保育園の先生
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第四章
第四章
「優しくて気も利くしな」
「ああ、そうかいそうかい」
「もう勝手に言ってろ」
「聞いてはやるからな」
「ああ、悪いな」
皮肉も通じなくなっていた。
「それじゃあな。今度はデートだからな」
「デートねえ」
「それも嬉しいんだな」
「滅茶苦茶嬉しいな」
淳博は今にも空に浮かばん限りだった。とにかく浮かれまくっている。
「それでデートだけれどな」
「ああ、デートな」
「何処をデートするんだ?」
「公園な」
そこだというのだ。
「そこに二人でな」
「公園って駅前のあそこか」
「あそこだよな」
彼等は公園と聞くとそこが何処の公園かすぐに察した。彼等にとって公園といえばまさにそこだった。だからそれでわかったのである。
「あれか?保育園から公園か」
「そこまでか」
「そこまでだよ。じゃあ行って来るからな」
「ああ、楽しんで来い」
「馬鹿な真似するなよ」
「振られるなよ」
こんな話をしてだ。そのうえでそのデートに向かう。彼は先生と保育園の校門で待ち合わせをしてデートをはじめた。その道すがらだ。
先生は薄い生地の空色のひらひらしたロングスカートに白いブラウス、それとクリーム色の鞄という格好だった。淳博は当然ながら中学の学生服である。
その先生がだ。彼の横から問うてきた。
「あのね」
「はい」
「確か淳博君って十四歳よね」
その年齢を問うのだった。
「そうだったわよね」
「はい、そうです」
自分の左横から顔を向ける彼女に対して答えた。
「中二です」
「そうかあ。それなら」
先生は彼のその返答を聞いてだ。顔を正面にやってそのうえでその顔を少し上にやってだ。それから自分のことを言うのだった。
「七つ違いね」
「七つですか」
「私短大出てすぐだから」
「短大なんですか」
「そうなの、二十一よ」
その年齢も話すのだった。
「二十一歳なのよ」
「年上ですよね」
「うふふ、最初からわかってることだけれどね」
「年上ですか」
「私から見れば年下ね」
先生は彼に顔を戻して微笑んできた。
「それも結構離れてるわよね」
「そうですよね。けれど」
「私のこと好きなのよね」
「はい」
このことはこくりと頷いて答えるのだった。
「それは」
「私誰かと付き合ったことないけれど」
「えっ、そうなんですか」
「お父さんとお母さんが厳しくて」
ここから古典的な話になった。淳博も聞いたことのあるようなだ。
「それで学校を卒業するまではね」
「交際は駄目だっていうんですか」
「そうよ。それにね」
話はまだ続くのだった。先生の言葉がさらに出される。
「交際する人とはね」
「交際する人とは」
「一緒になれって」
先生はここで顔を少し俯かせた。正面にもなっている。
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