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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・後半-日来独立編-
  第七十四章 終息へ向かう時《2》

 
前書き
 これで決まるのか!?
 セーランによる竜神の流魔吸収、一体どうなる! 

 
 激しい流魔の反応により起こる流魔光。
 今それが吹き出るように憂いの葬爪を突き刺した箇所から放たれ、次には憂いの葬爪へと吸収されていった。
 火花ににも似たそれは確実に竜神という存在を流魔へと変え、セーランの手によって戻るべき場所へと戻されようとしていた。
 時間はそう経ってはいないものの、竜神が暴れ始めてもおかしくはない時間。しかし竜神は暴れる素振りを見せず、ましてや動く気配すらも感じられない。
 大人しくなったのだろうか。
 だが何故に。
 理由が述べられなければ皆は理解することは出来ず、ただただ運のいいことに動かなくなったとしか言いようがない。
 最も竜神に近いセーランのみが理由を知っていた。
「竜神の一部は奏鳴の流魔を取り込んだことによって流魔が記憶した負の感情により暴走した。なら対処は簡単。手っ取り早く奏鳴の流魔を優先に吸収すれば、今まで暴れてた竜神は大人しくなるってことさ」
 自分は何を一人で言っているのだろうかと、改まったように思った。
 奏鳴の流魔を、竜神の流魔を吸収しているのを感じる。
 二つ共、通常の流魔よりも濃く、気分が酔った感覚に襲われるも、宿り主となったためか後一歩のところで堪えられる。
 流魔の回収は成功だ。
 想像による能力の具現化は慣れないものの、単純かつ直接その状態をイメージすれば、自ずと強力な能力として現実空間に具現化することは解った。
 今後は複雑な想像であっても質を落とすことなく具現化させることが、憂いの葬爪を使いこなすための課題の一つ。
 幾つか能力のある内、一番使うであろう能力であるから他の能力よりも使いこなせなけらばならない。
 今回はたまたま上手くいっただけかもしれねえしな。本当、何時になっても苦労するねえ。
 などと内心ボヤきつつ、竜神の全ての流魔を吸収する時を待つ。
 回収されていく流魔は減る様子を見せず、反対に増えているように見えた。ただそうであっても全ての流魔は回収されていくだけだ。
「これでいいんだよな。たく、ようやくって感じだな」
 塞ぐように竜神の顔によって見えぬ地上。
 高さならばセーランの方が上で、セーランが見ようとしたのは下にいる黄森の学勢だ。
 甲殻系魔人族の学勢を見ようとしたのだ。
 日来にも魔人族はいるものの、あれ程までに強力な魔人族は見たことがない。
 元々身体能力で優っている獣人族と魔人族。
 獣人族は獣のような五感を持ち合わせているのが特徴で、日来では覇王会隊長を務めるネフィアと、ネフィアのはとこであるルヴォルフがそうである。
 詳しく言えばネフィアは半獣人族なのだが。
 魔人族は内部流魔を多く宿せることが特徴で、身体能力も優れてはいる。があそこまでのはなかなか奇であろう。
「特別な力でも持ってるのかねえ、あの魔人族の奴は」
 などと言ってるうちに、竜神の身体は見て分かる程に薄くなっていた。
 吸収の速度がそれ程までに速いということか。
 全ての流魔を吸収し終えるのも後少しだ。
 これを終えれば、黄森の女子学勢の傷を治してから奏鳴の元へ行ける。
 それまではどうにか耐えてくれ。
 動き出しそうな足を抑え、その時を今か今かと待つ。
 竜神の流魔を全て吸収し、奏鳴の内部流魔も回収出来たのに時間は掛からなかった。
 流魔が吸収されていく度に竜神の存在は薄れ、次第に見えなくなっていった。音も何も無く、ただ消えたのだ。
 辰ノ大花と黄森の間で起きた今日の騒動。
 消えていった竜神と共に、それも自然と消滅していた。
 黄森の全戦闘艦は撤退していき、地上に残る黄森の者達も停泊していた、または自分達を回収しに来た戦闘艦へ次々と乗り込む。
 敵に背を向ける黄森に襲い掛かる者は誰一人として存在せず、ただ冷たく鋭い視線のみが向けられた。
 足取りは鉛のように重たいように見え、両者共疲労はあった。
 この事態が何をもたらしたのか。
 それは両者との溝だ。
 深くて暗い溝。
 人によっては生涯忘れることのない溝となり得るものを、黄森は行き過ぎた行為によってつくってしまった。
 地域間であっても問題は多々存在する。
 全てを解決することは出来無いが、少しでも解決出来るように手助けが出来るならば。
 セーランは一人、思った。



 地上から空を見上げる黄森の長、央信は竜神が消えていくのを目に映した。
 自分を狙うものがいなくなり、ほっと一息吐き、支えてもらっている王政を頼りにどうにか立ち上がった。
 脚が震え、上手く自立出来無い。
「格好悪いものだな」
「天魔の力使ったンすからしょうがねえと思いますけどね」
「結局、私は宿り主には敵わないということか。全く……憎いな……」
 実力差が存在し、一線の向こうに踏み込めない。
 先に踏み込んでいった日来、辰ノ大花の長らが羨ましくも憎かった。
 しかしながら少しは、辰ノ大花も緩んだ緊張を張り直せるいい機会となった筈だ。
 幾ら強力な黄森であっても、国同士の戦争でたった一地域が神州瑞穂という広大な領域を死守するには無理がある。
 せめて自分達の居場所くらいは守れるくらいの、意思を常に持ち合わせていてほしい。
 震えが治まり掛けた脚を動かし、隣、離れた場所にいる二人の女子学勢に身体を向ける。
「清継の様子はどうだ」
「勢いを殺せぬまま甲板に背から激突したために数本折れた骨がある。吐血の原因は折れた骨が内臓に刺さったために起きたのだろう」
「見る限り呼吸はあるようだが万が一の場合も考えられるな」
 口の周りに付いた血を拭き取った後が見られ、繁真によって応急処置が清継に施されている。
 ただ回復速度を高めるだけの治癒系術で、手術となれば一度黄森に戻らなければならない。
 戦闘艦を最大速度で航行させても、病院に辿り着くには三十分くらいと言ったとこか。
 長い。そう思った。
 辰ノ大花の病院へ搬送も考えられるが、馬鹿馬鹿しいので止めだ。
「日来長が助けてくれると約束してくれた」
 繁真は言った。
 眉を立てた央信は疑問を投げ掛けた。
「日来の長が? 何故だ」
「仲間を傷付けてしまったと謝られた。おかしな話しだ、傷付けたのはお前じゃないと言うのに。責任感ゆえなのだろうな」
「幸せな頭してンな、日来長は。オレならほっとくね」
「お人好しということか。だがまあ、助けてくれるならば文句は無い」
 それを聞いた王政が驚きから目を見開いた。
 繁真は特に反応を見せなかったが、彼女とは違い王政は何時もとは違う何かを感じ取ったのだろう。
 戸惑ったような言葉から始まり、
「お、長が素直なの……珍しいっすね。あれっすか? 天魔の力使い過ぎて頭イカれたンすか?」
「そんなに殴られたいのか」
「ちがっ!? 誤解っすよ! オレは心配してるンす」
「今の私が幾ら弱っているからといって、系術無しの格闘戦ならばまだ私の方が上だと思うが」
 半目で睨む央信。
 長からの威圧を受けた王政はとっさに両の腕で顔を隠し、視線を防ぐようにした。
 二人を見ながら優しく清継の頬を撫でる繁真は、なるべく負担の掛からないようにと自分は無駄に動かなかった。
 自分には剣術や格闘術があっても、医療技術は持ち合わせていない。
 大抵の傷は治癒系術で治せるために医療の知恵を捨てたのだが、改めて仲間が傷付いている姿を見るとそれは間違いだったのではと考えさせられる。
 染々としていた繁真だったが、たまたま空を見上げ、落ちてくる者が目に入った。
「玄次郎殿ではないか」
 天桜学勢院の制服を着ているのと、外見から分かった。
 こちらの声が聞こえたのか、おおお――い、と言いつつ落下してきた。
 数秒後。
 緩和系術の連続発動で速度を殺していき、少しの時間、清継を見ると更に緩和系術を発動した。
 衝撃というものはなく、着地の音さえも立たせずに甲板へと足を着いた。
 傷付いた清継への配慮だ。
「携帯用の治癒系術で済ませてんのか」
「回復を高めるのと痛みを和らげる効果がある。ただ」
「言わなくていい言わなくて。大体のことは想像出来るし、それによお」
 玄次郎は自分が落ちてきた空を見た。
 何か来るのか。
 釣られて三人も見上げ、太陽の光がまだ射している空の下。青い光と共に来る者がいた。
 央信、繁真、王政の三人のうち、いち早く気付いたのはやはり繁真で。
「あれは……日来長か」
「敵意のねえまま俺達の前に来るんだ。何かしらのことをするんだろうよ」
「繁真先輩が日来長が助けに来てくれる、て言ってたっすよ」
「へえ、優しいもんだなあ」
 会話しているうちに、日来の長は着地の準備を行っていた。
 着地の仕方は玄次郎とは違い、お得意の流魔操作によって弾力のある立体物を五人がいる甲板上に創り、立体物のなかへと飛び込んだ。
 立体物はセーランがぶつかるや、上手い具合に身体全体を包み込み、貫通してしまう前に速度を落としていった。
 止まったと同時に立体物は流魔へと還っていき、形を崩した。
 ふう、と息を吐くセーラン。
「こりゃあこりゃあ、見慣れない顔が二人も増えて。勘違いすんなよ、戦いに来たわけじゃねえ。そこで傷付いて倒れてる学勢助けに来たんだ」
 戦意が無いことを両手を上げ証明しながら、黄森勢へと近付いていく。
 この場で傷付いている学勢は清継だけであるため、自然と皆は清継へと視線を向けた。
 痛みからか度々唸るような声が漏れている。
「情け感謝する」
「お前が天桜長らしいな、別に感謝なんていらねえよ。俺がしたいからすんだしな」
 央信の言葉から始まった長同士の会話。
 話しに他の者は割り込むことはせず、耳を傾けて聞いているのみだ。
 間近で見ると奏鳴よりも少し背丈は高く、長くて光沢を放つ黒髪は育ちの良さを感じさせた。
 目尻は鋭く、常に相手を睨み付けるかのようで、気楽に目線を顔へ向けることが出来無い。
 本人を間近に見ての感想だ。
 百聞は一見にしかず、ということわざの意味を身をもって体感したセーランは言葉を続け。
「何がお前をそこまで動かすのか分からねえけど、大切なもん奪っていくことが今後あるなら今日みたいに首突っ込んで来るからな」
「ふ、いい度胸だ。神州瑞穂のため、と言っても信じる気は無さそうだな」
「信じるかどうかはさて置き、今回の件はあんまりにも酷過ぎる。一方的に事を進めてもいい結果は生まないぞ」
「変化に付いていけない者に構ってやれる程黄森は優しくはないし時間も無い」
 言葉を交えながらセーランは清継の元へ。
 邪魔だと思ったのか離れようとした繁真を止めるように掌を見せ、平気だと合図を送る。
 膝を曲げ、具合を伺いながらも会話は続く。
「誰にも理解されないまま神州瑞穂のために戦っても周りの反感を買うだけだ」
「日来は独立のために世界を相手にするらしいな。言うならばそれは自分達だけで理解し、他人には理解させない。同じだと思うがな」
「世界を相手にするのは、崩壊進行を目の前にしてもお互いに手を取ろうとしない世界への反抗だ。日来独立は奥州四圏からの人形状態を打破するだけだ」
 意識はある。
 痛みを堪える声が聞こえ、身体を動かすのは止めておいた方がいい。
 吐血の後はあるが付いた血は拭き取られていた。
 一度、黄森の長との会話を中断し、
「外部には傷らしい傷は見られないが」
「骨が内蔵を貫いている可能性がある。手術の必要があるかもしれない」
 とっさに繁真が事前に得た情報を伝えた。
 急速に命の危険が迫っているわけではないが、何もしないままでは出血が影響して死に至る。
 セーランは憂いの葬爪を清継へと近付けさせ、ふう、と呼吸を整えて想像する。
 折れた骨が元の形、位置へと戻るのを。
 裂かれた臓器が流魔によって回復していく様子を。
 淡く光り出す憂いの葬爪。
 間近で見る宿り主の力を記憶に焼き付けるかのように、黄森の学勢はじっとセーランを見詰めていた。
 黙っていても仕方無いので、先程の続きを口にするセーラン。
「神州瑞穂から日来が無くなるわけじゃねえ。ただ神州瑞穂っつう国から離れるだけさ」
「手を取り合っていないだけで国は崩壊進行について研究している。今更、日来が乗り込んでも仕方無いとは思うが」
 清継の様子を見つつ、央信は一度閉じた口を開いた。
 特別日来が崩壊進行を危険視しているわけではない。同じく世界の国々も崩壊進行の危険性は理解しており、ただそうであっても手を取り合おうとしないだけだ。
 厳密に言うと、手を取り合う必要性が無い。
「崩壊進行の原因はいまだ詳しく分かってはいないのは知っているな? 黄金時代に起きた大戦が終わったとは言え、大戦で負った傷跡は今日まで全く癒えてはいない。
 そのなかで崩壊進行を糧に世界をマシにするなど無理な話しだ」
「やってみねえと分かんねえよ、んなもんは」
「やらなくとも考えた時点で分かる。世界はそう単純には出来てはいない」
「複雑に絡まった糸でも時間を掛ければ解くことが出来る」
「どれ程の時間を要するか検討が付いて言っているのか。何時、創生区域が崩壊するか分からないのに」
「動かねえと手遅れになる気がするんだよ。気付いた頃には手遅れでした、はい終わり、なんて御免だからさ。やっとけることは早くやっておきてえ」
 央信は深くため息を付きながら、首を横に振った。
 脚の震えが収まりつつあることから、なんとか歩くことが可能になったため、何を思ったのか央信は皆から一定の距離置いた位置へと移動した。
 離れた央信に反応するようにして、清継の口から言葉が漏れた。
「不覚ですね……貴方に、治療されるなんて……」
「プライドが高いことで。てか痛みは平気なのか? 一応は痛覚伝わらないようにしてんだが」
 痛覚も流魔によるものなので、憂いの葬爪を持ってすれば痛覚を遮断するのか容易なことだ。
 しかしながら、あたり経っていないのに回復の速度がやけに早い。
 元々回復能力が高いのかもしれないが、ふと流魔を通して伝わる違和感。
 まるで霧に隠された秘境。
 分かりそうで分からない、誰も近付けさせないように何かを隠していたことが解ったセーラン。だが、口には出さなかった。
 出してはいけないような気がして、喉の奥へと仕舞い込んだ。
「お陰様で。たぶん、傷の方も平気かと」
「驚く程回復速くてびっくりだぜ。いやあ、若者の生命力ってやつですな」
「治ったのか?」
「そういう力も持っててね、心配いらねえよ充分治った治った。後で医者にでも異常ねえか見てもらうんだな。治った、つってもあんまし動かねえように心掛けねえと万が一ってこともあるからな。
 俺のせいにされても困るし」
 特に他は治さなくとも彼方で出来るため、能力の発動を止めてからセーランは立ち上がる。
 もうここにいる意味も無いし、これから奏鳴の元へ行かなければならないからだ。
 暴走に至るまでどれ程掛かるか分からないが、何処か落ち着いている自分がいる。
 焦っているのに、何故か冷静に物事に向き合えるのだ。
「仲間の傷を治してくれたこと感謝している。個人的にではあるが何時か恩を返させてもらう」
「ちょ、先輩! 別にコイツが勝手にやったことなンすから、恩なんて返さなくても」
 長らく黙っていた王政が意見を言う。
「拙者個人がそうしたいのだ。事情は複雑ではあるが、仲間を助けた恩は恩で返す。単純この上無い」
「そういうとこ、誰に対しても変わらなく甘いっすよね」
「焼き餅焼いてんのかあ? オメエ年上好きだもんなあ」
「何ニヤついてンだよ!」
「照れなくても大丈夫でちゅよー、お兄ちゃん達は分かってまちゅからねえー」
「ウゼえ、日来長の前でも変わらずウゼえ……」
 拳を強く握り締める王政は、自身と玄次郎との力量の差を知っているがために手を出さなかった。
 返り討ち会うのが目に見えている。
 立ち上がったセーランの前へ、王政と会話をしていた玄次郎が立ち塞がる形で行く手を塞いだ。
 なんの真似なのかと思った直後。
 問い掛け、言葉一つも置かない即座の打撃が玄次郎より放たれた。
 空気を断ち、竜神さえも打ち飛ばす程の打撃。
 仲間であっても構え無しの行動に驚きを隠せなかった。
 ただ天桜の長である央信の口は、皆には見えなくとも笑っていた。 
 

 
後書き
 今回で無事竜神の流魔を吸収することが出来ましたね。
 いや、色々と長かったです。
 その後に央信達の元へ行き、負傷した清継の治療を行いました。
 憂いの葬爪の能力は想像したものを具現化させるわけですので、負傷した場所だった想像すれば元通りというあり得ない能力。
 想像次第では強いのですがこの手の能力はやはり制限があり、想像出来たとしてもそれを具現化出来るだけの力量が無ければ話しになりません。
 つまり具現化に必要な流魔や、より鮮明に、かつより細かく想像しなければなりません。
 止まってなら出来るかもしれませんが、動いているなかでの想像は難しいのなんの。
 なので幾らか癖のある能力でもありますね。
 使い慣れてきたら最強かもしれません。
 ではでは今回はここまで。
 セーラン君が殴られるのかどうなのか、はらはらわくわく! ……しませんよね。 
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