コールド=ローズ
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第三章
第三章
「我が社をしょって立つ人間になってくれます」
「あの、部長」
その雄二はだ。彼の言葉に気恥ずかしい顔になってだ。そうしてそのうえで言ったのだった。
「そんなことは」
「いやいや、本当じゃないか」
「違いますよ」
まだ気恥ずかしそうな顔であった。
「そんなのはとても」
「謙遜しなくてもいいよ。とにかく」
課長に顔を向けての言葉になった。
「彼は凄いですよ」
「はい」
「ただ。今も一人身なので」
部長はここでしんみりとした言葉を出してみせた。
「それが心配でして」
「それで今回なのですね」
「はい、そういうことです」
それでだというのだった。
「それでそちらが」
「はい、我が社きっての才媛です」
侑布を見ての言葉だった。
「彼女こそがです」
「御名前は」
「はじめまして」
侑布はここであらためて頭を下げて礼をした。それから述べた。
「若葉侑布です」
「若葉さんですか」
「はい」
こう名乗ったのだった。
「そうです」
「わかりました。それではですね」
「それでは?」
「今から話をしますか」
こうしてだった。四人でパスタとワインを楽しみながら話をするのだった。話自体はとりとめのない世間話ばかりだった。歌手や俳優のことである。
その話の途中でだ。ふと店の中にかけられている音楽が変わった。ここでだった。
「ねえ浜田君」
「はい」
「この曲は何かな」
その音楽についての言葉だった。
「これは」
「プッチーニですね」
雄二はまずはこう述べたのだった。
「これは」
「プッチーニかい」
「はい、泣くなリュー」
歌になっていた。その歌のタイトルを話すのだった。
「プッチーニの最後のオペラトゥーランドット第一幕の曲ですね」
「そうなんだ」
「はい、歌っている歌手は」
そこまで話す彼だった。
「プラシド=ドミンゴですね」
「ううん、相変わらず見事だね」
「いえ」
ここでまた謙遜を見せる雄二だった。
「それは別に」
「いや、凄いよ」
部長は感心した顔でその彼に話す。
「その教養は」
「確かに。オペラに造詣があるのですか」
「はい、彼はですね」
部長は今度は課長の問いに答える。話をするその間にもである。パスタを食べるのを止めない。今食べているのはペンネアラビアータである。四人共同じだ。
「他にも文学や歌舞伎にも造詣がありまして」
「それは凄い」
「我が社の若手きっての教養人でもあるのです」
こう話すのだった。
「そうした彼ですから」
「ふむ、さらに凄いですな」
イタリア好きの課長にとっては特にであった。このことは感心すべきことだった。そして実際に彼は今非常に感心していたのだった。
それでだ。こう言ったのだった。
「我が社に欲しい位です」
「いやいや、それはいけません」
「それはですか」
「我が社のホープですぞ」
部長は冗談でこう返した。無論課長も同じである。
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