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Ball Driver

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第十七話 楽しさと嬉しさ

第十七話


「ジャガー、ジャガー」
「何ですか権城さん?」

演劇部の公演が終わった後、自分のクラスの模擬店に戻ってきたジャガーに、一足先に戻っていた権城が声をかけた。劇の出演者は、終わった後も舞台衣装での記念撮影やら何やらで中々その場を離れられないのだ。サクッと次使う人に交代するだけの雑用係とは違うのであった。

「これから一緒に文化祭回んね?俺とジャガー、シフトも被ってるから、オフも同じ時間だろ?」
「あぁ、そういう事ですか。良いですよ。私も他の人と約束しそびれていましたから。」

ジャガーは、いつもは穏やかな顔にいっとう無邪気な笑顔を浮かべた。

「これって、一般的にはデートですよね?」
「デートって……まぁな。男と女が2人で回るんだからな。他に居なかったからとはいえ」
「もう。そこは嘘でも君と一緒に居たかったとか何とか言うものですよ」
「嘘吐くのは上手くないんだよ生憎」

2人はクスクスと笑いをこぼした。



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「色々模擬店も出てるもんだな」
「そうですね」

学園の中庭には、各クラスの模擬店が溢れかえっていた。唐揚げや焼き鳥や、ケバブやかき氷、洋菓子……それぞれ考えて作ったであろう商品が並んでいる。

「……にしても、このご飯売るってのは、ボロい商売だよな。一杯180円とは。」

権城が言ったのは、3年生のクラスが、ただの白飯を売っている事についてだった。ちゃんと準備してこなかった為、急遽クラスメートの家から炊飯器を借り出して、炊いたご飯を売っていたらしい。ただのご飯が180円とは中々に高いが。

「でも権城さん、結局ご飯買っちゃったじゃないですか」
「仕方がねぇだろ、味濃いもんばっかりなんだし、ご飯くらい欲しくなるって」

権城の言うとおり、周りにオカズばかりが売られている中で、原価も安く手間もかかっていないはずの白飯は飛ぶように売れていた。恐らく、利益率は一番だろう。よそのクラスの商品に乗っかる形で、何の変哲もないご飯がよく売れていた。

(……何の努力もしてないようなのが、一番稼ぐんだから世の中分かんねぇな)

権城は内心でつぶやいた。
もちろん、文化祭なんて楽しんでナンボ、真面目に利益を出そうとするもんではないので、最低限の努力で最大限の利益を得たそのクラスが一番良いのかどうかはまた別問題だが。


次に回ったステージでは、有志バンドがこれでもかと張り切ってギターをかき鳴らし、観客の熱に乗っかって精一杯浮かれていた。

「……楽しそうだな」
「あれ?権城さんは楽しくないんですか?」

つぶやいた権城に、ジャガーがにこやかに突っ込んだ。権城は首を傾げる。

「……いや、別にそういう訳ではないけど。ああいう風に、色々手広くやってる奴見たら、青春してるなーって思う」
「色々する事が、青春なんですか?」

またジャガーがにこやかに突っ込んで、権城は「いや、そういう訳じゃねぇんだけどさ」と困った顔をせざるを得なかった。
そんな困った顔の権城を見て、ジャガーはまたイタズラっぽく笑う。

「ああいう人達には、楽しさはあるでしょう。その場その場での楽しさ。でも、嬉しさ。これは、一つの事をそれなりにやって、成し遂げた人でしか分からないものですよ。」
「……まぁなぁ」

意味深なジャガーの台詞に、また権城は首を傾げた。言いたい事は、よく分かるような気がするんだけど。

「楽しさも、嬉しさも、どちらも尊い青春じゃないですか?」
「そうなんだけどさ」
「……まぁ私は、権城さんと一緒に居るのは楽しいですよ」

ジャガーがクスクスと笑う。
どこまで本気かわからないが……

「……俺もだよ」

今は、本気と信じておくのが幸せだった。

 
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