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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  3話

 
前書き
料理回です 

 
ナルトと別れ、既に陽が落ちた帰り道にクリームチーズ、アーモンドとシナモンを買って屋敷に戻るとネジが立っていた。
「私に何か用でもあるのか?」
私は割と急いでいるのだ、できれば要件は簡単かつ最速で済ませて欲しいものだ。
む?何かの書類か?
「アカデミーの編入届けです。ヒアシ様の同意もなんとか貰えました、あとはヒジリ様の署名があれば完了です」
「……親父殿の事だ、何か条件があるのだろう?」
「はい、俺をお目付役として置くという事が条件です」
「まぁ妥当か……いや、面倒な雑務をこなしてくれたな、礼を言うよネジ」
「やめて下さい、あなたにそんな言葉を掛けられるなんて不吉以外の何物でもありません」
「くく……随分と酷い言われようだな。いや、結構結構、君はそういう態度でいいのだよ」
「どういうことですか?」
「なに、いずれ分かるさ。強いて言うならば、過去を振り返った時に頭を抱えたくなる回数が増えるというだけだ」
それだけ言って私は自分の住処である離れへと足を向け、様々な考えを頭の中で巡らせる。アカデミーか……親父殿は私を更生できるとでも思っているのか?
さて、その考えは父親としてのものか日向の当主としてのものか……恐らく後者だろうな。親父殿はそういう輩だ。
愛情がないわけではないが判断に関しては最も合理的な選択をする、良くも悪くも上に立つ者の考えだ。私の勘当を解けば私を当主に据えることができる。忍の性能だけを見れば私は日向でもかなり優秀な人間だ、この眼のおかげで柔拳は既に親父殿とほぼ同格までには習得しているからな。
だが、親父殿は二つ勘違いをしている。私は上に立つ者は優しさを持つ者で無ければならないと考えているので、ヒナタ以外を当主にするつもりが最初からない。
次に私の更生など無理だ。何かトラウマがあった訳でもなく生まれ持った性質によってこのような人間になったのだ。海で生きるために進化した魚に地を駆けろと言うのと同じように、既に確定した人格をどうこうするなら私という人格を殺すしかあるまいよ。
そもそも、私がアカデミーに入る事を許容したのもヒナタの近くにいられるという極めて単純かつ最重要の理由からだ。私にとって世界とはヒナタとそれ以外でしか分類されていないのだからな。



という訳で、そんな愛する妹の為に私は台所に立っている。
着物が汚れぬようエプロンを付け、仮面を外して頭には三角巾、材料の計量も終え準備に抜かりはない。
私はボウルに冷蔵庫から取り出した強力粉、薄力粉、砂糖、塩、ドライイーストを放り込み混ぜ合わせ、牛乳を加えた溶き卵を人肌になるまで湯で温める。当然、温度には細心の注意を払ってだ。僅かな誤差も許さぬよう、白眼を発動し自分の体の動きを把握する。震え一つ許してはならない、絶対にだ。
牛乳が温まったのを確認し、混ぜ合わせた粉にゆっくりと注ぐ。
「ヒジリ様、署名を忘れて「コロスゾ?」……失礼しました」
粉が固まるまでしっかりと混ぜる。そして、ある程度固まった事を確認してここにバターを投入して生地が固まるまで捏ねて叩く。
ふむ、そろそろいいだろう。生地が薄く伸びるようになったので一度纏めて、上に濡れたふきんをかけてしばらく放置だ。今からざっと一時間放置しなければならないので、ネジの用事を済ませるとしよう。
彼は律儀にも離れの玄関前で書類片手に立っていた。
「待たせたな、そこに書けばいいのか?」
「はい」
む、今年入学して来年卒業……仕方ない、ネジの役割上仕方ないか。同じ学年でなければ監視はしにくかろうよ。
「これでいいか?」
「はい、後日教材等が送られてきますので、詳細はそれを確認してください」
「そうか、ご苦労……と言いたいが、このまま帰らせるのも些か礼を失するだろう」
私は本邸に戻ろうとするネジを呼び止める。細かい準備がまだ残っているとはいえ、まだ三十分は暇な時間があるのだ。
「少し、遊んでやろう」
「……いいでしょう。あなたに挑める機会などそうありませんからね」
振り返ったネジは既に白眼を発動させ、準備は万端という様に私に相対する。
「何処からでも来るといい、なに姉だからと言って遠慮はいらん」
「あなたを姉と思ったことなど一度もない!!」
ネジは私に近づきチャクラを込めた掌底を放つ。防御もせず直に当たれば内蔵系に多大なダメージを貰うことになるだろうが、柔拳だろうが剛拳だろうが打撃である事に変わりはない。特に柔拳は回避や捌きによって相手の隙を生み、一撃に重きを置くのが主な戦術だ。故に一手回避すれば、二手目を処理できるよう体勢を立て直すのは容易い。
片足だけ半歩後ろに下がり掌底を回避する。が、どうやら私はネジを過小評価していたようだ
二手目は遅いと考えていたが、いやはや分家でこれができるということは、独学のみで手に入れたということか。
八卦掌回天、全身の点穴からチャクラを噴出しつつ、体を回転させることで攻撃をいなす宗家の技だ。本来は防御用の技だが、利点として予備動作が殆ど無いということと至近距離で当てれば相手を吹き飛ばすことくらいはできる。その二つが重なることで、回天を終えた時の隙を突くのはかなり困難になるのだ。流石に遠距離特化相手であれば話は変わってくるが、そもそもそういう状況に置かれること自体問題だ。
いや、今はそんな事などどうでもいい。結果、私はネジに吹き飛ばされ受身こそ取れたものの一杯食わされた。
「なるほどなるほど、ネジ、君は本当に天才のようだな。独学のみで回天を習得するとは驚いた」
「……そう言うならもう少し動揺してください」
「いやいや、弟の成長に喜ぶのならともかく動揺する姉はいないだろう。だから見せてやろう……防御ではなく攻撃の回天を、な」
私はネジとの距離を詰め、彼に向かって手を伸ばす。彼は私が打撃を放つと考えていたようで、柔拳で受け流す準備はしていたようだが単純に掴まれるというのは予想していなかったようだ。私はネジの服の襟を掴んでから一言だけネジに伝えた。
「ネジ、耐えろよ」
「え?」
「八卦掌回天・(まとい)
ネジを掴んだ状態で私は点穴からチャクラを噴出し、体を回転させる。結果、掴まれていることにより吹き飛ぶことなく、物理的な圧力を伴ったチャクラの噴出に全身晒され続けることになる。言ってしまえば、回天を押し当て続けるという事だ。
とはいえ、今回掴んでいるのは服の襟だ。すぐに千切れてネジは回天に弾き飛ばされることになる。
「どうだ?これが私の回天だ、ネジ」
「はぁ、はぁ……無茶苦茶だ……」
「なに、これでも手加減しているのだ。本来ならば掴むのは手足か首だ、今回のように引き千切れることもそうそうないだろうし、千切れれば出血多量か即死だ。加えて、周囲の木や岩に叩きつけることもなかっただろう?」
それは周囲から見れば私は掴んだ相手を布のように体に纏っているらしく、そこから八卦掌回天・纏と名付けたのだ。
「相変わらずあなたの技は相手を生かすという考えはないんですね」
「当然だろう?戦い扱う技術で相手を殺す以外何をするというのだ?
技とはそういうものだろう、そこにどれだけ理由を付けようと結局行き着く先はどれだけ殺傷能力が高いかという話だろうが」
「……あなたらしい考えですね、ヒジリ様」
「私はそういう物なんだよ、ネジ。また来るといい、今度は何かを美味いものでも作ってやる」



ネジと別れ、再び台所に立って色々と用意を始める。
まず、常温で柔らかくなったバターにシナモンと砂糖を加えて混ぜ合わせる。それが十分混ざり合ったのを確認し、フライパンでアーモンドを炒る。焦がさないように注意しつつ、全体に火を通す。それを終えたらクリームチーズとバター、砂糖を混ぜ合わせて、少しだけマーマレードを加えてレンジで温めて溶かす。
時計を見て、ヒナタの夜の稽古の時間を確認する。ふむ、あと一時間……問題なく間に合うな。
生地が最初の倍程の大きさになったのを確認し、生地に溜まっていたガスを抜いて再びふきん被せる。ここからまた十五分程放置する。
ふむ、ネジも帰ったことで暇になったな。仕方ない、本でも読みつつ気を紛らわすとしよう。最近は歴史物ばかり読んでいる気がするが、いいだろう。日向は木の葉の里が誕生する以前から続いていたようで、一部記述が抜けているものの木の葉の里の成り立ちなどが記されている。
「元は議会制に近い形だったが、力のずば抜けた千手一族とうちは一族が徐々に権力の中心となり、うちはのトップであるマダラが暴走した結果今の里のシステムに行き着いた……ということか。
それにしてもこれを読み限り、初代火影千手柱間とうちはマダラは本当に人間か?二人がぶつかり合う度に地図が書き換わっているぞ?」
だが、私としてはそれよりもそんな人外が戦場駆け回り、そんな中で日向は生き残ったということが重要だ。全力ではなかっただろうが、マダラや柱間の攻撃を私の先祖は耐え切ったということだろう。
……是非とも見てみたいものだな。

む?そろそろか……生地を引き伸ばし、先程のバターを一面に塗りたくる。
そして、それを巻き寿司のように丸め、包丁で切断していき、型に切ったものを詰め込みんでもう一度濡れふきんを置いて放置だ。

さて、千手柱間とうちはマダラだが……二年前、二名を残してマダラの子孫であるうちは一族が皆殺しにされたな。それについての違和感について少し考えよう。
実行犯はうちはイタチというのは分かっているが……あまりにあっさりしすぎている。確かにイタチは里でも名の通った優秀な忍だが、一晩でうちはを全滅させたというのは奇妙な話だ。
うちは一族は日向の白眼と同じように写輪眼という眼を持っている。白眼と違い、開眼するには幾つか条件があるそうだがそれについては知識がないので分からん。だが、イタチまでとはいかずともうちはには優秀な忍はいたし、写輪眼を使えるものもいた筈だ。
写輪眼は白眼が観察とするならば捕捉に特化した眼と言えるだろう。桁外れの動体視力とそれによる相手の動きの模倣、その他にも幾つか能力があるそうだ。
そんな眼を持った一族をああも容易く皆殺しにするには、他の者を圧倒する何かを持っていたとしか考えられない。……マダラも現在のうちはとかけ離れた存在としか思えない記述がある事から見て、恐らくマダラと似たような何かを手に入れたんじゃないだろうか?
もっとも、ほとんどが確たる証拠もないただの推論でしかないがな。ただ時間潰しには中々向いているだろうよ。
あとは型に詰めた生地をオーブンに放り込んで焼き上がりを待ち、クリームチーズを溶かしたソースと砕いたアーモンドを散らせばヒナタの好物であるシナモンロールの出来上がりだ。




















 
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