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戦国異伝

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第百七十一話 三河口の戦いその八

「これまでおりませんでした」
「御主の言葉とは思えんな」
「そうでありますか」
「少なくとも個の武芸で御主以上の者をわしは知らん」
 慶次の槍と刀の凄さは織田家において比類なきものだ。そのあまりもの強さが為に悪源太の再来とまで言われる程だ。
 だが、だ。その慶次をしてだというのだ。
「その御主と互角か」
「まさに」
「攻めも退きも出来て武芸もか」
 このことから滝川は唸る顔で言った。
「そんな者がおるとはな」
「いや、それがしは武芸だけですからなあ」
 こう笑って言う慶次だった、彼のそうした態度は今も変わらない。
「兵をあそこまで率いられるとは見事でござる」
「全く、御主はそうしたことも学べ」
 慶次にこう言ったのは松井だ、怒った顔で彼を叱る。
「風流の学問ばかりして政や軍学はさっぱり学ばぬではないか」
「それがしそうしたことは合わぬので」
「またそう言うのか」
「はい、ですから」
「全く、図体ばかりでかい童子じゃな」
 松井は口を尖らせて慶次をこう評する。
「困った奴じゃ」
「ははは、童心は失っておりませぬ」
「そういう問題ではないわ、あの真田はな」
 松井も幸村のことについて語る、彼はというと。
「政も他の学問も立派なのじゃぞ」
「左様ですか」
「そうじゃ、そちらでもかなりの者じゃ」
「あらゆることに秀でておるのですな」
「しかもその臣に十勇士がおる」
「ああ、それがし会っておりまするぞ」
 ここで軽く言った慶次だった。
「あの十勇士にもあの御仁にも」
「そういえばそうじゃったな」
「はい、ですから」
 それでだというのだ。
「あの御仁については実は知っておりまして」
「それで刃を交えてか」
「いやあ、まことに強うございました」
「恐ろしい男じゃな」
 松井も唸った、幸村について。
「今は済んだがな」
「はい、次はですな」
 滝川は松井のその言葉に応えた、かなり強張った顔で。
「こうはいきませんな」
「とりあえず尾張に入られることは防いだ」
 それはというのだ。
「まずはよしとすべきか」
「ですな、とりあえずは」
「追うとしよう」
「追いつけぬまでも」
 そうしようと話してだ、そしてだった。
 織田軍は信濃に退く武田軍を追おうとした、だが敵の足は速く追いつくことは出来なかった、結局武田軍には逃げられてしまった。
 織田軍は信濃までは入らなかった、信長は武田軍に追いつけぬとみるとすぐに全軍に対してこう命じた。
「では仕方がない」
「それではですな」
「これより」
「加賀に向かう、尾張と美濃には五万の兵を備えておく」
 それを備えとして、というのだ。
「ではよいな」
「では」
 柴田が応える、彼はそのうえで信長に話した。
「既に北陸に五万の兵がおります」
「御主等は早馬で北陸に向かうのじゃ」
 その五万の兵がいる場にというのだ。 
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