少年と女神の物語
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第百三話
草薙の剣を破壊者で壊した瞬間、直感的に危険を感じた俺は舞台袖の大役者を使ってハヤブサになり、本気で飛んでその場を離れた。
そして、次の瞬間には超高温の炎が、そこを通り過ぎた。
「オレの武具を破壊したか、神殺しよ!だが、これで終わりとは考えるでないぞ!」
「鋼の神なんだから、その象徴でもある武器を破壊されれれば、って思ったんだけどな・・・」
そう言いながら俺は元の姿に戻り、二人のそばに着地する。
「ですが、考えてみれば当然のことでしたね。彼は様々な神格を持つ神だそうですし」
「あれもその一つ・・・たぶん、太陽神のヒルコの持つものだろうな」
「それで、太陽の炎をそのまま放ってきたのか・・・やることが桁違いすぎるだろ」
そう言っている間にも太陽の炎は放たれ、全員がその場を離れて避ける。
鋼の天敵は超高温。ヒルコはそれを自らふるってきた。太陽神の神格がある限り、高温は効かないのかもしれない。
「さて、と。二人とも、どうする?」
「一番の危険要素である草薙の剣は破壊できましたし、次の危険要素は」
「まず間違いなく、この太陽の権能だろうな」
うん、間違いない。
そう考えている間に太陽の炎が迫ってきたので、即席工場で作った盾を投げつけ、反作用でどうにか逃げた。が、脚が焼け落ちた。
「あああああああああああ!!」
「「武双(君)!!」」
「神代武双!これで避けることはできまい!」
両足を失い、焼かれたおかげで血は流れていないがこの場からは動けそうにない。
両手で逃げるには、ヒルコの攻撃は早すぎた。
「我が身に纏う焔よ!宿敵を打ち取るがよい!」
これは、もう間違いなく避けることができない。
ナーシャでは防ぐことができないし、俺を掴んでいくことも出来ない。
アテは狂乱の権能を使ったが、それによる軌道のずれなんて関係ない規模で、焔は迫ってきている。
何か、何かないか!俺は知に富む偉大なる者を使ってこの手の戦いに巻き込まれる経験のある人間の頭を覗く。そして・・・
「我が身は太陽!我が同族の力よ、我に力を分け与えよ!」
祐理の記憶の中にあった、ヴォバンと護堂の戦い。そこでヴォバンは、アポロンの権能で太陽を喰らって見せた。
俺はそれをウィツィロポチトリの権能で代用できないかと試すことにした。そして、それは・・・
「む・・・オレの焔で回復したか」
「出来たみたいだな。はぁ、全く・・・出鱈目だな、この体は」
ナーシャが唖然とした顔をしているが、もう仕方ない。
ウィツィロポチトリの権能は、生命力の塊みたいな権能だ。そこに火種を放り込めば、こんなことも出来る、と。
「さて、と・・・今だ、アテ!」
「はい!」
そして、自分自身もまつろわぬ神であるためかあまり動揺していなかったアテは、ヒルコの背後に回り込んでいた。
そのまま背中に片手を当て、
「狂乱よ、その力を私のために表し、力を狂わせよ!」
力の狂乱の権能。それを、ヒルコへ直接たたき込み、一瞬で離脱する。
ヒルコはそんなアテに対し、太陽の焔を放とうとするが、
「ぬ・・・おおお!?」
それは、ヒルコ自身を焼き始める。
アテが放った権能。それは、相手の力を狂わせる権能。それは神、神殺しの権能を狂わせ、使えばコントロールを失う、というもの。
直接の接触が必要となるため、二度目以降は使うのが難しくなってくる権能なのだが・・・むしろ、アテを警戒してくれるのならそれ以上に都合のいいことはない。
そんなことを考えながら俺は走り、ヒルコの体に手を当て、
「狂乱よ、その力を俺のために表し、力を狂わせよ!」
先ほどアテが使ったのと全く同じ権能を使い、ヒルコが持つエビスの権能を狂わせる。
「神代武双、キサマも!」
「いつ、俺のコピーの権能が一度きりのものだといった!警戒するのはアテ一人じゃねえぞ!」
そう言いながら手刀をよけ、ヒルコの注意がこっちに向いた瞬間に、
「狂乱よ、その力を私のために表し、力を狂わせよ!」
「唸れ、打ち砕け、ウコンバサラ!」
ヒルコの背後から迫ったアテが狂乱の権能で鋼の体を奪い、ナーシャが右から忘れ去られた雷神の雷鎚でぶっ飛ばす。
いや・・・鋼の体を失い、代わりに流動体へと変わったヒルコは、ウコンバサラの威力を完全に逃がしていた。
「ちくしょう・・・使える力が多いってのは、ここまで面倒なのかよ!」
「ですが、まだやりますよ、武双」
そう言いながらアテは俺の手を握り、狂乱の権能を使ってすぐに解除する。
プロメテウスの権能は、条件を満たせば何度でも使うことができる。同じ権能でももう一度やり直す必要があるのだが・・・使う対象が仲間である場合、こうして手伝ってもらうことで簡単に条件を満たせたりする。
今回なんて、アテに関する知識はアテの頭の中から直接だし、お互いの手を触れて権能を発動することで、すぐに条件を満たせる。
「まさか、オレの権能を四つも使えなくしてくるとは。驚いたぞ!」
「そりゃ、そうだろうな。つっても、この権能もこれだけじゃないみたいだが・・・」
これで全部じゃないとか、もう何ができるのか分かったもんじゃない。
「さて、と・・・どうしたもんかな」
「これだけ使えなくしても、まだまだ戦ってきそうですしね」
「というか、ヒルコの持つ権能を全て封じるのは無理だろう・・・ヒルコの知識は全て渡したはずだが?」
ナーシャの言うとおりである。
あんな神の権能、全部封じるなんて不可能、という言葉では説明がつかないくらいに不可能だ。
「・・・まあでも、あいつの太陽神としての権能は封じたんだし、弱点も効くようになった、って考えていいのかな?」
「元から効いていたかもしれませんけどね。何にしても、相手が最源流の鋼なら、その弱点を突くのは間違っていないかと」
「それか、固い物には強すぎる力でぶつかるのもありだろう」
熱か、強すぎる力か・・・今ここにある物でその条件を満たせそうなものはなにがあるか・・・
「あ・・・」
そこで、俺の視界にナーシャが・・・正確には、ナーシャの持つ忘れ去られた雷神の雷鎚が眼に入った。
「一つ、作戦思いついたんだが・・・協力してくれるか?」
「もちろんですよ、武双」
「神相手の策なんて、君たちでなければ思いつかないだろうからな」
「じゃあ・・・」
俺は作戦を話しながらヒルコの攻撃を全て防ぎ、作戦会議をどうにか実行して見せた。
そして・・・
「では、私は行ってきます」
「オウ、頼んだ」
アテはその瞬間に走っていき、
「女神よ、一人でオレに立ち向かうか!」
「別に、倒せなくても問題ありませんから!」
聖槍片手に、ヒルコと戦い始めた。
俺が教えた槍術に、聖槍に宿っている狂気、自らの持つ狂気を織り交ぜてヒルコの攻撃を防いでいく。
そんな中、俺とナーシャは準備を進めていき・・・
「英雄よ・・・迷妄、せよ!」
ギリギリのところで懐に入り込み、超至近距離から英雄を狂わせる迷妄の権能を放ってくれた。
これで、アテの役目は終わりだ。こっからは・・・俺達の番!
俺はまず残っていた植物を鎖に変幻させ、それを操って魔法陣を描く。
「我は王権の剥奪、王の断罪を勧告する!」
俺の言霊に反応し、植物でできた魔法陣が輝きだす。
「我が忌む敵を拘束する十字よ!我が敵を捕らえ、救いの死を差し伸べる十字よ!今ここに現れ、わが敵を捕らえよ!」
そして、これまでにもゼウスにシヴァと鋼の神を捕らえてきた十字架を召喚し、ヒルコを捕らえる。
俺がこの場でしないといけない作業はもう終わってるし、
「この程度の拘束、」
「狂乱よ、その力を俺のために表し、力を狂わせよ!」
流動体となって逃げ出そうとしたヒルコに触れ、その権能を狂わせる。
これでヒルコが逃げる手段はほとんど消えた!あとは・・・
「頼んだぞ、ナーシャ!」
「頼まれた!」
そう言いながら、ナーシャは目の前にある物体に・・・忘れ去られた雷神の雷鎚をトリガーとするように作った、全て権能で作り、動かす超電磁砲・・・レールガンが、ある。
そして、ナーシャは鎚を振り上げ、先ほど少し強めた加護の力をフルに使って雷を纏わせていき、
「唸れ、ウコンバサラ!」
超電磁砲を、発射する。
俺が権能で作り出した特別製のレールガン。それは超常の威力で超高温となった弾を発射し、ヒルコに直撃する。
「ぬう・・・これは!」
「家族三人による攻撃だ。耐えられるものなら、耐えてみろ」
ヒルコはその威力に全力で抵抗するが、十字架はすぐそばで呪力を供給している俺とヒルコの力が影響を及ぼさないように狂乱の権能を使っているアテによって脱出することも、迎え撃つ事も出来ない。
拘束することに成功した時点で、これを全て受けることは避けることができない。
が・・・それでも、ヒルコはまだ生きていた。しぶとすぎるだろ、最源流の鋼。虫の息とはいえ、ここまでやっても生きてた神なんて初めてだぞ。
「はぁ・・・やるか、アテ」
「ですね。もう一度あれをやるには、もうナーシャが限界みたいですし」
本来、神か神殺しが振るうべき権能。それを神祖であるとはいえここまで使い、レールガンの発射のために全力以上の力を出した。切歌と調のように適性が高いのならともかく、そうでないのなら限界が来て当然だ。
そんなことを考えながら二人で聖槍を握り、言霊を唱える。
「我、天空の覇者として雷の技を振るわん!」
「狂気よ、狂い狂いて我れらが敵を討ち取らん!」
二人の権能が宿った聖槍は雷、狂気の二つを宿らせてヒルコに向かって一直線に飛んでいき・・・その威力でヒルコの上半身を吹き飛ばし、流動体の壁も完全に壊した。
一気に視界が広がり、家族の戦っていた神獣も、崩れ去っていく姿が見える。
最後に、その場に残っていたヒルコの下半身が崩れ去り、砂となって風にとばされて行って・・・ようやく、戦いは終わった。
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