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世界を超える保持者とα

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プロローグ

 
前書き
書き直しました
もし、もしですが、前作のほうがいいって人がいたら、感想に入れてくれると参考にさせていただきます
それ以外でも、様々な感想お待ちしています 

 
この世界は、残酷だ

権力に物を言わせ、暴虐を尽くす貴族

その貴族と結び、悪政を敷く王

そして、すべての国で、そんな光景が当たり前になっている世界・・・

すべてが、狂っている

何もかもが、おかしい

被害者は国民?力のない民?いいや、それも違う

意識しない民もまた、加害者だ。力があろうと、なかろうと、加害者なのだ

勿論彼自身も加害者。こんな世界で育った、加害者以外に何になるというのか

彼が魔眼保持者であることや、幾人もの命を奪ってきていることなど、関係ない

この世界で生きている。これが、これ自体が、罪となる世界

命を宿す。それ自体が加害者であるのと同義・・・

狂っている、本当に狂っている世界

身分の低い者を人とは思わず、自らの娯楽として殺す貴族

自らは被害者であると唱えながら、他人の不幸を楽しむ人民

人とは違うから、周りと合わないから、特別な力があるから、羨ましいから

様々な理由で、いとも簡単に人は他人を傷つける

彼も、小さな、本当に無垢な頃。

そんな残酷な世界において、最初の絶望を味わうことになる。
その原因は、彼の目に具現した一種の魔眼・・・
『複写眼』・・・アルファ・スティグマ―――







『お前らっ!なんでこんな事をする!コイツは・・・シャルは今まで一緒に生きてきた
じゃねえか!なんでこいつを傷つける!?』

とある村
その村で十にも満たない少年が、30を越える男達に虐待を受けていた
少年の顔や体には無数の傷があり、およそ子供に対して行う行為とは言えない
そしてその少年を庇い、守ろうとする男が一人

『おい、ギドー。悪いことは言わねえ、そこをどけ』

ギドー。そう呼ばれた男は、顔に髭を蓄えた、40程だろうと見受けられる顔付き

『そうだ。確かにお前はそいつを一段と可愛がってた・・・だが、そいつは、化物だ!』

そう。この男、ギドーはこの少年のことをいつも気にかけ、何かと良く面倒を見ていた
結婚せず、子供のいないギドーにとって、村の子供は皆我が子のような存在だった

『そうだ!生かしといちゃいけねえんだ!化物を置いてるなんて貴族に知られたら・・・俺たち、皆殺しだろうが!』

少年を殺そうとしていた男たちは、口々にギドーを説得にかかる。
自らが生きるため、家族を守るため、貴族に恩を売るため
目的は多数あれど、望むものは少年の死だけであった

『ばかやろう!そんな理由でこいつを殺すつもりか!?まだ子供だぞ!?』

しかし、このギドーという男は、一際正義感の強い男だった
今までもその性格ゆえに信頼を得ていたし、村の子供にも慕われていた
しかし吉か凶か。その性格ゆえに今、窮地に陥っている

『うるせぇ!!!こうしねえと殺されちまうんだよ!早くどかねえとお前も殺す
ぞ!』

だが、それで留まり、少年を見殺すほど、彼の正義感は生半可ではなかった

『てめえらが何を言おうが、俺はこいつを殺させねえ!殺させるかよ!』

そう啖呵を切り、少年をかばう。
彼にとっては息子同然の少年。
血の繋がりはないが、親心が出てきているのかもしれない

(はっ。女房も持たずに親心、か。馬鹿な話だぜ)

皮肉を心底で呟き、覚悟を決める

『くっ・・・すまんギドー・・・死んでくれっ・・・!』

その言葉をきっかけにして、数人の男達がギドーへと迫る。
ギドーは、後ろの少年を抱き起こし、叫んだ

『おい、シャルッ!早く逃げろ!俺の馬を使え!早くしろっ!』

『シャル』。そう呼ばれた少年は、動けなかった
今まで自分に優しかったおじさん達
それが今日になって、いきなり自分を殺しに来た

わけがわからない。わかるはずもなかった。
どだいこの年の少年に理解しろという方がおかしいのだ

だが、ギドーに理解を求める時間は、残されていない
それだけ言うと、振り向き、男達と対峙した

『がっ・・・!』

しかし、さすがに多勢に無勢。ギドーは唸り声を上げながら倒れていく
それをまざまざと目に焼き付け、必死に理由を考える少年

(なんで、おっちゃんはおじさんたちになぐられているの・・・?)

(なんで、なんでおっちゃんは血を流して倒れていくの・・・?)

理由など、わかるはずがなかった
ただ、頭の中を支配する、ただ一つだけ分かること

それは、今まで親のように遊んでくれた、面倒を見てくれた、ギドーが。
そのギドーが、死の危機に瀕しているということだけだった

少年は強く思った

(いやだよ、いやだ、いやだいやだいやだ!)
(おっちゃんを傷つけるな!やめろよ!やめてくれよ!)

頭が、ズキンと痛む
何も考えられない中で、目に映るのは最後まで自分を守ってくれていた、ギドーの体
その、血まみれの体が目に焼き付いたその時、少年の感情が爆発した

『やめて・・・やめて・・・・・・・・・・・・あ、はは・・・ハハ・・・アハハハハハッ!』

『あははははははははははははっ』




少年の意識が戻ったとき。
少年の目の前には、何も残ってはいなかった
ただ、残されたのは自らと血濡れのギドーのみ。
そう、少年はこの時。初めて人間を殺した。


彼の魔眼が発現して、十年
彼は死ぬことなく、精強な青年へと育っていた
黒い髪、そして、複写眼の影響もあるのか赤みがかった瞳
少年は、その後もギドーによって育てられていた

あの時、ギドーは目を覚ました後、暴走し、破壊を振りまく少年の瞳を塞いだ
それにより複写眼の暴走は静まり、少年は暴走の影響で命を落とすこともなかった。

自らが、皆を殺したと泣く少年に、きにするなと一声し、その後も国や貴族の放つ追っ手から逃れ少年を育ててきた

怪我の影響で不自由なところもあったが、彼は一言も少年を責めなかった

彼が、死ぬときも、そうだ。

青年は彼に聞いた。

なぜ自分を救ったのか、なぜ自分を育ててくれたのか

彼は、こういった。

『それは・・・お前が、俺の息子だからだよ』

そして

『お前が、ここまで育ってくれて、俺は今最高に幸せだ』

青年が、返事を返すまもなく、彼は逝った

青年は、泣いた

一晩中、朝になっても泣き続けた

そんな中、青年の体に、見知らぬ声が響く





『主よ。我の声に応えよ』




それが、この少年の人生を変える最初の一言だった。





そして現在

「ようやく、完成したか・・・」
彼は、自らの魔眼である複写眼を用いて、とある大規模な魔法を構築していた

複写眼《アルファ・スティグマ》は、魔眼の一種で、その能力は魔法の解析、及び複製。

他人の魔法であっても、発動をその目で見ればその構成を完璧に理解し、さらには魔法を組む途中であっても、その魔法の最後まで全てを理解できるというものだ

つまり、相手が魔法の『ま』の字でも出すと、その構成、威力などすべてが読み取られる

さらに言えば、魔法の構成だけではなく待機中の魔力の流れなどを見ることもできるため、新たな魔法の構築や、既存の魔法の改造なども可能となる

戦闘能力だけで見ればほぼ皆無で、魔眼の中でもそれ程高位に位置しないが、魔法
を主体とするものを相手とする場合には、これ以上になく有利である。

(だが・・・この眼は、呪われている)

この魔眼の発現により、彼の人生は地獄と化した。

(だが、一方で俺はこの眼を大切にしている。)

彼の父が命がけで守ってくれた体。

呪われているとは言えその一部であるこの眼

これも含めて、彼に救われた自分自身である

こんな呪われた力でも、誰かを救う役に立つと願って

彼に救われたように、自らも誰かを救えると願う


(ただ、この世界には――)

救いようなど、ない

青年一人で手に負えるものではなかった

腐りきりすぎて、もうどうしようもない―――

どうにかできるものがあるとすれば、伝説の勇者――もしくは、稀代の英雄―――


(だが、それは俺ではなかった)


そう、彼にはこの世界を変える力はなかった
英雄という場所は、彼とは程遠いものだった


(今まで放浪した地にも、英雄たる人間はいなかった)


だから彼は、この世界を捨てる決意をした

複写眼の力を最大限に駆使し、様々な歴史、英雄譚を紐解き研究した結果作り出した魔法

この世界では、いまだ開発されていない転移の魔法―――

しかも、次元を超える―――世界を、飛び越える為の魔法

この世界で生きてゆくには、彼の心はあまりにも脆すぎた

彼は、この世界で生きてゆくことに耐えられなかった

あまりにも救いのないこの世界で、彼の見たものは絶望のみ
世界を捨て、逃げ出そうとするほどに



『そうか、ようやく完成したか、シャガル』



唐突に、青年の体内に響く、ゆっくりと、重圧を持った声

『シャガル』――そう呼ばれた少年は、シャガル・リルラ。複写眼を保持し、十数年前に暴走、自身の村を壊滅せしめた男である。

彼は、主の見えない声に向けてなのか、小さく頷き。

「ああ、これで転移魔法の、完成だ。魔力は、ここら一体の物を根こそぎいただく」

彼が作り出したこの魔法は、転移魔法の一種だ


「ただ、問題は―――」

『どこに飛ぶかが、全くわからない・・・場所も、空間も、時間も、世界でさえも・・・
か』

そう、この魔法は飛ぶ場所を指定できない欠点がある

否、むしろ、そうせざるを得なかったとも言える

正直、世界を超える魔法など、この世界の魔力全てでも補えるかどうかというところだ

それを補うために、敢えて無茶苦茶な構成を織り交ぜ、魔力を爆発させる

それゆえに、場所などは指定できない。完全に運が絡む。




『我は止めはせぬ。お主の意のままにするが良い』



そして、彼の体内からの声の主。名を《アルファ》

元々は、複写眼保持者を殺すために、複写眼に植えつけられる人格

複写眼保持者が暴走した際、それを殺し、滅ぼすための人格

本来、この人格は保持者と話すこともなければ、そもそも理性がない

さらに、基本的には破壊衝動以外を持たないはず。なのだが


(あの時・・・)


シャガルが、初めて暴走したあの時。

その時、ギドーはシャガルの暴走を止めることに成功した

その時、中途半端に覚醒していたアルファ。

まだまだ未成熟故の心の隙間にアルファは入り込み、そこで感情を得た

更にそれから数年間をシャガルの心の隙間で過ごし、理性を得る

その後、ギドーがこの世を去る際のシャガルの深い悲しみ。

その時にできた隙間を抜け、シャガルの内包するもう一つの人格として、具現す
る。


数年の間にアルファの《アルファ》たる役目も薄れており、保持者を乗っ取ることもできなくなっていた。

(まあ、こいつに体を委ねる事も出来るけどな)

アルファとしての役目は薄れても、複写眼の力を最大限に引き出すのはアルファにしかできない。更に、彼はとある理由で悪魔の力を手に入れた


人間や物質の構成を理解し、殺す、溶かす、砂にする、爆発させる
すべてを破壊し無に帰す、複写眼の本来の持ち主の力。その欠片。

シャガルも死の淵を救われたことが幾度となくある

「まあ、どうなるかは賭けだけどな・・・まあ、やってみるさ」

失うものは、何もなかった
ギドーは死に、希望を失い、そもそも希望すらなかった
あとは、この魔法を発動するのみ

「さあ、発動するぞ。」

魔法陣を発動させ、魔法を動かす
自らの体を持って行かれそうな感覚を感じながら、空を見やり、彼は言った

「なあ、ギドーさんよ」
「あんたに守ってもらったこの命、あんたと共に生きたかったが」
「先に死んじまうんだもんな、どうしようかね」
「俺は、この世界をでる」
「うまくいくかはわからんが、旅先で、うまくやっていくさ」
「だからよ、何も心配はいらない」
「安心して眠れよ」

もう、悲しみは沸かない
彼は、戻ってこないのだから


『我もいる。安心しておれ』


死んでいるはずの人間へ向けた言葉
それは、届くはずのない言葉
だが、シャガルには、ギドーの言葉が、聞こえた気がした


――――なぁ、シャル――――


――――大きくなったなぁ・・・もう心配はねぇか――――


――――お前は俺の息子だ。さぁ、頑張ってこいよ――――





             ――元気で、な―――
 
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