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万華鏡

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第八十一話 寮生活その四

「ワーグナーだからね」
「それでこちらはですね」
「そう、賑やかだけれどね」
 こうもりの序曲は確かにそうだ、賑やかである。
「けれどそれでもなのよ」
「優雅、ですよね」
 里香はしみじみとした口調だった、今も。
「あの曲は」
「知ってるのね」
「はい、お母さんがクラシック好きで」
 その縁で、というのだ。
「聴きますので」
「だから知ってるのね」
「はい、いい曲ですよね」
「女の子はあの曲で起きるのよ」
「女の子らしいですね」
「そうでしょ、まあこれは変えられるのよ」
 朝の音楽は、というのだ。
「係の娘の好みでね」
「じゃあこうもりもですか」
「好みで変えられるのよ」
「じゃあ今も」
「そう、何年か前はロッキーだったらしいのよ」
 映画の名前も出て来た。
「あの映画のテーマソングですね」
「何か格好いいですね、あの曲で起きるって」
「ボクシングしたくなりますよね」
「朝から生卵飲んで」
「それからランニングして」
「男子寮はゴトファーザーの愛のテーマだった時もあったらしいわ」
 男の方はこちらだった。
「これはこれで格好いいわよね」
「ですね、曲選んだ人いい趣味してますね」
「朝には何か違うとも思ったりもしますけれど」
「それでもそのセンスはね」
 ゴッドファーザーの愛のテーマは名曲だ、聴いているとそれで独特の雰囲気に浸ることが出来る。そうした意味で真の名曲なのだ。
「いいわよね」
「ですね、ダンディズムですね」
「渋いです」
「ちなみに男子寮は女人禁制でね」
 そして、というのだった。
「女子寮もね」
「男子禁制ですね」
「ここも」
「ここは女の園よ」
 まさにそう言っていい場所だというのだ、この女子寮は。
「完全なね」
「そうですか、男の子もいない」
「完全な」
「若し連れ込んだら」
 男子を、というのだ。
「わかるわよね」
「極刑ですよね」
「そうなりますよね」
「これはあっちもだから」
 男子寮の方もというのだ。
「だからこれだけはね、開校以来した人いないらしいから」
「ですよね、流石に」
「それだけは」
「外で会えばいいんだし」
 中に連れ込まずとも、というのだ。
「そんなことしなくてもいいから」
「中だけはアウト」
「そういうことですね」
「そう、それだけはね」
 絶対の御法度であることをだ、宇野先輩は五人に強調して話した。そうしたことを話してそれからだった。
 五人にだ、こう言った。 
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