問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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乙 ⑮
第三者が見たなら、状況は最悪に見えるものだった。
ハムーズをなめてかかった飛鳥と耀は、揃ってぶっ飛ばされた。
ディーンの拳は指一本でとめられ、黒ウサギはその心配をしている間にひざ蹴りを喰らう。
火と煙で視界が悪く、どのようにしてハムーズを探し出すか悩んでいた耀は、その時間で倒されてしまった。
音央と鳴央はそれを見て一気に警戒レベルをあげ、容赦なく殺し技を使い始めたが、それがハムーズに効くことはなく攻撃の手を緩めた瞬間に二人揃って一撃を喰らい、倒される。
ヤシロはと言えば、これだけ狭い空間で百詩篇を使うわけにもいかず、かといってロアが標準的に持つ身体能力で立ち向かって勝てる道理もない。
狭い空間ではどうにも力を十全に使えず、それ故にあっさりと倒された。
最後の砦となった十六夜は互角の戦いを繰り広げたのだが、黒ウサギめがけて投げられた石ころを頭に受け、そのまま倒れた。
実を言えば、十六夜はただ黒ウサギの太ももの感触を楽しんでいるがために起きないだけなのだが、そんなことは本人以外誰にも分からない。だからこそ、これは第三者からしてみれば大ピンチなわけで。
「うっわー・・・まさか、ここまで劣勢とは・・・」
式神・送り狼に乗って駆け付けた一輝がこのように漏らしたのは、仕方のないことだろう。
「ほう?もうここにたどり着いたか。」
「ああ、ちょっと急いできたんでな。」
一輝はそう言いながら式神を札に戻し、腰につるしたスレイブを抜刀してハムーズの前に立つ。
「さて・・・少しは俺にもこいつとやらせてくれよ、十六夜?」
「ッチ・・・いいぜ、もう少し観戦に回ってやる。」
十六夜はそう言ってから何事もなかったかのように立ち上がり、呆然としているメンバーを気にも留めずに座った。
頭からかなりの量の血が出ているのでスプラッタなことこの上ないのだが、本人が問題ないと言っているので大丈夫なのだろう。
《ま、十六夜だしな。》
そうだね~。それにしても、このやり取りも随分と久しぶりだな。
《コラボの方でやって、久しぶりにやってみようかな、と。》
さっらっとメタい発言してんじゃねえ・・・あっちに行ってるお前は時系列的に見てまだ先だろうに・・・
《知らん。》
「話はまとまったのじゃな?」
「ああ、またせて悪かったな。もう準備オッケーだ。」
「では、始めようか!」
ハムーズはそう言うと同時に一輝に迫り、一輝は何のためらいもなく尻餅をついてそれを避け、両手を床について蹴りあげる。
「ん?今の感触は・・・」
「考え事とは、余裕じゃのう!」
「いや、そう余裕でもない。」
一輝が考え事をした瞬間にハムーズは一輝に殴りかかったが、それは空気の壁によって防がれる。
「それにしては、落ち着いて対応しとるのではないか?」
「正確には、攻略法を思いついたからそれを実行するために冷静になっただけだよ。とりあえず・・・準備が整うまではやり合うとするか!」
一輝はそう言うと同時に先ほどまでの丁寧な防御を切り捨て、スレイブ片手に一気に踏み込み、容赦なく横薙ぎに切り払う。
当然のようにそれで斬る事は出来なかったが、防御に片腕を使ってきたのでもう片方の手に持った呪札を押し付け、そこに呪札が耐えきれる量を過剰にオーバーした呪力を流し込み、爆発させる。
「爆破物なんぞ隠し持っていたのか!」
「本来の使い方からかなり遺脱した使い方だ。ま、簡単に爆弾を作れるから重宝してるんだけどな!」
そう言いながらさらに呪札を投げつけ、一度に十数枚を爆発させる。
同時に結界を展開し、被害をその中に閉じ込めることで爆発の威力を高める。
「これでワシが倒せると思うたか!」
「いや、全然。宿してもらった力とはいえ、そこまでの力を持ってるんだ。この程度で倒せるとは思っちゃいねえよ。・・・あの爆発も、手軽な代償に、熱を一切持たないからな。」
その瞬間、ハムーズの表情が一瞬動いたが、一輝はそんなこと気にもせずに話を続ける。
「俺が何度かお前と打ち合って思いついた手段は二つ。一つ目は急激な温度差を連続して与えることによる破壊だが、これは建物にも有効だからな。あんまり使いたい手段ではない。だから、俺は別の手段をとる事にさせてもらった。」
「別の手段、とな?」
「ああ。まず・・・ここに、あほみたいな量のフッ素があります。」
そう言いながら一輝が手をあげ、倉庫をあけるとそこに空気が圧縮されていく。
それは全てフッ素。フッ素だけを集めて圧縮していく。
「次に、ここに水樹の枝があります。ここからこちらもあほみたいな量の水を出していき、先ほどのフッ素とは別で集めていきます。」
その瞬間、ハムーズが何かに気付いた様子で一輝に迫るが、一輝はそれを避け続ける。
両手の上にフッ素と水を集めているので、手を出すことはできない。
だが、それでも脚は出せるので膝で腹をけり上げ、そのまま体ごと回転してハムーズを蹴り飛ばした。
「カッ・・・」
「全く、人が話してるってのにそこで殴りかかってくる奴があるかね。せっかくの実験、邪魔するもんじゃねえよ。」
そう言いながら、一輝は両手の上に集まっているフッ素と水を接触させ、その二つは激しく反応を進めていく。
「この二つは接触すると激しく反応し、2H₂O+2F₂→4HF+O₂という反応を行いフッ化水素と酸素を発生させる。今回は反応物を同量準備したから、全部反応しきって相当量のフッ化水素が発生した。」
そう言っている一輝の頭上には、相当量のフッ化水素が液体で存在していて・・・一輝は、とても笑顔だった。
いたずらを思いついたような、これからやってやろうという意思が見え見えの笑顔を。
「さて、ここで十六夜君に問題です。これをあれにかけたらどうなるでしょう?」
「・・・フッ化水素は毒物だ。あれが生物ならそれだけの量。毒でくたばるだろうが・・・ハムーズに対してはそうじゃねえな?正解は侵される、だ。」
「お見事!」
一輝はそう言った瞬間に頭上にあるフッ化水素を操り、蛇のようにしてハムーズに向けて放つ。
ハムーズはそれをかなり必死で避け続けるのだが、それでも何度か体にかすり、かすった場所が溶けていく。
「く、この・・・!」
「お前はどっかのコミュニティが作ったガラス細工に実力者が力を与えたものだろう。本質がガラス細工である以上、これが効かないはずはないよな?」
そう言いながらも一輝はフッ化水素をハムーズに向けて放ち続け、気がつけばフッ化水素がハムーズの周り360°を取り囲んでいた。
「じゃあな、ハムーズ。ラシャプとの戦いと同じくらい楽しめたぜ。」
最後にそう言ってから、一輝はフッ化水素のドームの中にさらにフッ化水素を流し込んで中を満たし、ハムーズを溶かしつくした。
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「うん、肉はうまい。」
「そうかそうか。まあ、それは私からの謝罪とでも考えてくれ。」
「そうさせてもらうよ。何せ、意図的に俺をゲームから遠ざけてたんだからな。」
黒ウサギが問題児たちに全て話した後、ノーネームの敷地内でバーベキューをしていた。
一輝はそこで今回のことで白夜叉に対して文句を言っているのだ。
「まあでも、ラシャプとの戦いはそこそこに楽しめたからな。得もあったし、最後には間に合ったからいいんだけどな。」
「それならよかった。ラシャプのやつも褒めておったぞ。あんなの、人間ではない、とな。」
「それって褒めてるって言うのか?ただ、俺が存在自体あり得ないって言われたみたいなもんだろ。」
「私としては、それは否定できないのう。」
あっさりと白夜叉がラシャプに賛成したことで、一輝は少し気に食わなかったのか手に持った肉を大きくかみちぎった。
「んで?今回俺に対して出した試練には何の意味があったんだ?」
「ああ、それは・・・その封印を解かせようと思っておったのだ。」
白夜叉はそう言いながら、一輝の右腕を指差す。
「・・・いつ知ったんだ?」
「何、それくらいは見れば分かる。・・・それは、おぬしの呪力と霊格を大幅に封じているものだな?」
「ま、そんなところだな。と言っても、これがあったところで気にするほどのもんじゃない。」
そう言いながら一輝は袖を伸ばし、封印の刻まれている部分を隠した。
基本的に不可視なのでそうしてもしなくても変わらないのだが、気分的なものだろう。
「それは、どのような経緯でかけたものなのだ?」
「あー・・・ま、元いた世界でそこそこの立場にいてな。その関係で、その立場にいる全員がかけられてたんだ。そうでもしないと、感情が高ぶった時に霊圧で大変なことになるんだと。」
「それでも、力の大部分が封じられているのは事実であろう?」
一輝は白夜叉のその言葉に対して少し悩むそぶりを見せたが、
「まあ、確かにそうなんだけどな。それでも、その分は俺が体術なり剣術なりで補えばいいんだ。」
「・・・この先、魔王と戦う中でその枷は致命的なものとなりかねないぞ?」
「分かってるよ、そんなことは。」
そう返した一輝に対して、今度は白夜叉が少し悩むそぶりをみせ、
「その封印、解けないか専門家を紹介しようか?」
「いや、それはいい。」
「遠慮はせんでもよいのだぞ。今回の私からの試練の褒美だとでも思ってくれれば。」
「そうじゃなくてだな・・・これ、俺の意思で解けるから。」
一輝はそれ以上話すつもりはない、というように足を進め、肉のついていない骨を軽く回して新しい骨付き肉を取りに行く。
「そう言うわけだから、本当に必要になったら俺の意思で解くよ。」
「そうか。」
「そうだ。基本的に使わないのは、まあ溜めこまれてるのが一気に解放された時の周りへの被害が恐いからだ。決して、仲間のピンチに対して手を抜いてたわけじゃない。」
白夜叉が言いたいことを先回りして答え、白夜叉もそんな様子の一輝に対してもうこれ以上何もいわない。
が、最後に何かを思い出した。
「そう言えば、得があったと言っておったな。ラシャプから何か受け取ったのか?」
「ん?ああ・・・ま、そんな感じだな。七人ミサキが、俺に渡された。今は求道丸監修の下畑仕事をしてるはずだよ。」
そう、あの七人ミサキは一人残らず一輝に渡され、今は求道丸とともに倉庫の中での畑仕事&ノーネームの畑仕事をしている。
文句タラタラではあるが、一輝に逆らった場合のリスクが大きすぎるためにちゃんと畑仕事はしているのだ。他のことは一切していないが。
「あ、おにーさーん!もうお話は終わったの?」
「ああ・・・もういいよな?」
「うむ。すまんな、長話をしてしまって。」
白夜叉から終了を告げられたので、一輝は自分を呼んでいるヤシロのもとへと向かった。
ヤシロ自身も一輝に向かって走ってきて跳びつき、一輝はそれを抱き上げた。
「ほらほらっ。早くいかないとお肉なくなっちゃうよ?」
「そうだな。せっかくだし、食いたいだけ食べないとな!」
そう言うと、一輝はヤシロと抱えたまま走り、音央と鳴央、スレイブのいるところまで向かった。
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