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【一発ネタ】レイフォンに憑依したオリ主が上から目線で原作をぶっ壊すお話

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1

 
前書き
最初は汚染獣(というかナノセルロイド)を相手にレイフォンを無双させたいと思っていたんだが、何故か恋愛メインっぽくなっていた……。
考えていたレイフォン魔改造案を全て吹き飛ばしたリーリンすげえ。
まあ今でも魔改造はするつもりだし、出番だってそのうちチョコっとあると思いますが。 

 
 

《始まりの夜:1》


 槍殻都市グレンダンに存在する、とある孤児院の一室。


「(これは……何とも不幸なことだな……私も、彼らも)」


 揺り籠の中に眠る赤子二人の片割れ――栗色の頭髪と在りし日の空の色を瞳に湛えた男児――は胸中でそんな風に呟いた。
レイフォン・アルセイフ。茨の守護者としてグレンダンへ生まれ落ちた虚無の子……に憑依しちゃったしがない日本人である。


「(リーリンと思しき赤ん坊と一つの揺り籠に押し込められている現状から察するに、時期的には原作の15年前。メイファー・シュタット事件の直後といったところか)」


 レイフォンは転生者の常らしく原作知識などという超常の力を軽々と振りかざして瞬く間に現状を把握する。
当然このような考えを他者に悟られるわけにはいかないので決して声には出さぬように振舞っている。
もっとも、赤子にしっかりとした発音が――それもこのグレンダンで意味が通じる言語で――行えるとは考え難いのだが。


「(デルク・サイハーデンから受けるはずだった恩義もリーリンへの慕情も兄弟達への親愛も何一つとして存在しない現段階で、このような自我に目覚めてしまうとはな。せめて、一年なりとも時間が経過した後であれば……)」


 自己の内から自然と湧き上がり人間の行動を規定し規制する『感情』と呼ばれるもの、その端緒が何一つとして存在していない事実を嘆くレイフォン。

 レイフォンはかつての経験から『人生には目標が必要だ』と深く悟っていたのだ。そしてその根源に当たるのが『愛』と呼ばれる感情であるとも。
だが虚無の子を名乗るに相応しく、正しくレイフォンには何も無かった。この時レイフォンはこの世界で真実孤独な存在だったのである。









《汚染獣も……》


「もう止めて! レイフォン!!」


 グレンダン中央区画、王宮から程近い広場に幼い少女の声が響き渡った。
その悲痛な声色と不穏な響きは自然と周囲を行き交っていた都市民の耳目を集める。


「レイフォン、どうしてレイフォンがこんなことをしなければならないの?! もう二週間も何も食べてないじゃない! こんなことをされても私達は全然嬉しくない!!」


 美しいエメラルド色の瞳に溢れんばかりの涙を湛えた金髪の少女――リーリン・マーフェスは最愛の家族であるレイフォン・アルセイフへそう訴えた。
しかしリーリンの痛々しい諫止を受けたレイフォンは、愁眉の色を面に浮かべながらも、一考だにせず少女の訴えを取り下げる。


「リーリン……。君が僕のことを思ってくれるのは嬉しい。でもそれなら、今は家へ帰って安静にしていて欲しい」


 "レイフォン・アルセイフ"がこの世に生れ落ちた日から数えて、グレンダンでは8年の歳月が流れていた。そして現在、グレンダンはかつて無い規模の食糧危機に見舞われている。


「この年代の子供には栄養と休養が絶対に必要なんだ……」


 頬を落ち窪ませ目を爛々と輝かせた、未だ十にもならぬほど幼い少年――レイフォン・アルセイフは最愛の少女を懇々と諭す。
彼が自らの食を絶っているのは彼女達を守るためなのだ。
故に愛する彼女と今この場で言い争って彼女に余計な体力を消耗させてしまうような真似は、無論レイフォンにとっては甚だしく不本意なことであった。


「たとえ今のグレンダンで満足なそれを望むのは難しいとしても……」


 従ってレイフォンの胸裏には少なからぬ焦燥と困惑が在った。しかし彼の言葉は決して荒ぶることなく慈愛の眼差しと共にリーリンへと届けられる。
そんな年齢不相応の振る舞いをする彼の胸には、やはり彼の未成熟な体躯に見合わぬほど巨大なプレートが吊り下げられていた。

『私達にはあと少しの食料が必要です 《サイハーデン孤児院》』

 そう、レイフォン・アルセイフは物乞いをするため二週間に渡ってこの広場――食糧配給が行われる場所の一つ――で立ち続けていたのである。
雨の日も、目つきが気に食わぬと武芸者に絡まれた日も、連日連夜朝から晩まで……しかし、ついにリーリンがデルクを振り切ってレイフォンを阻止しに来てしまった今日ばかりは、レイフォンも日が沈む前に帰らぬわけにはいかないようであった。
もっとも、レイフォンからすれば「よくぞ二週間もリーリンを止めてくれた」という思いなのであるが。
真摯にお願いすればこのような非常識も容認してくれるデルクのことをレイフォンは気に入っていた。




「~~~~~~~っっ!! レイフォンの馬鹿っ!! もう知らないんだからっ!!!!」


 レイフォンのすげない断り文句を受けて、とうとうリーリンは決壊寸前だった両の目からぽろぽろと涙を溢れさせ、捨て台詞と共にレイフォンの下から走り去らんと身を翻した。
しかし、そのような(無駄にエネルギーを消費する)暴挙をこのレイフォンが見過ごすはずも無く。

 故に目にも留まらぬ早業でもって胸元の釣り看板を投棄し、リーリンを抱き止めるレイフォン。
当然リーリンは「離して!」とばかりに暴れまわるが、リーリンの細腕でレイフォンの抱擁から脱することが出来ようはずもなかった。

 しかし、その一方でリーリンを捕らえたレイフォンもまた困り果てていた。
何故ならば自身の腕の中でリーリンが暴れまわっている現状は、実のところ彼女が走り去るのと大差無いエネルギーを浪費しているからである。
原作知識的にはリーリンはこの食糧危機で命を落とすであろう子供には該当していなかったが、そうだとしても不本意なことには変わりない。
そもそも死ななければ良いなどという問題でもなければ、原作知識などそこまで当てになる代物でもないのだから。


「――愛してるんだ」


 刹那でも早くリーリンを止めたいとばかりに思考をマッハで置き去りしたレイフォンの口から、半ば無意識に想いが零れ落ちた。
だって、何だかんだで前世含めて初めての物乞い活動と二週間の絶食にレイフォンだってテンパってるし、お寿司。


「愛してる。リーリン(達)を。失いたくないんだ。大切なんだ」


 言葉を重ねる度に、レイフォンの腕を振り払おうとする力がリーリンの体から抜けていった。
リーリンからすれば『大大大好きな私のお兄ちゃん』からの、ひっじょーに唐突かつひっじょーに熱烈な――それも先日クラスメイトから借りた恋愛小説に書かれていたような超がつくほど熱烈な――ラブコールであった。つまり、この反応は必然である。


「ずっと傍に居て欲しい……だから、許して。ごめん、リーリン……」


 他方で、その代償とでも言うかの様に次第にリーリンの体の震えが大きくなってゆく。
何しろ確かに愛の告白(勘違い)は嬉しいのであるが、初等学校でも密かに人気があるレイフォンの愛を独占している事実(勘違い)は嬉しいけれど、一生傍にいて欲しいとプロポーズされたこと(勘違い)は有頂天になるほど嬉しいのに……それでも結局レイフォンは我が侭を貫き通そうというのだから。

 それってリーリン的にはやっぱり度し難いわけで。
有体に言えば「もう! レイフォンったら、もう!(イヤイヤ)」みたいな心境なわけで。
まだ胸がドキドキして言えないけれど、言えるのならば「愛を囁かれたくらいじゃ誤魔化されないもんっ」と言い返してやりたいくらいなわけで。


「それに、僕は武芸者だから、汚染獣と戦わないなら活剄だけでも一月くらい」


 しかもそんなところに、これまでに百篇も聞かされたような無粋な言い訳のセリフまで重ねられてしまえば。


「~~~~~~~~~~~~~~っ! 馬鹿ぁ!!」


 乙女リーリンの震え(我慢)も限界に達し、レイフォンの言葉は強行に遮られもするのである。


「レイフォンの馬鹿!! 私だって好きなのに!! 私だってレイフォンのことが心配なのに!!」


 この時リーリンの幼く薄い胸を満たしていた感情は何だったのだろうか?
『カナシイ、サビシイ、クルシイ、キライ、キライ、スキ……ダイスキ』
様々な想いがマーブル色に混ざり合ってリーリンはすっかり錯乱してしまっていた。


「なのにいつもレイフォンばっかり!! レ、レイフォン……ばっかり……っぅ……ふぐぅぅぅうう…………」


 果てにはレイフォンへ伝えたい言葉さえも見失ってレイフォンの腕の中で涙を流すことしか出来なくなったリーリン。
さしずめ『心が迷子のリーリン(妹)は不安になるとすぐレイフォン(お兄ちゃん)の胸で泣いちゃうの』といった状態である。

 こうして、その時低からぬ人口密度を記録していたはずの広場を何とも言えない沈黙が満たす。

 事、ここに至り、ようやくレイフォンは周囲の耳目というものを意識した。マジで、今更……やっぱりあなた疲れているのよレイフォン。
気まずげな表情を浮かべた――そんなリアクションもまた年齢に相応しくない――レイフォンは、リーリンを無言でそっと抱え上げ、帰途を選んだ。

 "心配してくれてありがとう"? "リーリンが居てくれるから僕は頑張れるんだよ"? "今日はリーリンの隣で休ませて。傍に居たいんだ"? etc...etc...
家に着くまでにリーリンを笑顔にする言葉をあーでもないこーでもないと懸命に考えながら…………。釣り看板を放置して。




 その日レイフォンさんがどのような言葉を告げたのか、あるいはありとあらゆる言葉を尽くしたのか、彼の行いは定かではない。
しかしレイフォンさんの新たな苦労がこの日始まったのであることは王宮を守護する唯一ぬにの盾――門番Aの目からも確定的に明らかだった。

『負けるなレイフォン! 頑張れレイフォン!』

それが汚染獣も食わない二人の言い争いを目撃していた都市民達に共通する思いであった。


 ――――色々とツッコミどころ満載な幼子二人のやりとりが目撃者達によって広く知れ渡った結果、OMOIYARI運動がグレンダンを席巻することになる。結果、食料危機による死亡者数はゼロを記録するのであった。それはさほど遠くない未来のお話なのである。









《始まりの夜:2》


「(――――あっ。よくよく考えたらデルクから受けた恩義ってもうあったじゃん。それも命の恩義という格別なものが。孤独(笑)だったわ)」


 レイフォンはその時まではデルクを原作における育ての親としか見ていなかったのだが、実際には彼がメイファー・シュタット事件における功績第一位でありまた自身の命の恩人でもあることに気が付く。


「(命令違反を恐れず人命救助。それも、炎上する建物への突入と老成体との戦闘を恐れずに、か。うーむ……天剣とか廃貴族とかクソ陛下とかナノセルロイドとかのチート連中ばかりで霞んでいたけど、デルクって日本人的感覚でとらえるとかなりの豪傑・英雄だよなあ。これは、原作の色々とアレな行動も『豪傑だけど頭が残念な人』という解釈を採用すべきか? それにデルクの残念さがレイフォンとリーリンに伝染したと考えれば、本編は見事なストーリーだと感心するがどこもおかしくなくなるし)」


 あたかもティベリウス帝を再評価したモムゼンの如く、デルクの評価を向上させるレイフォン。
しかしその一方では評価が下落し今後レイフォンから冷たい目で見られることが決まってしまう人達もいた。


「(逆に何の罪も無い――生まれたばかりで罪を犯せるはずがない――リーリンを見殺しにする決定を下したデルボネとティグリスって何なの? 人間のクズなの? 死ぬの??? こいつらが原作で正義面してレイフォン馬鹿にするとかマジありえねーwwwwwwwそして直属の配下である二人の暴挙を見逃したアルシェイラの無能っぷりもクソ過ぎるだろ常考。速攻で突入してればリーリンの母親が助かった可能性かなり高いのに)」


 こういった評価とは三者が支配階級の人間であるのに対してデルクが被支配階級の人間であるということも無関係ではないだろう。
人の上に立つ者には一般的な倫理観のみならず、より高水準の職業倫理とでも呼ぶべきものが要求されるとレイフォンは考えていたからだ。
レイフォンからすれば作為・不作為を問わず、庇護せねばならない対象を見殺しにする為政者など到底容認できない存在であった。


「(てかさあ……)」


 レイフォンはかつての日本に存在した某巨大掲示板におけるレギオス評を回想する。


「(レイフォンって作者に嫌われた不遇主人公とかフルボッコ系主人公とか言われてたけど、実はフルボッコになってるのってリーリンじゃねえ? 生まれたばかりでとーちゃん殺されて、かーちゃん殺されて、挙句の果てに本編では両親殺した奴らに人生滅茶苦茶にされてるじゃん? 後々主人公の仲間になる悪役キャラみたいな境遇でワロスワロスだわ。作者はどこにヒロイン補正があるのか今北産業で説明してみろよ。もうアルシェイラとかマジでどの面下げてリーリンのところに来たんだっていうレベルだろ。俺なら恥ずかしくて合わせる顔が無いわ。しかも年端も行かない少女を戦力として拉致したくせに最終決戦では私一人で戦いたいとか意味不明な供述を始めるし……キチガイかな? とりあえずリーリンって本来手に入るはずだった幸せを周囲の理不尽に因って喪失した度合いで言えば原作ヒロイン中でダントツな気がするぜ。まあそれがレギオス世界の過酷さだって言われたら……そうなの?って感じだけどさ。ただ、生まれながらにしてゆとり勝ち組のクラリーベル、ニーナ、フェリは言うまでもなくヨルテム三人組の平和ボケっぷりを見るとなあ。どーもそうではないんではなかろーか)」


 かつて日本で起こった原○力○電所の事故と見捨てられた何千何万という子供たち、彼らが全身にガンを転移させて死んでゆく様を怒りと悲しみの目で見送り続けたレイフォンにとって、グレンダン上層部とは正しく唾棄すべき存在であった。
大量殺人集団の東○電力や霞○関の天下りエリート(失笑)官僚や経団○という名の財界人などと同レベルのクズ認定不可避である。

『人は生まれながらにして平等で命の重さには差異など無い』

 何度も屈折し過ちを犯し続けたかつての人生であったが、その当たり前の"人の道"をようやく信じることができるようになったのだから、かつて経験したことは何もかもが無意味だったわけではないのだろうと現在のレイフォンは考えていた……故に決意する。


「(よっし、デルクとリーリンと愉快な家族たちに『普通に幸せ……になれるかも知れない環境』を贈ってあげよう。それが今生の目標の一つということで。いやー、目標が定まると生きる活力がわいてくるわ)」


 "頭は残念だけど命の恩人なデルク"と"かわいそうなリーリン"への愛情がレイフォンの胸の奥から湧き上がり始めていた。





  
 

 
後書き
 
<リーリン・マーフェス>
幸薄少女。(レイフォン談)
生まれた頃から隣に居たレイフォンにより、夜泣きするたびに寝かしつけられるなどの愛情を注がれまくってすくすく育つ。
その影響は初等学校の3年生になった今でもレイフォンが寝かしつければ10分で眠りに落ちる(午後5時とかであっても)など色濃く残る。

原作とは異なり胸部装甲の発達度合と基礎学力を除けばあらゆる点において年齢相応。
家事も得意ではなく強いて言えばレイフォン仕込みのクッキーなら上手く作るといった程度。(それも難易度の低い型抜きクッキーである)
口の堅さも年齢相応。初恋を自覚する前に初恋が成就(勘違い)するという恋愛小説も裸足で逃げ出すようなジェットコースター的ロマン体験をしたリーリンに自重など出来ようはずがなく、友人の恋に恋するクラスメイトCちゃんを介してさほど日を要せずして二人は初等学校の公認カップルとなるのであった。

パッと見では儚げな雰囲気を漂わせる妹系美少女のリーリンに懸想していた男子の数は少なくなく、彼らは物陰でひっそりと涙を流した。合掌。




次は拡がり始めた性差を切っ掛けにして二番目(思春期)の恋を体験するリーリンとそれに巻き込まれるレイフォンを書けたら……いいなあ。
性の話題が出るけど、お相手がレイフォンなのでR-18要素は入りません。




  
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