないので本当に気になるんだろう。その気持ちはよーくわかる。




だが、まあ。それはそれとして。






話し合う2人をじっと見つめる。昔、1層のボスを倒した時から見守ってきた2人を……





少年は変わった。自らの罪を背負うために、1人で生きて行くために。

少女は変わった。憧れの少年の隣に立つために、自分らしく生きて行くために。

見守る少年は変わった。目に付くすべての人達を守るため、この気持ちを起こさせてくれた友人達を現実世界に帰すために。







いつの間にかお互いを名前で呼びあっている2人を見て見守る少年は思うのだった。

かつて、ふと思ったことは意外にも外れていないのではないかと……。










 
 

 
後書き
《圏内事件》はやっぱり7まで行きそうだなあ…。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧