アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
48話
荷作りの最中ふと酒が切れていた事に気が付いた俺は部屋を出て、アナグラ内で最も品揃えのいいよろず屋に買いに行くことにした。
今日のよろず屋の品揃えは洋酒が多いのか。ふむ、出来れば辛口の日本酒などが良かったんだがな。ウォッカやらは目的地近くで買えばいいのだからここで買うというのもどうかと思うし、ワインもいいんだが若いワインしかないというのはな……いや、待て。
果物とワインでサングリアにすればジュースのような感覚で飲めるか。それなら飲みやすいし、いいんじゃないだろうか?
「おや、マキナさん?」
「ん?ああ、ユウか」
ユウは俺の隣に並んで、店員から何かカタログのような物を受け取ってパラパラとめくって何かを探している。
「マキナさんも贈り物ですか?」
「いや、贈り物じゃないがそれの必要経費みたいなって、俺も?どういうことだ?」
「ほら、さっきエイジスに行った時にマキナさんは下でアラガミと戦って、上の方にはこれなかったじゃないですか?」
「ああ」
「上にあいつはいたんですけど、どうやら俺とマキナさんがエイジスに入った段階でバレてみたいで、あいつはメールでアリサを呼び出してたんですよ。
それで俺があいつの口を閉じる前にアリサが辿り着いちゃいまして、いやー色々と台無しですよね、あははははは……」
ユウ、目が笑ってないぞ。そして、そんな乾いた笑い声を出すな、店員がドン引きしているからな。
「しかも、あいつはアラガミの嫌いな偏食因子を使って作ったらしい鎧があるから私は喰われない、的な事を言っておきながら例のディアウス・ピターに喰われやがりましてね……マキナさんには悪いですがアリサと一緒にディアウス・ピターは倒しましたよ」
「いや、俺の手で殺せなかったのは残念だがアリサが殺したと言うなら、結果として構わないんだが……贈り物って結局なんだ?」
「アリサが自分を置いて行った事に腹を立てましたね、それのご機嫌取りですよ」
「ああ、なるほど。お互い大変だな……色々と」
「ええ、マキナさんを見ていて明日は我が身なんて思っていましたが、明日は想像以上に早く来ましたね」
ん?……ああ、そういう事か。だから貴金属と宝石のページを何度も見返している訳か。
「アリサの誕生日って確かに三月だったよな?」
「ええ、なんでアクアマリンを探しているんですけどどうにも品薄……というか主だった産地がアラガミに襲われたらしくて出回ってない状況なんですよね」
誕生石も調べたのか……が、確かにこんな世界じゃ宝石なんぞ掘っている暇などないからな。そうさな……少し手伝ってやるか。
「まだ使えそうな鉱山を探してきてやろうか?」
「えっ?いいんですか?」
「ああ、俺の方は世界旅行をご所望でな。明日の朝一でここを出るんだよ。流石にそこまで本気で探す事は出来んが、寄り道がてらって事でなら大丈夫だろう」
「ありがとうございます。あ、鉱山さえ教えて貰えれば俺が掘りに行きますんで、現物は取ってこないでくださいよ」
「はいはい、まぁとりあえずお前は今のアリサの機嫌をどうにかすることだな」
俺が店員に代金を渡して果物とワインを受け取りながらそう言うと、ユウは不満気な視線を俺に送ってきた。
「それは言わないで下さいよ……本当にどうしよう」
ため息をつきながらユウはカタログを店員に返して頭を抱える。無敵の第一部隊隊長でも勝てないものはあるのさ、スペックは人外でも多分彼だって人の子だ。
そんな彼を脇目で見ながら俺はエレベーターに乗り込んで自分の部屋の階のボタンを押そうとした時、誰かがエレベーターに乗り込んできた。
「ほう、無断で出撃した馬鹿者が昼間から酒とは……教育が必要か?」
「……結果オーライだったからいいじゃないですか、ツバキさん。新種の接触禁忌種の片割れを討伐、アラガミによる極東支部を襲撃を未然に阻止。多少の規則違反は見逃してくれても釣りがくる位の功績は、おうふっ!?」
「馬鹿者、それは結果論でしかないだろう」
……この歳でファイルで頭を叩かれるとは想像もしなかったな。それも一応歳下に……いや、貫禄というか雰囲気では向こうの方が歳上としか思えないのでそこに関してはどうでもいいか。
「それに休職届まで出しよって……いや、我々人類にはお前達を拘束する権限などないのだからそれに関しては何もいえんな」
……アラガミって事もいつの間にやらバレてるのか。
「どこでそれを?」
「何を言っているんだ?極東支部では暗黙の了解に近い形でお前達がアラガミだと知られているのだぞ?」
ああ、さいで。いや、もう別にバレても困ることはないんだから別にいいのだがな。
個人の戦力で襲われるならユウとカノン以外はどうとでもなるし、権謀術数を駆使してたった一匹のアラガミをどうにかするような奴は故支部長しかいないだろう。
そんなこんなでエレベーターが目的の階に到着したのでエレベーターから降りようとすると、ツバキに呼び止められた。
「ああそうだ、支部長代理からこれを渡すように頼まれていたのだった」
ツバキは俺とイザナミの身分証明用のカードと、厳重に封をされた封筒を手渡すとエレベーターのドアを閉めた。
カードはともかくこの封筒は一体なんだ?気にはなるものの、ここまで厳重に封されているの物をここで開ける訳にもいかないだろう。部屋に帰ってから中身を確認するとしよう。
そう考えて部屋のドアを開けると……
「準備万端だよ!!」
セパレートタイプのオレンジの水着を着たイザナミが浮き輪を右腕で抱え、左手にキャリーバッグを持って笑顔を浮かべて立っていた。
うん、意味が分からない。とりあえず果物を切ってワインに漬け込むとしよう、確かに冷蔵庫に炭酸水はあったはずだ。
「ちょっと、私の水着姿に何か言うことはないの?」
「いや、俺からすれば新手のギャグにしか取れないんだが?大体なんで水着なんか着てるんだ?」
「ギャグって……それになんでって言われても海を越えなきゃダメでしょ?じゃあ、泳いでいかないとね!!」
「うん、精々頑張ってくれ。俺はサリエルの能力で飛んで行くから、イザナミは頑張って日本海縦断を目指してくれ」
「ちぇ、マキナが泳がないならいいや」
イザナミは不満気に呟きながら浮き輪の空気を抜いて、キャリーバッグの中にしまうと俺がテーブルに置いた封筒を開けて中身を確認し始めた。ちらりと見たところ何かの設計図のようだが……一体なんだ?
「うん?アルダノーヴァだよ」
なんでそんな物を?いや、それ以前にどうやって?
「サカキに頼んで極東支部のデータベースにあった支部長権限でロックされてるファイルを開けてもらったら、そのファイルの中から出てきたんだよ。それを消去する前にこの分だけコピーをとってもらったの」
アルダノーヴァは支部長の作った神機に特性の似た人造アラガミだから設計図くらいはあるだろうが、一体それを何に使うつもりだ?しかも、実質ノヴァの細胞から生まれたアラガミである女神を制御、サポートする為の男神の設計図が殆どなんじゃないのか?
「うーん、なにかするって訳じゃなくて今のところ何かに使えそうっていう程度なんだよね。けど、それは捨ててしまうには勿体無い技術だから、消される前に私の中に保存しておこうって思ったんだ」
ふむ、確かにただの人間が安全性に難ありとはいえ、あのスペックのアラガミを自分の意思で操れるというのは凄い物だからな。それに若干変異しているとはいえ俺はツクヨミの男神を喰ったわけだから、そのままの再現は可能といえば可能だ。
そこにそれの元になった設計図があるなら幾らか改良も可能だろう。
「でしょ?」
結果的にこの時のイザナミは大当たりで、それを活用するのは意外とすぐだったなどその時の俺達は知る由も無かった。
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