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機動戦士ガンダム・インフィニットG

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第六話「アムロ危うし!」

 
前書き

シャッフル同盟の一人が登場しますよ。 

 
セシリアとの決闘から一週間後、ようやくIS学園にも慣れて充実した生活を送れると僕は思っていたが、ここで新たな「刺客」が現れたのだ……
「……ようやく玄関口? んもう、広すぎて困っちゃうな」
そう地図を片手に苦労した少女は、広大に広がるIS学園の施設内をさまよい続けて、ようやく事務室の元へたどり着いた。
ツインテールに、本人には失礼だが背の小さい背丈をした小柄な少女だった。
「あの?すみません」
「はい?」
事務の女性が窓口から顔を出した彼女に気づいてパソコンのデスクから離れた。
「1年2組に転向する予定の者なんですけど?」
「ああ~中国の代表候補性の?」
「はい! えぇ~っと……確か、一年一組に男子で織斑一夏って子がいますよね?」
少女の問いに、事務員はやや表情を曇らせた。
「……ええ、MS学園の子ですけど?」
「ふぅ~ん……あの、二組の代表者ってもう決まってるんですよね?」
「はい、一週間前にもう決まってますけど?」
「……それって、代わってもらうこととかできますか?」
「えっ?」
「だから、私代表候補生ですから、私が代表制になったほうがいいと思うんです!」
少女はそう自慢げに言い出すが、そのわがままに事務員は困ってしまう。
「で、でも……もう決まった事ですし……」
「いいじゃないですか! 私は代表候補性なんですよ?」
受付の窓の台をドンとたたいて叫ぶ少女だが、そんな彼女の背後より何者かの気配が現れた。
「昔っから、代わってねーな? 凰!!」
「!?」
背後から、襲い掛かる一瞬の殺意に少女こと、凰はとっさに振り返った。
「ハイィッー!!」
叫びと共に、凰元へ飛び蹴りを食らわせる小柄な影が襲い掛かる。
「……ッ!?」
それをスレスレでかわした凰は後に下がって、自分を襲い掛かる主を見た。
しかし、主は黒い覆面を頭に巻いて素顔は窺えない。
「誰よ!? アンタ!!」
咄嗟の敵意に、怒りをあらわにする凰は目の前の、自分同じ背丈の……少年を見た。
「少林寺拳法根絶の恨み! 今ここで晴らしてやるぅ!!」
そして、再び少年は凰へとびかかろうとするが、その光景を見た事務員がとっさに連絡した警備員の女たちがこちらへ駆けつけてきた。
「チッ……!」
少年は、悔しくもここは一旦引くことを選び、凰の前から素早く姿を消し去った。
「だ、大丈夫ですか!?」
事務員が、凰のもとへ駆け寄る。
「ええ……」
しかし、凰は襲われたことよりも、彼女を襲ったその少年が発した「少林寺拳法」という言葉にふと何かを思い出そうとしていた……

「ガンダムファイター……?」
一組の教室にて、僕は首をかしげてそうつぶやいた。
「うん! 何でも、MSを用いて対戦する格闘選手のことだよ?」
詳しく説明する明沙。
最近、各国はISの次に登場したMSを用いる格闘競技を作ったらしい。それが各国の代表者が専用ガンダムに乗って戦うガンダムファイトである。また、これに関しては公式的にスポーツのため、あくまでも民間用として用いられる扱いである。
「……で? 日本代表選手ってのが、この加集ドモンって人なのか?」
僕は、明沙が開いているガンダムファイター特集の雑誌に載っている赤いハチマキをした青年の写真を見た。
「うん! とっても熱血な好漢キャラで、男性たちからも人気なんだって?」
「ほぉ~……」
ま、僕は興味ないな? スポーツ事態全くをもって興味がない!
「それでさ? 今週の日曜日、一緒に……」
「嫌だ」
格闘なんて見る気はない。しかし、彼女にそういう趣味があるとは意外であった。
「んもう! ファイターの格闘を見て今後の接近戦の参考になれば助かるでしょ?」
ああ、そういうことか……
「でも、行くのが面倒だからやだ」
「アムロったら……」
「なぁ? アムロ、一夏のやつ見なかったか?」
通りすがった隼人が僕たちを見つけて、一夏の行方を尋ねてきた。
「いいや? 僕は見てないよ?」
「そうか……さっき、変な子が一夏を探しているんだよ?」
「変な子?」
僕は首をかしげる。
「そう、何せ一夏の幼馴染だって言う子らしいよ?」
「一夏のね……?」
――あれ? じゃあ篠ノ之さんじゃなかったか?
ま、おそらく二人目だろう。僕の気にすることじゃないから別にいいか?
「よっ! 皆」
と、ここでようやく問題の一夏が現れた。彼は、数枚のチケットを片手にこちらへ歩み寄ってくる。
「さっき、久しぶりにバニング先生と外で会ってさ? ガンダムファイトの観戦チケットをもらちゃったんだ♪」
そう言って、ヒラヒラと数枚のチケットを見せた。
「凄いな? どうしてまた?」
隼人は滅多に入らないレアチケットを目に驚いた様子だ。
「なんかさ? くじ引きでフロンティアⅣの宿泊旅行券が当たったらしくて、そっちの方を優先したらしいよ? バニング先生曰く、『フロンティアⅣのバカンスでピチピチギャルたちを鹵獲してくるぜッ!』 っとか言ってた……」
「ははは……先生らしいや」
バニング先生の女好きは健在のようだ。
「ジュドーやカミーユも誘ったんだけど、あいつら鍛錬で忙しいからって断ったし、該もMS学園のモンドたちとゲーセン行く約束あるから無理っていうからアムロ達誘ったんだけど……丁度四人だし、どうする?」
一夏と僕たちを合わせて丁度四人か……
「あ、じゃあ俺ついて行っていいかな?」
と、隼人。
「じゃあ私も行く! アムロも行こうよ?」
「え? 僕も?」
当然僕は嫌な顔を向けた。
「ガンダムは、白兵戦用MSでしょ?」
「……」
しばらくしてから、僕は嫌な顔をしてこう言った。
「わかったよ! 行けばいいんだろ?」
「んもう……真面目に観戦してよね?」
「よし! それじゃあ、今週の日曜日の朝、正門前で集合な?」
一夏は、そういうと、俺たちにチケットを渡した。
「そういえば、今回出るファイターたちは誰だろう?」
「ああ、確か中国代表の……」
チケットを見直そうとする一夏だが、そんな彼の背後から一人の声が叫んできた。
「一夏ー!!」
その叫び声に驚いた一夏は、すぐさま背後へ振り向いた。そこには、彼が知るもう一人の幼馴染の姿が……
「り、鈴か!?」
一夏は、意外な存在が現れたことに目を丸くした。
「一夏! 久しぶりね?」
「あ、ああ……」
しかし、途端に一夏は苦笑いを浮かべてしまった。しかし、それに構わずこの鈴という少女は大声で彼との再会を喜んだ。
「アンタ、今でも変わることないわね?」
「ああ……何時、来たんだ?」
「一夏……」
そのとき、ふと一夏の背後から恐ろしい殺気が走った。箒である。
「この者は誰だ?」
「あ、ああ……小学校の時、お前が転校していった後にこっち来た中国の子だよ?」
「そうよ! 今じゃ、中国の代表候補性になったんだからね?」
 と、堂々と一夏に自慢する凰だが、隣でカミーユとジュドーがまた嫌な顔を向けた。
「そうなんだ、お前がね……?」
あの、御天馬で強烈な性格をしたいじめっ子のアイツが……と、ふと一夏は凰と過ごしたかつての小学生時代を振り返った。今思えば、彼女との思い出は美しいと言うと、正直そうではないことが多かった……

その後、凰はチャイムと共に二組へ戻った。二組ではフォルド先生による講習会が行われる。
「おーい、お前ら? 授業やんぞ~?」
MS学園の教員らは周に二、三回ほど講習を行いに来る。偶然今回が陽気の塊であるフォルドが今日の講習をするのだ。
「よーし! お前ら? 席につけよ? つかない女子は食べちゃうぞ~?」
いつものように軽くジョークを叩く彼だが、そんなフォルドの目の前にとある一人の幼児体系の女子生徒が視界に入ってきた。
「こらこら? 君いくつ? 小学校はここじゃないよ?」
「せ、先生……!」
 あわてて、他の生徒が制止しようとさせるが、すでに遅い。フォルドの一言で凰はゴゴゴと怒りだす。
「アンタね! あたしはこう見えて女子高生よッ!?」
「え、そうなの?」
「大体、なんで男の教師がIS学園に居るのよ!?」
「言っとくが、俺はMS学園の教員だぜ? 誤解する前に話すが、この学校にいる男子は、みーんなMS学園の生徒たちだ」
と、フォルド先生は凰へそう説明したのだ。
「え? じゃ、じゃあ……一夏もMS学園の生徒なの!?」
今さらのように凰は目を丸くしだした。
「一夏がIS学園にいることしか頭になかったから、MS学園の生徒になっていたなんて知らなかったわ?」
――コイツ、本当に無鉄砲だよな?
何はともあれ、フォルド先生がプロの軍人として語る戦術論が始まった。
「……と、地上での戦闘で最も恐ろしい戦況が、軍港で起こる敵の夜間奇襲がそれだ!」
チョークで図を書き、僕たちにこの戦場の恐ろしさというものが何なのかを説こうとフォルドはやや真剣な顔をしている。しかし、周囲のIS学園の女子らはつまらなさそうに聞いたり、中には居眠りをしたりする生徒も少なくなかった。それでもお構いなくフォルドの座学は続く。
「俺は、空中戦専門であるが空での戦いは一瞬で勝敗が決まる。しかし、地上での戦闘は長期戦や先手を駆ける奇襲戦、そして工作員を敵地へ送る……」
と、フォルド先生は、空戦以外にも地上での戦歴もあるためそれなりに詳しく僕らへ説明する。確かに、軍港の夜間奇襲は恐ろしい。夜更けの闇が広がる不気味な海面から水陸両用MSが巡回の敵機の足を掴んで海へ引きずりこもうとする……考えただけでも恐ろしい! それに、視界の悪い闇夜は何処から敵が来るかなど肉眼では捉えにくい。気が付いたらロックオンされていた。
「……ん?」
しかし、フォルドは転向初日で窓辺でたそがれる凰を見て深くため息をついた。
「おい? そこ、転入生? 俺の講習聞いてる?」
「聞いてるわよ……面倒な話ばっかでつまんないわよ?」
と、教員でも相手が男ならこういう態度をとるのだ。さすがのフォルド先生もそれにはイラッと来た。
「お、お前な……?」
「それは、あくまでMSでの話でしょ? ISの大半は空中戦なんだし、それにアタシなら思い切って敵をバッサバッサ無双するけどね?」
「無鉄砲に敵陣へ突っ込めばいい……そう思ってるのか?」
呆れた顔をしてフォルド先生が問うと、凰は堂々と胸を張って答えた。
「ええ、そうよ?」
「……あのな? 敵が地上にしかいないとは限らないんだぞ? 夜間空戦は地上よりもさらに恐ろしいんだ。ただでさえ、ミノフスキー粒子が濃ければパイロットは通信やレーダーが使えない条件の下で戦わなければいけないんだぞ?」
しかし、凰はフォルド先生の理論を無視してたそがれつづけているばかりだ。さすがにフォルド先生はため息を隠せなくなった。

「あんのツインテチビ! 言いたい放題言いやがってぇ!!」
休憩室で軍からの戦友、ルースとミユに愚痴を言いまくっていた。
「ま、民間人でその年頃の娘はそんなもんだろ?」
と、年上の元僚機であるルースは、最近の子はというような顔をした。同じくミユも同じようにため息を漏らす。
「そうね? まだ、十五、六歳の子で代表候補性っていうならそういう態度出しちゃうかもね?」
「だが……フォルド? ひょっとしたら、お前の軽口がその子を挑発させちまったんじゃねぇのか?」
ルースは相棒が起こす主な問題を当てて見せた。
「別に俺は……ああ、うん……」
そういえば、初対面でそれっぽいことを言っちゃった感じがすると、今さらながらうなずいた。
「……どうせ、その嬢ちゃんにセクハラ発言したんだろ?」
「それなら、言い返されても自業自得よね?」
「な、なんだよ! 俺も悪いってか!?」
「お前は軍にいたころから挑発的な態度を取って来ただろ?」
「う、うぅ……」
フォルドは返す言葉もなかった……

放課後、教科書を一旦寮へ返しに言ってから、夕食を取ろうと僕は先に寮を目指した。明沙を連れて……
「……先に行ってろよ?」
「いいじゃない? 私も一旦寮へ戻る予定だし」
「そ、そう……?」
「それよりさ? あの中国から来た代表候補性……」
途端、明沙はやや不機嫌に表情を曇らせた。
「どうしたよ? あのチビっ子になんか言われたのか?」
そういえば、学食でも騒々しいようで、御天馬の域を超えた強烈なオーラを感じた。
「……何だか、あの子ね? 明るいのにすごい強い感情を感じたの」
「え?」
……もしや、彼女も僕と同じように人の気配やオーラを感知することができるのか?
「……確かに、なんだか猛烈に『戦いたい!』って感じが半端なかったね?」
「それも、その思いは誰よりも一夏君に対してなの……」
「やっぱり……か、一夏の背後からすごい視線が感じられたし、あいつ自身も俺らみたいに感じてたな?」
「何か果たしたいことのために、『力』で解決しようとしている。乱暴な感情……」
「チッ! 気に入らねぇな……」
そう歩きながらしているうちに、僕らは寮に着いた。部屋に入ってそれぞれの筆記用具や教科書などを机に置こうとしたのだが……
「あ、アムロ!?」
明沙がベランダを見て震えながら僕を呼んだ。そんな彼女の要素を見て、尋常じゃないことは悟った。
「どうした!?」
「ひ、人が……!」
ベランダには、一人の……少年? それも、小柄な小学生ほどの少年がベランダの中で倒れているではないか!?
「だ、大丈夫か!?」
僕はとっさに、少年の元へよると、彼の小さな体を揺さぶった。だが、心配するには及ばなかったのだ……
「ZZz……」
ふと、少年の元から寝息と鼾が聞こえた。それも、彼は気持ちよさそうに寝ているではないか、これはこれで余計な心配をかけたとホッとした僕らは、とりあえず少年をこのままにしておくのもあれだし、ひとまず部屋の中へ運んだ。
「……ねぇ? この男の子、どこの子かな?」
と、明沙は膝を枕に少年を寝かしつけながら僕に問う。
「さぁ……ひょっとしたら関係者の子供かも?」
もしかしたら、教員かだれかの子供が学園についていった際に好奇心から歩き回って迷子になり、偶然にもここまでたどり着いたとか? いや、だとしたらどうやって数十階建ての寮のベランダまでたどり着けているのだ? ちなみに寮の部屋は鍵を閉めたままだ。
「……?」
すると、ようやく問題の少年が明沙の膝の上で目を覚ましたのだ。
「あ、起きた!」
明沙は、少年の髪をなでながら彼を見下ろした。
「……こ、ここは? オイラは……?」
「ふふ、よく眠れたかな?」
その声に、少年は微笑む明沙の顔を見上げた。
「……観音菩薩様ぁ?」
少年には、母性をもって微笑む明沙の笑顔からそう見えたのだった。
「……おい、大丈夫か?」
そこで、僕がようやく割り込んで少年に様態を伺う。
「えっと……あぁ!」
少年は、勢いよく明沙の膝の上から起き上がると、大慌てな顔を浮かべてしまった。
「しまったぁ……! オイラとしたことが、昼寝しててこんなに暗くなっちまったぁ~!!」
「あ、あの……ボク? 大丈夫かな?」
苦笑いしながら、明沙は少年に呼びかけた。
「それよりも、君は誰だ? いきなり人の部屋のベランダで寝たりして……」
下手すれば、不審者かもしれない。僕はその面も考えて少年を警戒した。
「ま、待ってくれよ! オイラ、怪しいモンじゃないんだ。本当だよ!? ネオチャイナから来たガンダムファイターだって!?」
「ネオチャイナ……?」
そして、ガンダムファイターときた。まさか、今日の昼に明沙が言っていたあのネオチャイナのガンダムファイターのことなのか?
「あ! も、もしかして……君、ネオチャイナ代表のサイ・サイシー選手!?」
明沙は彼の姿を目にそう叫んだ。
「う、うん……確かに、おいらはネオチャイナ代表のドラゴンガンダムのガンダムファイター、サイ・サイシーだよ?」
「ほ、本物!? で、でも……どうして、君がIS学園なんかに!?」
明沙は、興奮してそれどころじゃないようだ。
「そ、そうだ! オイラ、御家の敵討ちに来たんだよ!?」
と、少年ことサイ・サイシーは己の目的を思い出した。
「仇? 何の話だ?」
僕は、首を傾げた。
「……我が、少林寺根絶の敵討ちのために海を渡ってアイツがいる、このIS学園へ来たんだよ!?」
「アイツ?」
何やら訳アリのようだ……
「そうさ! アイツのせいで、少林寺は取り壊しになって、兄弟子や弟分たちまでもオイラのところを去ることになっちまったんだ! オイラが……オイラが、『男』だってだけの理由で……!!」
サイは、そう悔しみをかみしめながら目頭を熱くさせ、その勢いはとまることをしらず、いままで堪え続けていた悲しみを開放し、思い切って明沙の胸へ飛び込んで泣いてしまったのだ……
「よしよし……とりあえず落ち着いて? 何があったのか、お姉ちゃんたちに話してごらん?」
明沙は、サイの頭をなでながら彼を泣き止ませて事情を聴こうとした。僕も、とりあえず冷蔵庫から缶ジュースの一本を手に取って、それをサイに手渡した。
「ほら? とりあえず、何か飲んで落ち着きなよ?」
「あ、あんがと……」
僕からジュースを受け取ったサイは、徐々に落ち着きを取り戻した。
「何があったの? 遠慮せずに話してみて?」
「……」
しかし、サイは下を向いたままだった。恐らく僕たちを信用していないのだろう。
「大丈夫……誰にもサイ君のことを言ったりはしないよ? 遠慮しないで話してみて?」
「……実は」
ネオチャイナのガンダムファイターこと、少林寺拳法の若き後継者サイ・サイシーは海を越えて、遥々このIS学園へ来た理由を僕らに話した。
話によれば、彼は少林寺拳法の後継者で前ネオチャイナ代表の息子だという。彼も、そんな父の跡を継いで立派なファイターになろうとそれなりの努力をし続けていった。
彼の住む少林寺には、数多くの弟子達が修行をしており、サイはその中から年上や年下の弟子たちからも愛されるよき弟分で兄貴分でもあった。
しかし……ある日、少林寺の弟子のひとりである凰がISの適性が高いことが知られ、政府が彼女を連れて行ったのである。
元少林寺のカンフー少女という名で有名となった凰は、いつしかその実力はISでも本領を発揮し、中国の代表候補性の一人に選ばれたのである。
そのことから、中国ではさらなる女尊男卑が上昇していき、その影響で中国全体の女性たちからは「次の少林寺の後継者は女だ! さもなくば取り壊せ!!」というデモが起こり、由緒ある少林寺拳法にさえ女尊男卑の風習が襲い掛かってきたのだ。
案の定、少林寺の女弟子らはそれに浮かれて次々に謀反を起こし、少林寺を乗っ取ったのだ。
そして、サイは側近の僧達と共に寺を追われてしまったという。
こうして、サイはこの発端の引き金である凰に対して恨みを抱き、彼女を殺すために側近の反対を押し切って日本へやってきたのである。
「……そんなことがあったのか?」
僕は、少し気の毒に思った。そりゃあ、誰だって同情する話だ。
ちなみに、今の彼の年齢はなんと16、7歳だという。下手すれば僕たちよりも年上かもしれない。いや、年上だ……
「……死んだオイラの父ちゃんが言ってたんだ。強さと暴力をはき違えるなって? 拳法は決して人を殺めるためのもんじゃないんだ! 心を高めてこそ少林寺拳法なんだ! それなのに……あいつは、凰は、ISなんかの『兵器』に手足染めちまったんだ! アイツは強さと引き換えに暴力を選んだんだ!」
拳を握り、身を震わせるサイを見て、僕はややビビった。しかし、そんなサイの両肩に明沙の手が添えられた。
「おちついて? とりあえず、学園に居ると見つかったら大変だから早くここから出ていった方がいいよ?」
「で、でも! オイラは……」
「気持ちはわかるよ? 私もそれは許せないと思うけど、『復讐』なんてダメ。拳法は、人を殺めるものじゃないんでしょ?」
そう、明沙はまるで母親のようなまなざしでサイに問いかける。
「うぅ……」
逆に言われてしまい、サイは返す言葉を失ってしまった。
「……サイ、とりあえず今日は遅いからさ? 明日になってからまた考えよう? 仇討ち以外の方法もきっと見つかるさ?」
納得のいかない気持ちは僕でも痛いほどわかる。とりあえず、僕も彼にかける言葉はそれしかなかった。
「……」
納得がいかなくも、サイはとりあえず今日はすでに夜更けゆえに休む方を選んだ。

「ほら? 僕のベッド使ってよ?」
僕は、自分のベッドをサイに勧めた。
「え、でも……」
やはり、空巣まがいのことをやった自分が、寝床をもらえることにやや遠慮が感じる。
「いいよ? サイ君……サイさんは私のベッドを使ってよ?」
「サイでいいよ? そうだな……」
すると、サイは素早い身のこなしでアスナのいるベッドへ入った。
「さ、サイ君?」
「じゃあオイラ、明沙姉ちゃんと一緒にねる!」
無邪気な顔を見せて明沙と同じベッドの中へひょっこりと入った。それも、明沙のパジャマの端を掴んで離さない。
「……気に入られたようだな?」
「うぅ~……アムロと一緒に添い寝できると思ったのに~」
「僕にとってはセーフ……」
仕方なく、明沙はサイに寄り添って一緒に寝ることにした。
睡眠中、アムロは鼾をかいて他人事のように寝ている。それとは対照的に明沙は知名人とはいえ、他人の男の子と添い寝することになってそれどころではない。
しかしサイは、可愛らしい寝顔を向けながら明沙の懐へ寄り添ってくる。それに対して彼女はやや母性的な感情になった。

翌朝、二人はサイにしばらく部屋から出ないようにと言ってから、学園へ向かった。放課後に一夏達と一緒に協力して彼を学園から外へ送ろうと思ったからだ。
しかし、サイはやはり一度決めたことをやり遂げたいという願望が強く、彼はついに部屋を出て行ってしまった。
「ごめんよ? 二人とも……」

そのころ、二人は通学路の敷地内を歩いていた。寮から学園への道のりは足元の地面に表示されるデジタル標識が示してくれる。別に、看板の標識でも立てればいいだけの話だが……
「中国のファイターが来るなんて本当に予想外だな?」
「そうだね? サイ君、わかってくれたかな……?」
いちよう、明沙からもサイに言っておいたのだが……
「……あ! ちょっとトイレ」
急に用を足したくなった僕は、明沙に先へ行くよう言った。
「もう、行く前にちゃんと済ませないと……」
「うるさいな! 仕方ないだろ?」
「早く来てよね?」
「わかった! わかった!」
僕はとりあえず明沙から離れてトイレを探した。MS学園の生徒らが来たことで、男性用の仮設トイレが少なくも外へ設置されているのだ。
「えっと……どこだろう?」
しかし、数が少ないのでなかなか見つけられないのだ。
「ちょっと、いいかしら?」
「……?」
背後からの呼び止めに僕らは振り向いた。そこには、あの中国の代表候補性である凰鈴音が仁王立ちしてこちらを見つめていた。
「な、なに……?」
昨日のサイの話を聞いて、僕はやや表情を曇らせて彼女を見た。
「あんたが、一組の代表になった嶺アムロ?」
「そ、そうだけど……?」
「ふーんっ……」
すると、セシリアみたく凰はビシッと指を向けてこう言い出した。
「嶺アムロ! 今度の代表選は、織斑一夏と入れ替わりなさい?」
「は、はぁ?」
「アタシは、一夏と戦ってみたいの!」
「へ、へぇ……」
「だから、次の代表選は何としても一夏と変わりなさいよね?」
「い、いいけど……って、ダメだって! 急にそんなこと言わないでくれよ?」
「あっそう……」
すると、凰は瞬く間に僕の懐まで飛び込むと、片足を横に振り回して蹴りを入れてきたのだ!
「ひっ……!」
「ハロ!」
先ほどから小脇に抱えられていたハロがスポッと離れて口をパカッと開いた。中からエアクッションが飛び出して、凰の回し蹴りをガードしてくれた。
「な、なによソイツ!」
突然の邪魔に凰は驚いた。無理もない。ハロは父さんが作った次世代警護用AIロボットだ。
「ハロ! ハロ! 障害発生! 障害発生!」
「い、いい加減にしないと人を呼ぶぞ!?」
まさに間一髪、僕危うし……!
僕が叫ぶと、凰は後へ下がった……その時だ。
「アムロー!」
背後から彼の頭上を飛び越して、小柄なシルエットが凰の前へ着地した。
「さ……サイ!?」
凰は、その少年古ことサイ・サイシーに目を丸くする。
「凰! さっきの蹴りといい、少林寺で培われた拳法を私情のために使うなんて、許さねぇぞ!!」
「うっさいわね! アンタには関係ないでしょ!?」
「あるわけないわけない! 少林寺拳法根絶の恨み……」
しかし、とっさに彼は明沙が言った言葉を思い出した。それを思うと、さすがではないが拳で戦うと、こちらも私情のためになってしまう……
「ッ……!」
苦虫をかみつぶすがごとく、サイは堪えて凰を見逃した。
「……今度ばかりは許してやる! さっさと行け!!」
「サイ……あんた、まだ少林寺拳法のことを気にしてるの?」
真顔になった凰は問う。
「お前のせいで、少林寺拳法は……お前のせいで!!」
「言っとくけど、『IS』が出てきた以上、もう素手で戦うような風習は終わったのよ。いいえ、それ以前に……」
「それでも、オイラは……!」
「サイ、『IS』の前じゃ拳法は勝てないわ」
「ッ!!」
「じゃ、あたしは行くから。もう付きまとわないでよ?」
そういうって、凰は去っていった。
「……くそっ!」
そのあと、サイは返す言葉を失った。悔しがって地面を何度も殴った。
「サイ……」
僕は、彼に同情した。何とかしてやりたいところだが、今の僕ではどうにも……
しかし、あきらめはしない。
「サイ、少林寺拳法で凰と凰のISに勝ちたい?」
「……勝ちてぇよ、勝ちてぇけど! 出来やしないじゃないか!?」
「落ち着けよ? 僕に一つ考えがある。けど、話が通るかはわからないよ?」
「ほ、本当か?」
「ドラゴンガンダム、持ってるよな? 今」
「あ、ああ! いつでも装着できるよ!?」
「よし……」
僕は、とても珍しいことで、誰かのために一肌脱ごうと考えていたのだ。それに、僕を襲ってきた凰に対しても、少なからずの怒りがあった。あの時は本当にびっくりした。常日頃ハロを持ち歩いておいて本当によかったよ……
 
 

 
後書き
次回
 
中国代表候補性が駆る専用機「甲龍」攻略のため、若き後継者は残された期間で特訓を積む。
「龍、天下る」

今作のサイはガンダムファイターとしては素人寄りですが、登場するごとに原作に沿って強くなります。 
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