辻堂雄介の純愛ロード
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第参話『プロローグ 広島』
三月、春の暖かさの中にまだ冬の寒さが残るとき俺こと辻堂雄介は広島にいた。
「いってきま~す」
誰も居ない家にそう告げる。母さんが死んで早一年以上が過ぎた。俺は小学校に上がって友達も出来たし順風満帆な時を過ごしている。
もちろん、愛との約束も忘れてはいない約束の指輪はチェーンを着けて学校以外では常に首に付けている。
「あ、ゆうくん……おはようございます」
「おはよ。今日は遅いな、澪」
「少し……寝坊しちゃって」
この子は『海堂澪』家の近所に住んでいる一つ年下の女の子。こっちで初めて出来た友達だ。
元々、澪は大人しい性格で友達も居なかった。きっかけも澪が一人で遊んでいるところに偶然俺が居合わせたからだ。
それ以来、澪と一緒に行動することが多くなり何事もなく平穏な日々が続いた。
辻堂雄介の純愛ロード
第参話『プロローグ 広島』
「そう言えば、辻堂ってあの『海堂』と仲良いよな」
小学6年生になってすぐ位にクラスメイトが尋ねてきた。
しかし、何か海堂をやたら強調するなぁ。
「ああ。まあお隣さんだし幼馴染みだしな」
「仲良くするの、辞めた方がいいぞ。噂、知ってるか?」
「噂?なんの?」
「なんだ知らないのか。あいつ、海堂澪はこの前ここら一体を牛耳っている不良グループに喧嘩売って病院送りにしたらしいぞ」
「はあ!?あの澪が?嘘だろ」
「本当だって俺の兄ちゃん昔ワルだったからその辺りの事は詳しいんだけど何でも海堂はかなり前からここらのグループをたたきのめしているらしいんだよ。そんでついたあだ名が『喧嘩姫』」
「喧嘩姫……ねぇ」
「だから、悪いこといわないから。一緒にいるの止めた方がいいぞ」
「………」
◇◇◇◇◇
放課後いつも通り澪と二人で帰る。だが、いつもと違うのは俺が静かだと言うことだ。
「ゆうくん……今日は…いつもより、静かだね……なにかあった?」
「ん、ああ悪い。ちょっと考え事をしてた」
例の噂、聞いてみた方が良いのだろうか…。しかし、もし噂が本当だった場合俺はどうすればいいのだろうかいままで通りに澪と接する事が出来るのだろうか…。
「(このまま、噂として流してしまえばこれまで通りの生活が出来る………が、本当にそれで良いのだろうか………いや、良くない)」
「……ゆうくん?」
「澪、これから家に来ないか?話したいことがあるんだ」
◇◇◇◇◇
「………」
「………」
お互い無言のまま向かい合って座る。いつもならゲームをしたり今日一日の事をおもしろおかしく話したりするのだがいつもと違う俺の様子に澪も何かを悟っているのだろう。
しかし、何時までもこの状態のままではいけないので俺は思いきって噂の真意を尋ねることにした。
「………なあ、澪。お前、俺に何か隠し事してないか?」
「!!」
ビクッと澪の身体が少しはねた。
この反応から見て、恐らく噂は本当なのだろう。そして、俺が澪に何を聞きたいのかというのも本人も解ったのだろう。
「………」
「………」
また沈黙が続く。
「ゆうくんは……」
消え去りそうな声を出す。
「ゆうくんは……どこまで……知ってる…の?」
「喧嘩姫の…ことか?」
コクリと頷く。
「友達から話を少し聞いたくらいだよ。でも、なんでお前がそんなことやってんだ?」
「そ、それは……」
「……もしかして、俺のため……か?俺が『辻堂』だからか?」
辻堂は不良の世界では今や知らない奴が居ないほどの名字だ。なので、その手の輩にからまれる可能性が非常に高い。しかし、俺はそんなことは今まで一度もなく日々を過ごしていた。恐らく俺に危害が加えられる前に全て澪が片付けていたのだろう。
「まったく、なんでそんな無茶なことを…」
「だって…ゆうくん…には…普通の日々を……過ごして…欲しかったの……初めて出来た友達だから…」
涙を流しながら言う澪。人より力が強くて大人しい俺の幼馴染み。だけど、誰よりも友達を大事にしそのためなら自分が傷つく事をいとわない心優しい女の子。
「まったく、お前って奴は…」
俺はそっと澪の頭を撫でる。昔から澪は泣いたときはこうやって頭を撫でてやるとすぐ落ち着く。
「そうだ、澪。お前も一緒に湘南に行くか」
「………え?」
俺の突然の提案にすっとんきょな声を上げる澪。
「湘南に…?」
「ああ、どうせ高校生になったら帰ろうと思ってたんだ。だから、俺は一年だけこっちの高校に通うからお前が湘南の高校を受験して合格、そんで俺がソコに転入するっと、どうだ良い考えだろ?」
「………うん!」
「よし、決まりだな」
こうして俺は再び湘南に戻ることが本格的に決まった。
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