戦国異伝
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第百七十二話 戦を振り返りその十一
信長もだ、彼がいるからこそだというのだ。
「安心せよ」
「あの方が踏ん張られますか」
「しかも鬼若もおる」
元親、彼もだというのだ。
「あの者もおるならばな」
「例え負けてもですか」
「誰も死なぬ」
それで済むというのだ。
「安心してよい」
「では」
「緒戦は負けてもよい」
相手が相手だけにだ、信長もこのことは覚悟していた。だがだった。
「加賀は渡さぬ、あの国はな」
「例え緒戦で敗れようとも」
「加賀を完全に治める足がかりにする」
この度の上杉との戦、それをだというのだ。
「そしてあの地にも城を築くぞ」
「北ノ庄だけではありませぬか」
今度は池田が信長に問うてきた。
「まだですか」
「そうじゃ、北陸の備えとしてな」
「北ノ庄に続いて」
「金沢じゃな」
そこにというのだ。
「城を築こうぞ」
「あの地にですか」
「大きな城を築く」
そのつもりだというのだ。
「そこから加賀を治めてじゃ」
「上杉にもですな」
「備える」
そうするというのだ。
「是非な」
「その為にもですか」
「そうじゃ。それに間もなく安土の城も出来上がる」
あの城のことも言う信長だった。
「武田、上杉には備えるぞ」
「そして毛利にもですな」
「あの家にもですな」
「姫路じゃ」
あの地だった、毛利への備えは。
「あの城も出来る」
「守りはですか」
「万全ですか」
「付け城は置いておくことじゃ」
その相手に対する備えはというのだ。
「天下を安んじる為にな」
「城も築き」
「そうして」
「うむ、天下を整えていくからのう」
こう話しつつだった、信長は軍を加賀に向かわせていく。武田との戦が終わってもまだ戦は終わってはいなかった。
そして謙信もだった、遂にだった。
春日山城を経った、彼は五万の軍勢を率い自ら兵を率いていた。領民達はその謙信と黒い具足と旗の軍勢を見て声を挙げた。
「おお、謙信様が出陣されるぞ」
「また勝って来られるか」
「謙信様に勝てる者なぞおるか」
「あの方はまさに軍神じゃ」
「上杉の兵は降魔の軍勢ぞ」
「織田の適う相手ではないわ」
「織田が謙信様の前にひれ伏すわ」
こう言うのだった、馬に乗る謙信とその軍勢を見ながら。
謙信もまた黒い具足と陣羽織に身を包んでいる、服も馬具も黒だ。だが頭に被っている頭巾だけが白い。その彼が言うことは。
「この戦においてです」
「織田信長をですか」
「降してですか」
「彼の目を覚まさせます」
その命を奪うのではなくだ、そうするというのだ。
「尾張の蛟龍が民の為に心を砕いているのは事実、ですが」
「公方様をないがしろにする」
「そのことはですな」
「それは武門としてあってはならないことです」
それが為にというのだ。
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