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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  032 ≪烈風≫からの試練 その2


SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

昨日はとても良いことが有った。サイトがちぃ姉様を治してくれたからだ。……これで私は、サイトに一生を掛けても返せない恩が出来た〝また〟出来た事になる。

……私は、自身が短気な事は自覚している。……が、別に馬鹿じゃないつもりだ。座学ではそれなりの成績はキープしているし──それでも、ユーノとかには勝てないが。サイトが私に何かを隠しているのは知っている。私に〝魔法〟をくれた理由──私の〝本来〟の属性にも、確信は持てないが薄々とは気付いている。

……4大属性である〝地〟〝水〟〝火〟〝風〟のどれにも属さない、失われた属性──〝虚無〟。……だが、私が〝虚無〟である証明は出来ないし、〝虚無〟であることがどういう意味を持っているかは判らない。……恐らくだけどサイトが私に隠している〝何か〟はそれだと推測する。

(この辺りはユーノと相談ね)

そこで、私は色々と博識な友人を思い出す。

「サイト君……」

「ちぃ姉様、サイトならきっと大丈夫ですよ」

そんな事をつらつらと考えいると、何故な知らないがお母様とサイトが戦う事になった。どうしてこうなったかが判らない。そして、なんやかんやで私とちぃ姉様は被害が来ない様な位置にて観戦する事になった。……お父様を見遣ると、お父様も色々と諦めた表情をしている。

「そうね、でも本当に大丈夫かしら……」

ちぃ姉様のサイトを心配する声に、〝只の心配〟では無い──心無しか熱っぽい声音も混じっている気がした。……自分の──ちぃ姉様の病気を治してくれる存在。……それを自分に置き換えて考えて──みるまでも無く、ちぃ姉様からしたらサイトは一日千秋に待ち続けた白馬の王子様の様な存在のはず。

これ以上サイトを囲う女性が増えるのは業腹だが、ちぃ姉様にも幸せになって欲しい。

(これもユーノに相談──)

「ルイズ、私は大丈夫よ」

「……ちぃ姉様?」

どうやってユーノに相談しようか迷っていたら、ちぃ姉様はそんな私の心情を見透かしたかのような事を言い、ポフン、と私の頭に手を置き、私がまだ小さかった頃──私がまだ泣き虫だった頃に慰めてくれた様な声で、ちぃ姉様は言う。

「あの人──サイト君の心の中に私は居ないわ。……もう貴女達がサイト君の心を占拠しちゃってるみたい。仮に私がルイズ達の環の中に入ったとしても、私の事は幸せにしてくれるだけで、ルイズ達の様に〝本当の意味では〟愛してくれない気がするの」

「ちぃ姉様……」

「感覚的な話にはなるけど、サイト君に私と云う〝女〟が欲しいと思わせる事が出来ないわ。……ルイズにはまだ判らないかもしれないけどね。……ラ・ヴァリエールの血は私が次に繋げる必要がありそうだしね」

確かに、私にはちぃ姉様の言っている事は1サントも判らない。……でも、ちぃ姉様が無理をしているのは判った。こういう時、サイトなら、気の利いたセリフで相手を──男女問わず籠絡出来るのだろうけど、私にはサイトの様な話術スキルは備わっていない。

「私ね、ルイズの事を羨んだわ。……憎んだ。サイト君の心に居る貴女を妬んだ。嫉みもしたわ。……〝どうしてルイズなの?〟、〝どうして私じゃないの?〟──ってね」

それはちぃ姉様の独自。白磁の様な手の甲にくっきりと血管が浮き出ている事から、手のひらをぎゅっと──これでもかと、握り締めている事が窺える。

……ずっと清廉潔白な存在だと思っていたちぃ姉様から初めて向けられた、仄昏い感情。……それを私に向けて来た。

「ごめんなさい。妹にこんな事言って。……こんなんじゃあ、お姉ちゃん失格ね」

〝そんな事ありません!〟──と、声を大にして言いたかった。事実、ちぃ姉様より優しいお姉様を私は知らない。……エレオノールお姉様は〝あんな〟感じ──ちょうど今サイトと戦っているお母様の様な感じだし。

「……私はちぃ姉様に掛ける言葉は見付かりません。……ですが、もし〝それ〟でちぃ姉様のお気が晴れると云うのなら──ひゅいっ!? ……ちぃ姉様?」

〝恨んでくれても構いません〟と云う、前後不覚な状態の私の言葉は私の口から紡がれる事はなく、額の鈍痛で私の言葉は途切れた。ちぃ姉様に打たれた。初めて打たれた。ちぃ姉様の顔を見ると目に見えて涙を溜めていた。

「そんな事──家族にそんな悲しい事、言わないでよ……」

「ちぃ姉様……」

「ふぅ、妹であるルイズにここまで言わせるなんてね。……ルイズ…私ね、決めたわ」

「……一体、何をですか?」

どことなく自重気味な笑みを浮かべるちぃ姉様。私はちぃ姉様に次に紡がれるであろう言葉を催促する。

「私ね、サイト君よりもっと──いいえ、もっともっと良い殿方を見付けてルイズより幸せになる。……なって見せる」

「…ちぃ姉様……」

――ビュォォォォオオ!

「きゃっ!?」

「お、お母様!?」

本当に吹っ切れた様な──いっそ清々しい笑顔を浮かべるちぃ姉様に掛けるべき言葉を探していると、突風が吹いた。“カッター・トルネード”。お母様がよく使っているスクエアスペル。……何を血迷ったのか、お母様はその“カッター・トルネード”を〝遍在〟の魔法で6人に分身してまで放った。その余波が突風となってこちらまで来た。……お母様がどことなく楽しそうなのは気のせいにしておく。

(サイトは──)

“カッター・トルネード”の(あざな)が如く、相手を切り刻む竜巻を生み出すスペルで、その“カッター・トルネード”が6つも在るとなれば、最早それは災害だ。……サイトはどうするのかと思ったら、サイトはサイトで魔法を吸収出来る剣をどこかに仕舞ってしまった。

(そういえば、いつも思ってたけど〝あれ〟って一体全体どんな仕組みなんだろう──って、違う! 今はサイトよ!)

別に逸れていた思考を戻し、サイトに目を向ける。剣を仕舞ったサイトは徐に青色と赤色に染まった両手を合わせると、サイトはそのまま“カッター・トルネード”がサイトと一直線に移動し弓を番える様に構える。

「“なんちゃってメドローア”ァァァァアアッ!」

サイトは一気呵成に〝それ〟を放った。……その、どこと無く気の抜ける技名も相俟ってか、ちぃ姉様とのギクシャクした空気はキレイサッパリと払拭されていた。

SIDE END

SIDE 平賀 才人

「“なんちゃってメドローア”ァァァァアアッ!」

“メドローア”。前世の漫画で見た、熱のプラス──メラ系と、熱のマイナス──ヒャド系の魔法力をスパークさせて〝熱の無〟、消滅の力を生成し、光の矢のように束ね、射放つ呪文。……〝なんちゃって〟と付いているのは使用したのが〝魔法力〟では無く、〝気〟だったからだ。

「……ふぅ」

〝消滅の力〟とは伊達では無く、“カッター・トルネード”群の後方にあった幾つかの山々を消してしまった。

「やばい。……どうしよう」

「一体何が〝どうしよう〟なのですか?」

「っ!?」

少し気が抜けていたので、緊張の糸を張り巡らす。

「……まぁ、合格です。これならばルイズを護り通せるでしょう。〝シュヴァリエ〟の名に恥じぬ戦闘能力を持っていると認めます」

「は、はぁ…どうも」

いきなりのヴァリエール公爵夫人からの称賛に、鳩が豆鉄砲を喰らった気分になる。公爵夫人の戦闘意欲が下がっていくのを確認して、〝外套〟を解くのと共に体内戦闘レベルも下げる。

「っ!?」

その刹那。いきなりヴァリエール公爵夫人は俺の緊張の弛緩を感じたのか、レイピアで高速で突いてきた。

――ガギィィイッ

「“鉄魁”。……もし刺さっていたらどうするんですか」

「咄嗟に“硬化”の魔法を掛けるとは見事です。もし刺さっていても、主人は腕の立つ水メイジで治療が可能ですし、急所は避けて狙いました」

その突きを避けられない事を悟った俺は咄嗟に“鉄魁”で高速で迫ってきたヴァリエール公爵夫人のレイピアの刃を防御した。……公爵夫人の云う通り、レイピアの刃先は肩辺りだし、公爵夫人からしたらちょっとした戯れのつもりだったのだろう。……ヴァリエール公爵が腕の立つ水メイジ云々の惚け話は置いとくとして。

「あのー、杖も持って無かったんですが」

「貴方──サイト君はさっきの光の弓矢の魔法は杖を持たずに放っていました。その事から察するに、貴方は杖を埋め込んでいるのでしょう。……それに、サイト君程の腕前なら必ず対処してくれるのを信じていました」

「アー、ソウデスカ」

実際、本当に身体に杖をを埋め込んでいるし、こうやって対処出来てしまっいて、〝信頼している〟とも言われてしまった以上、これ以上は何も言えなくなる。……ヴァリエール公爵夫人は“鉄魁”を〝硬化〟と間違えたがそちらの方が都合が良いので──説明が面倒なので、訂正はしない。……あと、いつの間にやら呼び方が変わっているのはご愛敬か。

「さて、貴方に武技を示して貰った以上は私からも何かを与えなければいけませんね。……≪武聖≫…。≪烈風≫カリーヌ・デジレ・ド・マイヤールの名に於いて、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガに≪武聖≫の2つ名を与えましょう」

「……ツツシンデ、ハイメイサセテイタダキマス」

当然断れるはずも──頑として断る理由も無いので、拝命しておく。……そんな感じで俺は2つ名を持つことになった。

SIDE END 
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