【艦これ】くちくズ
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第03話 任務:電、深海棲艦駆逐イ級を育てよ!
前書き
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艦これ、こちら鎮守府前第一駐在所
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ここは某国、某県、某市、某港にある、とある鎮守府。
この物語は艦娘と深海棲艦との凄まじいまでの激戦の記録……ではない。
戦闘さえなければ、艦娘達も普通のお年頃な女の子。
今日も提督と艦娘達によるほのぼのとした一日が始まる。
ぽかぽか陽気な昼下がり。
お昼ごはんを食べたばかりな雷と電は満腹気分に浸りながら、ベッドの上でごろごろしている。
“イキューン”
どこからか生き物の鳴き声が聞こえた。
「??……気のせいか?」
雷はいぶかしげな顔をするも、気を取り直してンーッと伸びをする。
“イキューン”
雷はバッと身体を起こす。
何かいる! そう思った雷は周囲をきょろきょろと見渡す。
すると、そろそろ足でクローゼットに向かう電を見つけた。
雷は妙な行動をとる電の様子を観察すべく、黙って電を見つめる。
「ぬき足、さし足、しのび足……なのです」
そうつぶやきながら、物音をたてずに気配を消して歩く電。
しかし声を出しながら歩いている時点でバレバレである。
なんともはや、ひどく残念な感じになっている電。
とっくに雷にバレているとも知らずに、電はクローゼットの前にまでやってきた。
そして、そぉっと扉を開ける。
「イキュちゃん、シーッ、なのです……雷お姉ちゃんに見つかってしまうのです……」
「ほぉーッ、声の主はイキュちゃんっていうのかぁ」
突然背後から雷の声が聞こえて、電はビクッと飛び跳ねる。
クローゼットの奥の方に、ダンボール箱に入った生き物が見える。
「だ、ダメなのですッ! 何もいないのですッ!」
「何がダメなんだ? 何かいるから何もいないって言うんだろ?」
クローゼットの前で立ちふさがる電を押しのけ、雷はクローゼットに首を突っ込んでダンボール箱の中身を覗き込む。
「……え? 何だこいつ……って、ぅうわあああぁぁぁッ!」
雷はずざぁと素早く後ずさり、クローゼットにいる生き物に向かって12.7センチ連装砲を構える。
「だ、ダメなのですッ!」
電はとっさにダンボール箱にいる生き物を抱きかかえ、素早くその場を離脱した。
「電ッ! お前、それ、深海棲艦の駆逐イ級じゃねーか!」
電はぎゅうと駆逐イ級を抱き締めながら、雷から守るように自分の身を盾にする。
「確かに深海棲艦なのです……なのです……でも、この子は……大丈夫なのです……」
電は声を震わせ、涙目になって駆逐イ級をかばう。
「何考えてんだよ、バカ電ッ! 深海棲艦は敵だぞ! 私らはそいつらと戦うために、この鎮守府にいるんだぞ!」
「……そ、それでも……この子は大丈夫なのです! この子は大丈夫……大丈夫なのです……」
電は駆逐イ級を抱きかかえながら泣き出してしまう。
“イキューン”
そんな電の様子を知ってか知らないでか、駆逐イ級は無邪気に電の頬をぺろぺろする。
「イキュちゃん……くすぐったいのです……」
はた目から見ると、まるで子犬と戯れるいたいけな少女であるが、実際には駆逐イ級を抱きかかえる艦娘である。
とはいえ、駆逐イ級は電にとても懐いていて、危害を加えるような様子もなく素振りもない。
倒すべき敵を抱きかかえる妹……あまりにもシュールな状況に雷は困惑する。
「……電……まさかとは思うけど……そいつをどうする気だ?」
嫌な予感がしつつも、雷は電に質問をする。
「飼うのです!」
嫌な予感が的中してしまい、雷は大きく溜息をついた。
「電……それは無理だな……絶対に無理だって……お前、内緒でそいつを飼う気か?」
電は雷をまっすぐに見つめながらウンと頷いた。
「でもなぁ、私にバレちゃった時点で、もう内緒にしておけないぞ? さすがにこれは……黙っておけないって」
雷は複雑な気持ちになりつつ、電を諭すように話す。
「なら……提督に言ってみるです……」
「言ってみるって、提督にか?! 深海棲艦を飼いたいですって? 無理だって絶対に」
「言ってみないとわからないのですッ!」
電は部屋の扉をバァンと押し開け、イキュを抱きながら駈け出した。
雷は溜息をついて、ぽそっとつぶやく。
「まったく、大人しいくせに頑固なんだよなー、電は」
――――――
――――
――
「ダメだ! うちでは飼えないぞ!」
提督に怒鳴られてしまい、電はビクンと身をすくめる。
「電、深海棲艦はイヌやネコとは違うんだぞ? 生態調査という意味で捕獲するのであればともかく」
「なら、生態調査ということで飼うのですッ!」
「だから飼えないって……それに生態調査となれば、様々な調査、実験をされた末に、最終的には解剖されてしまうだろう」
電はイキュをぎゅうと抱き締めて提督を睨みつける。
提督は溜息をつきながら困り顔になっている。
そんなふたりのやり取りを見ていた秘書艦である陸奥は、にっこりと笑みながら46センチ三連装砲を撫でる。
「この子、この場で沈めちゃいましょう」
46センチ三連装砲の砲口をイキュに向ける陸奥。
「うわぁーんッ! ダメなのですッ!」
電は大泣きして司令官室を飛び出して行ってしまう。
「陸奥……脅かしすぎだ」
「だって、飼えないのは本当でしょ?」
「それはそうだが……あれで諦めてくれるだろうか」
提督はやれやれと大きく溜息をつきながら、後味が悪そうに苦笑いしている。
――――――
――――
――
海辺のコンテナ置き場は人の出入りが極端に少ない。
電はきょろきょろと辺りを見渡しながら、コンテナ置き場の奥の方へと入っていく。
そこには子供の手作り感たっぷりな小屋が建てられている。
そして中にはボロ毛布にくるまっている駆逐イ級がいる。
「イキュちゃん、ごはんを持ってきたのです」
電の声が聞こえたイキュは、イキューンと鳴いて小屋から顔を出す。
電がアルミ製のボウルに燃料を注ぐと、イキュは嬉しそうにぺろぺろと舐め飲む。
そんなイキュを見て電はほっこりとした笑顔を浮かべ、イキュの頭を優しく撫でる。
「イキュちゃん、また来るのです。ここで大人しくしてるのです」
“イキューン”
電は後ろ髪を引かれながらも、きょろきょろと辺りを見ながらコンテナ置き場を後にする。
「やっぱりなぁ、電のやつ……しょうがねーなぁ」
コンテナの上で腕組みしている雷は、やれやれな顔をしながら電を見下ろしている。
「このまま何も起きなきゃいいけどなぁ」
雷はぴょこんとコンテナから飛び降りる。
そして困ったように頭を掻きながら、電に見つからないように自室に向かう。
――――――
――――
――
こっそりとイキュを飼いだした電は、自分に配給された燃料を密かに持ち帰り、イキュのごはんにしていた。
そして毎日3食、欠かさずにイキュにごはんをあげている。
例え雨が降ろうとも、例え遠征後の疲労度マックス状態であっても、例え出撃後の大破状態であっても、イキュへのごはんは欠かさなかった。
そんな電を影から見守る雷。
このまま秘密を守り通し、いつまでもイキュを飼い続けていく……なんてことは不可能である。
こういった秘密は、ふとしたことで見つかってしまうものである。
案の定、その日は来てしまった。
「イキュ、ごはんなのです」
お昼ごはんの燃料を持ってきた電は、小屋に向かって声を掛ける。
いつもならイキューンと鳴いてひょっこりと顔を出すイキュなのだが、鳴き声も無ければ顔も出さない。
不審に思った電は小屋に頭を突っ込む。
「あれ? イキュちゃん?」
そこにイキュの姿が無かった。
いつもは毛布にくるまって大人しくしているイキュなのだが、どういうわけかイキュがいない。
「い、イキュちゃん!」
電は慌ててイキュを探しだす。
「イキュちゃーん! イキュちゃん、どこなのです!?」
必死になってイキュの名を呼んで探す電。
そんな電を止めるように雷は電の肩を掴む。
「バカ電ッ! 名前なんか呼んだらみんなにバレちゃうだろ?!」
電はハッとなって口をつぐんだ。
「雷お姉ちゃん!? なんでここに? どうしてなのです?」
イキュを飼うことに反対していた雷が電を味方してくれて、電は不思議そうに雷を見つめる。
「今はそんなことどーでもいいだろ! んなことよりイキュを探すぞ! イキュが誰かに見つかったらシャレにならない」
電はウンと頷いてイキュを探す。
「コンテナ置き場にはいなそうだな。もしかするとドッグの方に行ったのかもしれない」
雷はドッグに向かって走り出す。
電は雷を追いかけるように雷のあとをついていく。
「雷お姉ちゃん、ありがとうなのです」
「はぁ? 何か言ったか?」
「本当は聞こえているくせに。雷お姉ちゃん、ありがとうなのです」
もうすぐドッグに着くというところで、ドッグから騒がしい声が聞こえた。
「敵だわ! 深海棲艦がいるわ!」
「敵のスパイか? 絶対に逃がすな!」
遅かった……そう思った雷と電は息を切らせながらドッグに入る。
“イキューン”
イキュが艦娘達に取り囲まれている。
イキュは必死に逃げようとするが、完全に囲まれてしまって逃げ場がない。
「五十鈴にまかせて」
五十鈴は20.3センチ連装砲をイキュに向ける。
「ダメなのですぅッ!」
電は体当たりして五十鈴を突き飛ばした。
「いったぁい! お尻を打っちゃったじゃない! 何するのよ、もう!」
電は素早くイキュを抱きかかえ、その場から逃げだす。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! どこ連れていくのよ!」
艦娘たちが一斉に電を追いかける。
いくら足の速い駆逐艦とはいえ、イキュを抱いたままでは逃げきれない。
「おっと、ごめんなぁ」
雷は機械油の入ったドラム缶を蹴り倒した。
艦娘達は地面にまかれた油に足をとられ、つるんつるんと転んでじたばたする。
立つこともままならない艦娘達は、くんづほぐれつの大参事である。
その場から動けないでいる艦娘達を確認し、雷は電を追いかける。
「おーい! 電ッ!」
ドッグの外に出ると、電はイキュを抱きながら海の前で立ち尽くしていた。
「う、うぉおッ! ま、マジかよ!」
雷は驚きの声を上げる。
電の目の前には巨体の深海棲艦、駆逐ニ級が横たわっている。
雷はとっさに12.7センチ連装砲をに駆逐ニ級向ける。
「雷お姉ちゃん、違うのですッ!」
電に呼び止められ、雷は動きを止める。
「あなたは……イキュちゃんのお母さんなのですね?」
“ニキューン”
駆逐ニ級は電に答えるように、低い鳴き声を上げる。
“イキューン! イキューン! イキューン!”
電に抱かれていたイキュは激しく鳴きだし、電の胸から飛び降りる。
「あ、イキュちゃんッ」
イキュは駆逐ニ級に走り寄る。
電はとっさにイキュを追いかけようとしたが、足を動かすことができなかった。
母親の元に戻ろうとするイキュを止めることなど、電にはできない。
電は唇を噛みしめながら、流れ落ちようとする涙を必死にこらえる。
「電……」
肩を震わせながら、何かに耐えている電。
しかし雷にはどうすることもできない。
電とイキュを見守ることしかできない。
“イキューーーン!”
イキュは電に向かって長い鳴き声をあげた。
まるでさよならを言っているかのようである。
そんなイキュに向かって、電はにっこりと笑顔を見せる。
「よかったのです、イキュちゃん。お母さんと会えて」
“イキューーーン”
“ニキューーーン”
イキュと駆逐ニ級はどぼぉんと海に飛び込んだ。
「電……」
海に向かって笑顔を向けながら立ち尽くしている電。
その頬には、いくすじもの涙道が通っている。
「ばいばーい! イキュちゃーん! 元気でねー、ですー! ……うわあああぁぁぁんッ!」
遂に泣き出してしまう電。
そんな電の頭を雷は優しく撫でてやる。
――――――
――――
――
ひとしきり泣いた電は、落ち着きを取り戻して海を見つめている。
「もしかしてイキュのやつ、大きくなったら私らと戦うことになるかもだぞ?」
「そのときは全力で闘うのです」
「そっか、お前って変に強ぇーのな」
(任務達成)
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