打算計算
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第七章
第七章
「本当に」
「いいって。じゃあバケツ元に戻してね」
「ええ」
バケツを元に戻す。これは潤がしてくれた。
そして濡れた場所をモップで拭く。それで終わりだった。しかし里香はこれで終わりではなかったのだ。
その次の日。また智代と向かい合って座って。そのうえで言うのであった。
「私ね。実はね」
「昨日は成功したからしら」
「したわ」
それはいけたというのだ。だが話はこれで終わりではなかった。
「けれど」
「何かミスったの?」
「違うわ。もう抑えられなくなってきたの」
こう話すのであった。智代に対して。
「もう。潤君のことが好きで」
「本気がさらに高まってことなのね」
「我慢できない位に」
そうなのだった。今までは表面だけの感じだったのだ。顔や心の外側だけを見て好きになっていたのだ。しかし今ではその内面も見てしまった。彼女自身もただ好きという感情から愛情に変わってきたのである。そういうことだった。
「もうとても」
「それじゃあね」
ここで智代はまた彼女に言ってきた。
「あとは一つよ」
「一つって?」
「もうどうなってもいいのよね」
あらためて里香に対して問うて来た言葉だ。
「そうでしょ。本気だから」
「ええ」
智代の問いにこくりと頷く。まさにその通りである。
「そうよ。もうとても」
「じゃああとは体当たりよ。そのままね」
「告白ってことね」
「具体的にはね。それよ」
まさにそれだというのであった。
「さあ行きなさい。私はこれ以上は何も言わないわ」
「もうそれなのね」
「本気になって愛したら後はもうぶつけるだけよ」
彼女はこう言葉を続けていく。
「好きなのはね。打算計算が入ってもいいのよ」
「そういうものなの」
「好きなのはね」
あくまで限定してみせる。好きな場合は、と。
「けれどよ。愛情は違うのよ」
「打算計算なしに」
「そう、そんなのは一切いらないのよ」
これが彼女の主張であった。
「っていうか実はね。私もね」
「智代も?」
「最近それがわかったのよね」
ここで顔を真っ赤にして里香に話すのだった。もう話すだけで恥ずかしくて仕方がないといった顔であった。その顔で語るのであった。
「何ていうか。彼氏がね」
「愛するようになったの」
「今までは好きだったのよ。好き同士」
相思だったのである。だが相愛ではなかったというのだ。
「けれどそれが変わちゃってね。もうあいつなしじゃいられないのよ」
「そこまでいったの」
「そこまでいったんでしょ、里香も」
里香に対しても問う。
「それならもう後はね」
「一直線ね」
「そうよ。体当たりよ」
この場合は同じ意味であった。一直線も体当たりも。
「いいわね。いきなさいよ」
「わかったわ。それじゃあ」
自身も愛情というものを知った智代の言葉にこくりと頷く。そして次の日勢いのまま潤に店が終わった後で誰もいない店の裏で告白した里香は。こう告げられたのであった。
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