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戦国異伝

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第百七十二話 戦を振り返りその六

 それで武田の軍勢を攻めを止めた、それを知らせる法螺貝を聞いてだった。
 それでだ、幸村も井伊に言った。
「井伊殿、名残り惜しいが」
「退くというのか」
「またお会いしましょうぞ」
 戦の場においても礼儀正しく言う幸村だった。
「そしてお手合せを」
「こちらこそ。しかし」
 井伊は幸村の言葉を受けた、だがそのうえで彼の言葉も告げた。
「殿は何としても守る。そのことをご承知あれ」
「左様でござるか」
「そうだ、例え何があろうとな」
「家康殿はよい家臣を持たれている」
 感嘆と共に述べた幸村だった。
「井伊殿、それでは」
「うむ、また戦の場で」
 二人は言葉を交えさせそのうえでだった。
 一騎打ちを止めた、そして。
 武田の軍勢は陣を整えだした、追うことを諦めて。
 十勇士達もだった。戦の場から退く。その時に飛騨者達に言った。
「楽しませてもらったぞ」
「また会い闘おうぞ」
「そして楽しもうぞ」
「まさかここまでやる連中がいるなんてな」
 ここでだ、煉獄が笑って言った。
「楽しませてもらったぜ」
「ではじゃ」
 その煉獄に猿飛が応える。
「また会おうぞ」
「ではな」
 彼等の別れの挨拶jは実にあっさりとしたものでありそこに戦の怨恨なぞはなかった。それで別れてだった。
 幸村も十勇士も三方ヶ原での戦を終えたのだ、彼等はこのことを今話していた。
 そしてだ、猿飛が飯を喰らいつつ幸村に問うてきた。
「それで殿」
「うむ、三河口のことじゃな」
「先程までの戦のことです」
 今日夕刻まで戦っていたその戦のことを聞きたいというのだ。
「殿が戦われた前田慶次殿のことですが」
「うむ、あの一騎打ちじゃな」
「あの時のことをお聞かせ下さい」
「わかった、ではな」
 幸村は猿飛の言葉に応えた、そしてその戦のことも話すのだった。
 幸村は三河口でも派手に戦っていた、自ら兵を動かすだけでなくやはり二本の槍を使って暴れていた、その槍でだった。
 織田の兵達を倒していく、彼の槍を受けて織田の兵達はまるで紙が嵐の前に乱れる様に倒されていく。そこに慶次が来たのである。
「御主達は下がっておれ」
「おお慶次殿」
「来られましたか」
「これだけの者と戦えることは武士の喜び」
 笑みさえ浮かべてだ、慶次は兵達に言ったのである。
「その楽しみを味あわせてくれるか」
「いや、まさか慶次殿が来られるとは」
「有り難きこと」
「ははは、ではここはわしに任せてもらおう」
 笑って言う慶次だった、再び。
「今からな」
「はい、それでは」
「ここは」
 こうしてだった、兵達が退いてだった。
 慶次が前に出てだ、そのうえで幸村に対して朱槍を手にしたまた言った。
「幸村殿、久しいのう」
「慶次殿ではござらぬか」
「うむ、こうして敵味方に分かれておるのも何かの縁」
「そうなればですか」
「前に都でお話しましたが」
 そのうえでだというのだ。
「こうして戦の場でお会いしたならば」
「心おきなく闘おう」
「ですな、それでは」
「参る」
「いざ」
 幸村は三河口では慶次と闘った、この場でも槍を交える。互いに激しく槍を繰り出し合い攻防を繰り広げる。
 その二人を見てだ、双方の兵達が唸って言った。
「凄いのう、どちらも」
「まさに龍虎の争いじゃ」
「百合二百合しても決着がつかぬ」
「あの様な一騎打ちはそうは見られん」
「全くじゃ」  
 こうそれぞれ話すのだった。 
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