原罪
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第一章
原罪
テッド=デービスはプロボクサーだ。そのパンチ力には定評がある。彼のその褐色の拳を見てセコンドのビル=ホーナーはいつもこう言っていた。
「いいよテッド、御前の拳はね」
「いいっていうんだな」
「その拳があれば御前は世界に行けるよ」
「世界か、いいな」
デービスもホーナーの言葉に笑顔で応える、二人共アフリカ系であるがデービスは二メートル近い筋肉質の青年でありホーナーは一七二位のアメリカ人の平均よりは低めの初老の男だ。ホーナーの髪は短く刈られていてホーナーの髪の毛は白く薄くなってきている。
そのホーナーの言葉にだ、デービスは笑顔で言うのだ。
「じゃあ本当にな。今のテレビ工場の作業員からな」
「世界を目指すんだよ」
「なってやるぜ、チャンプに」
テッドは確かな笑顔で言った。
「そうしてスターになってやるぜ」
「スターになればいいものも食い放題だよ」
「ああ、ステーキだってな」
「最高級の肉でな」
「ソースだってな」
「凄いのだよ」
「家だって違うな」
住む場所もだ、チャンプになればというのだ。
「そうだな」
「そうよな、服だってな」
「好きなものをどれだけでも買える様になるさ」
「オーダーメイドでな」
「だからな」
「チャンプになるぜ、俺は」
デービスは確かな笑顔でホーナーに答えた。
「絶対にな」
「目指せよ」
ホーナーもデービスに笑顔で言う、デービスは彼のセコンドを受けてそのうえで己を鍛えて勝ち進んでいた、その中で。
彼の対戦相手としてだ、親友のビリー=ジョーンズが決まった。金髪に藍色の目をした彼より数センチ低い白人の青年だ。
ジョーンズはカードが決まるとだ、デービスに笑顔でこう言って来た。
「俺が勝つからな」
「おいおい、そう言うのかよ」
「そうだよ、チャンプになるのは俺だよ」
「それは俺の台詞だよ」
デービスは笑ってジョーンズに返した。
「そうしてチャンピオンベルトを手に入れるぜ」
「ははは、そう言うんだな」
「何度でも言ってやるさ」
笑顔でだ、デービスはまた親友に返した。
「ヘビー級チャンプになってやるからな」
「言うな、じゃあ次の試合じゃな」
「お互いにな」
「ベストを尽くそうな」
二人で笑顔で話す、そしてだった。
二人共その試合に向けてトレーニングを開始していた、デービスはジムのウォーターバッグにジャブを入れつつホーナーに言った。
「次の試合もな」
「勝つんだな」
「ジョーンズだけれどな、相手は」
「御前のフレンドだよな」
「小さな頃から一緒に遊んでるな」
「そうか、けれど試合ならな」
「手加減しないさ」
ウォーターバッグに右ストレートを入れた、それは見事に決まった。
そのストレートを入れてからだ、彼はホーナーに言った。
「それがボクシングだからな」
「スポーツは全力を尽くせってな」
「それが絶対だからな」
「ああ、だからフレンドが相手でもな」
「やるさ」
全力で、というのだ。
「そうしてやるさ」
「それでだな」
「チャンプになるさ」
デービスはここでもこう言った。
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