勘違いもここまでくると
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第五章
だがその中でだ、マリアンヌは見てしまったのだった。
僧侶達はいる、しかしだった。
普通だ、それで紗栄子にもこう言った。
「誰も付き合ってないわね」
「そうでしょ」
「聖職者同士の公の恋愛は?」
「確かに事実よ」
それとしてあったというのだ。
「実際にね」
「じゃあ今は」
「そもそも今はね」
「今は?」
「お坊さんも結婚出来る様になったから」
だからだというのだ。
「だからね」
「それじゃあ」
「そうよ、同性愛は否定されてなくても」
「それでもなのね」
「今はないし。そもそも」
「普通じゃないのね」
「マリアンヌが思う様なことはないわよ」
こう言うのだった。
「言っておくけれど織田信長とか武田信玄とかね」
「そういう話もないのね」
「今で言うと社長と新入社員の許されない恋愛よね」
「ないのね」
「そう、あるかも知れないしあっても犯罪に問われることもないけれど」
「おおっぴらじゃないのね」
「そうよ」
マリアンヌの予想とは違って、というのだ。
「そんなことはないわよ」
「そうなのね」
「そうよ、後ね」
「後は?」
「ここでもそうしたことはないから」
高野山でもだというのだ、日本に同性愛を持ち込んで来たその空海が開いた山でもそれでもだというのである。
「ないわよ」
「そうなのね」
「そんなね」
マリアンヌが思っている様にはというのだ。
「というかボーイズラブの園ってね」
「そういうのはないのね」
「全く、日本を何だって思ってたのよ」
「いやね、歴史で普通に書かれていたから」
その信長や信玄、謙信のことだ。他にも大勢いる。
「そうじゃないかしらって思ってたけれど」
「ないのね」
「有り得ないわよ」
「何か私が思っていたのとは違うわね」
「勘違いもいいところよ」
紗栄子はマリアンヌに口を尖らして言った。
「そうしたことはないから」
「残念ね」
「まあそういうことだから。それじゃあね」
「それじゃあって?」
「日本橋行く?」
「東京の?」
「大阪にもあるのよ」
大阪人は日本橋というと大阪のそこだと連想する、尚大阪は川が多かったので橋も実に多かった。だから橋の名前がついた地名も多いのだ。
「これがね」
「それじゃあその大阪の日本橋に」
「今から行ってね」
そうしてだというのだ。
「マリアンヌに紹介したい場所はあるから」
「どんな場所なの?そこって」
「行けばわかるから」
その時にだというのだ。
「行く?それで」
「それじゃあね」
マリアンヌは紗栄子の申し出によくわからないまま答えた、そうして大阪に戻ってそうしてその日本橋に行くと。
ある本屋に入った、そこにあった本はというと。
まさに園だった、薔薇の。マリアンヌはそうした漫画や小説、それに同人誌やCDを前にして目を輝かせて紗栄子に問うた。
「凄いお店ね」
「マリアンヌが好きだと思ってね」
「凄いわね」
「そりゃね、実際に公でいちゃいちゃしている同性愛のカップルは滅多にいないけれど」
少なくともマリアンヌは見ていない。
「それでもなのよ」
「こうした本はあるのね」
「そう、あるから」
だからだというのだ。
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