戦国異伝
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第百七十一話 三河口の戦いその十一
「そうそう容易に討てぬわ」
「刺客は退けられますか」
「毒を盛ろうが吹き矢や矢、鉄砲で闇討ちをしてもな」
「通じませぬか」
「あの御仁一人でもな」
それは出来ないというのだ、そして松永はさらに言った。
「ましてや周りには常にあの者達がおる」
「十勇士ですか」
「あの者達ですか」
「一人一人が天下随一の忍達じゃ」
十人全員が天下屈指の忍達、それが十勇士だというのだ。
「どんな者が束になろうと敵わぬわ」
「では消すことは」
「諦めることじゃ」
それはというのだ。
「それが出来る相手ではない」
「左様ですか」
「どうやらあの者は殿と同じじゃな」
「織田信長とですか」
「同じですか」
「日輪じゃ」
それになるというのだ、幸村もまた。
「天下統一の日輪ではなく武士の日輪じゃ」
「また別の日輪ですか」
「織田信長のそれとはまた」
「そうじゃ。だからじゃ」
「消すのは容易ではない」
「そうですな」
「小細工で倒せる相手ではない」
幸村もまた然り、あくまで言う松永だった。
「全力でかかることじゃ」
「ですか。骨が折れますな」
「武田信玄も厄介ですし」
「そこに真田幸村もとは」
「実に厄介ですな」
「そうじゃな。どうやら」
ここで、だった。松永は考える顔になりこんなことを言ったのだった。
「我等はもうよいかのう」
「よい?」
「よいとは」
家臣達はその彼に問うた、怪訝な顔になり。
「殿、それはどういう意味でしょうか」
「この場合のよいとは」
「一体」
「わかりませぬが」
「いやいや、何でもないわ」
何がよいとはだ、彼等にも言わない松永だった。
「気にすることはない」
「左様ですか」
「何でもありませぬか」
「うむ。しかしわしも青い具足と陣羽織を来て久しいが」
話を誤魔化してからだ、松永は話を変えてこんなことを言い出した。
「よい服じゃな」
「この青がですか」
「織田家の青がですか」
「気に入っておる」
「気に入ってきたではなく」
「いっているのですか、気に」
「うむ、最初から好きじゃ」
織田家に入りそれからというのだ。
「まだ着ていたいのう」
「いえ、それはなりませぬぞ」
「何時長老様が仰るかわかりませぬ」
「動けと」
「これまで常に動いておられませぬが」
実はこの前もだった、信長に背けと言われたのだ。しかし松永は言を左右にしてそれで動かなかったのだ。このことが怒らせない筈がなかった。
「長老様も至ったご立腹とか」
「ですからもうです」
「他の家の方々も殿には不信を抱いておられるとか」
「この状況は危ういですぞ」
「ですから」
「わかっておるがのう」
それでもという口調だった。
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