Element Magic Trinity
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月夜見ノ尊
「命刀―――――――――月夜見ノ尊!」
刀身は銀。
淡い水色の光を帯びる、細く鋭い刀。
柄の部分には髪や瞳と同じ群青色のリボンが巻かれ、蝋燭の光を受けてキラリと煌めく。
「まだ立ち上がるか」
所々で長さの違う白銀の髪を揺らし、シェヴルは水晶玉を構える。
右手に乗せた水晶玉に過去を映し、実体化させる―――――それが彼女の昔時魔法。
映るのは、ジュビアとザイール。
飛び出し、藍色の魔法陣を展開させるザイールの姿。
彼の放とうとする魔法―――――爆魔術の高威力爆発魔法、魔轟爆陣。
「魔轟――――――!」
その名を呟こうと唇を動かす。
空色の瞳がクロスに向けられ、気づく。
手を伸ばさなくても届くような至近距離で、深い青色が揺れた。
「伊弉諾尊!」
「がはっ!」
右下から左上へ斬り上げる。
右手で傷を抑えながら、水晶玉に別の過去を映した。
水晶玉から淡い緑色の光が零れ、シェヴルの傷を癒していく。
ルーの使用する、大空治癒だ。
「伊弉冉尊っ!」
「星霊魔導士に向かうナイフを避けし過去!大空風流!」
次の攻撃を、ルーの大空風流で逸らす。
クロスは僅かに苛立ちを浮かべたが、すぐに後方に跳んで距離を取った。
(先ほどまでとはまるで違う……威力や速度は大きく上昇し、攻撃時の無駄が最大限消えている…原因はおそらく、あの刀)
シェヴルの鋭い目が、命刀を見つめる。
銀色の刀身を煌めかせ、淡い水色の光を纏う月夜見ノ尊。
「その刀、一体何物だ。ただの刀では無いようだが」
問う。
それに対し、クロスは小さく眉を上げた。
ふぅ、と短く息を吐くと、ゆっくりと瞬きをする。
「これは命刀・月夜見ノ尊。俺の持つ中では最強の武器であり、魔力が空であろうと別空間から呼び出せる魔の刀」
「魔力が、空でも……!?」
魔法というのは、魔導士の体内の魔力があって初めて使えるモノだ。
魔水晶だって魔力が無ければ使い物にならない。
別空間から呼び出す事に魔力を必要とする換装系の魔法で、魔力が無くても呼び出せるなんて有り得ないのだ。
――――――――だけど。
「そして、この刀が命刀―――――――命の刀と呼ばれる由縁は、そこにある」
万能なだけが魔法ではない。
善悪反転魔法のように、強力なモノには強力な副作用があるもの。
そして、この刀も当然――――――。
「呼び出す際に魔力が足りない時、この刀は足りない魔力を―――――所有者の寿命で補う」
深海を思わせる深い青色の瞳が、鈍く光る。
姉よりは日に焼けているが白っぽい肌を、蝋燭の光が照らす。
唇が、動く。
「それが命刀・月夜見の尊。俺の所有する、禁忌の刀」
「ルー、大丈夫?歩ける?」
「魔力も回復してきたし…大丈夫、問題ないよ」
塔の1つ―――――12の塔の入り口がある、中央の塔。
“死の人形使い”マミー・マンを倒したルーシィとルーは、元素魔法・第二開放、大空の支配者を発動させたルーの魔力の回復を待ち、2人は倒れるマミーを残して部屋を出ている。
今は塔の1回にまで降りており、先ほどまでルーはルーシィの肩を借りていた。
「にしても、アイツ等の目的は未だに解らないままね……ティアをどうするつもりなのかしら」
「クロスに怒られなきゃいいけど」
「もう怒ってるわよ…って、そうじゃなくてっ!」
「ほぇ?」
噛み合っているようで噛み合っていない会話。
こてりと首を傾げるルーに、ルーシィは溜息をつく。
「ルーシィ!ルー!」
「!グレイ!」
すると、そんな2人に駆け寄る人物が2人。
1人は仲間であるグレイ(着ていたはずの紺のタートルネックを着ていない事に気づいた2人は「また脱いだのか…」と顔を見合わせた)。
そしてもう1人はというと。
「あ!」
「お前は確か…天秤宮の!」
グレイの後を追いかけてくるのは、血塗れの欲望の“天秤宮”。
桃色の髪に紅蓮の瞳の少女パラゴーネは2人の姿を見るなり、驚いたようにグレイの後ろに隠れた。
そぅっと顔を覗かせ、目が合うと慌てて隠れる。
「ど…どういう事?何で血塗れの欲望がグレイと行動してるの?」
「コイツは敵じゃねえ…いや、さっきまでは敵だったけど今は違う。そうだろ?」
「……肯定する」
首を傾げるルーに答え、グレイはパラゴーネに問う。
恐る恐る顔を覗かせたパラゴーネは小さく頷いた。
グレイの横に並ぶと、少し俯きもごもごと口を開く。
「その…ギルドでは、その、わ…悪かった……謝罪…する」
ぺこり、と頭を下げる。
その様子にルーシィとルーは顔を見合わせ、笑った。
「謝らなくていいわよ。あたし達あんまり気にしてないから」
「そうそう!ギルドが壊れるなんて日常茶飯事だしねっ!」
「その原因、アンタでもあるけどね……」
「えー、僕じゃなくてナツとグレイだよう」
「はあ!?オレじゃなくてあのクソ炎だろ、原因は!」
「…どっちもどっちでしょ」
3人のやり取りに、ぱちくりと瞬きをする。
しばらく驚き唖然としていると、そんなパラゴーネに気づいたルーシィが申し訳なさそうに口を開いた。
「あ、ゴメンね。つい…」
「気がかりになるな。少々錯愕しただけだ」
「……え?」
「あー…解んねえか、やっぱり。“気にすんな、少し驚いただけだ”…っつったんだろ?」
「肯定する。やはり流石だな、師匠」
「し、師匠!?」
パラゴーネの複雑怪奇な口調は聞いてすぐは理解出来ないものだ。
もう慣れたグレイの通訳を聞いたパラゴーネは嬉しそうに瞳を輝かせ、彼女の師匠呼びにルーが驚いたように目を見開いた。
「そこは気にすんな」と、話すと長くなる為曖昧にすると、グレイは口を開く。
「で……お前等は今回の件の詳しい事、知ってるか?」
「ううん、全然。あたし達が戦った奴…災厄の道化って言ってたっけ?」
「そう。計画の詳しい事知ってるのは、災厄の道化のマスターと作戦参謀だけだって言ってた」
「災厄の道化!?…まあ、血塗れの欲望の傘下だし、いてもおかしくはねえが……パラゴーネ、2人に今回の事教えてやってくれ」
「了解した」
こくっと頷くと、パラゴーネはグレイにしたのと同じ話を2人にもした。
“星竜の巫女”は星竜シュテルロギアの御魂に直接願う権利を持つ事。
その願いがどんなものであろうと、世界を創造した神にも等しいシュテルロギアの手にかかれば何でも叶ってしまう事。
願う権利は巫女1人につき1回で、シャロン達は一族の為に願わせるつもりだという事。
そして――――――願う権利を失った瞬間、ティアはシャロンに殺されるという事も。
「な…何それ……」
「そんな理由でティアは…殺されちゃうかもしれないの!?」
全てを聞き、ルーシィとルーは愕然とした。
“力”を持たず“力”を得た、ただそれだけの話。
それだけで忌み嫌われ、願う事を強要され、殺されるかもしれないなんて――――――。
ぐっ、とルーは拳を握りしめる。
「何で…何でそんな事が出来るんだよ!どうやったらそんな酷い事を思いつくんだよっ!何で!何でだよおおおおっ!」
「ちょ……ルー!怒りたくなる気持ちも解るけど落ち着いて!パラゴーネが困ってるでしょ!」
パラゴーネに対して怒りをぶつけるルーを、ルーシィが必死に宥める。
怯えたように再びグレイの背後に隠れたパラゴーネはくいくい、とグレイの白いコートを引っ張った。
「どうした?」
「遁辞にしか聞こえないだろうが……私は、ティア嬢を利用する気は皆無だった。ただ…その、師匠を駆逐可能なら、それで良かった…から……」
言いにくそうにもごもごと呟く。
言い終え俯いてしまったパラゴーネの言葉が聞こえていたのだろう。
ルーは申し訳なさそうに頬を掻いた。
「あ…ゴメン。つい感情的になっちゃって……怖かった?僕」
「…寧静だ。私の方こそ、済まなかった」
「?えー……っと」
「大丈夫だ、だってさ。だろ?」
「肯定する」
ボロボロのマントが小さく揺れる。
紅蓮の瞳には未だに怯えがハッキリと宿っているが、最初よりは幾分落ち着いていた。
「でも…その願う力とかいうのを使って、シャロンは何を願わせるつもりなのかしら」
「パラゴーネ、解るか?」
「私は解釈していない。そもそも、解釈している者は我がギルドでも少々……シグリット様とリーダーなら解釈しているのだろうけど」
出てきた名前に、3人は僅かに表情を曇らせた。
血塗れの欲望のマスターである女性シグリットと、パラゴーネ達ギルドマスター直属部隊“暗黒の蝶”のリーダー、エスト。
この2人は敵であると同時に、仲間である元素遣い、アルカの両親でもある。
アルカは言った―――――「親父と戦う事になっても、手を抜く必要はない。闇ギルドの人間として扱ってくれて構わない」と。
「……アルカンジュ様の事か」
3人の表情を見て察したのか、パラゴーネが呟く。
口を開いたのは、ルーだった。
「アルカ、辛そうだった。手を抜くなって言ってたし怒ってたけど、僕には解ったんだ。本当は戦いたくないって思ってる。思ってるけど……戦うしかないから。今の自分の居場所と、仲間の為に」
「天舞う竜の祝子に投げられし過去!輝きの投曲芸!」
眩いまでの輝きに包まれたピンやボールがクロスへと向かう。
“処女宮”フラウの召喚系魔法、三日月曲馬団の召喚者だ。
それに対しクロスは左に刀を構える。
視界にジャグリングを捉え、一吼え。
「火之迦具土神!」
銀色の刀身を包む水色の光がぼんやりと発光し、赤に染め上がる。
光は熱気と化し炎となり、刀を包み込んだ。
「燃え尽きろ!」
吼え、薙ぎ払うように刀を横に振る。
ピンやボールを刀が斬り、刀の軌跡を炎が駆けていく。
斬られ燃え、シェヴルの攻撃全てが防がれる。
「チッ……天秤宮を凍らせし過去!氷欠泉!」
水晶玉に過去を映し、具現化。
クロスの足元から氷が天高く立ち上る。
それをひらりと避けると、迷う事無くクロスは刀を振るった。
高威力を誇る命刀によって、氷は斬られ、床に落ち砕ける。
「!」
後ろに気配を感じ、クロスは小さく振り返った。
ハッピーとシャルルの翼であろう翼を背に生やして飛ぶシェヴルの水晶玉が、別の光景を水面の様に揺らめかせながら映す。
「宙姫と天候を司る者を沈めし過去!五重魔法陣・御神楽!」
「がああああああっ!」
妖精の尻尾の最強候補、ミストガンの操る強力な一撃。
クロスの頭上に5つの魔法陣が展開し―――――光線が、落ちる。
タン、と床に降り立ったシェヴルが前を見据え―――――
「木花開耶姫!」
「うぐっ!」
煙の中から飛び出してきたクロスの一撃を喰らった。
淡い桃色の光を帯びた一撃が、シェヴルの左腕を傷つける。
斬られた箇所に淡い桃色の桜模様が浮かび、更に痛みを走らせていく。
「……最後に聞こう。姉さんはどこにいる?」
「答える訳…ないだろう……ティア嬢は我らが使う…誰にも渡さない!」
怒気を混ぜた声で叫び、シェヴルは水晶玉に過去を映す。
空色の瞳には怒りと狂いが現れ、何かに取り憑かれているような印象を与える。
「魔導式兵器に放たれし過去!鉄竜槍・鬼薪!」
魔法陣が展開し、鉄の槍の連続の突きがクロスを襲う。
が、クロスは回避行動を取らない。
刀を構えたかと思えば、突きを刀で弾くように受け止める。
「…姉さんを使う、だと?」
小さく、それでいてよく通る声。
シェヴル以上の怒気を含んだ、地の底から響くような重々しさがある。
深海色の髪の間から、ギラリと輝く瞳が覗いた。
「貴様等はいつから他人の自由を奪っていい程に偉くなった?闇ギルド風情が」
「何を……!」
ギッと睨み、シェヴルは駆け出すべく1歩足を進める。
――――――が、それ以上、動かない。
「!何故……!」
呟き、気づく。
じっとりと滲む冷や汗、無意識のうちに震える足。
それは、まるで。
シェヴルが目の前で怒るクロスに対して、恐怖しているようで―――――――。
(恐怖…!?いや、まさか……恐れているのか…私が……!?)
目を見開く。
映っているのは青年。
問題なく美青年と呼べるレベルだが性格的にはいろんな意味で残念な剣士。
それだけのハズなのに、シェヴルの恐怖は止まらない。
動きたいのに動けない。動けと脳は命じているのに、体は反応しない。
「もう何も聞かん。“最後に”と言ったからな」
足りない魔力を命で補う刀―――――命刀・月夜見ノ尊。
構えたと同時に、淡い水色の光がぼんやりと光って金色へと変わる。
渦巻くように金色の雷を刀身が纏い、バチバチと小さく音を立てた。
「だから、終わらせる」
地を蹴る。
駆け出し、恐怖で動けないシェヴルへと向かう。
「俺は“全て”を救う。二度と己の判断を後悔しない為に」
“全て”。
それは姉であり、姉以外であり、クロス自身であり、居場所であり。
青い髪を風に靡かせ、意識していなければ聞き逃してしまいそうな小さな声で―――――呟いた。
「かつて救えなかった事を嘆くより、今…救う為に手を伸ばす事の方が大事だから」
その呟きが、シェヴルの耳に届いたか否かは解らない。
僅かにシェヴルが目を見開き、命刀が纏う金色の光が強くなり――――――
「剣武・建御雷神!」
煌めき、一閃。
金色の一撃が、シェヴルに炸裂したのだった。
足音が4つ。
そのうち2つはヒールの音。
ボロボロのマントを靡かせるパラゴーネを先頭に、ルーシィ達は走っていた。
「…大丈夫かな、アルカ。もしエストと戦う事になったりしたら……」
「アイツなら大丈夫だろ。やる時はやる奴だからな」
「そう…だよね」
心配そうに俯くルーに、グレイが呟く。
弱々しく返事をしたルーの表情は変わらず暗く、ギルドでよく見る明るい笑みはすっかり鳴りを潜めていた。
その会話が聞こえていたのか、パラゴーネが足を止め振り返る。
「1つ責問する。アルカンジュ様とは一体如何な方なのだ?」
「どんな奴かって普通に聞けよ……って言ったところで無駄か」
相変わらず複雑怪奇なパラゴーネの口調にグレイは溜息をつく。
少し不機嫌そうに眉を顰めたパラゴーネは「私の話調など如何でもいいだろう。いいから回答してくれ、師匠」と不愛想に言った。
「えーっと、アルカはね…料理が上手いよ。あ、でも魚は捌けないんだー苦手だから。あとね、調理器具以外の機械に触ると機械を壊しちゃう体質なんだよう。この間もまた目覚まし壊したし」
「あたしのイメージはミラさんに関する事しかないかな……アルカってミラさんの事大好きじゃない?いっつもミラさんのいるカウンターにいるし」
「ミラちゃんと付き合い始めるまでは、もっぱらケンカのストッパーだった。オレとクソ炎とか、エルザとミラちゃんとか。スゲー仲悪かったから、まさかあの2人が付き合うとは思っても見なかったよな、ルー」
「そうそう、当時は皆で驚いたよね。ティアは特に何とも思わなかったみたいだけど。ミラに好意を寄せてた男からは恨まれたりもしたらしいよ」
3人それぞれのアルカに対するイメージに、パラゴーネは「なるほど」と小さく呟く。
ふと、ルーシィが尋ねた。
「あれ?それって…アンタ、アルカの事知らなかったの?」
「存在は解釈していた。正規ギルドに所属している事も。が、私が解釈しているのは大筋のみ……いや、私以外のメンバーも解釈していないと思う。シグリット様もリーダーも、好んで述べようとはしなかったから」
彼と両親に何があったのかは知らない。
が、エストは言っていた――――――「あの事を根に持っているなら謝るよ。お前には酷い事を……」と。
だから、きっと何かはあったのだろう。
それを語ろうとしなかったのは、親も子も同じで。
「……だけど、ミレーユ嬢は別だった」
ポツリと呟かれた名に、3人は少し聞き覚えがあった。
ミレーユ・イレイザー。
アルカの姉であり、既に故人。エバルーによって殺された、星霊魔導士。
「ご両親の前では述べようとしなかったけど…アルカンジュ様との思い出等を、よく述べていた。欣快に、追懐に……」
ミレーユがどんな人だったかを、ルーシィ達は知らない。
会った事は当然ないし、姉がいたという事を知ったのだって、既に彼女が亡くなった後だった。
だけど、アルカはあの時、姉の為に怒っていた。
姉の為だけに怒れるほど、仲のいい姉弟だったのだろう。
「そういえば…アルカが言ってたよね。“テメェ等が連れて行った姉貴の”って」
「確かに言ってたが……それがどうした?」
「何かさ、それってまるで……アルカは連れて行ってもらえなかった、みたいに聞こえるんだよね。僕だけ?」
言葉が消える。目を見開く。
今の今まで何とも思わずスルーしていたが、よく考えればそういう事だ。
言葉を失うルーシィとグレイの代わりに、パラゴーネが軽く頷く。
「肯定する。シグリット様とリーダーが帯同してきたのはミレーユ嬢だけだ。アルカンジュ様は置いていかれた――――――これ以上、闇に触接させない為に」
静かな声が響き、空気に溶け込む。
しばらくの間、誰も何も言えなかった。
聞き間違いでなければ、パラゴーネはこう言った―――――「これ以上、闇に触接させない為に」と。
それはまるで、1度闇に触れた事があるかのようで。
「これ以上……って…どういう事?」
震える声で、ルーが尋ねる。
パラゴーネは、少し躊躇うように視線を彷徨わせ、口を開いた――――――。
塔の1つ。
窓から夜空を眺める男性―――――“星の長”エスト・イレイザーは、その右手に変わった形の杖を握りしめていた。
先端に、光の当て具合によって色を変える丸い魔水晶が飾られ、その左右両方に簡単に書いた天使の羽のような透き通った飾りがある。柄の部分はレディッシュブラウンだ。
「……来て、しまったようだね」
誰に言う訳でもなく、ポツリと呟く。
目線を動かすと、光の中に人影が現れた。
足音が徐々に近づき、感じる気配にエストはどこか悲しそうに小さく俯く。
「…良かった。テメェと戦うのがオレ以外の奴じゃなくて」
足を止めた者は、少し安堵した様な声色で呟いた。
目線を上げれば、映るのは自分と同じクリムゾンレッドの髪。
黒いジャケットを着こなす青年を、エストは知っていた。
「それは、どういう事か…聞いてもいいかい?」
「単純な事さ。オレ以外ならテメェ相手にきっと躊躇う。だけど、オレ自身ならその心配はねえ」
彼以外が躊躇うのは、エストが彼の父親だから。
それでも、彼が躊躇う理由は何1つない。
目の前にいるのは親である前に敵で、仲間を危険に晒す者なのだから。
「色々言いたい事はあるが、面倒だから1つに絞る」
ゴオッ!と。
激しい音を立て、右の拳に紅蓮の炎が纏われた。
炎に下から顔を照らされながら、彼は――――――アルカンジュ・イレイザーは、告げる。
ただ、一言だけを。
「燃え尽きろよ、クソ親父」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
今日は絶対更新したかった!そしてその所望…じゃなかった、願いが叶った(天秤宮の口調がうつりそう)!
本日8月6日!緋色の空の誕生日ー!おめでとう、私(何か悲しい)!おめでとう、従兄弟(同じ誕生日)!
……ふぅ。
と、まあ1人で騒いでましたが、やっとROE編(章タイトル長いから略してみた)、シャロン以外の戦い全員分書いて……ない!
ジョーカーだ!早くアイツ書かなきゃ!
感想・批評、お待ちしてます。
アルカの超重大設定が明らかになるのはいつの事やら。ROE編で明らかにするつもりだけど。
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