相棒は妹
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とある兄妹の微量青春
日曜日 午前一〇時
本当に時間きっかりに来たな。実際気になってんじゃないの?
「兄貴、自慢できる程の恋バナある?どうせネタか何かでしょ」
ほう、言ってくれるじゃん。俺だって恋した事だってあるんだよ。お前みたいに人間辞めたわけじゃないんだからな。
「調子のんな」
すんません。って、俺は何も謝るような悪い事してねぇよ。人を言葉で乗せる方こそ良くないだろうが。
「私そんなつもり無いし。ていうか、さっさと兄貴の恋バナ(笑)やってよ。私は動画を作るための機材が届くまで、仕方なく兄貴の部屋で兄貴の恋バナを聞いてあげてるんだから」
お前に恩を感じた俺がバカだったよ。つか、(笑)付けんな!
「はいはい。じゃあ話してよ。このままだと私が兄貴の部屋に来てるだけじゃない」
そりゃ既成事実だ。まぁ、このままお前と言い合うのはめんどいから、ちょっとずつ話してみるか。
にしても、妹に向かって自分だけが恥ずかしい話するなんて……志乃、なんかエロい感じの服着て来いよ。それで対等にするから。
「兄貴、セクハラ」
すんません。もうそんな事言わないから、そんな怖い目で見ないで。その視線だけで絶命しちゃいそう。
「兄貴はMなの?いいから話してよ。そうやって時間稼ぎをしたって、機材が届くまであと四時間近くあるんだからね」
ぐぅああ……マジで言わなきゃダメなの?今からでも良いからカラオケ行こうぜ!今日は特別にカレーライスとかラーメン食っていいからさ!
「恋バナや。それが嫌なら、首チョンパ」
地味に上手い事言ってんじゃねえ!完全に脅しだろ!川柳家の皆様に謝れ!
「今の、川柳じゃなくて俳句なんだけど」
どこに季語が含まれてるんだよ……。
「首チョンパ」
そこは恋バナの方が印象的に良いと思うぞ。首チョンパの季節なんてあったら、日本は愚か世界中パニックだ。
「ちなみに春」
新たなスタートの季節から首チョンパの刑に晒されるなんて嫌だね!
「じゃあ恋バナよろ」
くそう。しょうがない。これでも本気で恩義を感じてる相手だしな。これぐらいどうって事ないっての!
「今好きな人は?」
一番最初から直球来たな。ううん、盛り上げとしては大事なのかもしれないけど、あいにく今はいないな。まだ喋った事無い女子だっているわけだし。
「つまり兄貴は、クラスの女子と全員友達になって、あわや学校中の女子とキャッキャウフフな関係になりたいってわけ。本当に変態。こんなのが兄貴なんて私耐えられない。兄貴保育所で人を変えてもらった方が良いかな」
ツッコみどころがありすぎる上に、俺に対する罵詈雑言がハンパじゃない!いつ俺が全学年の女子を虜にしたいだなんて言ったんだよ!相手は一人で十分だ!
「その一人に選ばれた女子が可哀想ね。きっと兄貴の常人以上のムッツリが解放されて、変なプレイだとか変な格好だとかされちゃうんだろうな」
お前は俺を何だと思ってるんだ……。まぁ、話を戻そうぜ。とりあえず、今は気になってる女の子はいないな。むしろ、嫌悪している相手が一人いるぐらいだしな。
「本山さんのことね。てっきり兄貴のタイプだと思ってた」
お前本気で言ってんの?あいつの性格を理解していてそれは無いわー。あいつは確かにクラスの中で見れば美人でスタイルもいいかもしれない。でも、性格の面を考えれば一番危険な奴だと言ってもおかしくないだろ。
ああ、志乃も可愛いぞ。そだな、俺が話した事あるクラスの女子の中で一番の美女だと言っても良い。
「本山さんは?」
あいつは美人。お前は美女だ。
「兄貴キモいわー。それはキモいわー。実の妹に堂々と言っちゃう辺りイカれてるわー」
全部棒読みじゃねぇか。まぁ、強いて言うならお胸の方をッグボァ!いきなりアッパーしてくるとか、何事だよ!
「いや、私に対してものすごい失礼な事を言おうとしたからつい」
気弱な男子よりもおっかねぇぞ、こいつ。ぶっちゃけ、お前って何カップあんの?
「……兄貴って、マジでキモい?冗談抜きでヤバい人?普通そんな事、他人は勿論、妹にも聞かないでしょ」
そうか?俺の友達は妹とそういう話してるっていうから、俺もさらに仲を深めようと聞いてみたんだけど。まぁ、言いたくないなら言わなくていいけどな。
「そうさせてもらう。ちなみに、兄貴は何カップ?」
お前こそ、本当に俺を一体何だと思ってるんだ?キモい以上に危ないぞ。
「え、見た目は男、中身はオカマの変探偵じゃないの?」
そのネタ禁止!つか、俺がいつオカマになった?そんな素振り一度も見せた事ねぇよ!
「ちなみに私はAAカップ」
結局言ってんじゃん!つかちっちぇえ!
「よし、殺そう」
いや待っていきなりスタンガン持ち出さないでつかそれどこから持ってきたんだよああ本当にごめんなさい先程の発言を撤回しますはい十分に大きいですぅうう!!
「やっぱ殺そう」
もうどっちだよ!まぁぶっちゃけ、俺は小さい胸でも大きい胸でもどちらでもいけるから安心しろ。
「何を安心すればいいの?私は兄貴に胸を見せるつもりなんて、世界から納豆が消えるぐらいに無いんだけど」
納豆を比較に表すなんて、お前どんだけ納豆好きなんだ?ていうか、何でそんなに恥じらう事無く俺とエロトーク出来るんだお前。
「兄貴に恥じらう姿を見せる程重要じゃ無いんじゃない?」
なるほど。真の想い人以外には素直にはならないと。まず、俺と父さんは無いな。
「父さん?誰それ?」
……父さんが今すげえ可哀想になった。あの人、実の娘に忘れられる程にいらない人なのかよ。
「そんな変態紳士よりも兄貴の恋バナ。さっきからエロい話しかしてないじゃない」
ああ、そうだな。えっと、今好きな人はいないから、次は前に好きだった人になるのかね。
「そうなるね」
マジか。えっと、あれだ。お前、俺のタメの竹下徒折って奴知ってるか?」
「うん。『竹下通り』ってからかわれてた吹奏楽部の人だよね。もしかして、兄貴はその人が好きだったの?」
ああ、うん。まあね。……こうして改めて言ってみるとマジで恥ずかしい。志乃も好きな人とか言えよ。一人はいたんだろ?
「今は兄貴の方が気になる」
そうですか。……まぁ、話続けるか。竹下は俺が中一だった頃同じクラスでさ。小学校は違ったからその時に初めて知り合ったんだよ。
「でも、出席番号順だと席は遠いんじゃないの?」
そう。それに、入学当初は全く気に留めても無かったし。その時は赤の他人同然だった。でも、初めての席替えで隣になって、そっからちょっとずつ気になってったんだよ。
「中一から青春してたんだ。兄貴のくせにやるじゃん。あの時の兄貴は剣道だけかと思ってた」
まぁ、ぶっちゃけた話、俺の中学の思い出は学校生活よりも部活だしね。ただ、異性が気になるお年頃ってのは誰にもあるもんなんだわ。それを知って、俺は竹下に恋するのは変な事じゃないって気付いたね。
「あっそ。で、兄貴は竹下先輩とどこまでいったの?」
俺の感想は無視かよ。別に良いけどさ。えっと、竹下とどこまでいったかだって?そんなの、言うまでも無いだろ。
コクっても無いし、付き合っても無い。めっちゃ仲良かっただけで、二年からは違うクラスになっちまった。
ただ、体育祭の準備で同じ係になってさらに仲が深まったぐらいかな。あの時はマジで楽しかったな。
「プッ」
笑うな!いやぁ、あの頃の俺は告白するだけの勇気が無かったというか、お喋り出来て十分だったというか、そんな感じだ。
「兄貴、顔赤いよ」
そりゃ、これだけ赤裸々告白されれば誰だってこうなるだろうね。
「にしても、兄貴は本当に意気地なしだよね。もしかしたら竹下先輩も兄貴に気があったかもしれないのに」
いやいや、それは無いって。あいつは恋愛とかそういう方面には詳しくないタイプだったし。
「そういう人に限って本性が凄かったりするもんだよ。他の人に『葉山君が貴方に気があるよ』とか言われたら余計でしょ」
ああ、その流れな。それは中二か中三の頃だな。
「兄貴、竹下先輩以外にも気になった人いたの?どれだけ図々しいの」
それ言われると痛いわ。でも、事実気になっちゃったんだからしょうがない。
「その人の名前は?」
これならお前も知ってると思うんだけど……北野唯って奴、聞き覚えある?
「勿論。だってその人、女バスのキャプテンじゃん。ていうか、兄貴レベル高すぎて爆笑出来るよ」
そこでニヤニヤすんなって!これも事実なんだからさ!まぁ、そいつとも最終的には進展無かったんだけどね。ただ、最後はそういう関係とか考えないで楽しく話したな~。
「簡単に言えば、兄貴は恋愛において三年間全く進歩が無かった童貞なんだね」
人が思い出に浸ってる最中になんて酷い事言いやがる。それでも俺は女子と気軽に話せる人間だからな。
「で、北野先輩とはどういう関係で」
北野は、中二から卒業にかけて同じクラスだった。具体的には二年の二学期から話すようになったんだっけ。部長の間柄がきっかけだった。
「へえ」
でも、俺はあいつの事を小学二年生の頃から知ってるんだよ。
「何で。学校違ったよね」
まぁな。実は、あいつの姉貴が俺と同じ剣道クラブに入っててさ、そこに北野もいたんだよ。何度か母さんに連れられて道場来てた志乃も、何度かあいつに遊ばせてもらってるんだぞ。
「ホントに?私、そんな記憶全く無いんだけど。ていうか、北野先輩は剣道やってなかったの?」
あいつもお母さんと見学してたからな。まぁ、相手はそんな昔の話覚えてなさそうだったから、あえて言わなかったけど。
「勿体無いね。そこで過去の関係性を知らせておけば、周りの男子よりは特別な相手になれたのに」
それは言えてるな。でも、あいつってサバサバしてる性格だから、そういうのって気にしない性質だと思うんだよ。まぁ、その性格があったからこそ、他の女子以上に緊張しないで、いっぱい会話する事が出来たのかもしれないな。
「でも、実際良いところまでいったんでしょ?」
どうだろうな。それこそ、あいつの友達の誰かが俺の事を何か話したじゃねぇの?一時期互いに声かけなかった時あったし。
「兄貴って、なんか女子をいい気にさせといてはっきりさせない悪魔みたいだね」
あながち間違ってないかも。今思うと、俺ってホントに損ばっかりしてたんだな。友達も何人か彼女いたし。
「兄貴は友達と恋バナとかした事無いの?」
いや、持ち掛けられたり、逆に恋の相談受けた事はあったけど、俺はそういうの避けてたんだよ。俺なんかが恋愛を語る事なんて出来やしないし。
ああ、そういえば、中三の一学期にクラスの女子の中で『クラスの男子ランキング』みたいなの作られてた気がする。
「何それ。兄貴って下らない事するの大好きだよね」
俺じゃねぇよ。まぁ、俺はそのランキングの結果知らないんだけどな。多分、健一郎辺りが知ってんじゃないかな。あいつとも同じクラスだったから。
「聞いてみれば?」
今?無理だよ、あいつ今日バイトだから。メールでも送っとくか。
「林間学校とか修学旅行とかでイベントは無かったの?」
無かったね。つか、修学旅行は全く良い思い出が無い。考える度にイライラさせられるぐらいだからな。
「私も、別に楽しく無かったけど。兄貴は何でつまらなかったの?」
班員がクソだった。
「あるあるすぎて反応に困る。北野先輩とは離れちゃったんだ」
上手い具合に離れたね。つか、あの班決めは裏で仕組まれてたからな。俺も班長になって好きな奴と組めば良かった。
「ケンとも離れたの?」
いや、あいつとは幸い一緒だった。でも多分、あいつも修学旅行の事はあんまり良く思ってないぞ。あの後散々愚痴言い合ったわけだし。
「そういうイベントには恵まれてなかったんだ。なんか可哀想」
お前だけには言われたくないな。つか、俺の恋バナはこれで終わりなんだよ。余った時間お前のも聴かせてもらうぞ。
「それはおかしい。そもそもこれは、兄貴が私に恩返しするっていう話で始まったんだから」
じゃあ残りの時間、ゲームでもうやる?
「私としては、兄貴の意外な恋話が聞けて十分なんだけど。でも、彼女が出来た経験が無い分恋バナとしては浅いレベルだけどね」
それでも平均並みの話は出来たっしょ。あー、恥ずかしい。顔から火噴きそう。うお、汗かいてるよ俺。
「じゃあ私は退室するから。機材届いたらまた集合ね」
えー、せっかくだから久しぶりに遊ぼうぜ。ヌマブラとかどうよ。
「私、この後用事があるの」
どんな用事?
「ガヤガヤ動画見る」
うっわ、動画に負けたよ。
後書き
会話だけで一話分埋めるだなんて思いませんでした。完全に趣味ですwww
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