【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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闖入劇場
第九四幕 「オウゴンジダイ」
前書き
1/17 不足部分を若干補填
右腕、金色。
左腕、金色。
右足、金色。
左足、金色。
固定装甲、胸部パーツ、非固定浮遊部位、そして背部からだとよく見える爬虫類の尾を彷彿とさせる長いパーツ・・・その他諸々全てがすべて金色。頭部の何所となく三日月を模したようでそうでもない鋭角的パーツの付いたヘッドギアが太陽光を反射してどことなくガイ○ックスっぽい光り方をしている。このヘッドギア、何故か額にガンダムか勇者ロボ的な額中てもセットで付いており、言うまでもなく被っている本人はとっても恥ずかしいのである。
「うふうふうふふ。私は明日から“成金ちゃん”って呼ばれてみんなに後ろ指刺されるんだぁ・・・」
「チカ君が私と喋る時間さえ削って作り上げたその専用ISに何か不満が?」
「身に余る光栄でアリマスッ!!」
「・・・・・・ったく、チカ君も何でこんな奴に・・・ぶつぶつ・・・・・・」
何やら不満を漏らしながらも紅椿の方へ向かった束の背中を見つめ、佐藤さんはもう何度目になるか分からない溜息を吐いた。
そんな様子を横から見ていた箒は、何故束がこれほど不機嫌なのかようやく得心がいった。要は、チカが知らない女にISを送ったのに嫉妬しているのだ。
束とチカの付き合いは、白騎士事件の起きる数か月ほど前からだったと思う。当時から今に至るまで極端に人付き合いが少なかった姉が突然、当時小学生(箒は幼稚園児だった)を家に連れてきたのがチカとの出会いだった。ほぼ無理やりのようなものだったため千冬に誘拐事件と勘違いされたり色々あったが、当時技術面で唯一束と同レベルの会話が出来たのがチカだった。
束にとっては箒や千冬以外で唯一と言ってもいい友達で、確か束と会う前から「あんなもの」を実用していたことを考えると頭脳面で対等以上の人間。そんな世界に2人といない技術者に、束は依存に近いほどの入れ込みを見せていた。唯一、本当に唯一、束の発明に技術的なケチをつけられる男・・・そんな彼に束は全面的な信頼と一方的な好意を浴びせまくっていた。それほど束にとっては特別な人間だったのだ。束が本気で暴走したら、止められるのはチカしかいないとは千冬の談である。
・・・・・・言うまでもなく本人はため息交じりの対応をしてたが。
とにかく、そんな大切な人がわざわざ凡人(束視点)相手にこれほど手の込んだ物を送るのだから、気に入らないのだろう。何故チカが佐藤さんにあれほど悪趣味な専用ISを送ったのかはいまだに不明だが、「チカさんのやることに無駄と間違いはない」。これは箒の中では揺るぎない事実だ。だから佐藤さんがチカに選ばれたのにも訳があるのだ。理由は分からなくともそれは間違いない。そして今日この時に送られてきたのにも、恐らく意味がある。
例えば・・・例えば、うん。今日、ISが必要になる事態が起きるとか。若しくは、束が起こすとか?そこに思いが至った箒は暫く紅椿の初期化と最適処理が終了したことも忘れ、全てを悟ったような顔で佐藤さんに歩み寄った。しょんぼり肩を落としてブツブツと喋る佐藤さんのマニュピレータをそっと握る。
「佐藤さん」
「・・・なんでしょーか、箒様」
「今日はきっと長い一日になる。“覚悟”だけ、決めておこう」
「もう何かあること前提なんだね!?分かってたけどさッ!!」
丁度その時、アリキミアの初期化・最適処理が終了し、二機のISのテストが可能になった。
= =
「ああ、その・・・何だろーね」
「どうした、佐藤さん?」
ぽりぽりと頬を掻きながら箒に通信を送る佐藤さん。躊躇いがちに、遠慮がちに迷った挙句、やはり聞かずにはおれなかったのか質問した。
「いやね、さっきの“覚悟”の話。ちょっとした個人的興味なんだけど・・・もし無駄だったらどうするの?」
「無駄だったら、と言うと?」
「もしも“覚悟”虚しくトラブルに巻き込まれたら・・・それで、怪我でもしたりしたら、“覚悟”をしたことに意味はあるのかな?回避できずに結局悲劇になったとしたら、箒ちゃんはどう思って・・・・・・そんなことを言ったの?」
その言葉に指で顎をなぞった箒は、そうだな、と小さくつぶやく。
「私は“結果”だけを求めている訳じゃない。“結果”だけを求めると・・・なんでもかんでも無駄な事だと自棄になって、本質を見失うかもしれない。やる気も次第に失せていく」
「・・・・・・」
「大切なのは『未来へ向かう意志』だと思っている。覚悟というのは諦めの覚悟じゃない。これから何が起きたとしても、それに何時でも立ち向かえるような・・・そんな覚悟、そんな意志だ。向かおうとする意志さえあれば、たとえ今回は傷ついたとしてもいつかはそれが糧になるだろう?未来へ向かっている訳だからな・・・・・・」
「で、その未来の為に『任務は遂行する』、『自分の身も守る』、『両方』やらなくっちゃあならないってのが『専用機持ち』の辛いところだね」
「そうだ・・・・・・さて佐藤さん。”覚悟”はいいか?私はできてる」
どことなく箒と佐藤さんの会話も黄金である。なんとなくだが二人の周囲をサルディニア島の輝く風が吹いているような気がする。まぁ、きっと気のせいだろう。ともかく、2人はこれからISの機動テストとして束の用意した訓練用仮想敵とドンパチをするのだ。拒否権は当然ながらない。
指示と共に、2人同時に跳躍。PICが正常に作動し、ISのフレームが操縦者を乗せて宙に浮く。
――飛んだ瞬間に私が抱いた感想は、意外なことに「恥ずかしい」でも「不安」でもなく、ごくごく自然体な精神で「ああ、私の背中には翼が生えたのだ」という非常にメルヘンチックなものだった。
だけどそう思った私をどうか笑わないでほしい。皆、こういったISに邂逅すれば同じ感想を抱くはずだ。それほどに、この黄金の翼は軽く、私の意識の延長線上に当然として存在していたのだから。
「これ、凄い・・・・・・何って言うか、展開した装甲が体に張り付いているって言うか、肉体との境が分からなくなりそうなくらい吸い付いてる・・・本当に私の専用機になっちゃったんだ」
今まで訓練用のラファール・リヴァイブに乗っていた。打鉄にも乗ったことはある。でも、これは異次元だ。専用機と言うのがどういうものか、周囲のみなには聞いたことがあるが、こんなに心地の良いものだったなんて。専用機を得る機会を突っぱねたことを後悔しそうなくらいの別格。
スラスタ無し、踏み込みの加速無しの純粋なPICによる機体移動でこれほどの速度を出せるとは、個人的には驚嘆に値すると思う。既に高度は20メートルを超えた。
これでスラスタを使ったらどうなるんだろう?PIC出力を上げて、ウィングを広げて、もっと地表が小さく見えるくらいに――。
《間もなく所定位置です》
「っとと。所定の座標位置につきましたよ、博士」
『・・・ふぅん。座標位置がずれてたら一発迫撃砲でも当ててやろうかと思ってたけど、成程ただの凡人じゃないわけね。コンマのズレもないよ』
「まぁ佐藤さんですから」
私に少し遅れて箒ちゃんと紅椿が隣まで上昇してくる。とても15歳とは思えないダイナマイトボディが纏う紅色の装甲がアルキミアの金色の光に照らされるが、それでも尚存在感を損なわない鋭角的な翼は、猛禽類を想起させる。あれで装甲展開を行えば更に派手になるのだから、皆も私だけに注目はしないはずである。
・・・が、当然そんなわけはなく、視線の9割ほどはアルキミアに向いている。残り1割はアルキミアの黄金の輝きに目をやられて悶えている連中だ。専用機持ちは例外なく目を細めてアルキミアを観察している。無論紅椿も気にしてはいるが、見たところそれほど真新しい機能が積んでいなさそうなためか「装甲に展開しそうなパーツがある」程度で考察が止まっている。外見的なインパクトが違いすぎたようだ。
「アルキミア・・・あまりに眩しすぎて、ハイパーセンサー補助なしには・・・直視できない」
「なんか小学校の頃にテレビで出たロボットみたいなデザインだね」
「わかるわかる!角といいウィングといい、ポイント抑えてるよな!」
メカニックデザインについつい夢中になってしまうのは男の子の性。こと近年はISアニメの猛威のせいでロボットアニメは衰退の一途を辿っており、例えロボットそのものでは無くとも意匠にその癖が現れていることが何となく喜ばしい一夏とジョウ。簪も勿論そのことが喜ばしいが、同時に技術面でもあのISが興味深いようだ。
「拡張領域は、どのくらいあるの・・・?PIC出力は、最低でも、私の弐式を越えているけど・・・」
「背中にある非固定浮遊部位は・・・多分複合武器だな。形からして恐らくレールガンかビーム兵器で、ウィングにも仕込みがあるだろう」
「それよりも気になるのは・・・・・・あのお尻にある恐竜の尻尾みたいなパーツですわ。あんなものは見たことがありません」
「メカゴジラみたいです!手足とは違う操作系統かもしれません!」
総合すれば、不思議なデザインだと言わざるを得ない。頭部のレーダーの様な角。ISにしては珍しく肩部や胸部、胴体にもプレートがあるかなりの重装甲だ。背中の非固定浮遊部位は左右それぞれ、大きなウィングやスラスターに複合された砲身らしきものが突き出ている。脚部装甲は曲線より直線が多く、ISにしては珍しく足先に近づくにつれてその太さが増している。
そして、金色。
とにかく金色。
佐藤さんのISスーツすら輝いて見えるほど金色。それに尽きる。
――と、2機それぞれに動きがあった。
正面に未確認の飛行物体が多数出現する。1メートル前後の飛行物体は装甲に身を包んでおり、自然界に存在する野生生物でないことは明白だ。数はおおよそ20前後、民間飛行機並みの速度で不規則な機動を取るそれは、2人のISに直進していた。
『ターゲットドローン射出完了!箒ちゃんは『雨月』を、成金ちゃんは『電磁投射砲・オージェ』を使って撃墜してね!』
『成金ちゃんって言うなぁぁぁぁーーーー!!』
『雨月・・・これかッ!』
紅椿の右腕に美しい一太刀が握られる。打鉄の握る大量生産品の剣とは輝きが違うそれは、細い刃に見合わぬ戦闘能力を秘めているのだろう。その小さな柄に大型バッテリーパック並みのエネルギーが込められていることに箒は気付いた。恐らく従来のバリアエネルギー補助パックを小型化したか、もっと違う理論の次世代の伝達系を使っているのかは分からないが、使用方法はイメージインターフェイスを通してすぐに分かった。
刀を正面に向ける。腕の動きに合わせて背中の鋭角的なウィングが操縦者の動きを阻害しない最適ポジションへずれた。剣が瞬時に高エネルギーを纏い、空間歪曲を用いたエネルギー通路が砲台を形成する。衝撃砲の空間歪曲技術を応用しているのだろう。
同時に、アルキミアの非固定浮遊部位にあった砲身のようなものがせり出し、肩の上から正面に『オージェ』がターゲットに銃口を向けた。せり出す過程で細かいパーツが有機的に開き、開いたバレルには既に電磁投射砲発射用の莫大な電力が充填済みだ。そのエネルギーチャージ速度の速さに佐藤さんは舌を巻いた。
レールガンと言えばドイツが一番技術のノウハウを持っている筈だが、そのドイツ製でもチャージにはタイムロスが存在する。戦いの最中ならばチャージを行いながら別の火器で隙を補えるが、初射のチャージは誤魔化せない。その点で既にこの装備は世界最高水準の技術で造られているのが分かった。
雨月の刀身が滞留エネルギーで赤みを帯び、『オージェ』の砲身から青白いプラズマ光が漏れだす。
「食らえっ!」
「発射ぁ!!」
篠ノ之博士謹製だという虫のようなターゲットドローンを相手に、真紅のエネルギー弾と目にも留まらぬ超音速の弾丸が発射された。エネルギー弾が計5発、レールガンが計6発連射。
恐るべき熱量と威力を秘めた砲撃はドローンを装甲ごと粉砕、貫通し、破壊力の余波で周囲のドローンの体が装甲板ごと捻じれ、弾けるように爆散。僅か数秒でドローンは全滅した。
『続いてミサイル撃つよー!!今度は箒ちゃんはスペースリバ・・・空裂を!!』
「は?今一瞬何と・・・?」
『成金ちゃんは『S&W』を起動ね!』
「だから成金って・・・って、何それ?スミス&ウェッソン?」
S&Wと言えば米国を代表する銃器メーカーだ。何だそれと首を傾げる佐藤さんにレーイチが補足説明する。
《マスター。S&Wとは片手用ブレード『サウダーデ』と『ワイバーン』を連結させて投擲武器にするモードです。ブーメランのようなものだとお考えください》
『まったく成金はこれだから発想が貧困で・・・』
《束様。あまり度が過ぎると私も黙っている訳にはいかなくなります》
『・・・むぅ。悪かったよ、ごめん』
「あー・・・よく分からないけど『S&W』起動!」
「空裂、来い!!」
既に束博士は量子展開でミサイルを発射しているのですぐさま迎撃する必要がある。紅椿の左手にもう一本の刀「空裂」が握られた。
また、アルキミアの非固定浮遊部位の中でひときわ大きな両翼の一部が切り離され、2本の刀身となった。《オージェ》といいこの2本といい、このISの製作者はISの特徴である量子化を用いない兵装を好んでいるのだろうか。拡張領域の節約にはなるが、技術的難易度はかなり高い。やはりチカさんは只者ではないと認識を改める。
そして、2人は再び迎撃。空裂の横一閃によって文字通り空を裂いたエネルギーの斬撃と、2メートルの刃渡りになった片刃連結刃の投擲が飛来したミサイルを紙くず同然に切り裂いた。
「・・・飛来する斬撃、か。言葉にするのは簡単だが・・・こんなものが現れれば世界の技術者は黙っていないな。母国の同僚が何と言うか」
「それだけではありません。今の段階で使用した4つの武装全てが既存の技術力で再現することの困難なものです」
「所属問題とか、条約批准の問題とか・・・・・・問題の塊です」
2機のISが爆炎に照らされる。その雄姿に無邪気にはしゃぐ者たちに混ざり、箒と佐藤さんを含めた数名は素直に喜べないでいた。
そして、そんな中で――。
「また、差が開いた・・・・・・かな」
仕方のないことだとは思っていたが、目の前にすると辛い現実がある。
苦渋を顔に滲ませる非力な白の剣士が、紅椿を見上げていた。
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