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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  030 タイプじゃないなら仕方ないね


SIDE 平賀 才人

ヴァリエール公爵と公爵夫人に、スキルの事を系統魔法とも先住魔法──精霊魔法とも、そして〝虚無〟ともつかぬ魔法の様な〝能力(ちから)〟と説明した。

そんな明くる日。カトレア嬢の部屋でカトレア嬢の治療を行う事になった。……当然の事だが…

――コンコンコン

「カトレア? 入りますよ?」

『どうぞ』

ヴァリエール公爵夫人が扉を叩き、カトレア嬢に入室の許可を促す。すると、扉の向こうから柔らかさに充ちた優しげな声が入室を許可する。

――シュバババッ、シュババババババッ

カトレア嬢の部屋にはカトレア嬢のペットらしき動物たちも沢山居たが、俺がカトレア嬢の部屋に入って気を抜いてしまった瞬間、開け放たれていた窓から一斉に脱走して行った。……因みに、カトレア嬢との面会は昨日の内に済んでいて、ルイズとは違った魅力に見惚れていたら、その時にルイズに思いっきり足の甲を踏まれた。

……ギャグ補正なのかルイズは普通に〝武装色〟を纏っていたので普通に痛かった。……が逆にギャグ補正故に直ぐその痛みは引いたが。

閑話休題。

「あらあら。……そんなに脅したりしたら可哀想ですわ」

「いや、脅したりはして無いのですが。……でも、もうちょっとだけオーラを抑えても良かったかもしれませんね」

カトレア嬢はそう言う俺に〝そうですわね〟と──カラカラと朗らかに笑うだけで、自身が飼っているペットの動物たちを逃がした俺を咎める事はしない。

「そういえば、昨日はバタバタとしていて訊けなかったけど、貴方がルイズの使い魔さんなんですって?」

「はい。不肖このサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。貴女様が大層、大切になされている妹様の使い魔を務めさせて戴いて居ります」

「まぁ、ルイズったら人間さんを使い魔として召喚するなんてね。……やっぱり貴女は規格外ね。昔から」

「いいえ、ちぃ姉様。サイトは私には過ぎた使い魔です」

「んっん! 世間話も結構だが、そろそろカトレアの治療に……」

ルイズとカトレア嬢と四方山話をしていると、ヴァリエール公爵はついぞ痺れを切らしたのか、急かして来る。

「あらあら、お父様。そう急いては何事も仕損じてしまいますよ?」

(……ん?)

カトレア嬢は柔和な微笑みを浮かべ、俺を急かすヴァリエール公爵を宥める。俺はそんなカトレア嬢に違和感を持った。……然もありなん。〝自身〟の身体を治せと急かしている父親を宥めるのだから、俺が感じた違和感はおかしくないはずで、ヴァリエール公爵のリアクションの方が大衆から見たら自然なリアクションだ。

尤も、それは個人の性格などの要素も有るが、カトレア嬢の場合は致命的で、カトレア嬢の瞳の中には〝諦め〟、〝享受〟などの色が垣間見えた。……とどのつまり、カトレア嬢は──

(俺に期待していない? 生きる事を半ば諦めている? ……あぁ、そういうことか)

カトレア嬢は〝両親以上〟に諦めていたのかもしれない。……だったら、話は早い。不言実行。そのカトレア嬢の暗鬱とした日々に終止符を打ってやればいい。

(終止符を打つのはスキルだが……)

まぁ、そのスキルを使うのは俺だと自己完結しておく。

「では始めます」

「ええ、お願いね」

カトレア嬢はそう口では言うものの、カトレア嬢の瞳からは〝諦め〟や〝享受〟などの感情はついぞ取り払われ無かった。

「“大嘘憑き(オールフィクション)”! ……カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの病気を〝無かった〟事にした」

ベッドの背もたれに背中を預けるカトレア嬢に手を掲げ──る必要は無いが、見栄え的な意味合いで手を掲げ、言わずと知れた(?)、すべてを無かったことにするスキル…“大嘘憑き(オールフィクション)”にてカトレア嬢の病気を無かった事にする。

……因みに、ウェールズを治療した時の様に“五本の病爪(ファイブフォーカス)”で治療しない理由は、ただ単に“五本の病爪(ファイブフォーカス)”で治療する場合、カトレア嬢を物々しい爪で引っ掻く必要が有り、それなりにショッキングな為、“大嘘憑き(オールフィクション)”を使う事にした。

「……あら? 今までの身体の重さが嘘の様に無くなりましたわ」

「本当か、カトレア!」

信じられないと云った表情でカトレア嬢は呟き、カトレア嬢のその呟きにヴァリエール公爵は逸早く食い付く。

「はい」

「「カトレア!」」

「ちぃ姉様!」

ヴァリエール公爵と公爵夫人、ルイズは両の目尻に〝これでもか〟と涙を溜め込み、カトレア嬢へと抱き付く。……俺はその光景を見て、ちょっとだけ目頭が熱くなったとだけ言っておく。

(うん。悪く…ないな……)

家族の快気を喜ぶその患者の家族。……俺はそんな光景を見て、初めて〝ナニか〟に充たされた感覚が──三大欲求を満たしている時とも違う、言い表し様の無い感覚がした。……だが〝それ〟は、内心で呟いた通り悪くはない気分だった。

「………」

流石にこの状態の、当時者である4人へと話し掛けるのは色々と憚られるので、[あてがわれていた来客用の部屋に戻ります。ご用が有ればどうぞ]と、そんな感じの書き置きを残し、仙術で気配をギリギリまで薄くし気配をカメレオンが如く周囲の空気と同化させ、カトレア嬢の部屋から退出する。……そして書き置き通りに、あてがわれていた部屋に戻った。

SIDE END

SIDE カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ

私が彼──自身をサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガと名乗った少年を最初に見た時の所感は〝変わっている〟だった。……年齢に不釣り合いに落ち着いているのも〝変わっている〟し、その身に強大な力を持つ〝赤いドラゴンさん〟を宿していると云う点も〝変わっている〟と云える。……私から見た彼の所感は大体そんな感じだ。

(でも…どうせ…)

正直、彼を信じきる事は出来なかった。……そう、〝その時〟までは。

―“大嘘憑き(オールフィクション)”! ……カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの病気を〝無かった〟事にした―

彼──サイト君が私に手を向けながらそう言うと、今まで身体をベッドに押さえつけていた身体の〝重さ〟が消えた。……それこそ、サイト君が先程言った様に──まるで、病気なんて最初から〝無かった〟感じにさえなった。

(サイト君……)

白馬の王子様。……今の私にとってサイト君の様な存在──颯爽に現れて私の病気を治してくれる様な存在を夢想した回数は数え切れない。

(でも……)

サイト君──彼は〝私の〟王子様ではなく、〝ルイズの〟騎士様だった。……正直、ルイズには嫉妬しているし、お父様達に頼んでルイズのついでに〝私も〟彼の横に居られないか? とも思う。……が、昨日のルイズとのやり取りを見てしまったから、それも難しいと悟った──悟ってしまった。

ルイズからの手紙曰く、数人で彼の事を囲っているらしい。……が、嫉妬深い私にはそれはムリだろう。今でさえルイズに嫉妬していると云うのに。

だから私は、心が痛むのは──病気の時よりも殊更痛むのは気の所為と、そう自分自身に自己暗示を掛けながら、私の快復を私よりも喜んでいる家族をよそに、彼への〝想い〟を胸の奥深くへと仕舞い込んだ。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 平賀 才人

――コンコンコンコン

『入っても良いかね?』

「どうぞ」

カトレア嬢を治しヴァリエール公爵と公爵夫人が部屋を訪ねて来た。特に断る理由が無いので、入室を許可する。

「……先ずは礼を言わせてくれ。カトレアを救ってくれてありがとう」

「私からもお礼を言います。カトレアを治療してくれてありがとうございました」

「僕に出来る事をしたまでです。……あれ? ルイズ嬢は?」

「ははは、そう謙遜しなくても良い。……ああ、ルイズならカトレアに付きっきりだよ。ルイズは私やカリーヌ以上にカトレアへと懐いていたからな」

そう朗らかにに笑うヴァリエール公爵。

「さて、褒美の話だが──単刀直入に言う。ルイズの気持ちは判っているつもりだ。……そこでだ、いっその事ルイズとカトレアの両方を娶る気は?」

(おいおい……)

「……難しいですね。……もちろん、カトレア嬢に不満な点は無いのですが、いかんせん。これ以上女性を侍らせる甲斐性は、僕には有りません」

……なんて言ってみたものの、カトレア嬢を娶らない理由は、ただ単にカトレア嬢が俺の好みのタイプから外れているだけだ。……なんてカトレア嬢の両親である2人の前では口が裂けても言える訳がない。

「むぅ、そうか……」

そんなこんなで何とかヴァリエール公爵〝は〟丸め込めた。……余談として、ヴァリエール公爵夫妻と入れ替わり立ち替わりにルイズが俺の部屋に突貫してきた。俺はそんなルイズを──〝ある種〟の期待を秘めたルイズを宥めるのだった。

SIDE END 
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