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白井雪姫先輩の比重を増やしてみた、パジャマな彼女・パラレル

作者:GOHON
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第9話『雪姫の謝罪「私が悪くて、バカだったからなのに」』

09話

「んで、どこでヤルぅ?」
「そうだなァ~……」

運転席と助手席に座った男二人が行き先を相談しあっている。
後部座席には口をふさがれ、手を縛られた雪姫と──まくらがいた。
今のまくらはモノも動かせなくなっているので、雪姫を助ける為具体的に何かをすることは出来ない。
だがせめて付いていって、行き先だけでも知らなければ──と、とっさに車に乗り込んだのだった。

「チューガク覚えてるかァ?」
「チューガクって第三中?」
「そーだヨ。あそこの体育倉庫がいつもあきっぱなんだよなァ。こないだもそこでヤったんだヨ。あそこに連れこもーゼ」
「りょーかーい」

──第三中……!! 夕方立ち寄った中学だ!!

まくらは車をすり抜けると、全力で屋敷へと飛んだ。

─────────────────────────────────

茂武市たちが、屋敷でお菓子をつまみながら、雪姫や計佑の帰りを待っていると──

──バンッ!!

そこに計佑が飛び込んできた。

「白井先輩戻ってないかっ!!??」
「……え? お前が迎えに行ってきたんじゃねーの……?」

困惑した様子の茂武市が答えた。

──戻ってない……どこに行ったんだよ……大して時間たってないハズなのに……!!

荒い息で、拾ってきた買い物袋を放り出した。

──通り沿いに落ちてたこの買い物袋……やっぱり先輩の身に何かあったんじゃ……

──そこで思い出した。堤防にいたガラの悪い二人組──
ゾワリと総毛立つ。
「茂武市!! 先輩戻ってきたら俺に連絡くれっ!!」
言い捨てると、返事も待たずに飛び出す。
その計佑の目前に、まくらが飛び込んできた。

<b>「けーすけっ!! 白井先輩が……!!」</b>

─────────────────────────────────

「たくよォ~!! ガソリンくらいきっちり入れとけよォ!!」
「ゴメンゴメン!!」

雪姫を引き立てながら歩く無精髭のグチに、帽子の男が謝っていた。
「全く、お預けくらわせやがってよォ……」
目的地に向かう途中で、ガソリンが心許ない事に気付いた二人だったが、
普通のガソリンスタンドに寄るわけにはいかない。
無人のスタンドまで行くために余計な時間をかけてしまったのだった。
『とりあえずの』目的地である中学までなら遠くはなかったし、
ヤるだけで済ませるなら、無人スタンドまで走る必要はなかった。
しかしそれでも、この二人はガソリン補充を後回しにはしなかった。
『ヤり終わった後』にやるべき事を考えたら、
ガソリン補充などの準備は絶対に先にやっておく必要があったからだ。

「ンーーーッッッ!!」
「うるせーんだよォ!!!」

体育倉庫のマットに雪姫が放り出された。

「たくよォ……『紳士的に』ふるまってやってんのに、何が気に入らないってんだよォ?」
雪姫の肩に手をおいて、本気で不思議そうに聞いてくる髭男。
絡んできた時から今に至るまで、男たちが雪姫の身体の変なトコロにさわってきたことはなかった。
それを指して『紳士的』だと主張しているらしいが、そんな言い草を少女が受けいられられるわけがない。
<b>「ん~~~~~ッッッ!!!」</b>
ジタバタと雪姫が暴れて、ヒゲ男はそんな雪姫を見下ろしていたが、
一向に大人しくなる様子がないと見ると、刃物を取り出し──

──ドス!!

雪姫の顔のすぐそばに突き立てた。少女の身体が、恐怖で完全に硬直する。

「あのなァ。どーせテメーが死ぬことは決まってんだ。だったらせめていい思いしてから死にて~だろォがァ?」
「…………?」

髭男のいう事が理解できず、震えながら男の顔を見やる雪姫。
男がニヤリとする。

「ヤった後テメーを開放しちまったら、ケーサツに駆け込むことだってありえるだろォが。
だから終わった後にはキッチリてめぇには死んでもらうんだよォ」

今度こそ男の言うことが理解出来てしまい、ますます雪姫の震えは大きくなった。

「テメェをさらう時にだってちゃんと人目はチェックしてたんだからよォ。
どーだよ、オレらは天才だろォがよォ? 」
「そーそー!! オレらってサイキョーのテンサイだよなー!!」

帽子男が合いの手を入れて、二人がひとしきり笑い転げて。
雪姫はもう瞬きすら出来ずに、放心状態のようだった。
そんな雪姫をあざ笑うかのようにニタニタしながら髭男が動いた。

「じゃあそろそろ紳士タイムは終わりにしよォぜ。まずは逆ファッションショーといこォか……」
刃物が、雪姫の服にかかる──

─────────────────────────────────

──うそ、嘘ウソうそこんなのうそっ……!!

もう雪姫の心中には恐怖の悲鳴しかなかった。
訳がわからない。
さっきまで、最高に楽しい旅行を満喫していた筈なのに。
なんで今、貞操も命も失いそうになっているのか──
何でこんな事に。私が何か悪いことをしたの──?
ぐるぐると頭が回る。一体何が悪かったというのか。

この旅行に来てしまったこと? ──違う。最高に楽しい時間だった。これは間違いじゃない。
一人で行動してしまったこと? ──そうだ。それで今、この男達に殺されそうになっている。
じゃあ何で一人で行動なんて? ──決まってる。計佑から逃げてしまいたかったからだ……

コンビニから出る時、計佑が声をかけてくれたのに自分は逃げてしまった。
仕事の電話なんて、口実だった。
レジに並ぶ前までの自分だったら、きっと電話には出ずに電源を切っていた筈だ。
計佑から距離をとるのにちょうど良かったから──そうやって逃げた結果が、今の状況だった。
──本当にバカだった。
後にして思えば、計佑が自分を馬鹿にして笑った訳じゃないのはわかりきった事だった。
自分だって、度々計佑の振る舞いに吹き出していたじゃないか。
それが、あの時はたまたま立場が入れ替わっただけ──そういう風にすぐに気付けていれば。
むしろ彼に近づけたのだと、嬉しい事なのだと分かった筈なのに……

「じゃあそろそろ紳士タイムは──」
男がまた近づいてくる。

──助けて……お父さん!!! お母さん!!!

心で助けを呼んでも、両親がここに来てくれる事なんてありえない。
無理に決まってる。
可能性がまだあるとしたら──

<b>──助けてぇぇ!!! 計佑くん!!!!</b>

<b>ガシャァアアン!!! </b>

体育倉庫のドアが派手な悲鳴をあげた。男たちが弾かれたように振り返る。
そこにいたのは──

──……計佑……くん……!!!

雪姫の絶叫に答えるかのようなタイミングでやってきた少年が、そこに立っていた。

─────────────────────────────────

恐れていた通りの、しかし最高にありがたい情報を持って、屋敷を飛び出そうとした計佑の所に飛んできたまくら。
計佑はまくらの案内通りに自転車を走らせ、ノンストップで校内に乗り入れ、まくらの指示通りに倉庫へとひた走り──

「せっ……先輩……」

はあはあと、熱い息を吐く。
計佑の視界には、男二人と、ガムテープで自由を奪われた雪姫がいて──

「……何だお前……こんなトコに何しにきてんだァ?」
──計佑は完全にキレた。生まれて初めて、殺意というものを覚えた。

<b>「先輩を助けにきたんだよぉおお!!」</b>

立てかけてあったバットをひっつかむ。

<b>「先輩から離れろクソヤロォオオ!!」</b>

そして思い切り振り回した──が、ヒゲ男はあっさりとかわしてしまう。

「ああ……お前このオンナのツレかよ」

ヒョイと間合いを詰められ、手首をつかまれた。

「……!!」
「ヒョロい体してナメてんじゃねーぞォ!!!」

ヒザを腹に叩きこまれた。

「──ゴフッッ!!!」
「調子こいてんじゃねーぞクソがァ!!」
「オラオラァ!!」

膝をついてしまった計佑に、男二人がさらに蹴りを入れてくる。
為す術なく倒れこんでしまうと、男たちはさらに容赦なくケリを入れてきて。
計佑は身を丸めて、ただ耐える事しか出来なかった。
ひとしきり暴行が続いて、ようやく飽きたのか蹴りが止む。

「……ぁ……」

もう、計佑は息を漏らすしか出来なくなっていた。

「何なんコイツ……ホントムカつくわァ。テメーみてぇな王子様ぶってるやつが一番ムカつくわァ~」
髭男がまた刃物を取り出した。
「嬲んのも飽きたしなァ……もう殺しちまうかコイツ」
「──!!」

金縛りにあっていた雪姫が、その言葉に立ち上がった。

「んんんーッ!!」

髭男のほうに駆け出すも、

「てめーは後だよォッ!!」

敵うわけもなく、弾き飛ばされる。

「じゃあなァ王子様ァアアア!!!」

──ドッ!!
──計佑の左胸に、ナイフが突き立てられた。

─────────────────────────────────

「……え……?」

──突然、女の子の声が聞こえた気がした。
自分の声の筈はない。自分の口はガムテープで塞がれたままだ。
けれど、そんな事はどうでもよかった。
そんな声を意識に留めている意味などなかった。
今、雪姫の意識にあるのは、ナイフを突きこまれてしまった少年の姿だけ──

─────────────────────────────────

「おぉーさすがコーちゃん!! 躊躇ないね~」
帽子男の賛辞にニタリとしてみせる髭男。
──その右腕に、計佑の手が絡みついた。
髭男がバッと少年に視線を戻す。

<i>「よくも……先輩に……!!」</i>

──ファンファンファン──

帽子男がその音にいち早く反応した。

「!! ヤベェよ、こいつサツ呼んでやがった!!」

帽子男は言いながらさっさと逃げ出す。

「離せコラァ!!」

利き腕を抑え込まれた不自由な体制で、髭男が必死に拳を振るう。
しかし、計佑は男の腕にしっかりとしがみついて離さない。

<b>「放せよオラァァァァァ!!!!」</b>

─────────────────────────────────

──結局、犯人は二人とも警察に捕まった。
警官が計佑の為に救急車を呼ぼうともしてくれたが、結局それは必要なかった。
茂武市とカリナも直にやってきたのだが、
二人を車に乗せてきたのは、雪姫の伯父──医者でもある──だったし、計佑の負傷は急を要するものではないからだった。

─────────────────────────────────

「いっ……てて……」

ゆっくりと計佑が身を起こす。

「計佑くんっっ!!!」

戒めを解かれた雪姫が、計佑に縋りついてきた。

「大丈夫っ!!?? 大丈夫なのっっ!!??」

計佑の体をまさぐってきて、

「だ……大丈夫です……あでも……あんま押されるとちょっと苦しいかも……」

その言葉に雪姫は慌てて手を引っ込めたが、また質問を重ねてくる。

「でも本当に大丈夫なのっ!? だって確かにあの時刺されて……!!」
「いやっ……何かその……これのお陰で助かったみたいで……」

全然安心する様子のない雪姫に、タネ明かしをする。
計佑が胸ポケットから引っ張りだしたのは、雪姫がコンビニで買った、くまのストラップだった。

「そ……それは……」
「先輩の荷物拾った時に、これだけ胸ポケットに入れといたんですよね……すいません先輩。これ壊しちゃいました……」

そこで一息ついてから、言葉を継ぐ。

「それに先輩ん家の自転車も借りたんですけど……そいつもここのドアにぶつけた時に壊したかも。
ホントにごめんなさい。それもちゃんと弁償しますから」

そしてまた大きく息をつく。

「それからストラップ買ってた時の事……すいませんでした。別にバカにするとかそういうつもりじゃなかったんです。
上手く言えないんですけど……ホントにすいませんでした。 ……ってオレ、先輩にはホント謝ってばっかですよね」

雪姫は涙目のままで、じっとこちらの言葉を聞いていてくれた。
けれど、コンビニのことを謝った時にはピクリと身体を震わせていた。

「でもホント……先輩が無事みたいでよかったですよ。俺殴られてばっかで、時間稼ぎしか出来なかったけど……
それに助けに来るの遅くなったのも、やっぱりすいませんでした」

そこまで言葉を並べたが、殴られる事しか出来なかったカッコ悪さと謝罪ばかり並べ立てる自分が情けなくなって。
でも雪姫が無事だったことには安堵も出来て──苦笑してしまっていた。
そんな計佑を見つめていた雪姫の顔が、くしゃっと歪んだ。
え、と思う間もなく雪姫が頭を計佑の肩に押し付けてきた。

<i>「なんっ、でっ、計佑くんがっ、謝るのっ……」</i>

雪姫の瞳からボロボロと涙が溢れだしていた。

<i>「私がっ……悪いのにっ……わたしっ、がっ……バカだった、からなのにっ。ごめんっ、なさいっ!!」</i>

雪姫が途切れ途切れの言葉で謝ってくるが、まるで意味がわからなかった。
今回の事で、雪姫に悪い所なんて何があったというのか。

「何で先輩が自分を責めるんですか……先輩は何も悪くないんですよ」

ポンポン、と肩を叩くと、雪姫の嗚咽がいっそう強くなった。

<i>「ありがっ、とうっ 」</i>

しゃくりあげながらも、言葉を紡ぐ雪姫。

<i>「あんなっ、恐い人ったちっ、からっ守ってっ、くれてっ」</i>

礼を言われるが、そもそも自分が雪姫を一人にしてまったのが原因で……あらためて申し訳なくなる。

<i>「計佑くんがっ、来てくれた時っ、すごく嬉しっ、かったっ……」</i>

「先輩……」

<i>「だけどっ、すごくっ」</i>

雪姫が一際大きく息を吸って、

<i>「こわかった!!」</i>

計佑の肩にしがみついてくる。

<i>「計佑くんっ、死んじゃっ、たんじゃないかっ、て思ってっ」</i>

雪姫が計佑の背中に腕をまわして、ぎゅっと抱きしめてきた。
胸が押されて苦しかったが、こらえて雪姫の背中を支えた。

「こわかった、よ…… 」
「……先輩……」
「計佑くん……計佑くんっ…… 」

まだ震えてはいるが、ようやくすすり泣きくらいには落ち着いてきた雪姫に、計佑はほっとしていた。

──本当にこの人が……あんなクソ野郎どもになんて……!!

落ち着いたら、改めて怒りも湧いてきた。
誰かに殺意を抱いたのなんて初めてだった。
連中が掴まって一件落着した今でも、殺意は変わらない。今からでも殺しにいってやりたいぐらいだった。

──本当に……間に合ったのが不幸中の幸いだった……

まくらがたまたま現場に居合わせなかったら──
まくらがこの場所への道順を知らなかったら──
他にもいくつかの偶然があってのことだった筈だ。
あらためて、ギリギリの幸運に感謝して。

どうして雪姫の為にこれほどまでに焦り、怒り、安堵しているのか──
今はただ少女を気遣うばかりの少年には、考える余裕はないのだった。


─────────────────────────────────


<9話のあとがき>

パコさんは便宜上「コーちゃん」と呼ばせました。パコだからコーちゃんと、まあ安易に……

8話の後書きで書いたとおり、
いくらか気をつかって服を切られないようにしたり、
男二人共前に座らせたり、出来るだけ雪姫の身体は守る方向に表現してみました。
その代わり、男たちは原作より更にカスにしてみたり。
コイツらがクソであればあるほど、後の計佑が輝きますからね(^^)

計佑がなんで間に合ったのかも、
前回のまくらの散策のおかげとか、ガソリンがどーのとか、色々と拙い頭ながら捻り出してみたつもりです。

書く前は、このクソ共事件の話は書くの苦労しそうだなぁ……
と不安だったんですが、なんか書いてみたら意外と上手く改変できた気がします。
前回、追加要素として計佑と雪姫のスレ違いを盛ってみたんですが、
意外とうまく今回にもそれを絡められたような感じで……
あ、何度目かもしれませんけど、これは『自分にしては良く出来たんじゃないかな』ですのでm(__)m
コンビニのあれ、初めは、ちょいと雪姫が恥ずかしがる心理描写を盛り込む程度で考えてました。
ところが、なんか意外とふくらませることができてしまいました。

ホントは事情聴取とか色々ある筈なんでしょうけどね……
そこはこの話には必要ないし、もう面倒だし、そもそも詳しくは知らないしなので、パスです。

あっ、雪姫がまくらの声を一瞬聞いたような描写ありますけど、
今後ゴーストまくらを雪姫が認識できるようになる……なんて展開はありません^^;
なんとなくノリで書いちゃいました。
だってそこらへん……漫画じゃまくらも健気に頑張ってるんだけど、
ここの話の中では全然描写出来てないですもんね……
完全空気は可哀想だったんで、何かしら挟んでみたくなったのです。

入り口が閉まった倉庫なんて真っ暗だと思うんですけど、なんかしら明かりを持ち込んでたってことで(^^ゞ
──あのカスどもは、常習犯ですから……(-_-;)
 
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