戦国異伝
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第百七十二話 戦を振り返りその九
「是非美濃の東を頼むと」
「お任せ下さい、断じて」
「何かあればまた参上します」
帰蝶自らというのだ。
「そしてこの城を守りましょう」
「畏こまりました」
こうしたやり取りをしてだった、そのうえで。
帰蝶もまた戦が終わり岐阜に戻った、岩村での戦も織田家は無事凌いだのだった。
武田との戦は終わった、織田家は何とか信玄の攻めを防いだ。しかし三方ヶ原で敗れた徳川家はというと。
浜松でだ、家康は苦い顔で家臣達に言っていた。
「三千か」
「はい、一万二千のうちです」
「三千の者を失いました」
「これは痛いです」
「我等にとって」
家臣達も暗い顔で家康に述べる。
「どうされますか、ここは」
「三千の兵をどうしましょう」
「民から兵を入れますか」
「そうされますか」
「それも考えるか」
家康は難しい顔で述べた。
「当家も織田家にならって兵農を分けてきておるがな」
「百姓や町民の次男三男を雇いましょう」
「そうしてその者達を兵にしましょう」
「そして何とかです」
「三千の兵を加えましょう」
「やはり一万二千は必要じゃ」
家康は袖の中で腕を組み難しい顔で述べた。
「我等にはな」
「はい、ですな」
「九千では心もとないです」
「その九千の兵の多くも傷ついていますし」
それは彼等もだ、徳川十六神将もその主である家康もだ、見れば結構な傷を負っている。三方ヶ原の戦のせいであることは言うまでもない。
「三千を何とか用意せねば」
「何かと困ります」
「ですから殿、ここは」
「何とか兵を雇いましょう」
「そうじゃな、では銭はじゃ」
兵を入れるには銭も必要だ、それで言った家康だった。
「我等の銭もあるしじゃ」
「織田殿が贈ってくれたあの銭ですな」
「それもありますな」
「見よ、これを」
家康はここであるものを出してきた。それはというと。
金の粒が入った袋だった、ずしりと重い。
しかもそれが一つではない。四つ五つと幾つも出て来る。全て飛騨者が持ってきた信長からの贈りものだ。
「吉法師殿からの黄金じゃ」
「何と、それだけですか」
「それだけの金を贈ってくれたのですか」
「一つ一つが相当ですが」
「そこまでのものを贈って下さったのですか」
「そうなのですか」
「これだけくれたのじゃ」
家康は唸る様にして言った。
「これだけあればな」
「はい、三千の兵もですな」
「何なく雇えますぞ」
家臣達も驚いている顔で口々に言う。
「凄いですな」
「鉄砲も今以上に備えられます」
「具足もよりよいものになります」
「いや、凄いですぞ」
「それだけの金があれば」
「有り難いわ」
実にだとだ、家康はしみじみとして述べた。
「ではこの金を使ってな」
「はい、それでは」
「兵を雇い具足も鉄砲も揃えましょう」
「今以上に」
「わしはこのことを忘れぬ」
決してだとだ、家康はしみじみとした口調でも述べた。
「織田殿が武田家を退けてくれてな」
「ですな。家を立てなおす金も下さいました」
「有り難いことに」
「義には応えねばならぬ」
家康は持ち前の律儀さも出した。
「では立て直した後ではな」
「はい、織田殿の為に」
「頑張りましょうぞ」
「そうするとしよう。まずはな」
とりあえずはだった、今の徳川家は。
兵をまた雇うことからだった、それからだった。
徳川家は力を取り戻し織田家に応えることにした、信長はその話を加賀に向かう途中で聞いた、そのうえでこう言った。
「ははは、よいわ」
「よいとは」
「どういうことでしょうか」
「礼に思うことはないわ」
家康がだ、彼にそう思うことはというのだ。
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