大切なのは中身
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第七章
第七章
「御願いします」
「わかりました。それでは」
「はい」
こうして二人はようやく恋人同士になれた。皆がクレープ屋に行くとこれまで以上に満面の笑顔を浮かべた薫がいた。そうして佳澄も。
「おいおい、最高に幸せみたいだな」
「もう天国にいるみたいだな」
「天国はこの世にあるんですよ」
薫はカウンターの向こうから満面の笑顔で彼等に答えるのだった。
「この世になんですよ」
「何か宗教に目覚めたのか?」
「ひょっとしてよ」
「いえ、違います」
しかし彼はそうではないと言うのだった。その佳澄の横で。
「わかったんです、やっと」
「わかったねえ」
「まあそう言う気持ちもわかるさ」
彼等にしろ二人の間に何があったのかはわかっていた。薫が告白して佳澄はそれを受け入れた。それだけのことだがそこにあるものは二人、とりわけ薫にとっては非常に大きい。
「それでも異常に嬉しそうだな」
「全くだよ」
彼等は今度は苦笑いになった。
「そんなに嬉しいのかよ、やっぱり」
「二人になれて」
「佳澄さんの御心も知ることができましたし」
「私もです」
そしてそれは佳澄も同じなのだった。彼女も薫と同じ笑顔になっている。
「薫さんのことを知ることができましたし」
「そうか。あんたもか」
「それを知ることができてか」
「薫さんの御心はとても素晴らしいです」
佳澄は言った。
「大切なものはまず心ですから」
「心か」
「まあそうだけれどな」
彼等もそれはわかる。心が悪くてはどうしようもないことは。
「それは御前もなんだよな」
「やっぱり」
「私は最初からそこを見ていました」
薫の返答はこうであった。
「佳澄さんはまず御心がとても奇麗ですから」
「だから好きになったっていうんだな」
「それでな」
「その通りです。佳澄さん程御心が奇麗な人はいません」
彼女しか見えていないのは相変わらずだがそれ以上になってしまっていた。今の彼は。
「本当に」
「まあおのろけはわかったさ」
「おめでとうとだけ言っておくさ」
皆はまた苦笑いを浮かべて彼に告げた。
「それじゃまあいいか?」
「クレープだけれどよ」
「あっ、はい」
「御注文は何ですか?」
二人はすぐに仕事の顔に戻る。その顔も実に明るい。
「そうだよな。アイスクリーム貰おうかな」
「バニラな」
そのバニラを受け取りながら話をする。クレープの中にあるそれは冷たいが確かに甘い。皆はそのアイスクリームを食べながら言うのだった。
「ったくよ、アイス食っても熱いぜ」
「妬けるな、おい」
「っていうか焼けるよ」
冗談めかして二人に言う。店の前でクレープを食べながら。
「まあいいさ。俺達もな」
「そんな性格のいい彼女見つけるか」
「佳澄さんは本当に素晴らしい方ですよ」
そしてここでまた薫がのろける。
「それは私が保障します」
「やれやれ、それでもな」
「これには参るな」
苦笑いのままクレープを食べ続ける。しかしそれでも笑っていることは事実だった。何故なら二人の心がわかったからだ。だからこその笑顔であった。
大切なのは中身 完
2009・5・31
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