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魔法使いの知らないソラ

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第二章 迷い猫の絆編
  第五話 迷い猫のソラ

<AM11:00>


「はぁ‥‥‥退屈」


真っ白な空間、真っ白なベッド、真っ白なカーテン。

全てが真っ白の空間こと病室で、相良翔は上半身を壁に預けるようにしてベッドにいた。

頬や腕は包帯や絆創膏などが貼られていた。

――――――三日前の事件以降、翔は怪我の心配をされて入院することとなった。

大した傷ではないのだが、大事をとって五日間は入院することになってしまった(本人のあずかり知らぬところで)


「しかも、誰も見舞いにこないし‥‥‥」


問題はそこだった。

ルチアを始め、紗智達すら一度も見舞いにはこなかったのだ。

もしや、『相良翔は風邪で欠席しています』とでも言われているのではないだろうか?


「‥‥‥ルチア、まだ怒ってるのかな」


ロリコン扱いされる上に、怒られたままで終わっている。

流石にもう冷めているだろうけれど、弁解はしておきたいと思っている。


『やっほ~! お見舞いに来たよ~』

「‥‥‥なんだ、黒猫か」

『なんだとはなんだよ~! 一人侘しくソラ見てる友人のお見舞いに来てあげたのに~』


窓の外から現れたのは、黒猫のショコラだった。

小さく細い体に、黒い毛並み。

優しく丸い黄金色の瞳。

そんな可愛らしい猫は床に着地すると、再びジャンプして翔の膝の上で丸く寝転がる。

事件以降、ショコラは翔に懐いている。

毎日お見舞いに来ているとすれば、この猫と‥‥‥あと、もう一人。


「あ、ショコラ! またここにいた~!」

「いらっしゃい、ミウちゃん」


隣の病室に移動することになった、小鳥遊 猫羽だ。

彼女の体は翔の魔法の力もあり、順調に回復している。

早ければ来週にも退院できるらしい。

医者曰く、奇跡だったそうだ。

そして今の彼女はリハビリも兼ねて病院の外に出ることが増え、今や自由に走り回れるまでに回復した。

体力面は今だ不安が残るが、それ以外は問題ないらしい。


「お兄ちゃん、ごめんね。 またショコラが入っちゃって」

「構わないよ。 どうせ一人で侘しくソラを見ていたところだからさ」


そう言うとミウはクスクスと笑いながら側に置いてあったパイプ椅子に座って翔と話しをする。


「お兄ちゃん今日ね、私、朝ごはんの人参残さずに食べれたんだよ!」

「おお、偉い偉い」


そう言ってミウの頭をなでると、ミウは幸せそうに目を細める。


『ロリコン爆発だね~』

「原因これか!?」

『い、今更‥‥‥』


可愛いものを見ると撫でたくなる衝動、これがロリコンの原因なのかと翔は今更理解した。


「お兄ちゃん。 ロリコンって何?」

「え!? ‥‥‥え、ええっと‥‥‥それはだな‥‥‥」


さてどうしたものかと翔は悩む。

うまく説明出来る気がしないうえに、説明できたとしたらミウは翔のことを嫌うだろうと思った。


「お、大人になったら分かるよ」

「へぇ~。 大人って色々あるんだね~」

「‥‥‥そう、だな」


一瞬、翔は大人になりたくないと思ってしまった。

そんな話しを、この三日間していた。


「‥‥‥さて、ショコラの散歩にでも行くか」

「うん!」

『それじゃ私は先に外行ってるね~!』


ショコラはベッドから飛び降りると、窓の外にでて行った。

翔とミウは互いを見合って笑うと、翔はベッドから出て、ミウは椅子から立ち上がって病室を出た。



                  ***






「お~い! 相良!!」

「三賀苗!?」


外に出ると、三賀苗 武、桜乃 春人、七瀬 紗智の三人と、ルチア=ダルクの計四人が来ていた。


「なんだ元気そうじゃね~か!」

「明日退院らしい。別に昨日でも良かったんだけどな」


バシバシッ!と背中を叩きながら話す武に呆れながらも翔は会話をする。


「その子がミウちゃん?」


紗智が彼女の存在に気づくと、しゃがんでミウに挨拶をする。


「初めましてミウちゃん。 私は七瀬紗智っていうの。 お兄ちゃんのお友達なんだよ」

「紗智さん?」

「うん!」


挨拶をすると紗智はミウの頭を撫でてあげた。

どうやらすぐに仲良くなれたようだ。


「んで、ルチアはそこで何してるんだ?」

「‥‥‥何もしてないわ」


春人は、何故か木陰に隠れようとするルチアを捕まえると、無理やり引っ張って翔のもとに連れて行く。


「‥‥‥」

「‥‥‥」


二人の間に、言葉にできないほどの沈黙が襲う。

それに気づいた武はニヤニヤと笑いながら春人達に言った。


「さて、俺たちはお邪魔のよ~だし、ミウとも仲良くなりたいから遊びに行くか!」

「そうだね。 行こ、ミウちゃん♪」

「うん!」

「行くぞ!」


そう言うと武たちはミウを連れてその場から去っていった。


「‥‥‥」

「‥‥‥」


残された翔とルチアは、再び沈黙。


「‥‥‥と、取り敢えず俺はロリコンじゃない!」

「‥‥‥」

「え、何その冷たい目は!?」


疑いは晴れず、今だに冷たい目でこちらを見続けていた。

だが、しばらくするとふぅーとため息をつくとゆっくりと口を開いた


「どうして‥‥‥なのかしらね」

「何がだ?」

「あの時、何故かモヤモヤしたの。 自分でも制御しきれないくらい、イライラして‥‥‥ごめんなさい」

「そうだったのか‥‥‥」


彼女のモヤモヤとしたものが一体なんなのか、翔にはわからない。

けれどそれは、ルチアにとって今まで感じたことのない感覚なのだろう。

それはいいことであり、いつかそれがなんなのだろうかと知る日がくるのだろう。


「それで、あの子の様子はどうなの?」

「医者がドン引きするくらい順調だってさ。 体力面に不安があるけれど、それ以外は何の問題もないってさ。 中学校にも行けるらしい」

「‥‥‥彼女、中学生だったの?」

「ああ。中学一年生らしい。 年齢13歳。身長130cmなんだってさ」

「‥‥‥ロリコン」

「だから違うってば!!」


どうやらしばらくの間は、この誤解は消えなさそうだった。


「‥‥‥それよりも、聞かせてくれるかしら?」

「ああ。 少し長くなるけど‥‥‥話すよ」


翔とルチアはそばにあったベンチに座りと、澄み渡った青いソラを見上げながら話しだした。


「小さな女の子と、優しい黒猫の話しを――――――」


孤独に過ごしていた小さな少女と、主想いの優しい黒猫の話し。

きっといつまでも忘れることのないその話を、翔はいつまでも話し続けた。



――――――そして数日後、ミウは病院を退院し、新しい人生を歩みだした。

彼女の幸せを願いながら、翔たちもまた寒い冬の日々を過ごし続けるのだった――――――。 
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