魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos31-C砕け得ぬ闇の使徒~Star And Thunder~
†††Sideフェイト†††
「――迷惑を掛けたな、フェイト」
偽者のクロノがすまなさそうに謝ってきた。私は「ううん、気にしないで」って首を横に振る。私が相手にしたクロノの偽者は、自分が“闇の書”の闇であるナハトヴァールや防衛システムを復活に必要な欠片だっていう自覚を持っていた。そして管理局執務管としての自覚が薄れていくってことで私に撃破するように頼んできた。
「しかし嫌なものだな。記憶が曖昧になっていくんだ。現在の僕じゃなく、過去の僕――フェイトやなのは達と出会う前、闇の書に少なからず嫌悪を、憎悪を抱いていた頃の・・・」
なのは達やはやて達には知らされていないけど、クロノのお父さんでありリンディさんの夫であるクラウド・ハラオウン提督は、11年前の“闇の書”事件の犠牲者だ。
「もし君に出会う前に守護騎士のみんなと遭遇していたらと思うと・・・。よかったよ、彼女たちに心無い暴言を吐かずに済んだ」
クロノが心底安心したって風に微笑んだ。そして最後に「残滓である僕に言われることじゃないだろうが、闇の書の復活の阻止、頼む」そう言って消えていった。消えていったクロノに私は「うん。必ず」強く頷いて誓った。とその時、『フェイト。クロノだ』本物のクロノから通信が入った。
「うん、どうしたの?」
『まず、僕の偽者が迷惑を掛けたようだ、すまない』
「ううん。偽者でもクロノはクロノだったよ。・・・えっと、それで、何かあった?」
『ああ。今から言うポイントに、マテリアルと思われる妙な反応が探知されたんだ』
クロノの話に「え?」って訊き返した。いま私たちは散開して“闇の書”の復活を企んでいる特別な残滓――マテリアルを必死に探している。マテリアルの存在が、残滓の発生に繋がっているそうだから。でも遭遇するのは残滓ばかり。持久戦になると負けはほぼ確実だ。だからそれも踏まえて探しているんだけど・・・。どうやって探り当てたんだろう。
『やっほー、フェイト♪』
「アリシア!? なんで・・・?」
新しく展開されたモニターにアリシアが映し出されて、私に向かって手を振った。そんなアリシアが『わたしが発見したんだよ、残滓とマテリアルの違い♪』って驚くべきことを言ってきた。というかアリシアは今日、クラスメイトの子たちと遊びに行く予定だったはず。それなのにどうして家に居るの?
『いやぁ、すごいよ、アリシアちゃん。私たちアースラオペレーターの誰よりも早く、マテリアルと残滓の魔力反応の違いを見つけたんだから。アリシアちゃん、才能あるよ。その観察眼は目を瞠るものがあるね、うん。是非、管理局に欲しい人材だよ~♪』
『いやぁ~、それほどでもぉ~・・・あるよ♪』
アリシアが嬉しそうに照れていて、エイミィは『さっすが~♪ ほら、フェイトちゃんも、ほら』私にもアリシアを褒めるように言ってくるから、「す、すごいよ、アリシア!」私も参加する・・・んだけど、出来れば早く本題――マテリアルの居場所を教えてほしいかも。クロノも私と同じだったみたいで『エイミィ、アリシア』とちょっと語気を強めて2人の名前を呼んだ。
『あぅ、ごめんなさい。えっとね、マテリアルらしい反応は今のところ2つ。1つはフェイト、もう1つはなのはの付近にて発生中。その周囲に残滓の発生も確認できるから、一番近いフェイトとなのはが真っ先にマテリアルを相手にして、その間に後続班で周囲の残滓を相手にしたらいいかも。どうかな・・・?』
アリシアがそんな意見を述べた。黙った私たちにアリシアが不安げにそう訊くと、『いや。良い判断だ。アリシア』クロノが褒めた。私も『うん、本当に何から何まですごいよ!』純粋にアリシアを褒める。これならもしかするとアリシアも後衛スタッフとして管理局に務めるって考えを持ってくれるかも。
そうして私はアリシアからポイントの座標を聴いて、「――じゃあ私はこのポイントへ向かえばいいんだね?」最終確認。アリシアは『間違いなし。フェイト、お願いね』そう言って手を振って送り出してくれたから、「了解!」手を振り返して応える。
「よし、行こう・・・!」
通信を切って、早速指定されたポイントへ向かう。今から私が向かうポイントには他の残滓より強いマテリアルが居る。これまで姿を現したマテリアルは2人で、1人は“律”のマテリアルと名乗ったすずかのソックリさん。もう1人は“義”のマテリアルと名乗ったアリサのソックリさん。
(すずかにアリサと来て、次は誰になるんだろう・・・?)
可能性は誰にでもある。私かも知れない、なのはかも知れない、最悪ルシルかもしれない。出来ればルシルのマテリアルとは遭遇したくないなぁ。いくらオリジナルより弱いって言われてもルシルのあの反則魔法の数々は侮れない。
僅かな不安を胸に抱きながら空を飛んで、ポイントへ到着して結界内へ侵入する。侵入した途端に肌に感じる妙な魔力に「あー、確かに他の残滓とは違う雰囲気だ」警戒レベルを引き上げる。“バルディッシュ”の柄を両手で握り直して、市街地をぐるりと見回す。
「・・・・居た・・・!」
50mと離れた空にポツンと浮いている人影を発見。先手必勝を狙うために“バルディッシュ”を大鎌のハーケンフォームへと変形させる。そして最高速で接近を試みる。と、マテリアルの姿形を視認することが出来た。それはどう見ても「私・・・!」だった。
「バルディッシュ・・・!」
≪Haken Slash≫
魔力刃を瞬間的に強化して切断力や威力を増加させる魔法ハーケンスラッシュを発動して、シャルと同じ水色の髪をしたマテリアルへと背後から斬りかかる。私の姿をしたマテリアルは、その手に持っていた“バルディッシュ”のコピーを振り向きざまに振り上げたことで私の一撃を防いだ。
「君は・・・確か、闇の書の闇を斬り裂いた、黒の魔導師・・・。そして僕の、オリジナル」
マテリアルはそう言って、私の一撃を片手で弾き返してその場で反転、そして威力を遠心力で高めた「光雷斬!」私のハーケンスラッシュと同じ攻撃(光翼斬っていう別の名前に変えてる。報告通りだ)を繰り出してきた。
私はさらに後退することで回避した後、すぐさま前進して「せい!」通常の魔力刃の振り降ろしで再攻撃。マテリアルは半歩分横移動して避けた後、“バルディッシュ”コピーの石突を突き出してきた。顔面狙いだったそれを、首を傾げるだけで回避した途端、「ぐっ・・・?」頭突きされた。
「いつつ・・・」
「いたた・・・」
私とマテリアル、お互いに額を押さえながら一度間合いを取る。マテリアルが額を擦り終えると「僕と同じ外見、オリジナルだからこそ余計に、君を見ていると苛立ちが募る。不快だよ」私に向けて敵意を放ってきた。
「この不快さを、苛立ちを消すには、どうすればいいか。・・・その答えを、僕の魂がこう叫んで教えてくれる! 君を殺して我が糧とすれば、全部が消える、と! そして還るんだ。温かで艶やかな、血と災い、そして怨嗟の闇が渦巻く、あの永遠の夜に・・・!」
“バルディッシュ”コピーの先端を私に向けて、そんな物騒な台詞を語った。うーん、私が出会えたのはラッキーだったかも。色違いとは言え私と瓜二つの外見をしたマテリアルが、殺すだのなんだのって言葉をなのは達に浴びさせることはなかったから。
「そうはさせない。闇の書の闇――ナハトヴァールと防衛プログラムはもう、必要のないものなんだ。アレは、私の友達を苦しませる。だから、復活なんてさせない!」
≪Plasma Lancer≫
周囲に展開した帯電する魔力球8基をプラズマランサーとして発射。マテリアルは私と同じように高速戦を得意とするみたいで、速度にものを言わせてランサー8発を回避した。ランサーに追撃させても追いつけないと判断して、ランサーを解除。
マテリアルは回避したその先で「光翼斬!」ハーケンセイバーを飛ばして来た。ならこちらも、と速度にものを言わせてセイバーを回避した時、マテリアルが「雷刃衝!」プラズマランサーを6発と発射してきた。
(私と同性能の機動力と魔法、か)
自分のことは自分が良く知っている。長所も短所も。でもそれは向こうもたぶん同じ。油断は出来ない。マテリアルの放ったランサー6発の中を掻い潜りながら、マテリアルへと突撃を仕掛ける。そのままアサルトフォームに戻した“バルディッシュ”による打撃を連続で振るう。マテリアルもまた私に合わせてアサルトフォームの“バルディッシュ”コピーを振るって迎撃してきた。
「こうして君と刃を交えれば交えるほど、苛立ちで気が狂いそうになる・・・!」
「私は・・・悲しくなるよ。自分と同じ顔と声、魔法を扱う君と争うなんて。でも、友達やこの街を守るために、私はあなたを討つ!」
一際強く振るった“バルディッシュ”の一撃に、「っく・・・!」マテリアルが溜まらずと言った感じで後退した。
「この僕が、力のマテリアルであるこの僕が、押し負けるなんてありえない! そんなのありえない! 僕は・・・僕とバルニフィカスは強いんだ、速いんだ、君なんかに後れを取るはずがないんだ!」
“力”のマテリアル、か。それに“バルディッシュ”コピーじゃなくて“バルニフィカス”。これも報告通りだ。デバイスもまた独自の名前を有している。
「そうとも。我が名は雷光、力のマテリアル。閃光の太刀バルニフィカスにて、君を、君たちを斬り斃す。そして各地に生まれている欠片たちを取り込んで、この身のうちに闇の書の闇を蘇らせ、僕は決して砕けぬ、真の王となる! さぁ、仕切り直しだぞぉ! 我が太刀に、一片の迷いなぁーーーーーしッ!!」
――雷光破走――
“力”のマテリアルの姿が掻き消えた。ソニックムーブだ。背後に回り込まれたんだと直感が働いて前進しつつ反転、“バルディッシュ”を薙ぎ払った。直感通り私の背後にマテリアルが居て、私の攻撃を縦に構えていた“バルニフィカス”の柄で受け止めていた。ギチギチと金属が擦れ合う音が私たちの間で鳴り続ける。
「せぇーい!」
「はぁぁぁぁ!」
同時に鍔迫り合いを中断してさっきと同じようにデバイスの連撃を開始。私たちの間で激しい火花と金属の衝突音が生まれる。
「僕は勝つ! そして飛ぶ!」
「ううん。私が勝つ、そして阻止させてもらう!」
自分と同じレベルの強さを持っているこの子――マテリアルと全力で戦うと余計に思い知る。ルシルとシャル、それにシグナムの強さを。特にルシルのランサー形態時の強さが際立つ。シャルと共闘してルシルを追い詰めようとしたあの戦い。あの時のルシルの斬撃速度に比べれば、私やマテリアルの攻撃はまだ遅い。
(でも今の私じゃ意識はついて行っても体が追いつかない・・・!)
意識に体が追いついた時、私はきっとルシルとも真っ向から戦える時だと思う。その前にシャルとシグナムっていう壁があるけど。でも今は目の前の壁――自分を乗り越えないと始まるものも始まらない。
マテリアルの振り上げの一撃に応じることなく後退して距離を取って、「バルディッシュ、ソニックフォーム!」防御を度外視して機動力を引き上げるバリアジャケット、ソニックフォームへと換装。マテリアルの背後へと瞬時に回り込む。
「ふえ!?」
「ごめん。自分を相手に立ち止っているわけにはいかないんだ。また私の友達とこの街を危機に陥れようとするあなた達は・・・居てはいけないんだ!」
ソニックフォームでのヒットアンドアウェイ戦法。あらゆる方位からマテリアルへと斬りかかる。マテリアルは慌ただしく私の攻撃を防御するけど、徐々に「なんでー!?」掠ったり直撃を受けたりするようになってきた。どうやらマテリアルはソニックフォームへの換装が出来ないみたいだ。
「ひ、ヒキョーだぞ! 正々堂々たたかえー!」
ガオー、と咆えるマテリアル。まさか卑怯って言われるなんて思わなかった。そしてマテリアルは「くっそー!」って悔しげに叫んで私から逃げようとした。空から地上に向かって降下、ビルとビルの間を縫うように飛んで行く。
私もすぐさま降下してマテリアルを追翔。マテリアルはビルの陰を利用して飛んで行くから視界に収め続けにくい。しかも時折、「電翔弾!」プラズマバレットを何発と発射して妨害してくる。
(これは逃げているんじゃなくて、戦場を移し替えようとしている・・・?)
機動・速力の優位性を崩す方法。それが広い場所じゃなくて狭い場所への変更。狭ければ狭いほど、機動力や速度が殺がれていく。となれば、袋小路に迷い込まされるより早くマテリアルを捉えないと、また勝敗の着かない相殺戦になっちゃう。
「っ、しま――っ!」
マテリアルを追ってビルの角を曲がると、そこには砲撃の発射体勢で待ち構えていたマテリアルが居た。
「くぅらえぇぇーーーッ、雷刃爆光破!!」
マテリアルの前面に展開されていた魔法陣の放射面から雷刃爆光破――プラズマスマッシャーが放たれた。ソニックフォームでの直撃は撃墜確実。「くっ!」移動先を確認しないまま全力で宙を蹴って飛んで回避。直後に足元を砲撃が通過して行った。
「・・・っと!」
ビルの側面に着地。すかさず砲撃発射後のため膠着しているマテリアルへと突進。ハーケンフォームへと変形させた“バルディッシュ”による一撃――ハーケンスラッシュを「はぁぁぁぁ!」与える。マテリアルは「そんなー!」って悔しげに声を上げながらコンクリートの地面へと落下、叩き付けられた。でも今の様子からしてまだ倒れてはいないはず。だから・・・!
「バルディッシュ!」
≪Load cartridge≫
カートリッジを2発ロードして、空いている左手の前――魔法陣を地面にめり込んで倒れたままのマテリアルへと向ける。
「トライデント・・・スマッシャァァァァーーーーーッッ!!」
魔法陣の中央から1本、続けて上下に1本ずつ、枝分かれするように3本の砲撃がマテリアルへと向かって行って、着弾点であるマテリアルに着弾する直前で結合して反応を起こし、雷撃を伴う大威力の爆発が起きた。私は周囲にプラズマスフィアを6基待機させて降下、マテリアルの様子を伺う。
「そんな、どうして・・・!? 僕の一閃が、後れを取るなんて・・・!」
「・・・・私の勝ちだよ、力のマテリアル・・・」
体の所々に消滅の前兆であるノイズが奔り始めたことで、待機させておいたプラズマスフィアを解除。マテリアルは悔しげに“バルフィニカス”を杖代わりに立ち上った。
「こ、今回は僕の負けを認めてやる! で、でも! や、闇は何度でも蘇るんだぞ! 僕も王への道を諦めたわけじゃないんだからな! いずれ必ず、君を斃す! だから、えーと、えーと、なんだ、憶えてろぉぉーーーー!!」
そんな捨て台詞を言い放ったマテリアルもようやく消滅した。それを見届けた私は「はぁ」なんて言うか疲れからくる溜息を吐くだけだった。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
アリシアちゃんから連絡を受けた私は、海上沖合にて反応を示したっていう“闇の書”の闇――ナハトヴァールと防衛システムの復活を企んでいる特別な残滓、マテリアルの討伐にやって来た。目の前に張られている結界へと侵入する前に、『なのは』シャルちゃんから通信が入った。
『さっきはごめんね、わたしの偽者が迷惑を掛けたっぽくてさ』
「あー、気にしないで、シャルちゃん。まぁ、本物のシャルちゃんと同じで超絶に明るくてちょっとやりにくい・・困った感はあったけど・・・」
ついさっきまで海鳴臨海公園でシャルちゃんの偽者と戦っていた私。偽者のシャルちゃんの時間は私と出会った直後のものだったから、敵対戦闘じゃなくて友好試合みたいな感じで戦った。
他にも救いだったのは、本物のシャルちゃんより弱かったこと、そして空を飛べなかったこと。時折、シャルちゃんは魔力の翼で空を飛んだりするけど、それが無かったから一方的な試合に出来た。あと、経験値の差もある。偽者のシャルちゃんは私の手札を知らず、私は知っていた。それが勝利に繋がったんだ。
『その割には偽者のわたしをボコボコにしてたよね、なのは? わたしの攻撃範囲の外から射砲撃に雨あられ。改めてなのはの容赦なさを確認できたよ』
「あう、ごめんね・・・?」
『いいよ、いいよ。砲撃魔導師対剣闘騎士の参考になったから』
私と偽者のシャルシャルちゃんの戦闘映像で何かを感じたみたいなシャルちゃんは最後に、『ついさっき、フェイトのマテリアルが現れたの。名を、力のマテリアル』そう教えてくれた。すずかちゃんにアリサちゃん、そしてフェイトちゃんか。私はモニターから結界へと視線を向ける。たぶんあの結界の中には「私のマテリアルが居る・・・?」ということに。
『だから一応、気を付けてって思って』
「うん。ありがとう、シャルちゃん。私なら大丈夫。フェイトちゃんだって自分のマテリアルに打ち勝ったんだ。私だって負けていられないもん!」
『・・・そっか。そうだね。頑張って、なのは!』
「ありがとう、シャルちゃん!」
お互いに手を振り合い、そして通信を切る。改めて目指すはマテリアルの居る結界。“レイジングハート”を握り直して、いざ侵入して「あ、今までとなんか違う・・・」ピリピリと肌が焼けるような感じ。これまで遭遇してきた残滓の居る結界とは確かに違う。警戒しながらマテリアルの姿を捜して・・・「見つけた・・・!」夕日をバックにして宙に佇むマテリアルを視界に収める。
「・・・!」
近付くにつれてハッキリとマテリアルの姿形が視認できる。全体的に深紫色のバリアジャケット。手にしているのは色違いの“レイジングハート”。普通に声を出して相手に届くくらいの距離にまで近づく。と、「待っていました・・・貴方を」俯かせていた顔を上げて、そっと右手を胸に添えた。やっぱり、私だった。髪は私とは違ってショートヘア。澄んだ空色の目をしてる。
「私を待っていた・・・?」
「ええ。この身と魔導は、闇の書に蒐集データから再現したもの。そう、貴方のデータです」
マテリアルはスカートの裾を左手と“レイジングハート”を持ってる右手で摘まみ上げて一礼して、「ですが、私は・・・他の誰でもない私として存在しています」そう言ったところで、私は妙な威圧感を感じた。
「まずは自己紹介を。私は理のマテリアル、そして私の魔導の杖、ルシフェリオン」
色違いの“レイジングハート”――“ルシフェリオン”を構えた“理”のマテリアル(敬称は・・・いいよね?)。
「私たちマテリアルの役目はただ1つ。貴方たちが砕いた闇の書の復活」
「闇の書は砕いてないよ。夜天の書っていう、綺麗な、元の姿に戻っただけ。・・・闇は砕いたけど(ぼそっ)」
「戻った、ですか・・・。ナハトヴァールや防衛システムがあってこその闇の書。今の魔導書は、魔導書と呼ぶのもおこがましい欠陥品です」
“夜天の書”――リインフォースさんの事をあろうことか欠陥品だなんて。私と同じ顔、そして声を持ってるけど、やっぱりあまり褒められた人格じゃない。私は悪びれる様子の無いマテリアルに向かって「取り消して」って語気を強めて言う。
「はやてちゃん達が苦しんで、悲しんで、その果てにやっと取り戻せた本当の名前と幸せを否定なんてさせない・・・!」
「取り消す必要などありません。元闇の書、その一部でした私が言うのですから。闇の書は、闇を抱いてこその魔導書。ですから、私たちのようなモノが生まれるのです」
マテリアルが“ルシフェリオン”の先端を私へと向けてきたから、私も“レイジングハート”を向ける。どっちにしても話し合いで終わる状況じゃないんだ。覚悟を決めて戦闘に入ろう。
「闇の書の復活を願い、そして果たすその前に。私個人としての目的――まずは貴方を、闇を撃ち砕いた魔導師である貴方を・・・撃ち斃します。その為に私は・・・貴方を待っていた!」
「っ・・・!」
≪マスター、お気を付けてください。強敵です≫
“理”のマテリアルから放たれて来るとんでもない戦意に“レイジングハート”が警告してきた。そうだね、すごい戦意だけど。でも「ヴィータちゃんに比べたらまだまだ・・・!」どうってことない。
「理のマテリアル、ルシフェリオン・・・。参ります」
「高町なのは、レイジングハート。行きます!」
≪Accel Shooter≫≪Pyro Shooter≫
「「シューット!」」
同時に放つのは射撃魔法。マテリアルはパイロシューターっていう名前のアクセルシューターを8発。私も8発。それらが私とマテリアルとの間で交差して向かうべき相手に殺到する。私は迫って来るマテリアルのシューターを上昇する事で回避。それは向こうも同じ。上昇して回避した。
すかさずマテリアルの背後から襲撃しようと回避されたシューターを操作。私の魔法を再現してるっていうからには、きっとマテリアルも私と同じように射撃魔法の操作技術に長けてるって思ってた。だから私のように、って。でも・・・。
「ラピッドフェザー・・・!」
私のアクセルフィンと同じ短距離の高速移動魔法――ラピッドフェザーで突進して来たマテリアルは“ルシフェリオン”を振り上げて、「アサルトマルクス!」デバイスに圧縮魔力を乗せての打撃魔法フラッシュインパクト――アサルトマルクスを繰り出してきた。
≪Round Shield≫
シューターの操作を中断して回避ないし防御を取ろうとした時、“レイジングハート”がシールドを張ってくれて、マテリアルの打撃を防いでくれた。名前は違くても効果はやっぱり一緒みたいで、シールドを打った“ルシフェリオン”の圧縮魔力が強烈な閃光を伴って炸裂。シールド越しから途轍もない衝撃が伝わって来た。
(だけど今はチャンス・・・!)
シューターの操作を続行して、シールド越しに居るマテリアルの背後から再襲撃。と、マテリアルと目が合った。冷ややかなのに、けど強い意志に満ちた、不思議な目をしてる。その目がスッと後方を見るかのように動いた。
≪Round Shield≫
マテリアルの背後にシールドが展開されて、私のシューターが全弾防がれる。すぐさま「パイロシューター」私の周囲に8発のシューターが配置された。すぐさま後退。直後にさっきまで私が居た場所のシューターが殺到して交差、次に停止。最後にわたしに向かって再襲撃。
マテリアルから距離を取りつつ、「シューット!」アクセルシューター8発を発射。マテリアルのパイロシューターの迎撃を行う。シューターの速度と威力は拮抗しているのが幸いだった。相殺が出来る。
「ブラストファイアァァァーーーッ!!」
シューターを相殺してる最中に発射されてきたのは、ブラストファイアーっていう名前に変更されたディバインバスター。
≪Axel Fin≫
アクセルフィンを発動してくれた“レイジングハート”のおかげで直撃は免れた。でも私の意思じゃなかったこともあって体勢を僅かに崩してしまった。立て直すための数瞬。その隙を突いて周囲にスフィアを6基展開させてるマテリアルが接近してきた。
(この子、自ら進んで近接戦を・・・!)
私とは正反対の魔法スタイルだ。私は距離を開けての射砲撃に対してマテリアルは接近しての射砲撃と近接戦のミックス。どちらかと言えばフェイトちゃんタイプだ。
「シュート!」
――パイロシューター――
私と距離を詰めたマテリアルは、シューター6発を同時発射じゃなくて間を置いての連射。まずは回避に意識を注ぐ。だけど逃げ道を塞ぐようにマテリアルが立ち塞がって来て、“ルシフェリオン”を振り降ろしてきた。
「ぅく・・・!」
体を横に向けて上体を逸らすことで“ルシフェリオン”の打撃を紙一重で回避。直後に到達したシューターをまた“レイジングハート”の張ってくれたシールドで防御。これもまたギリギリで間に合った。けど、「っ!」ビリっと首筋に痛みが奔った。直感的に“レイジングハート”を背中に回した。その直後・・・
「っ、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
思いっきり背中を殴られたけど、“レイジングハート”を盾にしたおかげでこの一発で撃墜されることはなかった。でもその衝撃は強くて殴り飛ばされちゃった。海面に叩き付けられる前に体勢を整える。
「ファイアァァァーーーッ!」
――ブラストファイアー――
頭上から降ってくる砲撃。海面スレスレを飛んで回避。砲撃の次は射撃魔法パイロシューターが降り注いできた。いつまでも下の位置取りじゃ勝てない。“レイジングハート”をバスターモードへ変形させる。そして“レイジングハート”を構えた上で仰向けになる。
≪Short Buster≫
「シューット!」
射程や威力を度外視する代わりに発射速度や砲速を上げて連射できるショートバスターを、空を翔けるマテリアルへと向かって発射。マテリアルは砲撃の発射体勢を中断して回避に移った。今がチャンスだ。一気に高度を上げて、マテリアルと同高度にまで戻る。
「さすがは闇を撃ち砕いた勇士の一角と言ったところですね。やはりそう簡単には墜ちてはくれませんか」
「墜ちるわけにはいかないからね。友達の為に、この街の為にも」
お互い同時にデバイスの先端を相手に向けた。
≪Divine≫≪Blast≫
「バスタァァーーーッ!」「ファイアァァーーーッ!」
そして発射する砲撃魔法。私たちの間で真っ向から衝突して、拮抗する。
「いっっっけぇぇぇーーーーッッ!」
「なんと・・・!?」
でも砲撃魔法じゃ負けないよ。拮抗を打ち崩したのは私のディバインバスター。少しずつブラストファイアーを押して行く。マテリアルは放射を中断してバスターの射線上から離脱。私もすぐさま放射を切り上げて“レイジングハート”のカートリッジをロード、エクセリオンモードへと変形させて、「アクセルシューター!」を7発と発射。
「パイロシューター!」
マテリアルのシューター8発と相殺し合って、最後の1発は後退しつつ新しく撃ったシューター1発で迎撃。そしてもう1つ、仕掛けを用意していく。そのまま距離を開ける。さらに仕掛けを1つ。
「エクセリオン・・・バスタァァァーーーーッ!」
マガジンを交換してさらにカートリッジをロード。そして誘導制御・反応炸裂型の中距離砲撃魔法エクセリオンバスターを発射。マテリアルはハッとして回避して、私に負けじと「ブラストファイアー!」砲撃を撃って、パイロシューターのスフィアを周囲に展開しながら私に向かって飛んで来た。
――レストリクトロック――
「っ!?・・・これは・・・!」
範囲対象の捕獲魔法、レストリクトロック。発動から完成までの間に指定範囲内から出なかった対象すべてをその場に固定して、捕獲輪で拘束することが出来る。マテリアルは直感的にバインドの存在に気付いたみたいで、ラピッドフェザーっていう魔法で回避に移った。結果、拘束できたのは両脚と腰、そして左腕。“ルシフェリオン”を持ってる右腕だけは失敗。
「このような拘束、すぐにでも・・・!」
「レイジングハート!」
≪Load cartridge. Barrel Shot≫
補助効果付きの複合高速砲撃、バレルショットを発射。本命の砲撃の照準や弾道安定、発射直後の暴発や拡散を防ぎ、そして対象を逃がさないための不可視型バインドっていう効果を持った、物理的な衝撃波を伴う砲撃だ。バレルショットの直撃を受けたマテリアルの空いていた右腕も目に見えないバインドで拘束されたのが判った。さぁ、これで決着だよ。カートリッジを全弾ロードして、最後の砲撃の発射体勢に入る。
「エクセリオン・・・」
「っ! このままでは・・・!」
バインドブレイクをしようともがき始めたマテリアル。でも、その拘束からは逃れられないよ。
「バスタァァァァーーーーーーッッ!!」
エクセリオンバスターをマテリアルへと向けて発射。マテリアルは「・・・ここまで、ですか」ってもがくのをやめた。そして私の砲撃の直撃を受け入れた。魔力爆発に呑み込まれたマテリアルがもし、まだ反撃をしてこないと限らないから周囲に魔力スフィアを6発と待機。晴れていく煙の中から、ボロボロになったマテリアルが姿を見せた。完全に戦意喪失していることが判ったからスフィア全基を破棄する。
「敗れてしまいました・・・。やはりあなたは強かった・・・」
「ううん。あなたも・・・すごく、強かった」
「光栄ですね。貴方ほどの強い戦士から賛辞を贈って頂けると」
儚げに微笑むマテリアルの体にノイズが走り出す。消滅の前兆だ。
「私は、消えるのですね」
「あ・・・、ごめんね」
さっきまでと打って変わって弱々しく見えるマテリアル。でも私の謝罪を聴いたマテリアルはもう一度微笑みを浮かべて首を横に振った。
「闇の書の復活をこの身で成し得えることは叶わなかったですが、敗れはしましたが貴方と戦う事が出来たのです。生まれた甲斐はありましたとも」
私と戦えたことが本当に満足だって、マテリアルの綺麗な目が告げていた。だからかな、「ありがとう」私はそうお礼を言っていた。
「もし、いつかまた、貴方と見えることがあれば、その時はきっと、決して砕け得ぬ力をこの手にして、再び貴方と魔導を交えたいと思います」
「えっと、うん。待ってる、って言うことは立場上できないけど・・・」
「ですね。・・・高町なのは。次に私と見え、魔導を交えるまで・・・、貴方の信ずる道が、勝利に彩られますように。・・・それでは、その時まで・・・さらばです」
“理”のマテリアルはそう言い残して、その体を消した。目的を度外視すれば良い子だったんだけど。う~ん、別の形で出会えれば、きっと友達になれたんだろうけどな。それが残念だった。
(テスタメントちゃん・・・)
あの赤い髪の女の子をどうしても思い出しちゃう。少し思い出に浸っていると、エイミィさんから通信が入った。
『お疲れ様、なのはちゃん! なのはちゃんの周囲の残滓が一斉に消滅したのを確認したよ』
『残るマテリアルは1つ。今、はやてとリインフォースが向かってる。たぶん、そのマテリアルで最後だと思う』
アリシアちゃんの報告にちょっと嫌な予感がした。はやてちゃん、まだ上手く魔法を使えないはずだし、リインフォースさんも弱ってる。そこに他の残滓より強いマテリアルと戦うってことになると・・・。
『あれ? あれ、あれれ?』
『どうしたの、アリシアちゃん?』
モニター越しから伝わって来るアリシアちゃんの困惑。少しの間、2人がキーを操作している音が漏れ聞こえて来て、そして・・・。
『っ!!・・・テスタメントちゃん・・・!?』
エイミィさんから発せられた、たった今、私が思い返していた女の子の名前。アリシアちゃんの操作なのか別のモニターが展開されて、そこに映し出されていたのは・・・
「テスタメントちゃん・・・!」
燃えるように赤い髪に青い瞳。手に持つのは漆黒の十字架、“第四聖典”。服装は、私の知ってる神父さんの服とは違って、赤いブラウスに黒いネクタイ、黒のスカートっていうもの。それでもその子は確かにテスタメントちゃんだった。
後書き
ドーブロ・ユトロ。ドバルダーン。ドーブロ・ヴェーチェ。
今話はマテリアルLことレヴィ、そしてマテリアルSことシュテルを登場させました。2人はPSP第一作ではオリジナルとハッキリとした差がないキャラの為、前話のマテリアルOとマテリアルFと同様、サクサクッと倒れてもらいました。GOD編ではオリジナルと性能がキッチリ分かれるため、今回よりはずっと強いという設定にします。
さて。次話で『THE BATTLE OF ACES』編のラスボス戦ということで終了となり、少し間を空けてから『THE GEARS OF DETINY』編となります。というか、エピソードⅡが長い。“闇の書”編とPSP編を分ければ良かったとちょっと後悔。
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