剣の丘に花は咲く
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第四章 誓約の水精霊
第三話 セーラー服
前書き
シエスタ 「『紙の理性』……凄い効果です……でもっ! それならっ!」
士郎 「むっ! 来るかっ!?」
シエスタ 「『奔放な少女』に『セーラー服』を装備ッ! さらにフィールドカード『密室』を使用しますっ!」
士郎 「『セーラー服』? 『密室』? 何だ……嫌な予感が」
シエスタ 「これでわたしのターンは終了です」
『紙の理性』の効果に慄くシエスタだが、その目は未だ諦めの色は見えなかった!
自身を持って繰り出されたカード、『セーラー服』そしてフィールドカード『密室』!
一体どんな力なのかっ?! 不吉な予感を感じながらも突き進む士郎っ!!
湧き上がる欲望っ! 押さえ込めれるか士郎ッ!!
それでは本編どうぞ。
「ふむ、やはり似合うな」
太陽照りつくアウストリの広場で、士郎は目に映る光景に深く頷き。そして、身体に渦巻く熱を吐き出すかのように息を吐く。
ふぅ……
胸が熱い……顔が、緩む……。
胸に感じるのは郷愁か? それとも感傷? それとも……。
自分でも胸に感じるこの熱い思いが何か分からないが……悪くはない。
「あ、あのシロウさん? この服軍服なんですよね? わたしなんかが着ても、変じゃないでしょうか?」
「変? いや、とても可愛いよ」
「かっ、可愛いですか」
「ああ、確かにその服は水兵の服だがな、俺の国では、シエスタぐらいの年頃の子達が、そんな服を着て学校に通っていたんだ」
懐かしげに目を細めて見つめてくる士郎の様子に、シエスタは、はにかんだ笑みを浮かべる。
「それじゃあ、シロウさんもこの服を着て学校に通っていたんですか?」
「ぶはっ……。あ~、学校には通ってはいたが、さすがにその服じゃなかったな、その服は女性が着るものだったんだ」
シエスタの疑問に、思わず吹き出してしまった士郎だが、頬を指で掻きながら説明をする。
「ふふふ、確かにこんな短いスカートは、男性の人が着ても似合いませんね」
そう言ってシエスタはスカートの裾を掴むと、スカートの裾から眩しいほど白いシエスタの太ももが覗いた。思わず視線がシエスタの太ももになぞってしまうと、それに気付いたシエスタが、ゆっくりとスカートの裾を引き上げていく。
「っごく」
「ふっ……は……ぁ……ぅ……ん」
この制服もどきは、士郎が手ずから仕立て直した一品であった。
水兵の服は、白地の長袖に黒い袖の折り返しがついており、襟とスカーフは濃い紺色と、特に手を加えなくともそのままで十分制服だと言い切れる物であり、一昔の古風なセーラー服にそっくりであった。しかも、裾に白い三本線が走っていたことから、それがまるで学年を示すかのように見え、完成度も高かった。よって、士郎はそれをシエスタに合うように丈を合わせただけで済んだ。
しかし、水兵服の上はセーラー服にそっくりであったが、下はズボンであったことから、スカートは士郎が自作したものであった。
スカートは古風なセーラー服似の水兵服に合わせ、随分と長めに作り上げていた……その結果……
軽く股を開き、焦らすようにゆっくりとスカートを引き上げるシエスタの瞳には、ねっとりとした熱が見えた。
士郎の喉が鳴り、シエスタの息が乱れる……シエスタの頬に赤みが差すと、それに合わせるかのように白い太ももが淡く赤く色付く。裾が引き上げられたことにより、その淡く赤く色付いた、カモシカのような太ももの姿が段々と姿を現す。
スカートの丈が長いことからか、裾が上がっていく感覚が長く感じ、まるで焦らすかのようだ。
明るい陽光の下、学生服を着た少女が、男の前でスカートをたくし上げるという淫靡な光景が広がっていた。
息を荒げるシエスタに合わせるかのように、士郎の呼吸も激しくなっていく。
シエスタの黒い瞳が淫猥にドロリと輝き、肌にじわりと汗が浮かぶ。
裾はゆっくりと、しかし確実に上がっていく。
裾が足の付け根に近づいていき……
士郎の手がシエスタに迫り……
スカートを……引き下げた。
「……え」
シエスタが戸惑いの声を上げると、腰が引けた奇妙な姿勢で歩いてくる二人組が茂みから現れた。
お馴染みのギーシュと、メタボリックな体型の少年、マリコルヌであった。二人は鼻血をだらだらと流しながら、腰を引いた姿でよたよたと近寄って来る。
……どうやら二人は物陰で覗いていたらしい。
「し、シロウ、あ、あんた何やってんすか?」
「そ、そそそそそそんな、す、すす素晴っしい服を女の子に着せてナニをやってるんだねぇ?」
二人は鼻血をだらだらと流しながら、未だ腰を引いた姿でシエスタのスカートを両手で掴んでいる士郎を指差す。
「けし、けしからん! ええ全くもってけしからんっ! し、しかし、な、何だねその服は……い、一見じ、地味に見えるが、た、たくし上げられたスカートから覗く足のエロさ……い、異常に興奮するじゃないかッ!!!」
いきなりの貴族の登場と、自分が今までしていた行動を思い出したシエスタは、一気に顔を真っ赤にさせると、両手で真っ赤になった顔を隠し、スカートを翻しながらその場から逃げていく。
ひらひらと舞うように揺れるスカートの裾と、そこから除く真っ白い足。そして首まで真っ赤にさせた美少女が恥ずかしげに顔を隠し走り去って行くシエスタ。
「か、かわゆい……」その姿を緩んだ顔で見送るギーシュ。
「あの太もも……しゃぶりつきたい……」鼻血と共に涎を垂れ流すマリコルヌ。
「あ~……いつから見てたお前たち」
士郎がだらだらと汗を流しながら聞くと、二人はぐるりとシエスタの後ろ姿を追いかけていた顔を士郎の方へと向けると、涎と鼻血、汗と後他に色々な汁が混ざった身体で士郎に迫った。
「ききききききみは一体ナニをやっているんですかッ!! なんちゅうことを真昼間からやってんすかああァァァッ!!」
「し死死死信じられええんんッ!! なんとううううらあやましいいィィことをッ!!」
べちょべちょの体で迫ってくる二人を、忌避するように指先一つで押さえ込むと、眉間に皺を寄せて諭すように話す。
「落ち着け。ナニもやってはいない。だからそんな顔で迫――」
「落ち着いていられるかっちゅうんだよッ!」
「なんちゅうらやましことやっとんじゃあっ!!」
興奮が収まらない様子の二人に、呆れたような笑みを向けると、それぞれに突きつけていた指を曲げると、勢い良く放ち……二人の額を打ち抜いた。
「くわっ!!」
「のふッ!!」
バチンではなくバガン! という音が鳴るほどの勢いで額に指を叩き付けられた二人は、それぞれ奇妙な悲鳴を上げると、両手で額を押さえしゃがみ込んでしまう。
「ったく、少しは落ち着け」
しゃがみ込む二人を、士郎が見下ろしていると、ふらふらと立ち上がったギーシュが、涙で少し潤んだ目を士郎に向ける。
「い、いや済まないシロウ。ちょ、ちょっと興奮じてしま、あ」
ギーシュの鼻から新たな鼻血がたらりと流れる。
「ちょっと強すぎたか? すまなかったな」
苦笑しながら士郎がギーシュに謝罪すると、ポケットからハンカチを取り出し差し出す。
それをギーシュは、首を振りながら受け取る。
「いやいや、これはシロウのせいじゃないよ。これは、さっき……の」
士郎の目が鋭くなり、睨みつけるようにギーシュを見下ろすと、ギーシュの言葉が小さくなっていく。
「それで?」
冷ややかな士郎の声に、だらだらと汗を流し始めたギーシュは、明後日の方角に顔を向ける。
「そ、それで、あ~……と……そっ……そうっ!! あ、あの可憐な装いをその、ね、プレゼントしたい人がいるんで、その……」
「ミス・モンモランシのことか?」
あっさりと言った士郎の言葉に、ギーシュの顔が固まる。
その様子にふっ、と笑みを浮かべた士郎は、ギーシュの肩にぽんっ、と手を置いた。
「あれは、水兵の服を俺が手直ししたものだ、欲しいのなら、ミス・モンモランシーに合うように縫い直して渡そうか?」
「え、い、いいのかい?」
「そんなに手間じゃないからな、そうだな、夕方には出来るだろうから、その頃に取りに来い」
ギーシュが戸惑いながらも嬉しげに言うと、士郎は肩を軽くすくめながら応える。
そして、ギーシュたちに背中を向けると、シエスタが逃げていった先に向かって歩き出した。
そんな士郎の背中を、ギーシュたちが見つめていると、唐突に士郎が振り向き、ギーシュに笑いかける。
「好きな子がいるなら、あまり他の女の子に声をかけないことだな」
軽く手を振りながら去って行く士郎の背中に、二人の怒声が響く。
「「お前が言うなあぁぁぁぁッ!!!!」」
その日の……夜。
艶やかな緑色の長髪を後ろでまとめたロングビルは、魔法学院の職員に用意された己の居室で、とあるポーションを調合していた。
理知的な顔に細っそりとしたフレームの眼鏡を掛け、微かに眉間に皺を寄せ、時折机に広げた古びた本を確認しながら何かを調合している。
ロングビルは焦っていた。最近士郎の周囲にいる女たちの士郎に対するアプローチが強くなっていくのに気付いたからだ。もちろんロングビルも、周囲に負けないよう、空いた時間に士郎に積極的に会いに行くなどしたが、結局タイミングが悪く会うことが出来なかった。
そしてつい数日前のことであった。士郎と会えない間に、士郎と他の女との仲が深まっていくの感じていたロングビルは、焦る心を紛らわせるため、部屋の掃除をしていた時のことであった。
自分がまだ、『土くれのフーケ』と言われた頃、どこかの貴族の屋敷から盗み出したものだと思われる古びた魔法書が出てきたのだった。
それを何気なく開いたロングビルの目に、とあるポーションの作り方が書かれていた。
そのポーションを使えば、士郎との関係を一気に進ませ、士郎の周りにいる女たちをぶっちぎることが出来ると分かっていたが、使うための踏ん切りがどうにもつかなかった。
何故ならば、ポーションを作るには、様々な高価な材料が必要だったが、それ以上に何より、そのポーションの効力が問題だったのだ。
だが、メイドのシエスタを始め、士郎の主であるルイズの士郎に対するアプローチが激しくなっていくのを見たロングビルは……ついに切れてしまった。
その結果……
「ふ……ふふふふふふ……シロウ、こっ、これを使えば……ふっ、ふふふふふふふふふふふふふ……」
二つの月が淡く照らし出された部屋の中、ロングビルの哄笑が……
――はははっはっはっははっははっはははっはははっはははっははっはははっはっはは――
響き渡る。
翌朝、教室の中は普段よりもざわついていた。
ざわざわと騒ぐ生徒たちの中心には、水兵服を着たとある女生徒の姿があった。
長い金色の巻き毛と鮮やかな青い瞳を輝かせている女生徒、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシである。
モンモランシーは上を水兵服をアレンジした服で、下にはシエスタが着ていたスカートよりも遥かに短い、膝上十五センチをはいていた。
水兵服から感じる新鮮な清楚さと、その下のスカートから感じるエロティシズムにより、モンモランシーに対し、教室中の男子生徒が視線を向け、さらには、女生徒の羨望と嫉妬が向けられた。
欲望、羨望、嫉妬、憧れ等様々な視線を浴びたモンモランシーは、得意そうに笑い、金色の巻き毛を一度手で払うと、自分の席に向かう。
ルイズはそんなモンモランシーの姿を、あんぐりと口を開けた顔で見つめていた。
そして、はっ、と目を瞬かせると、隣に立つ士郎を見上げると、そこには。
「ふむ、やはり、あの子ならスカートは短くて正解だったな」
「っ、やっぱりシロウが作ったのねあれ」
睨みつけながらそう言うと、ニヤリと笑った士郎がルイズを見下ろした。
「まあな、なかなかのものだろう、昨日、ギーシュに頼まれてな、予備の中からあの子に合うように仕立てたんだ」
「ギーシュに? あっ何だ、そう言うこと」
士郎の言葉に安心したような顔を見せるルイズの頭に手を置く士郎。
「ルイズの分ももうそろそろ出来るからな、もう少し待っていてくれ」
「んぅ、んふふ……待ってるね」
頬を染めながら、上目遣いで士郎を見上げるルイズは、幸せそうに士郎に笑いかけた。
そんな二人の周りの席に座る男子生徒たちは、机に倒れ伏した状態で口から砂糖を吐いて白目をむいていた…………。
モンモランシーが教室の視線を独り占めにした日の放課後、ルイズたちの食堂を作るため、士郎は厨房にやって来た。
厨房の中は夕食前ということから、まさに戦場の如くであったが、いつもと違う雰囲気を敏感に感じ取った士郎は、厨房の隅で一息ついているマルトーに声を掛けた。
「マルトー何かあったのか? 何だか厨房の中の雰囲気がこう……ふわふわとしているが?」
「ん? おっ、おおっ我らの騎士! どうした、また夕食を作りに来たのか?」
「士郎でいいといつも言っているだろう。まあ、そうなんだが、で? この雰囲気はどうしたんだ?」
士郎に気付いた周りの者たちが(その全てが女性ではあったが)、士郎に声を掛け、それに手を振り応えながらマルトーに尋ねると、マルトーはピシャリと顔をその大きな手で覆い、重い溜息を吐いた。
「っはああぁぁ~……、それなんだがな我らの騎士。実はお前のせいなんだよ」
「は? どういうことだ?」
全く身に覚えのない士郎は、腕を組んで疑問の声を上げる。
その様子に、マルトーは顔を覆った手の指の間からこの厨房に漂うふあふあとした雰囲気の原因である厨房で働く男たちをじろりと見回す。
「あんた、シエスタに服を送っただろ」
「ん? ああ、そうだが。それがどうかしたか?」
士郎がそれがどうかしたか? という顔をすると、マルトーが「あ~」と天井を仰ぐ。
「着てきたんだよ」
「は?」
「だから、シエスタがあんたがやった服を着て厨房に来たんだよ」
「はっ?」
「それを見た若い衆があんな感じになっちまったんだよ」
「あ~……あ? 確かにシエスタのあの姿はかなり魅力的だったが、それであんな風になるか?」
マルトーの言葉に納得を示した士郎だが、途中で納得がいかなかったのか、眉間に皺を寄せ考え込んでいると、顔を覆った手を離し頭をがりがりとかきながらマルトーが考え込んでいる士郎に声を掛けた。
「まあ、確かにありゃ可愛かったが……俺がいけなかったんだ」
「……何をやったマルトー」
肩を落とし懺悔するように頭を垂れるマルトーに、士郎が容疑者を尋問する刑事の如く迫る。
「あれは……可愛かった、可愛過ぎた……だから俺も衝動を抑えきれなかった……」
「何を……何をやったマルトー」
士郎の喉がゴクリと鳴った。
「シエスタに……シエスタに……」
「シエスタに……何を……」
士郎が詰め寄ると、マルトーがガバリと顔を上げる。
「シエスタに……エプロンを着けさせたんだッ!!!」
「なッ!!??」
士郎の口から驚愕の声が漏れる。
マルトーの親父はヘッ、と鼻をこすると、恥ずかしげに顔を俯かせた。
「あの服を着たシエスタを見たらな、こう、胸に湧き上がるものがあってな、そんで、その衝動の赴くまま白いエプロンをシセスタに着けさせたらこれがもう何のって……」
「くぅ……マルトー……なんという男だ」
両手を広げ、全身を戦慄かせるマルトーを驚愕の面持ちで見つめる士郎。
「セーラー服に白エプロンなんて、黄金のセットの一つじゃないか……さすがと言うとこか」
「へっ……それでこの有様よ……」
ニヒルに笑うマルトーに、士郎は首を振る。
「いや、セーラー服に白エプロンは最高のセットの一つだ、それを見た男がああなったのは納得がいく」
「あれは、セーラー服というのか……覚えておくぜ」
士郎が納得がいったと頷いていると、セーラー服という言葉を聞いたマルトーもうんうんと頷いていた。
「そう言えば、そのシエスタはどこにいるんだ?」
「ん? シエスタか?」
セーラー服の上に白エプロンを着たシエスタの姿を士郎が厨房見回して探すも、その姿を見つけることが出来ず疑問の声を上げる士郎に、マルトーは親指で厨房の外を示す。
「あの格好で厨房をうろつかせたら、ヤローどもの仕事が止まっちまうからな、ちと外の用事を言いつけたんだ」
「ん、そうか」
マルトーの返事に士郎は一度頷くと、こくりと首を傾げた。
「あれ? 別に外に出さなくても、他の服に着替えさせたらよかったんじゃないか?」
不思議そうに首を傾げた士郎に、マルトーがニヤリと笑いかける。
「あんっ? そりゃもう決まってるじゃないか、あの服を着替えさせるなんて、そんなもったいないこと出来るわけないだろ」
「んしょんしょんしょ……ふう、あともう少し」
マルトーに頼まれ、学院の外にある物置小屋で探しものをしていたシエスタは、パンパンとエプロンに付いた誇りを叩くと、床に積まれた瓦礫の上に座り込んだ。
「あ~あ、こんなに時間が掛かるんだったら、別の服に着替えてくればよかった、それにしても……」
瓦礫の上で座ったシエスタは、もぞもぞとお尻を動かす。
「う~……やっぱりスースーする……もう、あんなところに水の入ったコップを置かなくても、おかげで――」
「『おかげで』どうしたんだシエスタ?」
「ひゃっ!?」
突然後ろから声を掛けられたシエスタは、慌てて立ち上がり後ろを振り返えると、そこには士郎が立っていた。
「しっ、シロウさんッ!! どうしてここに?」
「ああ、厨房に行ったら、マルトーにシエスタがここにいると聞いてな、それで何か手伝えないかと思ってな」
「シロウさん……」
ポー、とした表情で士郎を見上げるシエスタを、士郎は上から下までじろじろと見つめる。
それに気付いたシエスタが顔を真っ赤にさせると、身体をもじもじとさせ始めた。
「あの、ど、どうかしましたか?」
「ん? いや、エプロンが似合うと思ってな」
「そっ、そんな」
顔を真っ赤にさせて俯くシエスタを、見下ろす士郎の脳裏には、高校生時代の思い出が流れていた。
その中に、制服の上にエプロンを付けた後輩の姿があった。
懐かしげに目を細めシエスタを見下ろす士郎に、引き寄せられるようにシエスタはゆっくりと近づいていく……と、足元に転がっていたガラクタに足をとられ……。
「っシエスタッ!」
倒れそうになるシエスタを支えようと駆け寄ろうとした士郎だが、随分と古い物置小屋だったためか、士郎の足が床を踏み抜いてしまい……。
「あれ?」
「きゃっ」
ドカンという音と共に、物置小屋にホコリがもうもうと舞い上がる。
舞い上がったホコリが再度床に降り積もった後には、士郎の腰に跨ったシエスタの姿があった。
士郎の腰に跨った状態で固まる二人。
暫らく見つめ合っていた二人だが、士郎がふっと、息を漏らすような笑みをシエスタに向けた。
「……二度目だな、この格好は」
「そう、ですね……シロウさん」
シエスタも士郎に笑いかけるが、その笑顔は何故か硬かった。
「確か以前は……」
硬い笑顔を浮かべていたシエスタだが、一度ゴクリと喉を鳴らすと、ゆっくりと士郎に向かって身体を倒し始める。
「ちょっ、シエス―――げっ?!」
「え? どうしましたか?」
ゆっくりと近づいてくるシエスタを止めようと声を上げようとしたが、とある重大なことに気付いた士郎が驚愕の声を上げた。
「シエスタ……もしかしてブラ着けてない?」
「え? ぶら? ぶらって何ですか?」
コテっと小首を傾げるシエスタの姿に、士郎は両手で顔を覆ってうめき声を上げた。
「あ~……そう言えばここにはブラジャーがなかったな……」
「わたし、何か変ですか?」
「いや、変と言うよりやばいと言うか……」
近づいてくるシエスタの胸元が、倒れた衝撃からかほとんど胸を露わにしていたにもかかわらず、ブラジャーの姿が見えず疑問の声を上げると、とんでもない答えが帰ってきたことに呆然とする士郎。
ぶつぶつと言いながらも、さすがにこの体勢はやばいと立ち上がろうとすると――
――じゅり――
「っひゃんッ!!」
士郎の腰の上で粘着質な水音が響くと同時に、シエスタの身体が電流を流されたようにびくりと背を反らした。
「なっ!!?」
士郎の腰の上で魚のように跳ねたシエスタの姿と、服越しに感じた覚えのある感触に、ムナチラの時以上の驚愕の声を上げる士郎。
士郎の上で、小刻みに震える身体を支えるように、両手を士郎の下腹部に置き顔を俯かせるシエスタ。
身体を小刻みに震わせ、息を荒げるシエスタの姿に、士郎は恐る恐ると問いかける。
「し、シエスタ……もしかして……はいてない?」
「んぁ……ふっ……あぅ……は、はい…………」
震えながらも答えたシエスタに、士郎は両手で顔を覆って悲鳴のような声を上げる。
「ッッッ何で履いてないんだよおおおぉォォォ……」
「ぁは……ぃ……そ、……その……」
声までも震えだしたシエスタは、それでも律儀に士郎の問いに答えようとする。
「ここで、っあ……さが……ん……しもの、ひんっ! してた時ンッ、尻もちを……っついて」
時折何かに耐えるように息を飲み、身体を赤く染めながらもシエスタは話しを続ける。
「そこっ……に、んあっ……みずがっ、はいったんあっ、こっぷが……それで、したばきがぬれて……んあぁ」
「し、シエスタ……」
腰の上で淫らに身悶えるシエスタの姿に、士郎はゴクリと生唾を飲み込む。
「しろ、う、さはぁん……わた、し……わたし……もうっ……もう……ッ!!」
「ちょっ――」
思い至ったシエスタが、士郎に飛びかかろうとした瞬間――
ドカンっ! という音と共に吹き飛んできた物置のドアは、そのままシエスタと士郎の間を通り過ぎ物置小屋の壁に突き刺さった。
その様子にデジャヴを感じた士郎が、慌てて入口に顔を向けると、そこには……
「シロウ……何やってんだい?」
「ろ、ロングビル」
緑色の髪を逆立て、肩をいからせているロングビルの姿があった。
どかどかと音をたてながら士郎たちに近づいて来たロングビルは、床に寝転がっている士郎の胸元を掴むと、引きずり起こした。
「うわっ」
「ひゃんっ!」
士郎が引きずり起こされたことにより、士郎の上に跨っていたシエスタがずり落ち、尻もちをついた。
「ちょちょちょっと待てロングビルッ! と言うかどうしてここにっ!?」
「ふ~ん。シロウ……あんたちょっとこっち来なさい」
「ちょっ! イタタタ、痛いって、耳を引っ張るな」
尻もちをつきながらも、ロングビルたちを見上げてくる乱れた服装のシエスタを一瞥したロングビルは、一度鼻を鳴らし、引きずり起こした士郎の耳をロングビルが右手で掴むと、そのまま入口に向かって歩き出した。
耳を引きちぎられては堪らないと、ロングビルの後を士郎が慌ててついていく。
物置小屋の出口に向かって消えていく士郎たちの後ろ姿を、ホコリが積もった床に尻もちをついた状態のシエスタが呆然と見つめていた。
「し、士郎さんが……攫われちゃった……あっ! た、助けに行かないとッ!」
慌てて立ち上がったシエスタは、士郎たちを追いかけるため出口に向かって駆け出していった。
後書き
士郎 「やられる前にやってやるっ! 『主人公補正の男』で、『奔放な少女』を攻撃っ!」
シエスタ 「……ふっ……かかりましたねシロウさんっ!!」
士郎 「なっ?!」
シエスタ 「『セーラー服』を装備したカードは、攻撃を受けた場合、サイコロを投げ、出た目の数だけ服が破れる。そして、服が全て破けるまで攻撃を受けない」
士郎 「くっ……なんてことだ」
シエスタ 「出た目は一……『奔放な少女』の服が一枚破ける……破けたのは『奔放な少女』のショーツ……か」
士郎 「ちょっと待てッ!! 何故にパンツッ!!??」
シエスタ 「パンツじゃなくてショーツですッ!!」
士郎 「突っ込むとこそこですかッ?!?」
シエスタ 「それより、いいんですか? まだ……続きがありますよ」
士郎 「え?」
シエスタ 「ショーツが破けた『奔放な少女』は……ここで『攻める痴女』に進化するッ!!」
士郎 「『攻める痴女』……だ、と」
シエスタ 「言っておきますがこれは……状態異常ではないですよ」
『奔放な少女』がついに進化し『攻める痴女』に……一体その力は? 能力は?
未知なる驚異を打ち破れるか士郎ッ!!??
感想ご指摘おねがいします。
本当はまだ話しが続く予定だったんですが、長くなりすぎたので分けました。
あんまりエロくなかったかな……すみません。
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