原罪
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第四章
「こうしたことはね」
「それがいいか」
「うん、それよりも勝ったんだ」
「試合が終わったな」
「もうここはね」
「リングから出ないとな」
「リングは試合をする場所だよ」
それが終われば、というのだ。
「去るのがボクサーじゃないか」
「そうだな、それじゃあな」
後ろ髪を引かれた、だがだった。
ホーナーの言う通りだった。それで。
デービスはリングを後にした、しかしリングから降りてもだった。
彼は不安だった、それでホーナーに言うのだった。
「大丈夫か、あいつ」
「友達かい?」
「ああ、本当にな」
「心配だよね、やっぱり」
「友達だぞ」
それも親友だ、それならだった。
「それで心配にならない筈がないだろ」
「それは当然だな」
「若しもだ」
その不安をだ、彼は言葉に出した。
「あいつに何かあったらそれは」
「気持ちはわかるさ、俺もな」
「ホーナーさんも?」
「俺もそうしたことがあったからね」
「おい、どういうことだよ」
「ああ、言ってなかったか」
夜の街をだ、ホーナーは自分が運転している車でデービスを家に送っていた。その中でこう言うのだった。
「俺には弟がいるんだよ」
「弟さんがか」
「こうしてな、車を運転していてな」
「交通事故か」
「それであいつを怪我させたことがあるんだよ」
そうしたことがあったとだ、ホーナーは前を見て運転しながらデービスに話した。
「左手骨折させたんだよ」
「弟さん生きてるんだよな」
「だからいる、って言ったんだよ」
そこは言葉に出していた、しっかりと。
「けれどな」
「それでもか」
「ああ、弟に怪我させたことはな」
「今でも覚えてるんだな」
「忘れてないさ、俺の原罪だよ」
それになるというのだ。
「俺の不注意でそうなったからな」
「成程な」
「若しもな」
ここでだ、ホーナーはまず自分の話に前置きをした。そのうえでデービスに行った。夜の街はネオンが輝き車も行き交っている。だが二人は今はそうしたものを見ずに二人の話をしていた。
「何かあってもな」
「それでもか」
「俺みたいには思うなよ」
「一緒じゃないのか?」
「デービスの場合は違うさ」
彼の場合とは、というのだ。
「スポーツをしてのことだからな」
「ボクシングだからか」
「ああ、そうだよ」
それ故にというのだ。
「ボクシングなんて殴り合いだからな」
「怪我にそれにか」
「そうしたことはどうしてもあるからだ」
「気にするなっていうんだな」
「ましてデービスは友達を傷つけるつもりだったのかい?」
「そんな筈ないだろ」
すぐにだ、デービスはホーナーに言い返した。
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