アラガミになった訳だが……どうしよう
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夫になった訳だが……どうしよう?
45話
「……で、ここにいるのか?」
「はい、イザナミさんが言うにはいるとしたらこの辺りだって言ってましたし、フェンリルの捜査を掻い潜って何かやるにはここ以上に場所はないでしょ?」
俺とユウは人類の安息の地、改めノヴァの巣、改めアラガミの動物園に看板を掛け替えたエイジス島に来ている。
用事はごく単純、人殺しと八つ当たりだ。
ここに至るまでの経過を確認するために、少し時間を遡るとしよう。
「人殺しって……誰をだ?」
「オオグルマですよ。いやー初めてですね、何かをここまで許せないと思ったのはのは」
ん?許せない?憎いとかじゃなくて?
「意外だな、お前にそんな感情があるなんて」
「あはは、酷いですね。俺だって人間ですよ……ただこの手の感覚は初めてなんですけどね」
「どういう事だ?」
「なんて言うんですかね……オオグルマを殺したいって言うんじゃなくて、オオグルマ存在そのものが許せないって言うような感覚ですよ」
成る程、これは相当頭に来ているみたいだな……うん、金属製の手すりをスポンジみたいに握り潰すな。ツバキに怒られるぞ?
いや、それは置いておくとしてユウがここまで怒るなんて一体なにがあったんだ?俺のイメージでは戦闘以外は割と冷めた奴だと思っていたんだがな。
「なんでそこまでキレてるんだ?」
「そうですね、感応現象って知ってますか?」
確か……今のところ、新型神機同士で起こりお互いの意識が繋がる現象だったか?イザナミが俺の思考を読む時に使っている現象と似たような物だったな。
「ああ、それがどうしたんだ?」
「俺、任務のない時はここでソーマやアリサと訓練をしているんですけど、アリサとやった時たまに感応現象が起きるんですよ」
ああ、成る程ね納得がいった、そういう事か。
「アリサの過去からオオグルマのやってきた事が分かった、と」
「そうです。アリサ自身が忘れているらしい事も伝わってきてね……うん、今すぐ行きませんか?」
これは相当だな……そりゃオオグルマがどういう奴かは知っているので、別段ユウを止めるつもりはない。しかし、何故俺が付いて行かなければならないんだ?
いや、付いて行くことの不満があるのではない。単純にユウ一人で事足りるのではないだろうか?
そんな考えを俺の表情から察したのかユウは言葉を続けた。
「マキナさん、考えても見てくださいオオグルマが一体何をしようとしているのかを。
まず最初に浮かぶのは復讐、前に一件でオオグルマはあらゆる地位と名誉を失い今では指名手配犯ですからね。その発端となった極東支部、いえ俺達第一部隊を殺そうとしている。
ですが、これはどうでもいい。オオグルマがどれほど手を打っても、正面から俺達を潰すのは無理でしょうからね」
大した自信だな、と言いたかったが間違いなくその通りなので黙って頷く。
「次に、というよりは復讐のための手としてオオグルマが打てる最良の一手は何か……アリサを使うことでしょう。アリサは洗脳を受けていた事もありますからね。
今でこそ殆ど解放されていますが、何かを大きなショック受けたりすればもう一度操ることは可能かもしれません」
「だろうな、その技術を買って支部長はオオグルマを使っていたんだ。少なくともその点についてはそう考えるべきだ」
「ええ、じゃあ大きなショックとは何か?アリサのトラウマといえばヴァジュラ……ですが、既にアリサはヴァジュラの単独討伐をできる位にはトラウマを克服しています。
ですが、それは普通のヴァジュラに関してです。アリサは人生で二回、目の前でヴァジュラ種に大事な人を喰われました」
「二回?」
「ええ、一回目はディアウス・ピターに両親を、二回目は感応現象でおぼろげに見えた程度ですが親友と言えた女性を通常種にです。そのヴァジュラならアリサを操れるようになるショックを与えられるでしょう。
しかし、親友を喰ったヴァジュラは既にアリサが殺しています」
そこでユウは俺に視線をやった。ああ、自覚はある。今の俺はひどく楽しそうな表情を浮かべているのだろう。
「お察しの通り、アリサの両親でありマキナさんのロシアでのお知り合いだった二人を喰ったディアウス・ピターはまだ討伐された記録はありません。
そして、オオグルマはそれを何かしらの手段で捕らえている可能性があります」
「成る程、それなら俺も付いていかなきゃならないな」
「ええ、俺が両方を殺してのいいんですけど……それは不公平でしょ、色々と?」
という訳でエイジスに足を踏み入れた訳だが、俺はユウの評価を見誤っていたようだな。リンクバースト状態のカノンならユウにも勝てるんじゃないかと考えていたのだが、とてもじゃないが無理だな。
ユウはバーストすることなく構えることなく片手で持った長剣で、無造作に振るっただけでコンゴウやシユウを一切の抵抗なく両断している。その上視線をアラガミにやることすらせず、エイジスの設計図をダウンロードした端末と睨めっこしているのだからもう笑うしかない。
「上か下か……どっちだと思いますか?」
しばらくしてエレベーターの前に来た時にユウは立ち止まってから、端末を俺に見せて聞いた。どうにも上と下に大きめの研究室らしきものがあり、いるとすればそのどちらかだろう。
「そうだな……別れて探そう。お互いそっちの方が向いているし、さして心配する事もないだろ?」
「ですね、無線を渡しておきますから、見つけたらお互い連絡ということで。抜け駆けは無しですよ?」
「はいはい、じゃあ俺は下探す。ユウは上を頼むぞ」
ユウはエレベーターで上に登っていき、俺は登っていったエレベーターを見送ってから飛び降りた。どうせ俺の行く場所は最下層なのだから、エレベーターを待つよりこうして飛び降りた方が手っ取り早いだろう。
着地の少し前に脚の具足から空気を噴出させて勢いを殺す。そのまま着地しての俺へのダメージは無いが、建物自体へのダメージは極力抑えたいからな。
この辺りはアラガミも入ってきていなようで機械の駆動音しか聞こえず、なんとも不気味な雰囲気だ。人がいないのに機械だけが動き続けているというのはどうにもな……アラガミの俺が言うのも何だがホラーっぽくて嫌なんだよ。
少々不機嫌になりながら進んでいると、通路の先にやたらと厳重な扉を見つけた。マントでなら切れるかもしれないが……電気は通っているようなので普通に開けるとしよう。
「む……温度は随分低いな」
扉を開けると冷気が漏れ出し、部屋の中にいたものが明らかになった。
……これは随分と外れクジを引いたものだ。いやはや、なんで俺の運勢とこうも悪いのだろう。
部屋の奥にいた奴の放ってきたレーザーを右腕で防ぎながら、半ば無意識にため息をついてしまう。
確かにここでは支部長が創り出したノヴァを守る為のアラガミ、アルダノーヴァがいる。それはいいんだが……なんでここでそれと出会うのかね?
しかも、厳密に言えばアルダノーヴァではなくその変異種ツクヨミだしな。
部屋の中の様子から察するに他のアルダノーヴァを喰い続けて進化したって所なんだろうが、はてさて俺の力はどこまで通用するのか心配だが負ける気はしないな。
「それに……ただのアラガミなら殺しにかかっていいんだからな!!」
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