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大切なのは中身

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第五章


第五章

「向こうはよ。どうなんだよ」
「ああ、佳澄ちゃんかよ」
「そうだよ。あいつはあれだろ」
 言うまでもなく薫のことである。
「あいつはよ。けれど恋っていうのはあれだろ?一人じゃできないだろ」
「あいつはもう一人で何処までもいってるけれどな」
「それでも二人が必要だぜ、こういう話はな」
 このことが話されるのだった。皆話をしながら歩いている。道はごく普通の道路に面した道であるがそれでも話していることはいささか普通のものではなかった。
「だからよ、彼女はどうなんだよ」
「ああ、そうだよな」
「それだよな」
 皆もここで頷くのだった。彼女がどういう考えなのか。それが問題だった。
「気付いてないとかは」
「それは絶対にない」
 このことは真っ先に否定された。
「絶対にな」
「それはないか」
「あれだけあからさまなんだぞ」
 まずは薫のその有様であった。
「でれでれしてよ。毎日店に来たりわざわざアルバイトに入ったり。あれで気付かない奴いるか?」
「いや、絶対にいねえ」
「誰でもわかるレベルだな、あれは」
 その通りであった。それはまさに誰でもわかるレベルであったのである。
「だよな、じゃあやっぱりあの娘も」
「気付いてないわけねえだろ」
 これもすぐに察しがつくことであった。
「むしろ気付いていなかったらおかしいぞ」
「やっぱりそうか」
「そうだよ。絶対にない」 
 このことが強く確認されるのだった。
「それにな」
「それに?」
「あの娘結構以上に賢いぞ」
 佳澄自身のことも話されるのだった。恋愛は一方からのみで成り立つものではない。もう一方もあってそれからなるものである。だからこそ佳澄のことも話されるのだった。
「気付いてないわけないだろ」
「そうか、けれど何で何でもないような顔をしてるんだ?」
 次に引っ掛かるのはこのことだった。
「あの娘何でもないって顔だよな」
「ああ、確かにな」
 そうなのだった。佳澄は横にいつも薫がいてにこにこしていても何もないように落ち着いている。そうして普通にアルバイトを続けているのである。
「本当に何でもないって感じでな」
「好きなのか?それとも」
 続いてこのことも考えられる。
「嫌いなのか?どうなんだ?」
「さてな。その辺りが一番わからないんだよな」
「そうだよな」
 皆ここで首を傾げさせてしまった。このことが一番重要なのであるが残念なことにこのことこそが最もよくわからないことなのである。
「どうなんだ?ほんとうに」
「嫌いだったら態度に出ないか?」
 一人がこう言った。
「やっぱりな」
「じゃあ好きなのか?」
 嫌いでなければこれだった。結局のところどちらかしかない。恋愛というものは極論すれば二元論だからだ。どちらかしかないのである。
「あいつのことが」
「悪い奴じゃないけれどな」
 今度は薫の話にもなる。
「性格は穏やかだし親切だしな」
「背も高いし顔もまあいい」
 彼は実はそんなに評判の悪い男ではない。むしろ仲間内でも学校でも評判がいいのである。性格と容姿で悪く言われたことはない。
「大学の授業も真面目に出てるしな」
「悪いところはないよな」
 こう話されるのだった。とにかく評判は悪くはない。
「じゃあ付き合うにはいいよな」
「だよな。バイトだって手を抜かないしな」
 彼のことも確認される。しかしであった。
「けれどどうなんだ?今のあいつってよ」
「まんまストーカーだよな」
「完全にあれだぜ、あれ」
 皆の顔が顰められる。彼に対する言葉が変わってきていた。
「もうよ。砂場で遊ぶ女の子を見る目だよな」
「そのものだな」
 かなり酷いことを言われる。しかしそう言われるだけのものが確かにあった。今の薫は完全に危ない目になってしまっているのだ。恋の病のせいで。
「そんな人間が横にいたらやっぱりな」
「嫌だよな」
「なあ」
 このことも言われるのだった。
「やっぱりな。それはな」
「じゃああの娘は嫌なのか?」
 話が戻ってしまった。
「あいつと一緒にいるのが」
「そうじゃないのか?」
「いや、だったらもうとっくに行ってるだろ」
 しかしここでまた話されるのだった。話は堂々巡り気味になっていた。
「とっくの昔にな。近寄るなとかな」
「何せ客だった頃からあんなのだったからな」
 その時からなのはもう皆知っていた。毎日クレープを買いに来て覗きに来る。そのことも知っているからこそ言える言葉であった。
 
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