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アラガミになった訳だが……どうしよう

作者:アルビス
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夫になった訳だが……どうしよう?
  44話

どうやらユウ達は原作通りに話を進められたらしく、取り敢えずは助かったようだ。
このままスタッフロールが流れて終わり……な訳はなく正直原作で色々やっていた頃の方が楽だった言えるだろう。
まずイザナミだがユウ達に文字通り謝り倒して事なきを得たのだが、第一部隊の全員のお願い一回聞くという条件を謝る時に付け加えてしまったらしい。
その結果、当然と言うべきかユウに演習場に連れ込まれる羽目になった。結果として今まで腰まで伸びていた黒髪が肩口まで切られていた……ユウの神機は刃引きしてあった筈なんだがな。
しばらくの間イザナミはユウを見かけるなり俺の後ろの隠れるようになった。ユウ、一体何をやったんだ?
ああ、それとイザナミは料理教室を開いたらしい。お詫びのつもりで料理を支部の全員に振る舞った結果、意外にも好評だったようで割と盛況だ。
調べてみると分かったのだが、支部の面々はサクヤやカノンのような一部を除いて料理自体しないらしく、こうして真っ当に教えて貰えると言うのは喜ばれるそうだ。
イザナミ自身色々と思うところがあったのか、以前と違って初対面の人間にも普通に接するようになった。その中でもなんだったか……ああ、ムツミという少女が彼女に懐いたらしく、確か五歳かそこらにも関わらず料理教室に毎回来ているらしい。
イザナミが言うには飲み込みがいいらしく教えていても楽しいとの事で、その姿は俺から見てもいいものだ。
………ここまではいい、イザナミに関してはユウに絡まれたこと以外は問題無い。一番の問題は俺の方だ。
正直、俺の目的である終末捕食は防げたということもあり一息つかせてもらう事になった。今現在、サカキが支部長代理という事になっているのでサカキに休職届を出そうと思う。
そろそろアラガミ関係を忘れてのんびりと暮らしてもいいだろう?普通のゴッドイーターよりは随分と働いただろうしな。
で、サカキに色々手続きに関しては聞いているた時の事だ。
「いっそのこと戸籍を作ってみるのはどうだろう?マキナ君のいうのんびりとした暮らしをするにはあった方がいいと思うよ?」
「そうだな……じゃ、適当に頼むな」
「わかった、それではこの書類は私の方で処理しておくよ」
部屋に戻ってもやることもないのでしばらくサカキの本でも読んで時間を潰そうと、ソファーに腰掛けて近くに置いてあった本をパラパラと捲る。
そして、本を半分程読み終えた頃に誰かが研究室に入ってきた。視線を上げるとそこにはキョロキョロと辺りを見回すカノンがいた。
「どうしたんだ?」
「あ、マキナさん。サカキ博士……じゃなくてサカキ支部長代理を見ませんでしたか?」
「ん?ああ、少し前までここにいたんだが……何処かにいったようだな。何か用事があったのか?」
「はい、私の神機のデータを提出するよう博士に言われて……あれ?これはなんですか?」
カノンはサカキの机の上に置かれていた書類を手に取って眺めているのだが、彼女の背中に不穏な空気が漂い始めた。なんだろう、今すぐここから逃げるべきだと直感が告げている。
「じゃあ、俺は部屋に帰「マキナさん?」……はい、なんでしょう? 」
「これはどういうことですか?」
先程までサカキの机の前に立っていた筈のカノンはいつの間にか、ドアの前にいた俺の背後に眼だけが笑っていない笑顔で俺の肩の手を置いた。
彼女がもう片方の手に持っていたのは俺とイザナミの戸籍の届けのようで、そこには夫婦という事で登録されている。
その方が手続き的にも楽であり、事実としてそうなのだから俺も別段何か言うことがなかったがこう堂々と書かれると小恥ずかしいものがあるな。
「どういう事と言われても、いい加減俺も戸籍を作った方がいいと思ってな。今までフェンリルに所属するゴッドイーターって事でしか登録してなかったから、そろそろ普通の戸籍があった方がいいだろ?」
「いえいえ、そこじゃなくてですねーこのイザナミさんとの関係が夫婦ってどういうことでしょうか、という話なんですよ?」
なんでそんなに声が平坦なんだ?
「いや、見たまんまだが?」
「ははは、分かりました。マキナさん、演習場に行きましょう」
「えっ?ちょ、ちょっとなんで?」
「いえいえ、なんて事はない八つ当たりですよ?」
……一体俺が何をしたと言うんだ?
その日の訓練は本当に危なかった……まさか腕一本吹き飛ばされるとは思わなかったぞ。


命からがら演習場から這い出した俺はボロボロの体を修復し始める。……流石に吹き飛んだ腕は治すのが大変だな、傷口がズタズタでそのままくっつける訳にもいかんからな。
そんな俺をカノンは横に座って、俺に問いかけた。
「あの、マキナさん……怒らないんですか?」
「ん?何をだ?」
「だって、これってただの八つ当たりですし、そんな傷を負わせちゃいましたし……」
やっと落ち着いたらしいな。どうにもさっきのは癇癪のようなものだったようだ。
「あー……随分勝手な言い方かもしれんがカノン、お前のことは家族みたいなものだと思ってるから大抵の事は許せるんだ」
「それは凄く嬉しいんですけど……マキナさんの中での私の扱いってどんなのですか?」
カノンか……そうだな、年下であり大事だと思えてかつ女性となると。
「娘か妹、その辺りだな。うん、お前が赤ん坊の頃から見ていた俺としてはお前の成長を実感せざるを得ないぞ?」
「成る程……それじゃあ最初から無理だったんですね」
「無理?何が?」
「いえいえ、ただ……少し悔しいなって思っただけです」
そう言ってカノンは立ち上がってゆっくりと前に進み、出口のドアに手を掛けた時に思い出したというように付け加えた。
「ご結婚、おめでとうございます!!」
彼女は明るい声で言ったつもりなんだろうが、隠し切れずに少なからず声が震えていた。
はぁ……いやさ、流石にここまでされれば俺でも分かる。カノンは俺に対して異性としての好意を持っていたのだろう。
もし俺がアラガミで無く、カノンとの出会い方が違っていれば彼女をそういう感情を持ったかもしれない。
贔屓目無しでカノンは容姿、性格ともにかなりの物で家事やらも十二分にこなせる。戦闘時や気分が高揚した時には性格が変わるのが問題だが、それ以外は目立った欠点もない。
およそ考えられる中では共に生きるには最高と言っていい女性だろう。
だが、俺はアラガミでカノンとは良くも悪くも出会った時の距離が近過ぎた。
カノンが物心つく前から世話をしたり、遊んでやったりした身としてはそういう目では見れないんだよ。
加えて俺はソーマのようなアラガミの因子を持った人間ではなく、アラガミそのものだ。どう考えても幸せな家庭を築くというのは非常に困難だろう。そんなもの結ばれた所でお互い傷付くだけだろうよ。
「で、お前はいつまで見ているつもりだ?」
「おや?バレてましたか……いつから?」
演習場の入り口のドアの向こうから、ユウが微笑みを浮かべながら現れた。こいつの性格としては空気を読んで入らなかったが、わざわざ何処かに行くのも時間の無駄なので待っていようといった具合だろう。
「お前がそこに立ってからずっとだ。アラガミの聴力をバカにするなよ?」
「これでも物音や呼吸音は立てないようにしたんですけど、やっぱり俺もまだまだですね」
まだ成長する気なのか、こいつ。
「お前はどこを目指しているんだ……まぁいい、さっき聞いた事は忘れてくれよ?」
「ええ、構いませんけど……一つお願いしてもいいですか?」
「もう一回演習場へ逆戻りは嫌だぞ」
「それもいいんですけど……ちょっと今回は違うんですよ」
ユウの僅かに目が細まりゾッとするような雰囲気が彼を覆う。頼むからアラガミの体が怯えるようなプレッシャーを発するな、本当にお前は何なんだよ。
「人殺しを手伝って貰えませんか?」
うん、色々と予想外過ぎる発言で思考が纏まっていないが、一言だけは言わせてくれ……最悪だ。










 
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